10 / 59
2 10月25日
洋菓子店「さいち」
しおりを挟む
昔ながらの商店街に、「ヘアサロンまりあ」はある。あたしが通う「太陽堂」もあるし、今先輩が言っていた、洋菓子店「さいち」も同じ通りにあって、あたしも小さい頃からそこのプリンが大好きだ。たぶん、この辺りで育った子供は、誰もが食べていると思うし、好きなんじゃないかな。
あれこれ考えて歩いていると、気がつけばあたしは「さいち」の前まで来ていた。
今日はまりあさんもいるだろうか。
理人先輩はご兄弟はいるのかな。お店がお休みということは、ご両親もお家にいるのかもしれないな。いや、でも、まりあさんはいつも1人でお店に立っているから、旦那さんはまた別のご職業なのかもしれない。
「いらっしゃいませ。あら、もしかしてニコちゃん?」
自動ドアから店内に入ると、カウンターに立っていたお姉さんにすぐに名前を呼ばれた。
「あ、は、はい」
「わぁ、やっぱり。ずいぶんお姉さんになったのねー。小さい頃のイメージのままだったからびっくりしちゃった」
「あ、はは」
ずいぶんノリのいいお姉さんだ。
あたしは「さいち」のプリンは好きだけど、いつもは父か母が買ってきてくれるのを食べているから、自分で買いに行くことはなかった。小さい頃は、母とお買い物の帰りに寄ったりして、ついて来ていたことはあったけど、このお姉さんのことは正直覚えていない。
「あの、プリンを……」
えーと、何個にしよう。とりあえず5個あれば足りるかな。ショーケースの中を覗き込みながら、考える。
すると、プリンがハロウィンバージョンに変わっているのに気がついた。
いつもは透明な瓶に入っているプリンが、今日はオレンジのかぼちゃお化けのカップに入っている。
「あ、プリンは今日まで限定ハロウィンカップだよ」
あ、そっか。今日ってもう10月31日だ。お姉さんの言葉であたしはハロウィンが今日であることを思い出す。
「えっと、じゃあ、ハロウィンカップを5つください」
「はい、かしこまりました」
丁寧に箱に入れてくれて、手提げ袋にも入れてもらった。「限定」とつくものにはいつも弱い。なんだか特別な気がして、ワクワクする。
「ありがとうございました」
入り口ドアまで見送られて、あたしもお辞儀をする。さいちから出て歩き始めると、途端に目的地に何をしに向かっているのかを思い出した。
ウキウキした気持ちが、みごとに萎んでいく。
せっかく期間限定のハロウィンプリンを手にしているのに、こんなに気が重たいとか、なんか不安しかない。
「こんにちは……」
ヘアサロンのドアをそっと押す。表には、クローズの看板が表示されているけど、鍵が開いていて、ドアはすぐに開いた。
だけど、店内はいつもとは違う流行りの音楽が流れていて、誰の姿も見えない。
とりあえず、あたしは待合いのソファーに座って、先輩にお店に着いたことをメッセージで伝えた。すると、すぐに奥の部屋から足音が聞こえてきた。
「あー、ニコちゃんいらっしゃい。早かったね」
制服から、ラフな格好に着替えている理人先輩が店の中にやってきた。入り口付近に置いてあったシャツを着ると、きちんと腕まくりをし始める。
いつ見てもおしゃれな人だな、と感心してしまう。おしゃれに無頓着なあたしでさえ、この人がおしゃれな人だと分かるくらい、理人先輩はきちんとしている。
髪の毛を後ろにゴムで一つにゆわえて、こちらへどうぞと手を椅子に向けられるから、立ち上がった。
「あ、あの、これ」
催促されたものです。とはさすがに言えないから、紙袋をそのまま差し出す。
「え?」
不思議そうに受け取った理人先輩は、袋の中身を見て、すぐにまた「えぇ!?」と驚く声を上げた。
「まさか、マジで買ってきてくれたの?」
ものすごい驚きように、あたしは少しムッとしてしまう。だって、あんな風に言われたら買っていくしかないじゃない。心の中で思っても、口には出せない。
「えー、ニコちゃんってマジでいい子。うん、あいつ見る目あるわ」
深く頷きながら喜ぶ先輩は、「ちょっと冷やしてくるね」と奥の部屋へまた戻って行ってしまう。
仕方がないから、あたしは椅子に座って待つことにした。
あれこれ考えて歩いていると、気がつけばあたしは「さいち」の前まで来ていた。
今日はまりあさんもいるだろうか。
理人先輩はご兄弟はいるのかな。お店がお休みということは、ご両親もお家にいるのかもしれないな。いや、でも、まりあさんはいつも1人でお店に立っているから、旦那さんはまた別のご職業なのかもしれない。
「いらっしゃいませ。あら、もしかしてニコちゃん?」
自動ドアから店内に入ると、カウンターに立っていたお姉さんにすぐに名前を呼ばれた。
「あ、は、はい」
「わぁ、やっぱり。ずいぶんお姉さんになったのねー。小さい頃のイメージのままだったからびっくりしちゃった」
「あ、はは」
ずいぶんノリのいいお姉さんだ。
あたしは「さいち」のプリンは好きだけど、いつもは父か母が買ってきてくれるのを食べているから、自分で買いに行くことはなかった。小さい頃は、母とお買い物の帰りに寄ったりして、ついて来ていたことはあったけど、このお姉さんのことは正直覚えていない。
「あの、プリンを……」
えーと、何個にしよう。とりあえず5個あれば足りるかな。ショーケースの中を覗き込みながら、考える。
すると、プリンがハロウィンバージョンに変わっているのに気がついた。
いつもは透明な瓶に入っているプリンが、今日はオレンジのかぼちゃお化けのカップに入っている。
「あ、プリンは今日まで限定ハロウィンカップだよ」
あ、そっか。今日ってもう10月31日だ。お姉さんの言葉であたしはハロウィンが今日であることを思い出す。
「えっと、じゃあ、ハロウィンカップを5つください」
「はい、かしこまりました」
丁寧に箱に入れてくれて、手提げ袋にも入れてもらった。「限定」とつくものにはいつも弱い。なんだか特別な気がして、ワクワクする。
「ありがとうございました」
入り口ドアまで見送られて、あたしもお辞儀をする。さいちから出て歩き始めると、途端に目的地に何をしに向かっているのかを思い出した。
ウキウキした気持ちが、みごとに萎んでいく。
せっかく期間限定のハロウィンプリンを手にしているのに、こんなに気が重たいとか、なんか不安しかない。
「こんにちは……」
ヘアサロンのドアをそっと押す。表には、クローズの看板が表示されているけど、鍵が開いていて、ドアはすぐに開いた。
だけど、店内はいつもとは違う流行りの音楽が流れていて、誰の姿も見えない。
とりあえず、あたしは待合いのソファーに座って、先輩にお店に着いたことをメッセージで伝えた。すると、すぐに奥の部屋から足音が聞こえてきた。
「あー、ニコちゃんいらっしゃい。早かったね」
制服から、ラフな格好に着替えている理人先輩が店の中にやってきた。入り口付近に置いてあったシャツを着ると、きちんと腕まくりをし始める。
いつ見てもおしゃれな人だな、と感心してしまう。おしゃれに無頓着なあたしでさえ、この人がおしゃれな人だと分かるくらい、理人先輩はきちんとしている。
髪の毛を後ろにゴムで一つにゆわえて、こちらへどうぞと手を椅子に向けられるから、立ち上がった。
「あ、あの、これ」
催促されたものです。とはさすがに言えないから、紙袋をそのまま差し出す。
「え?」
不思議そうに受け取った理人先輩は、袋の中身を見て、すぐにまた「えぇ!?」と驚く声を上げた。
「まさか、マジで買ってきてくれたの?」
ものすごい驚きように、あたしは少しムッとしてしまう。だって、あんな風に言われたら買っていくしかないじゃない。心の中で思っても、口には出せない。
「えー、ニコちゃんってマジでいい子。うん、あいつ見る目あるわ」
深く頷きながら喜ぶ先輩は、「ちょっと冷やしてくるね」と奥の部屋へまた戻って行ってしまう。
仕方がないから、あたしは椅子に座って待つことにした。
12
あなたにおすすめの小説
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶
菱沼あゆ
キャラ文芸
冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。
琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。
それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる