1 / 2
0.1
しおりを挟む
村が嫌で都会に飛び出したはいいが、打ちのめされ、劣等感に苛まれ、もがき苦しんでいながらも、あんなクソ田舎の村に帰りたくはない!けど、たまには帰って顔見せとくれと言う大好きなばあちゃんの一言で、しぶしぶ春祭の連休に田舎へ帰省すると、田舎を出た理由の一つの幼馴染に出くわしてしまった。こいつは同い年でご近所さん。昔は純真無垢でくりくりの赤茶の癖っ毛がかわいい少年で、田舎娘らしい活発な少女だった私の周りに引っ付いていた。私は幼心にそれを愛しく思い(愛しくと言ってもペットを可愛がるのに近い感覚)、小さい子供が人形を可愛がるのと同様に世話を焼いたりおままごとに付き合わせたり夜が恐ろしいと感じる時には親ではなく幼馴染を呼び出し一緒に寝たりしていた。そんな幼馴染はともに成長するにつれ、“純真“と赤茶の癖っ毛だけはそのままに田舎者らしいガタイを手に入れ、厳しすぎる冬も過酷な夏も逞しく乗り越える男へと変貌していったのだが、小さい頃と変わらず私のところにやって来ては何をするとなくとも隣で私を眺めていたりするものだから、「あらぁ、あなたたち相変わらずお似合いねえ」「お前らいつ祝言上げるんだ?」みたいなことを村中の人から日常茶飯事毎時何度も言われるモンだからそんな気さらさらない私にはとても嫌で、変わりない田舎の日常へのヘイトと都会へのアコガレ、そしてこの田舎の勝手な言い掛かり(?)がないまぜになり、私を村から飛び出させる決意をさせたのだ。都会で仕事を無理やり必死に見つけ、親の反対も家族に楽をさせたいのだという私の雑な言い訳で押し切り、決意から一ヶ月程度で幼馴染にも「私、明日から都会で暮らすの。あなたも私に引っ付いてばかりいたけど、いいお嫁さんをちゃんと見つけて元気で過ごしてね」と幼馴染に告げ、次の日の早朝に旅立ったのがもう5年も前のことだ。たまに家族からの手紙を受け取り、それを返すことはしていたが、仕事と都会の忙しなさに流され、帰省は一度もしていない。おばあちゃんの願いを断れることができず、働き先も数年勤めて信頼が生まれたようで、春祭の間は仕事も休みだからと長期の休み受け入れられてしまい。祖母に会いたい気持ちと一瞬でも田舎に戻りたくないという気持ちの狭間のまま重い足取りで徒歩と乗り合い馬車に揺られること丸2日ほどの田舎に帰って来てしまった。春祭は12日間なので目一杯田舎で過ごしたとしても移動分を考えて7日ほどが滞在の限度である。5年も帰っていなかったとはいえ、7日間もいれば充分だろう。理由づけとは言え必要な事に変わりはない仕送りを私が都会で暮らせるギリギリまで出しているおかげか、実家に住んでいた頃よりも生活は満たされているようで心のどこかで安心した。あの目まぐるしい5年間の生活も無駄ではなく、都会に出たのは間違いじゃなかったんだとちゃんと思えることがありがたい。なんて思いつつ、せっかく重い気持ちながらも久しぶりに会う家族との団欒を楽しもうとした帰省1日目の午前中、そいつは突然現れたのだ。実家の玄関ドアを無造作に大きく開き、肩で息をしながら私の目の前まで傾れ込むように駆け寄って来た幼馴染。なんやなんやと思っていたらいきなり暴力的な力強さで抱きすくめてきたのだ。5年ぶりに会う幼馴染は以前よりもガタイがしっかりとした成熟した男になっており、顔を幼馴染の胸に強制的に押し付けられている状態の私はまともに息が吸えず、もがくこともできず、家族が幼馴染の狂行を止めていなければ、幼馴染は殺人犯になってこの平凡なクソ田舎を恐怖に貶めるところだ。私はそれをあの世から眺めるわけ。死因はこの場合だと圧死なのか?抱きしめられてるから腹上死の一種?幼馴染でなんの一線も超えてないのに一種の腹上死とか汚名すぎる。ともかく、幼馴染のムチムチの胸筋から何とか逃れることはできた。いったい突然何なのかと怒って問いただそうとしたら待ち焦がれた幼馴染の帰省を喜んでくれてるんだから、そんな怒らないのと母親に嗜められ、そんな!こっちは殺されかけたぞ!と食ってかかるも、はいはいウチはまた後でゆっくりすればいいから幼馴染と久しぶりの再会を楽しんでらっしゃいと幼馴染と一緒に実家から追い出される始末である。なんやねんほんまに。私は幼馴染ではなくおばあちゃんに会いに来たんやぞと文句を叫んだが玄関戸の向こうからは反応なし。なんやねんほんまに!!こういう本人の意思を全く聞こうとしない田舎特有の意識ほんとに嫌い!とイライラを募らせていると幼馴染からとりあえず移動して話をしよう(要約)と言われ、しょうがないので渋々幼馴染を後ろをトボトボ離れて歩いて行こうとしたら手を引かれ、隣を歩かされてまたこのクソ田舎で変な噂になるからやめてほしいと言ったのだがごめんねと言うだけで離してくれないし、より強く握られ強く引っ張られるばかり。しかもなんか人気(クソ田舎なので人気もクソもないが)ない方へ連れて行かれている。何?怖いんですけど。何?田舎からはみ出たものには死をとかじゃないよね??問うてもやはりごめんねばかりでどう言うことなのとても怖いんだけど。そんなこんなを考えているうちにクソ田舎の人間も来ないような原っぱの端っこに小さな小屋?家?が建っているのが見えてきて、そこへ連れて行かれているようだと気づいた。あれ、こんなところにこんな小屋なかったよな、よく見なくてもまだ新しいみたいだしなんだろ。小屋の戸の前で立ち止まり、幼馴染が首元にぶら下げた鍵を取り出して戸を開けた。お前の小屋なのかい。
10
あなたにおすすめの小説
幼馴染みのアイツとようやく○○○をした、僕と私の夏の話
こうしき
恋愛
クールなツンツン女子のあかねと真面目な眼鏡男子の亮汰は幼馴染み。
両思いにも関わらず、お互い片想いだと思い込んでいた二人が初めて互いの気持ちを知った、ある夏の日。
戸惑いながらも初めてその身を重ねた二人は夢中で何度も愛し合う。何度も、何度も、何度も──
※ムーンライトにも掲載しています
鬼より強い桃太郎(性的な意味で)
久保 ちはろ
恋愛
桃太郎の幼馴染の千夏は、彼に淡い恋心を抱きつつも、普段から女癖の悪い彼に辟易している。さらに、彼が鬼退治に行かないと言い放った日には、千夏の堪忍袋の緒も切れ、彼女は一人鬼ヶ島に向かう。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
数年振りに再会した幼馴染のお兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなった日
プリオネ
恋愛
田舎町から上京したこの春、5歳年上の近所の幼馴染「さわ兄」と再会した新社会人の伊織。同じく昔一緒に遊んだ友達の家に遊びに行くため東京から千葉へ2人で移動する事になるが、その道中で今まで意識した事の無かったさわ兄の言動に初めて違和感を覚える。そしてその夜、ハプニングが起きて………。
春にぴったりの、さらっと読める短編ラブストーリー。※Rシーンは無いに等しいです※スマホがまだない時代設定です。
憐れな妻は龍の夫から逃れられない
向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる