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海神様の溺愛が重すぎて溺れそうです
私が泡になって消えそうな最悪のタイミングで前世を思い出し、海神様に救われて約一カ月が経った。深海の洞窟の先にある海神様の宮殿での生活は、思いのほか快適だ。
海神様の眷属らしい小さな小魚達が部屋を掃除してくれるし、敏腕執事セヴァンさんによるプロ並みの豪華でファンタスティックな食事までいただき至れり尽くせりだ。
しかも、前世の本好きである私の探求心を擽る海神様の書斎が最高だった。
書斎にある壁のような本棚には様々な国、種族の本が保管されていて、現代でいう国立図書館に近いと思う。前世も今世も読書が好きで、海神様も読書家だ。
最初は、海神様との番になるなんてロマンスファンタジーで本契約しちゃう?と思っていたわ。そう、最初はね……
「ラナ。次は何が読みたいですか?『海神と人魚の甘い恋物語』なんてどうです。それとも『人魚姫を海神の禁断の恋』なんてどうでしょうか。あ、私達の場合は既に番契約を結んでいますから、まったく問題ありませんよ」
執務室で本を読みにきた私を『ここが貴方の席です』と微笑んで、私を幼い頃と同じように膝に座らせて本を読み聞かせしてくれるの。
いや、最初は国宝級イケメンのケイ兄様の膝にお姫様抱っこされて、間近でイケボが聞けるなんて最高!麗しの海神様ケイ兄様しか勝たん! てドキドキメロメロだったんですよ。
毎日、素敵な海神様に溺愛されて幸せだと感じていた。
でも、食事中も手取り足取りで『はい。あーん』を朝昼晩の食事にされて、宮殿散策も迷子になってはいけないと絶対に付いてくるのよ。その私達を小魚達やセヴァンさんが生ぬるい表情で見守っているものだから、余計に恥ずかしくてたまらない。
一番恥ずかしいというか、耐えられないのが夜にケイ兄様と一緒に寝ることだ。
毎日欠かすことなく添い寝してくるケイ兄様の寝顔が麗しすぎて眠れないし、ケイ兄様の胸板が逞しすぎてドキドキして眠れない。
海の世界に住む海の獣人達は、基本的に男は上半身裸で、女はビキニのトップスみたいなものを着用してる。幼い人魚姫時代の私はそれが当たり前だと気にもしなかった。
だけど、大人になって、前世の一般的な露出に対する知識を持つ私にとっては刺激が強すぎる。
それに、正直に言ってケイ兄様の溺愛が重すぎて溺れそうです。
これはさすがに行きすぎなんじゃないかと思って、ケイ兄様に聞いてみたんだけど。
「ラナ。海の世界で番になった恋人達は、常に一緒に行動するものなのですよ」
「え? そうなの?」
「君は人間になっていたから、知らなかったようだね。大丈夫、これからは私が手取り足取り、番について教えてさしあげますよ」
確かに人間になっていた私は、もう海に帰ることはないと思って忘れてしまったこともあるし、大人になった人魚の常識とかさっぱりわからない。
ここは、その土地に入ったら、その土地の風習を尊重するべしという『郷に入って郷に従え』ということわざ通りに受け入れるべきだろう。寝不足だけど現状を受け入れるしかない。
でもその時、イケオジ執事のセヴァンさんが信じられないものを見たような表情でケイ兄様を凝視していたのよね。
(……まさか、……いいや! ケイ兄様が、空気を吸うように嘘をつくはずない。そうよ。ケイ兄様は腹黒海神様なんかじゃなくて、誠実で優しい海神様だもの。夢の中で、ケイ兄様がなにか物騒なことを言っていたような気がするけど、実際に物騒なことをするような御方じゃない)
だけど、目の前にある珊瑚の壁を見て、そのケイ兄様に対する信頼が揺らぎそうになっていた。
何故なら、宮殿の出入り口がたくさんの魔法でできた珊瑚で封鎖されていたのである。
(これは、監禁というものなんじゃないかな?宮殿に監禁状態⁉)
宮殿はどこかのお城みたいに広いし、朝昼晩食事つきのホテル並みの待遇だけど監禁に間違いない。
(ここは意地でも、外の海に出たくなってきたわ)
あれね。『押すなよ。絶対に押すなよ!』って言われたら、押したくなっちゃう心理。
ダメと言われれは、言われるほどにやりたくなるカリギュラ効果というものだろう。
それに、人魚としての本能なのか、それとも前世の探求心からくるものなのかわからない。ただ、広大な海を全力で泳ぎ回りたいと思う。
宮殿の外を禁じる珊瑚の壁をどうにか抜け出せないかとじっくり確認してみる。
そして、私は珊瑚と洞窟の隙間に私の体がギリギリ入れそうな空間を発見してしまった。本当に入れるか入れないかの微妙な空間だけど、頑張れば行ける‼
「これは、気分転換のお散歩よ。決して脱走じゃないわ」
そうして私は、洞窟の外にある海を目指して珊瑚の壁と洞窟の微妙な隙間に体をねじ込んで進みはじめるのだった。
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