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第一章 聖女の誕生と異端審問
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「これより、このマリアを聖女へと列聖する式を開会する」
クリーム色に近い黄色の衣装を纏った大司祭が、式典の開会の言葉を並べる。
「ーー先日、魔王復活が確認されたわけだが、幸いにもこのマリアがその力の発現を食い止める事ができると分かり…」
マリアを列聖する経緯などが語られ、聖人録にマリアの名が刻まれる。
聖書を引用して大司祭が祝辞を述べ、最後に宣言が下される。
式はこの宣言で終わりだ。
「では、聖女マリアの列聖を私は宣言する!魔王を抑え滅する唯一の存在として讃えよ!」
(え?)
皆の拍手喝采を受けながら、マリアの心臓が嫌な音を立て始めた。
(いま、魔王を抑え滅するって…)
盗み見たシンシアも、そこに違和感を感じたようでこちらを複雑な顔で見ていた。
大司祭に背中を押され、祭壇から降ろされる。
そのまま、見知らぬ世話人達に、両脇を抱えられる様にマリアは礼拝堂を後にした。
「ま、待って!待ってください、どこに行くんですか?」
兄の待つ官公区の宿舎へ戻る道ではないと途中で気付く。
シンシアを目線で探すが、近くにいない様だった。
「やだー!!…ロッテン、ロッテン!助けてぇー!」
渾身の叫びも虚しく、昼を知らせる鐘の音に掻き消されて誰にも届かない。
ーーリーンゴーン!リーンゴーン!リーンゴーン!!
「うっ…」
夢現の状態で、遠くに聞こえていた鐘の音が、意外と近くで鳴り響いているのを感じる。
徐々に意識を取り戻したロッテンは、頭痛とともに目覚めた。
「ここは?」
窓一つないカビ臭い部屋、みっちりと息の詰まりそうな土壁に三方を囲まれ、残りの一面は鉄格子。
「ここは、大聖堂の地下やね」
「サルエル…」
獣が唸るような声でロッテンはその名を呼んだ。
「すまんね。僕も組織の人間なんよ、上からの命令には逆らえないんだ」
「オマエに指示したのは教皇か」
上、と言われれば思い当たるのはあの食事会にいた面々だ。
(行動はほぼ自由なんて甘いこと言って油断させた?)
「残念、ハズレ。指示したのは枢機卿のジイさんだね」
「じゃあ、教皇はこの出来事を知らないのか」
(なら、教皇が気付けば、助けが来る可能性もあるか)
「いや、知っている。むしろ、教皇様もあそこさ」
サルエルは親指で廊下を隔てて向かいにある牢を示した。
蝋燭だけの灯りを頼りに目を凝らすと、ベッドに寝かされている緋色の服の小柄な人影があった。
「な?!」
言葉を失って、サルエルに目線を戻すと、サルエルは肩をすくめてみせた。
「賢いロッテン君なら分かるかな?枢機卿のジイさんは教皇になりたかった。そして、教皇は先日、魔力を失った事を暴露した」
ロッテンの推理を待つように、サルエルは愉しそうな目を向けてくる。
「死なない教皇がいたら代替わりで枢機卿が教皇になることは無いよな」
渋々、ロッテンは推論を展開した。
もう一度、牢の中の教皇を確認しながら、言葉を続ける。
「何か罪を犯しでもして、教皇の座を追われれば別だけど」
「その罪とは?」
サルエルは相槌を打って、ロッテンの推理を促す。
「例えば、聖属性魔法をもう使えないのに教皇で居続けることは罪か?」
「いいや、それは罪にはならない。彼女を教皇たらしめるのは、魔王討伐の偉業を讃えての事だからね」
「だとしたら、魔王を倒さず庇ったのは罪?」
「そう!それは罪に当たるだろうね」
「じゃあ、オレのせいで、あの人はここに居るんだな」
視線を落とし、式典前にマリアに向けた言葉を反芻する。
(いるだけで害悪…本当、その通りになったな)
「それは違う、ワシが人を信じ過ぎたせいじゃ」
いつのまにかベッドから起き上がり、静かにクレマチスは立っていた。
「魔力の一切を使えなくなったことを、あの場の人間を信じ話してしまった事、油断をした事、全てワシ自身の責任じゃ」
じゃから…と、クレマチスはロッテンを慰めるように諭す。
「おヌシの所為なんて思う必要はない。本当なら魔法なぞ使えんでも、武器さえ手元にあれば遅れはとらんかったのじゃからの」
なんだか凄いことを言っている気がするが、少しだけ癒されたのは確かだ。
そして、ロッテンはハッと気づく。
「枢機卿はマリアを利用して俺を倒しに来るんじゃないか?」
教皇の候補は枢機卿だけではないだろう、抜きん出るには決定的な実績が必要だ。
そう、例えば、魔王を倒したなんていう…
「凄い!流石はロッテン君。さっきの情報でここまで導き出すんだ?本当に君は6歳なのか?天才だよ!」
パチパチと手を叩くサルエルを他所に、ロッテンは鉄格子に触れた。
「腐食!」
スキルを発動させるべく、魔力を流す。
以前鉄の扉を朽ちさせたのは記憶に新しい。あれを再現すればいいのだ。
ーーバチンッ!
