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地下アクアリウムでカミングアウトする執事セヴァン
ワタクシメはオトヒメエビの獣人セヴァン。
代々、海を守る海神ケイアノス様の専属執事としてお仕えしております。
主に海神様の執務補佐から家事や料理、小魚従業員スケジュールの管理などをしておりまして大変充実した執事生活です。一昔前までは、妹的な存在だと思っておられた人魚のラナ姫様を、野蛮な人間の王子に奪われたと海神様が怒り狂われて本当に大変でした。
海神様の怒りと悲しみの感情が海の生き物達に感染して、毎日のように争いが絶えず。人魚帝国の女帝は、娘を人間に奪われた悲しみに耐えられず数年間近く寝込んでしまい、女帝の夫であられる海の精霊王が激怒して海は荒れに荒れ……まさに暗黒時代と言えるものでしたね。
その負の連鎖が続き満たされた闇の気が、海の悪しき魔物バクナワを呼び起こしてしまいましたが。海神様のストレス発散に利用させていただきましたよ。
日頃から、海神様の八つ当たりを受けていたワタクシメとしては大助かり……いいえ、悪しき魔物まで海のブラックホールにポイ捨てしてしまう主様を尊敬しております。はい。
しかしながら、このままでは海神様の怒りで海が崩壊してしまうと思いましてね。
ワタクシメが海神様に一言、アドバイスをしてみたのでございます。
「魔女の契約で死ぬかもしれないのなら、海神様の契約で死を回避させればいいのでは?」
その言葉を聞いた主様の瞳からポロリと鱗が落ちましてね。そこから、ラナ様奪還作戦が開始されたのでございます。
ラナ様と人間の王子がいい雰囲気になったところにウミドリを突撃させたり、ラナ様をベッドへ誘おうとした王子のズボンにカニを忍び込ませて、王子の大事な息げふんげふん……。
とまぁ、色々と妨害をしてまいりました。時にラナ様のお姉様達に手伝っていただき、ラナ様を説得していただいたのですが……。
純粋でお優しい箱入り人魚姫であるラナ様は、王子を信じ一途に愛しておられました。その結果が、隣国の人間の姫君との初夜ですよ。信じられません。
(ワタクシメ含め海の世界の獣人達、人魚帝国の女帝ですら、一人の異性と一生を添い遂げるというのに、けしからんことでございます!)
他の女性と初夜を迎えた王子様に絶望し、真実の愛を貰えなかったラナ様は、泡になって消えることに……ああ、お可哀そうに……
そこで我が主様が颯爽と現れ、ラナ様をお救いになったのです。計画通りに。
そして、無事に魔女との呪いを二重契約することで相殺させて、今に至るわけですが。
「ここだけの話。あの番契約……実は海神様と番とならなくてもできる契約だったのでございますーーーー‼ぶっちゃけて言えば、海神様の精気を与える方法もキスじゃなく、手を握っているだけでもできるのでございますーーーーー‼」
ラナ様は海神様を疑いもせずに『博識でお優しいライ兄様は嘘をつくはずがない』という混じり気のない純粋な瞳をされていて、海神様と共犯していたワタクシメとしては非常に申し訳なく胸を痛めております。
ですが、ラナ様と番契約を結ばれた主様は、あの荒れた暗黒時代が嘘のように穏やかに。口から砂が出てしまいそうなほどの溺愛海神様になられて反吐が……いいえ、主様の幸せはお仕えしているワタクシメの幸せでございます‼はい。
「あの暗い時代を考えれば、毎日数時間単位でラナ様の行動を報告することや、宮殿から脱走されたラナ様の行動確認。珊瑚の壁に付着したラナ様の鱗、ハニーピンクの髪の異同識別と照合解析。
それから、ラナ様をナンパしたサメ獣人の事情聴取&牢獄手続きとその報告書作成をワタクシメ一人でしなければならなかったことなど……いえ、決してオトヒメエビ使いが悪いとか、ワタクシメの休日はどこへ?など思っておりませんよ!ええ、愛する妻とデートができないからと、ボイコットなんて致しませんともーーー‼」
