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3 11月25日
捨てゴマ
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帰り道、校庭を走る椿くんの姿を視界の隅っこに入れながら歩く。今日も綺麗なフォーム。走り終えた椿くんが、首にかけたタオルで汗を拭きながらこちらを向いた。
あ、こっち見てる。なにかあるのかな? なにを見ているんだろう。
顔は真っ直ぐを維持したまま、決して椿くんを見ているとは気が付かれないように歩く。
日々、あたしは校門を出るギリギリまで椿くんの姿を視界に入れるためには、どうしたらいいのかを考えている。
どの角度でどのくらいの速度で歩けば、うまく、長く視界に捉えられるのか。考えに考えて、毎回アップデートしているあたしの技。だから、きっと見ていることはバレていないと思うんだけど。
あれ? 待って。なんかすごくこっちを見ている気がする。え、睨んでる?
つい、あたりをキョロキョロと挙動不審に見てしまう。だけど、別に変わったものがあったりなにかしている人がいるわけでもない。むしろ、ここにはあたししかいない。
え、なにを見ているの?
「おっつー。ニコちゃーん」
「ぎゃ!!」
突然目の前に現れた理人先輩に、あたしは思い切り叫んでしまった。
「あはは、ちょっと今のはかわいくないなぁ。もう少しさ、キャッ! とかイヤーンせんぱぁいとかのが、俺はいいなぁ」
いや、先輩の反応の好みなんか知りませんが。ってか、いったいどこから現れたんだ、あなたは。心臓止まるかと思った。
まだドクドクと落ち着かない胸に、ゆっくり深呼吸をする。
「ねぇ、椿に今日なんか言われた?」
結局、あの後あたしは理人先輩にメッセージを返信しなかった。
「先輩こそ、椿くんになにか言いましたか?」
この人の行動が毎度毎度、自分勝手すぎて、普段怒るなんて感情のないあたしが珍しくイラついているのだ。
「いや? ニコちゃんのことはなんも? ただ、椿にダブルデートしようよって話はした」
「……ダブル、デート?」
「そっ、ダブルデートーっ! 楽しそうでしょ?」
「まぁ、それはそうですね」
そんなの勝手にやってください。あたしに関係ない話なら椿くんとなんなりと話していただいていいですけど、あたしの話はしないでいただきたいだけ。
なんで椿くんは今日あたしに声をかけてきたのか。
理人先輩と仲良いの? って聞いてきた理由が知りたいだけなんですが。
『ここだけの話なんだけどさぁ、椿くんって、理人先輩のこと好きなんじゃないかって』
ふと、一条さんの言葉を思い出した。
そして、さっき椿くんがこちらを見て睨んでいたような気がしたことを思い出す。もしかして、椿くんが見ていたのは、あたしがまったく気配に気が付かなかった理人先輩?
「……え、あの、それって、理人先輩は彼女とで、椿くんは椿くんの彼女とって、ことですよね? それが、ダブルデートってことですよね?」
ダブルデートなんて、したことがないからよくは分からないけど。
だとしたら、椿くんは理人先輩のことが好きなのに、理人先輩が彼女とイチャイチャしてるところを見なきゃならないってこと? 先輩、平気で恥ずかしいこととかしそうだし、そんなのかわいそうだ。
いや、でも待って。その前に椿くんも彼女を連れていくんだから、それはないのか?
「……先輩、そのダブルデートって何日ですか?」
「え? 今月の25日だよ」
うわー!! 25日!! うわー!
『あのさ、如月さんって俺に全く興味ないよな?』
『えっと、つまり、今月の25日って予定空いてる?』
わかった! あたし、わかっちゃったよ。
椿くんがあたしに話しかけてきた理由が! なんかすっごく悲しいけど、わかっちゃったよ。
「椿、彼女連れて来れるのかなぁってちょっと心配なんだけどね。まぁ、そこは頑張ってもらわないと」
なにを悠長に。
先輩は知らないかもしれないですけどね、きっと椿くんにとったらあなたはめちゃくちゃ尊い推しなんですよ。憧れを通り越した先にある、運命的存在。うん、きっとそう。
あの時、教室を見上げて先輩と話すあの尊い横顔。あたしが尊いと思って見ていた横顔は、さらに尊い人を見ていたから、尚更に尊く見えていたのですよ。
あれ? でも、それだとあたしと同じで椿くんにとっては理人先輩は推しで、好きな人ではなくなる?
あたしにとって、椿くんが推しであるように、推しが困っていたら助けたいと思う気持ちは一緒だと思うし。それに、推しにダブルデートしようなんて言われたら嬉しいに決まってる。嘘の恋人だろうがなんだろうが構わずに、彼女だって言って推しの行動を一歩後ろから眺められる幸せ。いや、それまじ最高。
そのための、捨てゴマにあたしは選ばれたのかもしれない。
え、でも、それって、全くの他人からお願いされるのと、推しからお願いされるのとでは、雲泥の差だよね?
やる一択。もうやるしかないじゃん。これは、むしろやらねばならないやつだ。
「……ニコちゃーん?」
顔の前で手を振られて、あたしは心配そうに顔を覗き込んでくる理人先輩にハッとした。
「あ、あたし、椿くんのために頑張ります! ってか、あたしにとっても最高すぎる展開なので、ぜひ! やらせていただきたいと思います!」
「……え、なにを?」
「だから、ダブルデー……」
そこまで言って、あたしは椿くんにまだなんの詳細も聞いていないことを思い出す。
ヤバい。先走ってしまっている。先を勝手によんで自己完結させてしまっていることに気がついた。
すぐに反省する意味でうつむいた。
「へぇ、案外簡単なんだ。ニコちゃんのことだから、推しなんでーとか、尊すぎてムリーとか言うかなって思ってたけど」
それはもちろん思ってますけど。
おちゃらけて言う先輩に、心の中ですぐに突っ込んだ。せめてもの抵抗で、顔を上げて口をへの字に曲げる。
「あはは、ニコちゃん素直でかわいいんだから。よし、じゃあ25日に向けてまた髪型提案していこうかな」
「いや、でもまだ決まったわけでは」
椿くんにはまたねと言われたけれど、またなんて望まない。話しかけてもらえた奇跡を大事件として、いつまでも噛み締めていたい。とにかく今は早く帰って、日記に今日という日の尊さをしたためよう。
そのまま、理人先輩について行くようにあたしは学校を後にした。
あ、こっち見てる。なにかあるのかな? なにを見ているんだろう。
顔は真っ直ぐを維持したまま、決して椿くんを見ているとは気が付かれないように歩く。
日々、あたしは校門を出るギリギリまで椿くんの姿を視界に入れるためには、どうしたらいいのかを考えている。
どの角度でどのくらいの速度で歩けば、うまく、長く視界に捉えられるのか。考えに考えて、毎回アップデートしているあたしの技。だから、きっと見ていることはバレていないと思うんだけど。
あれ? 待って。なんかすごくこっちを見ている気がする。え、睨んでる?
つい、あたりをキョロキョロと挙動不審に見てしまう。だけど、別に変わったものがあったりなにかしている人がいるわけでもない。むしろ、ここにはあたししかいない。
え、なにを見ているの?
「おっつー。ニコちゃーん」
「ぎゃ!!」
突然目の前に現れた理人先輩に、あたしは思い切り叫んでしまった。
「あはは、ちょっと今のはかわいくないなぁ。もう少しさ、キャッ! とかイヤーンせんぱぁいとかのが、俺はいいなぁ」
いや、先輩の反応の好みなんか知りませんが。ってか、いったいどこから現れたんだ、あなたは。心臓止まるかと思った。
まだドクドクと落ち着かない胸に、ゆっくり深呼吸をする。
「ねぇ、椿に今日なんか言われた?」
結局、あの後あたしは理人先輩にメッセージを返信しなかった。
「先輩こそ、椿くんになにか言いましたか?」
この人の行動が毎度毎度、自分勝手すぎて、普段怒るなんて感情のないあたしが珍しくイラついているのだ。
「いや? ニコちゃんのことはなんも? ただ、椿にダブルデートしようよって話はした」
「……ダブル、デート?」
「そっ、ダブルデートーっ! 楽しそうでしょ?」
「まぁ、それはそうですね」
そんなの勝手にやってください。あたしに関係ない話なら椿くんとなんなりと話していただいていいですけど、あたしの話はしないでいただきたいだけ。
なんで椿くんは今日あたしに声をかけてきたのか。
理人先輩と仲良いの? って聞いてきた理由が知りたいだけなんですが。
『ここだけの話なんだけどさぁ、椿くんって、理人先輩のこと好きなんじゃないかって』
ふと、一条さんの言葉を思い出した。
そして、さっき椿くんがこちらを見て睨んでいたような気がしたことを思い出す。もしかして、椿くんが見ていたのは、あたしがまったく気配に気が付かなかった理人先輩?
