毎月25日は椿くん感謝デー

佐々森りろ

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5 12月25日

運命の人?

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 え、待って。これって。
 まだ袋を開くのを躊躇してしまう。隙間から見えるのは、あたしがよく見ている生地。ついこの前たくさん使って、同じようなものを作ったのを思い出す。
 意を決して、中身を取り出してみる。
 手のひらに乗る大きさのぬいぐるみ。しかも、これってもしかして……あたし?
 デフォルメされていて、自分で言うのもなんだけど、すごくかわいらしい。こんなにかわいいんだから、あたしじゃないかもしれないけど、でも。

「俺、実は裁縫が得意で。如月さんのぬいぐるみ作ってみたんだ」

 やっぱり!?

「理人先輩に聞いたんだ。如月さん、ぬいぐるみ作るのすごく上手いって」
「え……」

 理人先輩が!?
 まさか、あたしが椿くんの推しぬいツバくんを作っていることを話したんじゃ……
 一気に冷や汗が出てくる。秘密にしていたことがバレてしまったんじゃないかと心臓がバクバクと高鳴り始めた。

「推しぬいってのがあるんだって言うのを教えてくれて、如月さんに作ってあげたら絶対喜ぶからって言われて、理人先輩の言うことなら信用出来るし作ってみたんだけど」

 絶大に信頼されている理人先輩が羨ましい。じゃなくて、めちゃくちゃ嬉しい。
 椿くんが推しぬいのことを受け入れてくれて、しかも作っちゃうところが凄すぎる! やっぱり出来る人ってなんでも出来ちゃうんだ。

「俺にとっては、如月さんって推しなんだよね」
「……え」

 ポツリと、躊躇いがちに椿くんが言う。
 今、なんて言ったの? 推し? 椿くんが、あたしの推し!?

「な、なんで!?」

 思わず叫んでしまうと、椿くんも驚いた表情をしてから笑った。

「まだ確証はないんだけど、今年の5月25日に運命的な出会いをした人がいたんだけど、その人がたぶん如月さんなんじゃないかって思ってるんだけど、覚えない?」

 今年の、5月25日。あたしの、誕生日。
 自転車のおじさんに轢かれそうになったあたしを助けてくれたのは、紛れもなく椿くんだった。あたしは、あの日から椿くんのことを推し始めた。

「……自転車に轢かれそうになって、あたし、椿くんに助けてもらいました」

 今でも鮮明に覚えている。
 運命的な出逢いなんてそんなロマンティックなことは思わなかったけど、あたしは椿くんのことを分かっていたし、あなたがかっこよくて優しくて人気者なことは知っていた。でも、クラスでも目立たなくていつも1人でいたあたしのことは、椿くんは知らなかったから、あの時のことが運命だなんて、そんなのおかしい。

「やっぱり!? まじか!」

 わっと、勢いよく椿くんが喜ぶ。

「あの時の人がやっぱり如月さんなんだね。俺、ずっと分からなくて。でも、理人先輩に協力してもらって、今日まで如月さんとどうにか話せるようにって考えてきたんだ」

 椿くんが理人先輩に協力してもらった?
 もしかして、あたしが理人先輩に椿くんのことを教えてもらっている時に、椿くんもあたしのことを理人先輩から教えてもらっていたってこと?

「ずっと探してたんだよ」

 嬉しそうに椿くんが白い息を吐き出す。空気が冷たいのを感じる。
 それって、椿くんが探していたのって、まりあさんにかわいくしてもらって、あたしじゃないあたしになっていた時だ。それって、やっぱりあたしじゃないんじゃ……

「始めは如月さんがあの人だって言われても、信じられなくて疑っていたんだけど、如月さんと関わっていくうちに変わっていく如月さんのことを見て、なんかワクワクしてきちゃって」
「……ワクワク?」
「きっと、一緒に遊んだり話したりしたから、あの時よりも如月さんのことを知れて嬉しくなってる」
「……え」
「今日の如月さん、あの時よりもすっごくかわいいよ!」
「ええ!?」

 気持ちが高揚してきたのか、勢いよく話し続けた椿くんは、キラキラした瞳であたしを見つめてくるから、つい目を逸らしてしまいそうになる。

「如月さんがあの時の人じゃなかったとしても、俺は今の如月さんのことが……」

 逸らしたかったのに、椿くんの瞳がじっとあたしの瞳をとらえたまま力強く見つめるから、そらせなかった。

「好きになった」

 え? 待って? なにこれ。ドッキリ? 理人先輩と一条さんがどこかから笑って出てくるんじゃない?
 頭の中では椿くんの言葉を受け止めきれずにあれこれと考えてしまう。
 展開が早すぎるんですが?
 あたしはずっとツバくんと一緒に椿くんを推して過ごしていくって決めていたのに。毎月25日を椿くん感謝デーとして密かな楽しみにしていたのに。今日だって、こっそりツバくんぬいを持ってきて、応援してもらおうって思っていたのに、会ってすぐにこの展開って、あたし、どうしたらいいのー!?



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