108界目の正直:異世界召喚はもうイヤだ!

阿都

文字の大きさ
31 / 57
第3章「英雄を探して」

01,旅は道連れ、世は情け

しおりを挟む
 2両編成の駅馬車は、精霊具を使った空調とサスペンションのおかげで、かなり快適だった。

 この世界の駅馬車は、例えるなら地球でいう電車のようなもので、ブリュート王国内の各都市を繋いでいる。
 野獣の馬は、地球の馬とは比べ物にならない体力とパワーを持っていて、4頭で10人乗り車両を3両まで引くことができた。
 クレーフェ伯領へ行く最速最短の移動手段だ。

 席に座って窓の外を眺めながら、俺は今後のことを考えている。

 まずはできる限り早くラドルに会って、どんな小さなことでもいいから、英雄『ティナ』に関する情報を聞き出すつもりだ。

 コリーヌは法術士として、ティナの霊力の喪失を感じたらしいけれど、もっとも優れた洞察力と判断力をもつラドルなら、また別の視点で何らかの痕跡を見つけているかもしれない。

 彼は、英雄暗殺の嫌疑をかけられたときに、黙秘権を貫いたという。
 それ自体に、違和感があるんだ。

 俺が知っているラドルなら正々堂々と無実を主張しつつ、別のルートで擁護者をつくり、後に尾を引かないように完璧に嫌疑を晴らすと思う。
 そのくらいのことができる思慮と手腕、人脈を持っている。

 伊達に歳を食ってはいない。老獪な正義の狸親父。それがラドルだ。

 ……前世界でついついこの表現を口にしてしまったら、思いっきり爆笑されて、その後自分から二つ名のように語っていた。
 豪快で器のでかい、それこそ英雄気質な爺さんなんだよな。
 
 そのラドルが、沈黙を貫いた。
 何か知っていて、話したくないのか。
 でも、それもおかしい。
 ラドルなら腹の底を見せずに証言するなど、朝飯前だろうに。

 何があった? 何を見た? 何を隠している?

 ……と、頭の片隅でシリアスに悩みつつも、隣に平然と座っている存在が気になってしかたがない。

 黒と紺を基調としたつば広帽から溢れ出る、赤みのかかったブロンド。
 彫り深く整った横顔は、まさに「美しい」の一言。

 ……俺は中身を知ってるからな。法術大好きっ子め。

「なぁ」
「なに?」

 すました表情で、視線を向けるシア。

「何度も言って悪いけれど、今回の依頼は一応、俺1人で受けることになってるんだけど」
「そうね。私も何度も言い返して悪いのだけど、個人的な用事があるだけよ。ちゃんとトリーシャたちにも話を通してあるわ。カズとはたまたま方向が同じみたいだけど、ね」
「嘘つきめ」
「人聞きの悪い。なにを根拠にそんなことを言うのかしら」
「……まぁ、言いたくないなら聞きはしないけどさ」
「……そう」

 シアは神妙に目を伏せた。

 なんかなぁ。
 やっぱり様子が変なんだよな。

 トリーシャたちは、シアが俺のことを異性として気にかけていると思っているみたいだけど、どうも違う気がする。
 もちろん一緒にいてシアも楽しそうだから、嫌われてはいないだろう。
 だけど、なんかこう、危機察知に近い感じで、アンテナに引っかかるんだよ。

 現状ではなんとも言えないし、特になにか不利益があるわけでもないから、今はそっとしておこうと思う。
 コリーヌも英雄についてさえ話さなければ、他のことに関してはあまり縛るつもりはないと言っていたから、一緒に行動しても構わないだろう。

 英雄に関する時だけ側にいなければ。

 実際問題、なにがきっかけになるか分からない英雄探索で、そんなピンポイントに別行動なんてできるはずもないから、結局どこかで別れるしかない。
 せいぜいクレーフェ伯領までだな。

 ……それまでに、話してくれるといいのだけど。

「なあ、シア」
「なに? 何度言っても同じよ」

 俺は少しだけ、らしくないな、と自嘲しつつも、言っておくべきことを告げた。

「あのさ。本当に助けが欲しい時は言ってくれよ?」
「あ……」
「シアだってそう言ってくれただろ? まだまだ短い付き合いだけどさ。俺も一応仲間だからな」

 シアは、目を大きく見開いたあと、何やら顔を真っ赤にしてうつむき、最後に小さく頷いた。

 まぁ、すぐさま顔を上げて、いたずらっ子のような満面笑顔で言い返してくるから、殊勝なシアなんて夢幻の如くなり、だ。

「カズ、カッコつけすぎよ?」
「なんだよ。先にそういうことを言ったのはシアだろ?」
「うーん。正確には……」
「そうだった。もともとは我らが熱血チャドのセリフでした」
「ふふふ、そういうことを言うのね! あとでチャドに教えちゃおうかしら」
「無駄だぞー。褒め言葉だと思ってるからなー」
「……え、本人に言ったの?」
「豪快に笑って、『俺のポリシーだ』って、おっしゃいましたよ?」
「本当にぶれないわね」
「確かに。そこがチャドのいいところだよな」
「まぁね」

 チャド、ごめん。でも、さすがチャドの兄貴だ。いや、オトンだ!
 変に沈みそうだった空気が、あっという間に入れ替わったよ。

 チャドの苦笑を思い描き、どちらからともなく笑いだす。
 俺とシアは、とりあえず一緒に旅をすることにした。

 旅は道連れ世は情け、だよな。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...