元王女、革命を起こし戦場を駆ける〜弟と婚約者に嵌められた次期女王の革命〜

永遠ノ宮

文字の大きさ
5 / 7
一章〜黒魔術と山賊頭領〜

二話『山賊の少女』

しおりを挟む
 初めて黒魔術を使った感想としては、身体的疲労が激しく次の日になっても動くのが憂鬱なほどに全身が重いといったところである。

 黒魔術は魔法と違い、悪魔との契約が済んでいる者のみの選ばれた力らしい。
 つまり、体に負荷を掛けた分悪魔はそれをエネルギーとして黒魔術へ変換してくれると言うことになる。

 等価交換ーーである。

 だからと言って、幾ら体が重くて動かないからとだらりとしていられない。
 黒魔術を完璧に自分の物とする為にも修行は継続する必要がある。
 そして、人間が生きる上でとても重要なことと言えば、


「食料と飲み物の確保をしましょう!」


 食べること、飲むことーー

 人間の三大欲求を満たすことである。
 性欲はこの際除くーー私は未経験だから。

「て、飯と言ってもなぁ。街へ出ないといけない」

「変装はちゃんとして行くわよ」

「いや、昨日の早朝街へ行ったが……騎士団が彷徨いていた。あまり、簡単にじゃあ行こうか! とは言えないのが俺の立場だ」

「なるほどね……。なら、騎士団に見つかったら戦って隙見て逃走! 顔はバレないように仮面をちゃんと付ける!」

「……まあ、それなら。てっ! 俺任せじゃねえか!!」

 男はため息を吐いて、「仕方ない……」とぼやいて漆黒のコートを羽織る。
 私も古城のクローゼットに残っていた茶色のコートを羽織り、これもまた残っていた不気味な仮面を付ける。