そうして日頃、海神様に言えない言葉をスッキリ言い終えたワタクシメは、宮殿にある地下アクアリウムにいる雑魚達に餌を与える。
陸の人間は谷間へ行って、穴を掘って誰にも言ってはならない秘密や愚痴などを叫んでスッキリするそうですね。ワタクシメの場合、この海神様が殆ど来ることがないアクアリウムなのです。
最近では、このアクアリウムでカミングアウトするのが日課になりつつあるなと思っていますと……
「あなた……」
「……おや!我が妻よ!会いに来てくれたのかい‼」
主様の命でラナ様の専属メイドを任された愛しの妻キキが隠し通路からやってきた。
オレンジの髪をツインテールに赤い瞳の妻は、海のアイドル美少女メイドに見えますが、本来の姿は海の美魔女であるクラーケンなのです。今は主様の呪いでメンダコの獣人になっていますが、可愛らしいワタクシメの妻に変わりありません。
ラナ様に詐欺まがいな契約を交わしたとして主様の怒りに触れたキキは、宮殿のこの地下よりも深い牢獄に入れられていました。ですが、ワタクシメの調教……いいえ、健全な再教育をしているうちに愛が芽生えてしまったのでございます。
ワタクシメの方へおずおずとやってきたワタクシメの愛らしい妻のスカートから見え隠れする小さなタコの足が可愛らしくて、可愛らしすぎて、食べちゃいたくなりますね。
その気を感じ取ったらしい妻が、ワタクシメから逃げようとする体をすかさず抱きあげた。久々に会えた妻はどこかオドオドしていて、首を傾げる。
「あ、あなた……これを、やるよ」
そして、メイド服の裏ポケットから銀色に輝く懐中時計を差し出した。妻の小さな手より大きい懐中時計は豪華な装飾と防水加工の魔法がかけられていて、人間の王族が持ち歩いているものだ。
「これをどこで?」
「海の底で拾ったんだよ」
「そうですか。まだ人間が落として日が浅いようですね。新品同然です。とても気に入りました!では、遠慮せずにいただきますね。大切に使わせていただきます」
「そ、そうかい……それは、よかったよ」
その妻はどこか不安気でソワソワしている。そして、今度はスカートの中から人間の執事が愛用しているようなネクタイピンや髪を整えるブラシを取り出しては、ワタクシメに貢ぐように捧げてきた。
「今日はワタクシメの誕生日じゃありませんよ?」
「そんな気分だったんだ!自分の旦那に、誕生日以外でプレゼントしちゃいけないのかい!」
「いいえ、そんなことはありませんよ。まるで、浮気をしている人間が罪悪感から配偶者によくプレゼントを贈るという人間心理学を思い出しましてね。
ワタクシメの愛する妻がそんな浮気をするはずないのですが、突然のサプライズプレゼントで驚きすぎて、変なことを考えてしまったようです。ふふふ、ワタクシメのために本当にありがとうございます」
「あ、あああアタイが!大好きで愛してやまないあなたを、さっささ差し置いて人間の王子を誘惑して浮気するわけないじゃないか‼海神様に誓って、陸の愛の女神様に誓って夫であるあなたを裏切ってなんかいないよ‼」
「……?ワタクシメ、王子とは一言も言っておりませんが」
「はわぅ!た、例えばの話しだよ‼アタイは、あなた一筋で!あなた以外に触れられたくないし、触れてもいない浮気しない海の魔女だよ‼」
「はい。ワタクシメも、あなただけですよ」
普段は素直じゃない妻の急なデレに胸を痛めたワタクシメは、可愛いらしい妻のおでこにキスを落とす。それに、ますます顔を赤くして茹でダコになる妻が愛しい。
「……王子に押し倒されて、添い寝されたけど」
「今、何か言いましたか?」
「何にも言っちゃいないよ‼それより今日は、あなたのそばに居たいんだけど……ダメかい……?」
「いいに決まっているじゃないですか!妻の願いはワタクシメの願いでもありますからね」
そうして夫婦仲良く、アクアリウムを眺める日常を大切にしたいと思うのだった。
「今日も、平和ですね」
「そっそうだね……あなた……」
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