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無防備なケイ兄様の唇をこっそり奪っちゃいました
しおりを挟むいつから私の部屋に忍び込んできたのだろう。
乙女ゲームの攻略してゲットできるスチルみたいなケイ兄様の拝みたくなるほどに美しい寝顔に目が釘付けになる。
しかも、少し離れていただけなのに、久々に再会したような感動と喜びが湧き上がってきた。その喜びにわんこみたいに人魚のしっぽをフリフリしてしまう。
(それに、ケイ兄様の無防備な寝顔を堪能するチャンスだ)
私はスマホがない代わりに脳裏に焼き付けてみせると、瞬きせずにケイ兄様をこれでもかとじっと見つめる。ケイ兄様の宮殿でも一緒に添い寝して貰ったりしていたはずなのに、今日は何故か胸がドキドキして離れがたく感じるのはなんでだろう?
(ケイ兄様を実の兄としてもっと好きになったからかな?それとも、泡になって消えるかもしれない危機的状況で現れたケイ兄様に吊り橋効果が……あぁ!そうだったわ!泡になって消えちゃうんだった‼)
私は慌ててケイ兄様の唇に唇を重ねた。
柔らかい唇の感触、そこからケイ兄様の精気が伝わってきて恐怖が徐々に薄らいでいく。
いつもならここで胸が温かくなって落ち着いていくはずなんだけど。その真逆に胸が高鳴って妙な欲まで沸いてきて、そんな自分に困惑する。
(ダメよ私!無防備に寝ているケイ兄様に、邪なことを考えるなんていけないことだわ)
自分の小悪魔な欲を払いのけるように首を横に振る。だけど、間近にあるケイ兄様の瑞々しくも魅惑的すぎる唇に押さえられないほどの欲が溢れて堪らなくなってしまった。
「もう一回くらい、してもいいよね。ケイ兄様はとってもお優しいから許してくれるはずよ……」
私は起きないことをいいことに、また眠っている完全無防備なケイ兄様にこっそりキスをする。冷たいのに温かく感じるケイ兄様の唇に夢中になってしまった私は、何度も何度も触れるだけのキスを落とした。
(このままずっと、キスしていたいな……。でも、これ以上してしまうと、ケイ兄様を雌豹の如く襲ってしまうかもしれない)
そんな私に、ケイ兄様が幻滅して愛想を尽かされるのはいやだ。なので、最後にもう一回だけキスして終わろうと思う。
そうして最後のキスとばかりに、ケイ兄様の唇にキスを落とす。その時、うっかりチュッというリップ音がついてしまった。その音にビックリした私は、慌ててケイ兄様から離れようと―――っ⁉
ケイ兄様の大きな手が私の顔を包み込んだかと思うと、大きく口を開けたケイ兄様に唇を奪われてしまった。今までのキスとは明らかに違い、まるで物理的に食べられてしまいそうなケイ兄様の深くて甘いキスに意識がふわふわしてきた。
獲物を捕らえたような瞳に私を映すケイ兄様は、とっても優艶で胸キュン通り越してキュン死寸前だ。
「私に可愛らしいキスをたくさんしてきたラナが悪いんですよ」
「ケイ兄様…………もう、息が……溺れちゃう……」
「ラナ……君の甘い唇をもっと味あわせてください……」
耳元でそう甘く囁かれ、またケイ兄様とキスをしようとしていると……
私のハニーピンクの髪から、ちょうど日本硬貨一円玉サイズの可愛らしいメンダコがプカプカと視界を通り過ぎていった。かと思うと、ケイ兄様の顔面に勢いよく激突する。
ミニミニサイズのメンダコなのに、突撃の威力は百倍だったのかケイ兄様が吹き飛び、壁際まで後退してしまった。
「アタイの前で、イチャイチャしてんじゃないよ根暗海神‼アタイは愛する旦那に会えずに、お花畑なおこちゃま人魚姫の護衛をさせられてストレスマックスだっていうのに……。あんまり調子乗ってると、アタイの呪いで××を××して××……」
小さなメンダコが徐々に大きくなっていき、元魔女であるメイドのキキが現れた。小さなタコ足を苛立たし気にバシバシ床を叩きつけブチギレしている。
途中からピーと効果音が必須の単語が聞こえたような気がしたけど。気のせいよね。そう首を傾げていると、ケイ兄様がそっと私の両耳を両手で塞いでしまった。
「ラナの前で卑猥な言葉は控えてください。それに、君は私の配下であることを忘れたのですか?」
「うるさいよ!さっさと帰んな‼」
そうしてキキが魔法の呪文を唱え、部屋の中央に紫色に輝く魔方陣を出現させた。
ケイ兄様は不満げな表情でキキを睨みつけながらも、その魔方陣に入り込んだ。そのケイ兄様の腕に私は抱きつく。私を置いて行こうとするケイ兄様を不安そうに見上げる。
「ラナ、そんな捨てられた子アザラシみたいな顔をしないでください。帰るのが辛くなります」
「私も一緒に帰っちゃダメなの?」
「うっ……そんな可愛い顔で見つめられると、このまま攫ってしまいたくなりますね」
望むところですと頷いて、ケイ兄様の胸に顔を摺り寄せる。すると、ケイ兄様の頬が赤くなり、苦しそうな顔で私を凝視してきた。このまま甘えてお持ち帰りされようとしていると、キキが定員オーバーだよと釘を刺される。
転送の魔法陣が一人だけなら仕方ない。だけど、寂しい気持ちでいっぱいになって俯いていると、ケイ兄様が私のおでこにおでこをくっ付けてきた。
「明日の舞踏会に、必ずラナを迎えにいきます」
「本当!」
「はい。人魚帝国の人魚姫に相応しい番として、貴方を迎えに行きますよ。楽しみにしていてくださいね」
その言葉を最後に、魔法陣の紫の光と共にケイ兄様は消えてしまった。
「相応しい番……?」
「覚悟しておいた方がいいよ。あの数万年引きこもっていた根暗海神の本気の本気。しかも、初恋だ。この海の歴史に残る、盛大な求婚になるだろうねぇ……」
「えっ?盛大な求婚ってどういうこと⁉魔女さん?」
「アタイは知らないよ。海の怪物に求愛されたことはあるけど、海の神様に愛されたことはないからねぇ」
他人事のように話すキキは、またミニミニサイズのメンダコに戻り私の髪の中へ戻ってしまったのだった。
「魔女さん⁉……あれ?いや、ちょっと待って。私の髪で蛸壺を作ろうとしてない⁉」
「気のせいだよ」
「絶対、気のせいじゃない‼」
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