毎月25日は椿くん感謝デー

佐々森りろ

文字の大きさ
16 / 59
3 11月25日

なんで!?

しおりを挟む
 放課後になって、ようやく理人先輩からメッセージの返信が来ていることに気がつく。

『今日椿から話しかけられたの?』

 あたしが質問したことには答えがなく、理人先輩の方も質問を返してきている。
 これはなぜ?
 話しかけられたけど、あたしは何も返せていない。椿くんと目が合うとか、その時点で今日はもう大事件だし、きっとあれは間違いだ。椿くんがあたしに声をかけるなんて、きっともう2度とない。

「如月さん」

 スマホの画面を暗くして、立ちあがろうとした瞬間、またあの声があたしの名前を呼ぶ。

「ちょっと今いい?」

 机の脇に立っている人物。うつむくあたしの目には、制服のズボンしか写っていないけれど、紛れもなく椿くんだ。顔を見なくても、声だけで分かる。だって、今日はもうすでに1度あたしのことを呼んでいるんだもん。さっきとまったく同じ声。2度と聞くことはないと思ったのに、1秒後にまた聞いてしまうなんて、やっぱり今日はなにかがおかしい。
 戸惑うままゆっくり、顔を上げた。

 申し訳なさそうに微笑む椿くんの表情に、完全ノックアウト!

 意識が一瞬飛びそうになりながら、あたしは目を逸らして必死に平常心を保つ。

「あのさ、如月さんって俺に全く興味ないよな?」
「…………え?」

 こそっと、小声で聞いてくるけど、質問の意味がよく、分からない。あっけに取られるように喉の奥から出てきた疑問の1文字。

「あ、ごめん。なんか変な聞き方だよな。なんて言えばいいんだろ。えっと、つまり、今月の25日って予定空いてる?」
「…………は?」

 椿くんが一生懸命に話してくれているのに、さっきからあたしは湧き上がってくる疑問にのせて、1文字しか発せられていない。
 たぶん、と言うか、絶対に周りから見たら間抜けな図だ。

 そして、やっぱり椿くんの言いたいことがよく分からなすぎる。
 つまりってなんだ?
 25日って、あたしにとって一番大切な日なのですが。
 ピンポイントにその日にちを指定するってどう言うこと?
 しかも、予定空いてる?
 え?
 それ、あたしに聞いてる?

 おそるおそる、視線を椿くんに戻していく。
 じっとこちらを見ていたのだろう。合った目線が、パチっと音がしそうなくらいにショートを起こして、目が眩む。

 なんで椿くん! あたしのこと見てるの!?

 すぐに視線を外して、机の下で握った両手を意味もなく擦り合わせる。
 一体、何が起きているのだろう。と、不安になってきたところで、椿くんが何かに気がついてポケットに手を突っ込んだ。
 あたしの狭い視界には、もう椿くんの足しか見えない。

「……え、あ、はい。今すぐ行きます」

 誰かと話しているのか、椿くんが少し焦るようなそぶりをして、またあたしの名前を呼んだ。

「如月さん、とりあえずまたね」

 頭上に降り注いでくる、椿くんの優しい言葉。
 そして、さっきまで見えていた足が去って行って、視界が一気に広くなった。
 決して追い詰められていたわけじゃないのに、突然のことにわけがわからなくなってしまった。
 ようやくホッとして顔を上げれば、残っていたクラスメイトが数名、こちらを見ている。
 そりゃそうだよ。普段はいるかいないかも分からないクラスメイトに、あの椿くんが話しかけていたんだから。その反応は正しい。みんな「なんで?」って言葉を顔に貼り付けているみたいにして立っている。

 でもね、今一番その顔をしたいのは、はっきり言ってあたしの方だ。

 なんで、椿くんはあたしに話しかけてきたの?

 心臓に悪すぎるから、「またね」なんて冗談でも言わないでほしい。また、なんてあるわけがないんだから。期待なんてしないから心配しないでね、椿くん。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果

下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。 一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。 純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
田舎の古民家を改装し、カフェを開いたマキノの奮闘記。 やさしい旦那様と綴る幸せな結婚生活。 試行錯誤しながら少しずつ充実していくお店。 カフェスタッフ達の喜怒哀楽の出来事。 自分自身も迷ったり戸惑ったりいろんなことがあるけれど、 ごはんをおいしく食べることが幸せの原点だとマキノは信じています。 お店の名前は 『Cafe Le Repos』 “Repos”るぽ とは フランス語で『ひとやすみ』という意味。 ここに訪れた人が、ホッと一息ついて、小さな元気の芽が出るように。 それがマキノの願いなのです。 - - - - - - - - - - - - このお話は、『Café Le Repos ~マキノのカフェ開業奮闘記~』の続きのお話です。 <なろうに投稿したものを、こちらでリライトしています。>

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...