「余計に怪しいのだが……」

「大丈夫。怪しすぎて、逆に声掛けたくないと思う……」

「…………騎士団もびっくりだ」

 いざ行こうーーと、した途端に私達二人の間に不安が溢れだしてきた。





 〖アルヴァージュ帝国内 凱旋通り〗

「ーーすみません、いつものパンをある分と牛乳。それと今日はベーコンも」

「いつもありがとう兄ちゃん! ほらよ、おまけでゆで卵付けとくぜ!」

「ありがとう店主。また来る」

 男は行きつけの店の店主から袋を受け取ると足早に私の手を引いて人混みへ消える。

「やっぱり、騎士団多いわね」

「ああ。バレていないとは思っているんだけどね~」

「黒焦げの死体じゃ、私と入れ替わっていても見当もつかないわよ。そこまで今のアルヴァージュ帝国の技術は発達していない」

 男が人混みへ紛れた理由は、騎士団が迫っていたからだった。
 人混みに紛れてしまえば、不審な動きで目立たない限り声を掛けられる可能性は低い。

 気配を消すなら人に紛れろーー

 実に古典的だが、しかし、そのおかげで騎士団とはすれ違ったものの声を掛けられることはなかった。

「……行ったわね」

「何とかな。あとは、服を新調してーー」

「ねえ、そういえばーー」

 と、私は男の腕を肘で突く。

「な、なんだよ」

「お金、どっから湧いてくるの?」

 そう、私が気になったのは金だ。
 働いているわけでもない、商人をしている訳でもない、なら何故金が普通にあるのか。

「あー。錬金術ってやつだよ。金属を拾ってきて、錬金術で金銭に変えてしまう。禁術だけど黒魔術自体が禁術だからな。幾ら使っても禁術は禁術だ」

「ふーん……」

 鼻で返事したが、昔の自分を思い出して後悔する。
 
 もっと早く黒魔術が使えると知って、錬金術を身に着けておけば良かったと。
 私は他国と海上貿易を行い、輸出で金を得て国の復興費や軍費に半分回していた。

 苦労して築いた海上貿易……錬金術を身に着けるだけで良かったなんて馬鹿らしい。

「まあ、錬金術はそう簡単に使えるものじゃないーー【千里眼】!!」

「な、何よ急にっ!!」

「伏せるぞジャンヌ!!」

 男に抱きしめられて地面に倒れ込む。

 と、その次の瞬間ーー

 後ろの人混みから叫び声が上がる。
 ちらっと後ろを見ると、砂煙が上がり何かが諸凸猛進してくる。

 そして 人混みが左右に吹けて、現れたのは狼に乗った女の子だった。

「おん……なの、こ?」

「ーー女王」

 私と女の子は目が合う。
 そして女の子は通り過ぎて行き、街の東側深き森へ向かって走り抜けて行く。

「大丈夫かジャンヌ?」

「……あの子、私を知っていた」

「仮面を付けているのにか!? ……怪しいな」

「ーー君達! 大丈夫かい!」

 男に手を差し伸べてもらい、立ち上がると今度は騎士団が声を掛けてきた。
 
 ーー私と男は硬直する。

「……何故仮面を君は付けている?」

「あ、あーと。これはですね騎士様~」

「怪しい……仮面を取ってしまえ」

 三人程度でやろうと思えばできないことないが、さっきの女の子のせいで街は静かになり、民の視線は今や私達に全て向いてしまっている。
 
 ここで暴れると、後々指名手配級の大事になりかねない。
 ごくりと私は唾を飲み、男の袖を引く。

 ーー伝わりなさい、私の考えが。

「ーーっ! ……すみません、騎士様。少し、急いでいますので、【異空間移動(ワープ)】」

 男は私の考えを読んでくれたのか、ワープを使い街の外れまで飛んでくれた。
 その場で私はがくりと崩れ落ち、深呼吸する。

 男はケロッとしながら、「いやぁ、ビビったな~」と笑う。
 最初は本気でビビっていた癖にとは、言わない。

「それよりーー深き森の前に来てしまったな」

「あの女の子が向かっていた方角ね。どうする? とりあえず食べ物と飲み物の確保はしたから古城に帰る?」

「それには賛成なんだがーー」

 と、男は街の方へ向き直って顎に手を当てる。
 また、深く考えごとを始めた。

「狼の足跡は周囲一キロ圏内にはついていない。つまりーー今から来るか」

「良く見えるわね……何も見えないわよ」

「目が良いからな。一キロ圏内の足跡程度なら見える。それにーーどれだけ離れていようと、黒魔術次第では見える。【千里眼】」

「……見える?」

「今、やっと一番栄えている〖凱旋通り〗を抜けたところだ。あと五キロ程度てところかな」

 私は腰を上げ、尻を叩いて男の横に立つ。

「で、もし声を掛けて止まってくれたらのときの事なんだけど」

「奇遇だな~運命かな~これ。俺も多分同じことを考えている」

「「……名前、決めないとな(あんたの)(俺の)」」

 私達は見事声がハモった。
 そして、考えていることは同じだった。

「かっこいい名前で頼みます」

「え、あんたに似合うかっこいい名前って」

「あるだろ!? 数個くらい候補は浮かぶだろ!?」

 ぶっちゃけ、これといって候補があったわけではない。
 ただ、私が名前で呼ばれていながら男だけ「あんた」呼ばわりはできない。

 かっこいい名前……かっこいい名前……。

 考えるほど、思いつかない。
 男は「酷くね?」と言って肩を落とす。
 分かりやすい落ち込み方だ。

「ネロ」

「……ネロ?」

「神話に登場する死霊術士(ネクロマンサー)を略したのよ。確か、あの人物も黒魔術の使い手でその上死霊術を使うから」

「まあ、俺も使えるから良いんだが……ちょって可愛くない?」

「可愛くはないでしょ。むしろ悍ましいレベルよ」

 私は苦笑しながら、肩を叩いて元気を出せと手の平から伝える。
 まあ、届いていないと思うけど。

 名前はネロで決定し、丁度砂煙が見えるところまで女の子と狼は来ていた。
 私が手を振ると、狼は速度を落とし目の前で止まって大人しくお座りする。

 しっかりと手名付けられている。
 飼い主はこの女の子で間違いないが、気性が荒く人を襲う狼がここまで人間慣れしているとなるとーー
 この山で女の子は暮らしていると考えて間違いないだろう。

 山に共に住む者、その間に人と獣の違いはないーー昔、祖父がそう言っていた。
 
 ふらりと旅へ出ていき帰ってこなかった祖父の言葉だから信用はならないが。
 必ず帰ると言って、結局十三年間も帰っていない。
 
「思い出に耽るなよ……」

「心を読むな!!」

「……次期女王ジャンヌ様、で間違いないでしょうか?」

 私とネロが睨み合いを始めると、女の子はダガーナイフを二本持って構える。
 そして、私を次期女王のジャンヌかと問う。

「そうだとしたら、どうするの?」

「ーー殺します。次期女王になられるジャンヌ様を殺せば山賊である私達には、一生自由に遊べるだけの金銭が入る」

「……何それ。あなた、山賊なの?」

「今は、私が質問をしています」

 女の子はダガーナイフを更に強く握ると、右足を引いて疾風の如く駆け出し飛び込んでくる。

 流石にーーバレるか。

「ネロ」

「はいよ。……悪いね、お嬢ちゃん。この女は、俺のなんだ殺させる訳にはいかない」

「な、ナイフを……指一本! しかも、爪先で!!」

 ネロを出動させ、私の首に刃先が届く寸前でナイフは止まる。
 
 ーーダガーナイフを、爪先で止めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵家の令嬢だったシアには結婚して七年目になる夫がいる。 夫との間には娘が一人おり、傍から見れば幸せな家庭のように思えた。 が、しかし。 実際には彼女の夫である公爵は元メイドである愛人宅から帰らずシアを蔑ろにしていた。 彼女が頼れるのは実家と公爵邸にいる優しい使用人たちだけ。 ずっと耐えてきたシアだったが、ある日夫に娘の悪口を言われたことでとうとう堪忍袋の緒が切れて……! ついに虐げられたお飾りの妻による復讐が始まる―― 夫に報復をするために動く最中、愛人のまさかの事実が次々と判明して…!?

「おまえを愛することはない。名目上の妻、使用人として仕えろ」と言われましたが、あなたは誰ですか!?

kieiku
恋愛
いったい何が起こっているのでしょうか。式の当日、現れた男にめちゃくちゃなことを言われました。わたくし、この男と結婚するのですか……?

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

処理中です...