「……え、あの、それって、理人先輩は彼女とで、椿くんは椿くんの彼女とって、ことですよね? それが、ダブルデートってことですよね?」
ダブルデートなんて、したことがないからよくは分からないけど。
だとしたら、椿くんは理人先輩のことが好きなのに、理人先輩が彼女とイチャイチャしてるところを見なきゃならないってこと? 先輩、平気で恥ずかしいこととかしそうだし、そんなのかわいそうだ。
いや、でも待って。その前に椿くんも彼女を連れていくんだから、それはないのか?
「……先輩、そのダブルデートって何日ですか?」
「え? 今月の25日だよ」
うわー!! 25日!! うわー!
『あのさ、如月さんって俺に全く興味ないよな?』
『えっと、つまり、今月の25日って予定空いてる?』
わかった! あたし、わかっちゃったよ。
椿くんがあたしに話しかけてきた理由が! なんかすっごく悲しいけど、わかっちゃったよ。
「椿、彼女連れて来れるのかなぁってちょっと心配なんだけどね。まぁ、そこは頑張ってもらわないと」
なにを悠長に。
先輩は知らないかもしれないですけどね、きっと椿くんにとったらあなたはめちゃくちゃ尊い推しなんですよ。憧れを通り越した先にある、運命的存在。うん、きっとそう。
あの時、教室を見上げて先輩と話すあの尊い横顔。あたしが尊いと思って見ていた横顔は、さらに尊い人を見ていたから、尚更に尊く見えていたのですよ。
あれ? でも、それだとあたしと同じで椿くんにとっては理人先輩は推しで、好きな人ではなくなる?
あたしにとって、椿くんが推しであるように、推しが困っていたら助けたいと思う気持ちは一緒だと思うし。それに、推しにダブルデートしようなんて言われたら嬉しいに決まってる。嘘の恋人だろうがなんだろうが構わずに、彼女だって言って推しの行動を一歩後ろから眺められる幸せ。いや、それまじ最高。
そのための、捨てゴマにあたしは選ばれたのかもしれない。
え、でも、それって、全くの他人からお願いされるのと、推しからお願いされるのとでは、雲泥の差だよね?
やる一択。もうやるしかないじゃん。これは、むしろやらねばならないやつだ。
「……ニコちゃーん?」
顔の前で手を振られて、あたしは心配そうに顔を覗き込んでくる理人先輩にハッとした。
「あ、あたし、椿くんのために頑張ります! ってか、あたしにとっても最高すぎる展開なので、ぜひ! やらせていただきたいと思います!」
「……え、なにを?」
「だから、ダブルデー……」
そこまで言って、あたしは椿くんにまだなんの詳細も聞いていないことを思い出す。
ヤバい。先走ってしまっている。先を勝手によんで自己完結させてしまっていることに気がついた。
すぐに反省する意味でうつむいた。
「へぇ、案外簡単なんだ。ニコちゃんのことだから、推しなんでーとか、尊すぎてムリーとか言うかなって思ってたけど」
それはもちろん思ってますけど。
おちゃらけて言う先輩に、心の中ですぐに突っ込んだ。せめてもの抵抗で、顔を上げて口をへの字に曲げる。
「あはは、ニコちゃん素直でかわいいんだから。よし、じゃあ25日に向けてまた髪型提案していこうかな」
「いや、でもまだ決まったわけでは」
椿くんにはまたねと言われたけれど、またなんて望まない。話しかけてもらえた奇跡を大事件として、いつまでも噛み締めていたい。とにかく今は早く帰って、日記に今日という日の尊さをしたためよう。
そのまま、理人先輩について行くようにあたしは学校を後にした。
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