34 / 59
3 11月25日
シンデレラタイム
しおりを挟む
「いいじゃーん、ニコちゃん! な、椿!」
理人先輩が一条さんの頭を「よくやった」と褒めながら愛おしそうによしよしと撫でている。照れながらも満足げに胸を張る一条さんの横で、椿くんはあたしを見て目を見開いたままだ。
あんまり見られると、また一歩を踏み出すことに戸惑ってしまう。
「……如月、さんだったの?」
「え?」
驚いたままの表情で、椿くんは目を逸らさずに言う。あたしはなんのことかわからずに、首を傾げてしまう。
「だから最初っから言ってんじゃん」
「理人先輩……いや、まじですか」
いつもクールな椿くんが、あまりにも取り乱している。キョロキョロと動いていた視線が、パチっとこちらを向いて合った。その瞬間、椿くんの顔がボッと音を立てるみたいに赤くなる。そして、すぐに視線を逸らしてしまうから、今度はあたしが椿くんのことを目で追ってしまっていた。
なんだかいつも見ている椿くんと違う。そんな反応をしているところなんて、見たことがない。新しい椿くんに出逢えて、不思議だけど胸の奥がドキドキワクワクしてくる。
「俺は最初から言ってただろ。信用してなかったのは椿!」
「でも、まじで、そんな……」
「テンパリすぎだろ。とりあえず落ち着け。それと忘れるな、ニコちゃんは俺とユリカのおかげでこんなに可愛くなれているということを。今日は特別だ。25日のシンデレラタイム。よっし、ダブルデートいくぞーっ」
「25日のシンデレラタイムってなにー!? かわいいけど、12時なったら終わるの?」
「日付が変わったら終わりだろうな。まぁ、続くかどうかは椿とニコちゃん次第じゃない?」
理人先輩は楽しそうに一条さんと手を繋いで「いってきまーす」とお店を出ていく。
まだ少し照れてぎこちない表情の椿くんが、あたしに向かって「行こうか」と言ってくれるから、あたしは頷いて駆け寄った。
椿くんの隣を歩いている。
あたし、椿くんの隣を歩いているよー!
心の中で叫ぶ。
「歩くの、早くない?」
「え、あ、はいっ」
仲良く手を繋いで前を行く理人先輩と一条さん。当たり前だけどどう見ても恋人同士だ。寄り添う距離も近くて、お互いに好きなことが伝わってくる。
理人先輩が言っていた「シンデレラタイム」。今日一日、あたしは25日を椿くんと一緒に楽しむ。これは、今回限りの贅沢な感謝デーになるんだから、思う存分堪能しなければ。
「如月さんは、気になるやつとかいないの?」
「……え!?」
「あ、いや、ごめん。変なこと聞いたよな。忘れて」
あまりにも大きな声で反応してしまったからか、椿くんが慌てて話を変える。
「今日は来てくれてありがとう。めちゃくちゃ嬉しいよ」
椿くんがふんわりと笑うから、あたしの方が嬉しいんです! と心の中で泣いてひれ伏す。
理人先輩と一条さんの後ろをついて行って、ショッピングモールに入っていく。休日だから人が多い。人混みの慣れないあたしは、みんなについていくだけで精一杯だ。しかも、今日は履き慣れないスカートを履いているから足捌きもぎこちない。
椿くんの後頭部を見失わないように視界に入れていたのに、天井にあるクリスマスの装飾がキラキラキレイで見惚れてしまう。すぐに視線を戻したつもりなのに、椿くんの後頭部がないことに気がついた。
あ、あれ!?
さっきまですぐ前にいたのに。
キョロキョロとあたりを見回す。前の方を背伸びして見てみるけれど、見つけられない。
どうしよう……はぐれた!?
不安になった瞬間、右手をギュッと大きくてあたたかい温もりが掴んできた。
「如月さん! いなくならないでよ」
焦った顔をした椿くんが、目の前に現れた。クリスマスの煌めきに混じって、椿くんの姿がより一層華やかで煌びやかに見えてしまう。
「理人先輩たち向こうで待ってるから。行こう」
さっそく歩き出すけど、引かれる手は繋がっている。さっきは不意打ちと安心でなんとも思っていなかったけれど……
待って!? あたし、椿くんと手繋いでる!?
