7 / 32
怒り荒れ狂う海の御手の中にある罪人達の悲劇
ラナが消えた船は、未だかつてない巨大な波に襲われていた。
突如として発生した大波に海兵達が波に船が飲み込まれないように動こうとするも、激しく揺れる足場から身動きが取れずにいる。
海兵達は波に攫われないよう船の帆柱に体をロープで固定させて、自分達の最悪の状況に怯え切っていた。
「あの人魚姫の呪いだ」
「俺達を海の底へ引き込んで、溺れさせようとしているんだ!」
「うぅっ……俺、聞いたことがあるぞ。海に属する者を傷つけた罪人は、海神様の怒りを買い天罰が下るって‼」
「そうだ。そうに違いない……あれを見てみろよ」
船の航海士である男が震える指を伸ばして示す。その指の先を辿ると、荒れ狂う波を受ける船の先にある晴天の空が見えていた。
自分達の海は荒れ狂っているというのに、少し先の海はとても穏やかで海鳥が気持ちよさそうに飛んでいるのだ。
「なにが、どうなっているんだ……」
そこへ、船内からふらつく足取りで王子が現れた。その隣には不気味に微笑む隣国の姫様が立っており、悲鳴を上げることなく荒れ狂う海を見つめている。
「お前達、なにをしているんだ!早く船を安全な場所へ………ラナはどこだ?」
「クスクス。人間の王子様は、気が多いんだねぇ」
王子の隣にいた隣国の姫クラリーナは、興味が失せたように王子から離れて船の先端へ歩きはじめた。
「ラナもなんでこんな人間の男に惚れ込んでしまったのか……。しかも、恨むことなく海に身を投げて、泡になることを望んじまうなんて理解に苦しむよ。アタイなら側室と言った瞬間に王子を蛸足で縛り付けて、海に引きずり込んでやっただろうねぇ」
「クラリーナ姫?」
隣国の姫君らしからぬ気品のかけらもない物言いのクラリーナ姫に、辺りにいた海兵達や王子が不審そうな眼差しで向ける。
「まぁ、お前のようなクズが人魚姫を誑かしたおかげで、ラナの可憐な声を手に入れたんだけどね。それも、ほんの数秒で海神に奪われちまったよ。強力な呪いまでいただいちまって最悪さ。今の声もそろそろ限界だね」
すると、姫の首元にかけられた大粒のガーネットが美しいネックレスがひとりでに砕け散り、姫の声が徐々に濁ったような声に変わっていく。
煌びやかな赤いドレスの中から這い出してきた紫がかった闇の蛸足で船の先端までくると、クラリーナ姫は振り返って優雅に令嬢の礼をとったのである。その瞬間に、船にいたすべての人間が絶望に染まった。
「クラーケンだ‼」
「隣国の姫が海の魔女だったのか!俺を騙したな‼卑しき蛸の魔物よ!俺のラナを返せ‼」
王子は怒りを露わにして叫ぶも、海の魔女クラーケンは気にした様子もなくケラケラと笑う。
「人間の王子様。あんたが目移りすることなく、ラナだけを見ていればよかったのにねぇ。あんたは私を船に招き入れ、ベッドに押し倒した瞬間から運命は決まっていたんだよ」
「……何を言っているんだ。俺は目移りなんてしていない。彼女を愛している」
「側室としてだろ? 聞いて呆れるね! そんな軽い愛で人魚姫を誑かしたお前が、海神様の怒りを買って当然だ」
海の全てを統べる神の逆鱗に触れた。それは、海の全ての生き物に敵だと認識されたにも等しいことだった。
船を激しく揺らす海から数えきれない赤い瞳が怪しく光り、王子や海兵達を見つめている。その視線は怒りと敵意に満ちており、王子達を睨みつけていた。
「あ、そうそう。ラナは泡になって消えていないよ」
「ラナは生きているのか! よかった……すぐに迎えに」
「今頃、海の支配する海神と、溺れるほどに甘い初夜を迎えているかもしれないねぇ」
「…………は?」
「ラナはもう、あんたの手が届かない海神の腕の中ってことさ。それから、この船が無事に陸へ着けると思わないことだね」
その言葉を最後に、海の魔女クラーケンは笑いながら船の先端から身を投げ、深い闇の海へ消えてしまう。そして、荒れ狂う海から一人、また一人と海に属する恐ろしい者達が姿を現し、船を囲みはじめる。
船の上で絶望する海兵達は自分達の死を覚悟する。しかし、王子は船橋へ向かい舵輪を両手に掴んで、舵を取りはじめた。
「ラナ。側室が嫌で海に身を投げるなんて……君がはじめてだ‼それだけ俺を愛していたということだよな?あははっ、面白い女じゃないか!
君は海のすべてを捨てて、俺を選んだ人魚姫だろ?だったら、最後まで俺のそばにいないとだめじゃないか?
君を奪った海神だったか。そいつを君の目の前で殺してやれば、気づいてくれるだろう。君を愛してやれるのは俺だけだとな」
王子様は初めて己の命をかけてまで愛した女を知った喜びと同時に、己の女を他の男に奪われた初めての屈辱と怒りに染まっていた。
「そうだ、ラナは俺の人魚姫だ。絶対に見つけ出して、城へ連れて行く。たとえ君が望んでいなくてもな‼」
そうして己の欲望を剥き出しにした王子は、激しく荒れた海からの波しぶきを受けながら舵を取るのだった…………
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」