36 / 59
3 11月25日
限界突破
しおりを挟む
やっぱり思った通りに良いとこなしだ。勝負という勝負は、全て理人先輩と一条さんペアが全勝。一度も勝てずに時間終了。椿くんのことをがっかりさせてしまったんじゃないかと心底あたしは反省してしまう。
「あー、楽しかった!」
「いっぱい動いたしお腹すいたな」
「あれ? ニコりん大丈夫? 疲れた?」
俯いていたあたしに、一条さんが近づく。
「あ! いえ、なんか、負けっぱなしで申し訳なかったなって」
「えー! そんなの気にしないで! 手加減しないリヒが悪いんだよ」
「え!? 俺のせい?」
「そう。椿くんだって気にしてないでしょ?」
「え!? あ、うん。如月さんと遊べてめちゃくちゃ楽しかった」
すぐ隣を歩いていた椿くんに一条さんが聞くのを視線を追って見ると、ふわりと笑う椿くんの嬉しそうな顔。
「えー! あれ? え? あー、ふんふん。そう言うことか!」
一条さんが、突然椿くんとあたしを交互に見て、何かに納得する様に頷いてから、理人先輩の隣に戻って腕を組む。
「2人のおかげでめちゃくちゃいい誕生日になりました! ここからはリヒと2人でお祝いしたいから、解散でもいい?」
一条さんが、急に解散宣言を言い渡す。
あたしにそれを拒否する権限はないし、頷くしかないけれど、そもそも、今日は椿くんが理人先輩と遊びたくて決行されたダブルデートなのではなかっただろうか?
ここまできて、一条さんが理人先輩を独り占めはちょっとかわいそうじゃないのかな。
椿くんだって、一条さんは理人先輩の彼女だし、ダメとは言えないだろうし。
「いいよ。俺も今日は大満足だし。お二人の誕生日だったのに付き合ってもらってありがとうございました。これ、誕生日プレゼントです」
嫌な顔ひとつしないで、椿くんは丁寧に頭を下げたかと思えば、紙袋を2人に差し出した。
「誕生日おめでとうございます。お二人がずっと幸せでいられます様に」
「ありがとう。ニコちゃんも今日はありがとう」
「わー! ありがとうっ、椿くん! ニコりんもまた明日ね」
すぐに紙袋を受け取って、ぴったりとくっついたまま2人は行ってしまった。
後ろ姿をしばらく見てから、あたしはハッと我に返る。そして、慌てて駆け出し、2人を呼び止めた。
「あ、あの! お誕生日おめでとうございます! あたし、なにも用意出来てなくて、ごめんなさい。たくさん色々してもらったのに……」
なにも返せていないし、あたしはなんの役割も果たせていない気がする。
「ニコちゃん、あとは君が気が付けるかどうかだから」
「……え?」
「今日のニコりんめっちゃかわいかったよ! 明日からも色々教えるから、頑張ろっ」
ガッツポーズをして気合いを入れる一条さんに、あたしは疑問を残したまま小さくうなずく。
手を振り2人の後ろ姿を見送っていると、「如月さん」と呼ばれてドキッと心臓が飛び跳ねた。
2人が行ってしまったから、椿くんと2人取り残されてしまった。
今日のミッションはこれにて終了だ。
あたしは上手く仕事ができただろうか。さっきは楽しかったと笑っていた椿くんだったけど、本当のところは分からない。優しい椿くんのことだから、気を遣ってくれたのかもしれないから。
「今日は、ありがとうございました。あの、あたしはこれで」
なるべく目が合わない様に、お辞儀をしてくるりと向きを変えた。歩き出そうとしたその時。
「もう帰るの?」
引き止める椿くんの言葉と掴まれた腕。
突然のことに驚いて、あたしは振り向きもできずに固まってしまった。
「……帰るよね、ごめん。引き止めたりして」
すぐに掴んでいた手を離して、椿くんは小さな声で言う。
また、謝らせてしまっている。
そう思うと胸の奥がズキンと痛んだ。
「あの、椿くん」
「ん?」
今日は、25日。椿くん感謝デー。本人を目の前にして、これを言わずには帰れない。だから、あたしは勇気を出して顔を上げた。
「ありがとうございます」
真っ直ぐに椿くんのことを見てから、すぐにまた頭を下げた。
「さようなら」
今日のことは、あたし一生忘れない。
大好きな推し、椿くんと一緒にデートが出来たなんて、夢の中でも遠慮していたのに、実際に現実に起こってしまうなんてまだ信じられない。だから、これ以上の奇跡なんて望まない。今日が終わったら、また遠くから見つめる日々を送らせてください。
ありがとう。本当にありがとう。今日ほどありがとうを言ってもいい足りないと思う日はないと思う。ありがとう椿くん。ありがとう。ありがとう。ありがとう。
「また明日ね、如月さん!」
歩き進めるあたしの後ろで、椿くんの声がした。だけど、振り向いたらいけない気がする。もう椿くんのそばに近づきすぎて限界突破しているから、あたしは少しだけ振り返って何度も頭を下げてまた前を向くと、早足でモールを後にした。
「あー、楽しかった!」
「いっぱい動いたしお腹すいたな」
「あれ? ニコりん大丈夫? 疲れた?」
俯いていたあたしに、一条さんが近づく。
「あ! いえ、なんか、負けっぱなしで申し訳なかったなって」
「えー! そんなの気にしないで! 手加減しないリヒが悪いんだよ」
「え!? 俺のせい?」
「そう。椿くんだって気にしてないでしょ?」
「え!? あ、うん。如月さんと遊べてめちゃくちゃ楽しかった」
すぐ隣を歩いていた椿くんに一条さんが聞くのを視線を追って見ると、ふわりと笑う椿くんの嬉しそうな顔。
「えー! あれ? え? あー、ふんふん。そう言うことか!」
一条さんが、突然椿くんとあたしを交互に見て、何かに納得する様に頷いてから、理人先輩の隣に戻って腕を組む。
「2人のおかげでめちゃくちゃいい誕生日になりました! ここからはリヒと2人でお祝いしたいから、解散でもいい?」
一条さんが、急に解散宣言を言い渡す。
あたしにそれを拒否する権限はないし、頷くしかないけれど、そもそも、今日は椿くんが理人先輩と遊びたくて決行されたダブルデートなのではなかっただろうか?