「弾かれた!?」
手のひらの魔力が押し返されるような感覚があった。
「そりゃあ、魔法無効の術がかかってるに決まってるでしょ、牢屋だからね」
笑いを収めて、サルエルはヤレヤレと大袈裟なジェスチャーをする。
「まあ、焦らずにいこうよ。マリアちゃんの列聖式の次は、君の異端審問だから、直ぐにここからは出られるよ」
「異端審問?」
「そう、マリアちゃんが正しく聖女と証明されたんだ。枢機卿のジイさん的には、次はロッテン君が正しく魔王だと証明されなくちゃでしょ?」
クリーム色に近い黄色の衣装を纏った大司祭が、式典の開会の言葉を並べる。
「ーー先日、魔王復活が確認されたわけだが、幸いにもこのマリアがその力の発現を食い止める事ができると分かり…」
マリアを列聖する経緯などが語られ、聖人録にマリアの名が刻まれる。
聖書を引用して大司祭が祝辞を述べ、最後に宣言が下される。
式はこの宣言で終わりだ。
「では、聖女マリアの列聖を私は宣言する!魔王を抑え滅する唯一の存在として讃えよ!」
(え?)
皆の拍手喝采を受けながら、マリアの心臓が嫌な音を立て始めた。
(いま、魔王を抑え滅するって…)
盗み見たシンシアも、そこに違和感を感じたようでこちらを複雑な顔で見ていた。
大司祭に背中を押され、祭壇から降ろされる。
そのまま、見知らぬ世話人達に、両脇を抱えられる様にマリアは礼拝堂を後にした。
「ま、待って!待ってください、どこに行くんですか?」
兄の待つ官公区の宿舎へ戻る道ではないと途中で気付く。
シンシアを目線で探すが、近くにいない様だった。
「やだー!!…ロッテン、ロッテン!助けてぇー!」
渾身の叫びも虚しく、昼を知らせる鐘の音に掻き消されて誰にも届かない。
ーーリーンゴーン!リーンゴーン!リーンゴーン!!
「うっ…」
夢現の状態で、遠くに聞こえていた鐘の音が、意外と近くで鳴り響いているのを感じる。
徐々に意識を取り戻したロッテンは、頭痛とともに目覚めた。
「ここは?」
窓一つないカビ臭い部屋、みっちりと息の詰まりそうな土壁に三方を囲まれ、残りの一面は鉄格子。
「ここは、大聖堂の地下やね」
「サルエル…」
獣が唸るような声でロッテンはその名を呼んだ。
「すまんね。僕も組織の人間なんよ、上からの命令には逆らえないんだ」
「オマエに指示したのは教皇か」
上、と言われれば思い当たるのはあの食事会にいた面々だ。
(行動はほぼ自由なんて甘いこと言って油断させた?)
「残念、ハズレ。指示したのは枢機卿のジイさんだね」
「じゃあ、教皇はこの出来事を知らないのか」
(なら、教皇が気付けば、助けが来る可能性もあるか)
「いや、知っている。むしろ、教皇様もあそこさ」
サルエルは親指で廊下を隔てて向かいにある牢を示した。
蝋燭だけの灯りを頼りに目を凝らすと、ベッドに寝かされている緋色の服の小柄な人影があった。
「な?!」
言葉を失って、サルエルに目線を戻すと、サルエルは肩をすくめてみせた。
「賢いロッテン君なら分かるかな?枢機卿のジイさんは教皇になりたかった。そして、教皇は先日、魔力を失った事を暴露した」
ロッテンの推理を待つように、サルエルは愉しそうな目を向けてくる。
「死なない教皇がいたら代替わりで枢機卿が教皇になることは無いよな」
渋々、ロッテンは推論を展開した。
もう一度、牢の中の教皇を確認しながら、言葉を続ける。
「何か罪を犯しでもして、教皇の座を追われれば別だけど」
「その罪とは?」
サルエルは相槌を打って、ロッテンの推理を促す。
「例えば、聖属性魔法をもう使えないのに教皇で居続けることは罪か?」
「いいや、それは罪にはならない。彼女を教皇たらしめるのは、魔王討伐の偉業を讃えての事だからね」
「だとしたら、魔王を倒さず庇ったのは罪?」
「そう!それは罪に当たるだろうね」
「じゃあ、オレのせいで、あの人はここに居るんだな」
視線を落とし、式典前にマリアに向けた言葉を反芻する。
(いるだけで害悪…本当、その通りになったな)
「それは違う、ワシが人を信じ過ぎたせいじゃ」
いつのまにかベッドから起き上がり、静かにクレマチスは立っていた。
「魔力の一切を使えなくなったことを、あの場の人間を信じ話してしまった事、油断をした事、全てワシ自身の責任じゃ」
じゃから…と、クレマチスはロッテンを慰めるように諭す。
「おヌシの所為なんて思う必要はない。本当なら魔法なぞ使えんでも、武器さえ手元にあれば遅れはとらんかったのじゃからの」
なんだか凄いことを言っている気がするが、少しだけ癒されたのは確かだ。
そして、ロッテンはハッと気づく。
「枢機卿はマリアを利用して俺を倒しに来るんじゃないか?」
教皇の候補は枢機卿だけではないだろう、抜きん出るには決定的な実績が必要だ。
そう、例えば、魔王を倒したなんていう…
「凄い!流石はロッテン君。さっきの情報でここまで導き出すんだ?本当に君は6歳なのか?天才だよ!」
パチパチと手を叩くサルエルを他所に、ロッテンは鉄格子に触れた。
「腐食!」
スキルを発動させるべく、魔力を流す。
以前鉄の扉を朽ちさせたのは記憶に新しい。あれを再現すればいいのだ。
ーーバチンッ!
「弾かれた!?」
手のひらの魔力が押し返されるような感覚があった。
「そりゃあ、魔法無効の術がかかってるに決まってるでしょ、牢屋だからね」
笑いを収めて、サルエルはヤレヤレと大袈裟なジェスチャーをする。
「まあ、焦らずにいこうよ。マリアちゃんの列聖式の次は、君の異端審問だから、直ぐにここからは出られるよ」
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