意識した途端に、身体中が熱くなってきた。前も周りもなにも見えなくなって、引かれるままに理人先輩と一条さんの前まで辿り着く。
「ニコりんはぐれないでー」
「椿がちゃんと見てないからだぞー」
「すみません」
冗談っぽく怒る理人先輩に、椿くんが謝っている。
違う。あたしがよそ見しちゃって足を止めたからだよ。椿くんはなにも悪くないのに。謝らせてしまった。
「逸れないように、このまま手繋いでいてもいい?」
気がつけば、椿くんとの距離が近くて、たぶん離そうとしても離してくれなさそうなくらいしっかり手を繋がれている。
小さな子供みたいに迷子になってしまうあたしに、呆れてしまっているのかもしれない。どうしようもないあたしは、俯いてから小さく頷くしかない。
「じゃ、上に行くよー! ニコりん椿くん、ちゃんとついて来てよー」
「おう」
一条さんが張り切って歩き出すと、椿くんがこちらを見て微笑んでから、歩き出す。
言葉はないけれど、「ついて来て」と言ってくれているような気がして、ドキドキする。何度も頷いてから、あたしはついていく。
繋がれた手に汗が滲んでくるんじゃないかと気にしながら、もうどこを歩いているのかも分からずに足を進めた。
理人先輩が一条さんの頭を「よくやった」と褒めながら愛おしそうによしよしと撫でている。照れながらも満足げに胸を張る一条さんの横で、椿くんはあたしを見て目を見開いたままだ。
あんまり見られると、また一歩を踏み出すことに戸惑ってしまう。
「……如月、さんだったの?」
「え?」
驚いたままの表情で、椿くんは目を逸らさずに言う。あたしはなんのことかわからずに、首を傾げてしまう。
「だから最初っから言ってんじゃん」
「理人先輩……いや、まじですか」
いつもクールな椿くんが、あまりにも取り乱している。キョロキョロと動いていた視線が、パチっとこちらを向いて合った。その瞬間、椿くんの顔がボッと音を立てるみたいに赤くなる。そして、すぐに視線を逸らしてしまうから、今度はあたしが椿くんのことを目で追ってしまっていた。
なんだかいつも見ている椿くんと違う。そんな反応をしているところなんて、見たことがない。新しい椿くんに出逢えて、不思議だけど胸の奥がドキドキワクワクしてくる。
「俺は最初から言ってただろ。信用してなかったのは椿!」
「でも、まじで、そんな……」
「テンパリすぎだろ。とりあえず落ち着け。それと忘れるな、ニコちゃんは俺とユリカのおかげでこんなに可愛くなれているということを。今日は特別だ。25日のシンデレラタイム。よっし、ダブルデートいくぞーっ」
「25日のシンデレラタイムってなにー!? かわいいけど、12時なったら終わるの?」
「日付が変わったら終わりだろうな。まぁ、続くかどうかは椿とニコちゃん次第じゃない?」
理人先輩は楽しそうに一条さんと手を繋いで「いってきまーす」とお店を出ていく。
まだ少し照れてぎこちない表情の椿くんが、あたしに向かって「行こうか」と言ってくれるから、あたしは頷いて駆け寄った。
椿くんの隣を歩いている。
あたし、椿くんの隣を歩いているよー!
心の中で叫ぶ。
「歩くの、早くない?」
「え、あ、はいっ」
仲良く手を繋いで前を行く理人先輩と一条さん。当たり前だけどどう見ても恋人同士だ。寄り添う距離も近くて、お互いに好きなことが伝わってくる。
理人先輩が言っていた「シンデレラタイム」。今日一日、あたしは25日を椿くんと一緒に楽しむ。これは、今回限りの贅沢な感謝デーになるんだから、思う存分堪能しなければ。
「如月さんは、気になるやつとかいないの?」
「……え!?」
「あ、いや、ごめん。変なこと聞いたよな。忘れて」
あまりにも大きな声で反応してしまったからか、椿くんが慌てて話を変える。
「今日は来てくれてありがとう。めちゃくちゃ嬉しいよ」
椿くんがふんわりと笑うから、あたしの方が嬉しいんです! と心の中で泣いてひれ伏す。
理人先輩と一条さんの後ろをついて行って、ショッピングモールに入っていく。休日だから人が多い。人混みの慣れないあたしは、みんなについていくだけで精一杯だ。しかも、今日は履き慣れないスカートを履いているから足捌きもぎこちない。
椿くんの後頭部を見失わないように視界に入れていたのに、天井にあるクリスマスの装飾がキラキラキレイで見惚れてしまう。すぐに視線を戻したつもりなのに、椿くんの後頭部がないことに気がついた。
あ、あれ!?
さっきまですぐ前にいたのに。
キョロキョロとあたりを見回す。前の方を背伸びして見てみるけれど、見つけられない。
どうしよう……はぐれた!?
不安になった瞬間、右手をギュッと大きくてあたたかい温もりが掴んできた。
「如月さん! いなくならないでよ」
焦った顔をした椿くんが、目の前に現れた。クリスマスの煌めきに混じって、椿くんの姿がより一層華やかで煌びやかに見えてしまう。
「理人先輩たち向こうで待ってるから。行こう」
さっそく歩き出すけど、引かれる手は繋がっている。さっきは不意打ちと安心でなんとも思っていなかったけれど……
待って!? あたし、椿くんと手繋いでる!?
意識した途端に、身体中が熱くなってきた。前も周りもなにも見えなくなって、引かれるままに理人先輩と一条さんの前まで辿り着く。
「ニコりんはぐれないでー」
「椿がちゃんと見てないからだぞー」
「すみません」
冗談っぽく怒る理人先輩に、椿くんが謝っている。
違う。あたしがよそ見しちゃって足を止めたからだよ。椿くんはなにも悪くないのに。謝らせてしまった。
「逸れないように、このまま手繋いでいてもいい?」
気がつけば、椿くんとの距離が近くて、たぶん離そうとしても離してくれなさそうなくらいしっかり手を繋がれている。
小さな子供みたいに迷子になってしまうあたしに、呆れてしまっているのかもしれない。どうしようもないあたしは、俯いてから小さく頷くしかない。
「じゃ、上に行くよー! ニコりん椿くん、ちゃんとついて来てよー」
「おう」
一条さんが張り切って歩き出すと、椿くんがこちらを見て微笑んでから、歩き出す。
言葉はないけれど、「ついて来て」と言ってくれているような気がして、ドキドキする。何度も頷いてから、あたしはついていく。
繋がれた手に汗が滲んでくるんじゃないかと気にしながら、もうどこを歩いているのかも分からずに足を進めた。
2
あなたにおすすめの小説
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶
菱沼あゆ
キャラ文芸
冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。
琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。
それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる