白猫のマオ〜Mao the White Cat〜

第1編『焚火』­

第1章「前夜祭」 Ⅰ節・佐々木家の人々について(1)

　今は昔、第59代宇多天皇には敦実親王というご子息がおられた。その息子・源雅信のそのまた二男に扶義という人がおり、その子孫が近江国にある佐々木というところに住むようになって、これを機に佐々木氏を名乗るようになった。
これが今の佐々木という名字の発祥となったらしいが、自分の名字から祖先を辿っていき天皇家に行き着くことはそんなに珍しいことではないし、佐々木という姓はかなりありふれた名字なので、すべての佐々木家が天皇家の分家というわけではないと考えられる。
　女好きの佐々木勝次郎が生を享けたのは1922年のことであった。榮子と元太朗の次男である。この佐々木一族は先述の通り、宇多天皇の子々孫々であるかは疑わしいところだが、明治維新以降、土佐の地主のうちのひとつであったらしく、かなり裕福な一族であった。
　第2次世界大戦が1945年に終わり、そこから佐々木家は勝次郎とその弟・狡猾の清治によって発展したが、その成長を支えたのは出どころ不明の金塊であった。
　1952年、清治は佐々木家の長男・きちがいのの泰太郎に撲殺されるが、その2日後、女好きの勝次郎はアングロ・サクソン人であるジェーン・ウォーカーとの間に母知らずの有栖を儲けた。その有栖は背信者・研一と結婚、1976年には彼との間に酒呑みの瀬礼奈を儲け、勝次郎の計らいにより研一は馬場光太朗の造船会社を継ぐ。
　この瀬礼奈のはとこには両翼の累という男がいて、彼は勝次郎と独逸人のハンナ・エリーゼ・ウェーバーの孫であった。
　1999年、瀬礼奈と彼との間に白猫の真央が生まれた。
　90年代後半から普及しているインターネットの国内利用率がようやく8割ほどに達し、SNSを通じて世界との交流の門が開かれたはずであったが、良くも悪くも民族意識が強化されてしまった2010年代―ユーラシア大陸の東方に弓のごとく横たわる島国、にっぽん…。

　白猫の真央はそんな日本を生きるひとりの少女である。