ここまできて、一条さんが理人先輩を独り占めはちょっとかわいそうじゃないのかな。
椿くんだって、一条さんは理人先輩の彼女だし、ダメとは言えないだろうし。
「いいよ。俺も今日は大満足だし。お二人の誕生日だったのに付き合ってもらってありがとうございました。これ、誕生日プレゼントです」
嫌な顔ひとつしないで、椿くんは丁寧に頭を下げたかと思えば、紙袋を2人に差し出した。
「誕生日おめでとうございます。お二人がずっと幸せでいられます様に」
「ありがとう。ニコちゃんも今日はありがとう」
「わー! ありがとうっ、椿くん! ニコりんもまた明日ね」
すぐに紙袋を受け取って、ぴったりとくっついたまま2人は行ってしまった。
後ろ姿をしばらく見てから、あたしはハッと我に返る。そして、慌てて駆け出し、2人を呼び止めた。
「あ、あの! お誕生日おめでとうございます! あたし、なにも用意出来てなくて、ごめんなさい。たくさん色々してもらったのに……」
なにも返せていないし、あたしはなんの役割も果たせていない気がする。
「ニコちゃん、あとは君が気が付けるかどうかだから」
「……え?」
「今日のニコりんめっちゃかわいかったよ! 明日からも色々教えるから、頑張ろっ」
ガッツポーズをして気合いを入れる一条さんに、あたしは疑問を残したまま小さくうなずく。
手を振り2人の後ろ姿を見送っていると、「如月さん」と呼ばれてドキッと心臓が飛び跳ねた。
2人が行ってしまったから、椿くんと2人取り残されてしまった。
今日のミッションはこれにて終了だ。
あたしは上手く仕事ができただろうか。さっきは楽しかったと笑っていた椿くんだったけど、本当のところは分からない。優しい椿くんのことだから、気を遣ってくれたのかもしれないから。
「今日は、ありがとうございました。あの、あたしはこれで」
なるべく目が合わない様に、お辞儀をしてくるりと向きを変えた。歩き出そうとしたその時。
「もう帰るの?」
引き止める椿くんの言葉と掴まれた腕。
突然のことに驚いて、あたしは振り向きもできずに固まってしまった。
「……帰るよね、ごめん。引き止めたりして」
すぐに掴んでいた手を離して、椿くんは小さな声で言う。
また、謝らせてしまっている。
そう思うと胸の奥がズキンと痛んだ。
「あの、椿くん」
「ん?」
今日は、25日。椿くん感謝デー。本人を目の前にして、これを言わずには帰れない。だから、あたしは勇気を出して顔を上げた。
「ありがとうございます」
真っ直ぐに椿くんのことを見てから、すぐにまた頭を下げた。
「さようなら」
今日のことは、あたし一生忘れない。
大好きな推し、椿くんと一緒にデートが出来たなんて、夢の中でも遠慮していたのに、実際に現実に起こってしまうなんてまだ信じられない。だから、これ以上の奇跡なんて望まない。今日が終わったら、また遠くから見つめる日々を送らせてください。
ありがとう。本当にありがとう。今日ほどありがとうを言ってもいい足りないと思う日はないと思う。ありがとう椿くん。ありがとう。ありがとう。ありがとう。
「また明日ね、如月さん!」
歩き進めるあたしの後ろで、椿くんの声がした。だけど、振り向いたらいけない気がする。もう椿くんのそばに近づきすぎて限界突破しているから、あたしは少しだけ振り返って何度も頭を下げてまた前を向くと、早足でモールを後にした。
1
あなたにおすすめの小説
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶
菱沼あゆ
キャラ文芸
冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。
琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。
それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる