毎月25日は椿くん感謝デー

佐々森りろ

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3 11月25日

一軍女子一条さん

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「如月さーん、あたし達とお昼一緒に食べない?」
「……え」

 お昼を誰かに誘われるなんて、今までなかった。そもそも、今日は何回「如月さん」とあたしは名前を呼ばれるのだろう。いつもと違うことばかりが起きていて、戸惑ってしまう。
 あたしの机を取り囲むようにやってきたのは、クラスの一軍女子。中でも、甘ったるい声で今あたしの名前を呼んだのが、そのトップに立つ一条いちじょうさんだ。
 これまで、一度だって関わったことなどなかった。それなのに、なぜ今日は声をかけてきたのか。
 しかも、お昼を一緒に?
 何事かと、返事も出来ずに固っていると、勝手に周りの机を寄せてきて4人グループができてしまった。
 いや、あたしはこの3人の中には入れるわけもないのだけど。

「ねぇ、今朝椿くんと何話してたの?」
「椿くんが女子に話しかけるとか青天の霹靂なんだけど!」
「椿くんって、モテるけど彼女作らないじゃん? あたしらみんなフラれてるし」
「なんで如月さん話しかけられてんのかなぁって」

 お弁当を広げて、なぜかそのまま一緒に食べる雰囲気に流されてしまう。毎度毎度、あたしはやっぱり誰にでも流されやすいみたいだ。
 一軍女子をもフってしまう椿くんは、もはや誰の手にも届くことのない雲の上の人。
 この子達が、振られたにも関わらず笑っていられるのは、椿くんの真面目さと優しさがしっかり伝わって、納得した上でお断りされた理由を受け入れたからなんだと思う。
 まぁ、これはあたしの勝手な憶測だけど。

 告白なんて考えたこともないあたしには、この人たちだって遠い存在だ。それなのに、なんで一緒にお弁当を広げているんだろう。流れに乗ってお弁当の蓋を開けてはみたけれど、なにも喉を通る気がしない。

「いやなにも……」

 小さな声でつぶやくあたしの答えは、盛り上がる3人の笑い声にかき消される。

「ここだけの話なんだけどさぁ、椿くんって、理人先輩のこと好きなんじゃないかって」
「…………え」

 小声で一条さんが、こっそり言う。

「またそれー? まぁ、あの2人ならアリだけどさぁ」
「でしょ? ビジュ良すぎ。眼福」
「ってか、他の女と付き合うくらいなら理人先輩と付き合ってて欲しいし」

 またあたしを置き去りにして、3人は話し始めてしまう。

 椿くんが理人先輩のことを?
 あの日の2人のことを思い出せば、椿くんが理人先輩のことを慕っていることは分かる気がする。たぶん、椿くんは理人先輩のことが好きだ。だけど、その好きって、恋愛感情ってこと? まさか。何言ってんだろうこの人たち。
 口元が引き攣ってしまうのが自分でも分かる。

 あれ? でも、理人先輩には彼女がいるって、母が言っていた。そしたら、椿くんの恋は実らない。
 あれ? なんかあまりに情報が多すぎる。なんだか頭がおかしくなってくる。

「だからさぁ、なんで如月さんに声かけたのかなぁって、すっごく不思議だったの」

 答えてよ。とでも言っているような威圧的な目を向けられても、恐ろしいだけだ。
 そんなの、あたしだって分からない。直接ご本人様に聞いてもらいたい。一条さんなら椿くんに話しかけるなんて、朝飯前だと思うから。
 ただ、理人先輩があたしのことを椿くんに話してしまっているのなら、やっぱりそれはちょっと、いや、かなり許せないのだけど。

「ってかさ、如月さんって前髪切ったら普通にかわいいじゃん」
「……え」
「あ、まじ、あたしも思ったー! その前にちゃんと顔見たことなかっただけだけどさ」
「それ正直に言いすぎでしょ」
「だってなんかいっつも近づきがたいオーラ醸し出してんじゃん」

 あははと笑いながら、やっぱり3人で話は盛り上がっている。だけど、一条さんのあたしを見て言ってくれた今の言葉。「かわいい」なんて言われたのがあまりに信じられなくて、でも、すごく嬉しくて、なんだか泣きそうになってしまう。

「あ、やば。あたしら次の授業当番じゃなかった?」
「え! 次って、ヨシノリの授業?」
「そうそう」
「行かなきゃじゃーん。じゃあ如月さんあたしら先行くね」

 お弁当を片付けて、ガタガタと机と椅子をきちんと元に戻して3人は去って行った。
 あたしは、ただ呆然と見送るだけ。なんの反応も出来ないなんて、やっぱり友達なんて出来るはずがない。
 はぁ、とため息を吐き出してから、ようやくお弁当を食べ始めた。
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