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ケイ兄様の甘い不意打ち
「人魚帝国の美しき女帝様。このたびは女帝様の末娘でいらっしゃるラナ姫様と、ワタクシメの主様であり海を統べる海神であらせられるケイアノス様との番をご承諾くださりまして、誠にありがとうございます」
「承諾しておらん‼」
「本日は海も穏やかでお日柄もよく、結納の儀を執り行わせていただきます」
「勝手に進めるでない!この紅白オトヒメエビが‼それにこの不当な番契約書も無効だ‼ 私の目が海のように青いうちは、決して娘は渡さんぞ‼」
舞踏会に遅れて現れたケイ兄様の専属執事であるオトヒメエビの獣人セヴァンさん。
王座に座って私とケイ兄様が結んだ番契約書を見ながらブチギレしているお母様を気にせずに、私とケイ兄様の結納の儀を推し進めていく。
その背後では、結納品を一生懸命に運ぶイルカや精霊たち。その結納品のすべてがこの上なく貴重な品物ばかりだった。
海賊たちが夢見る金銀財宝は序の口で、海の秘宝とも呼ばれる若返りの黄金珊瑚や陸の魔法使いが喉から手が出るほど欲しているだろう賢者の石まで結納品として捧げられていく。
魔方陣から現れる秘宝の数々は、私が幼い頃にケイ兄様が趣味で集めていると見せてくれた洞窟の倉庫に保管されていた物ばかりで懐かしさを感じる。それと同時に、現代の私が「マーベラスでファンタジーすぎて辛い‼」と秘宝に大興奮してしまい、目をキラキラと輝かせてしまう。
「続きまして、こちらの結納品は魔力が凝縮されたブラックパールでございます。国の繁栄と守護・厄除けにもなる素晴らしい秘宝でございますぞ!数千年前にワタクシメの主様が討伐した、深海の巨大なホタテ貝の魔物から出てきた世界に一つしかない貴重な物でございます‼」
テレビショッピングの細やかで心遣いが神がかったお姉様達を降臨させたような敏腕執事のセヴァンさんに、尊敬の眼差しを送っている私は現在。
舞踏会の会場にケイ兄様が勝手に設けた、巨大なホタテ貝で作られた人魚をダメにするソファーにケイ兄様と座ってくつろいでいた。
たぶん、この大きな貝はセヴァンが話していた深海の巨大な貝の魔物だったものに違いない。そう討伐された貝に向けて手を合わせようとした私の目の前に、スプーンに乗せられた甘い苺のショートケーキが置かれる。
海の世界で苺のショートケーキ⁉と最初は驚いていたわ。でも海神の力をもってすれば、陸の食べ物でも海中で食べられちゃう仕様になっている。陸の本を防水魔法で保管しているケイ兄様だ。応用も可能だったんだろう。
純白のホイップクリームに大きな苺がトッピングされた、一口サイズのショートケーキが乗せられたスプーンを口に入れ込む。口の中に広がる苺の甘酸っぱさと、生クリームのほんのりした甘さに感動する。
「ラナ、クリームが口元に付いてますよ。私が取ってあげよう」
「え?ケイ兄様、ありがとうごっ……ひゃっ⁉」
幼い私にしていたように、指でクリームを拭ってくれる。と思っていた私の視界にケイ兄様の顔が近づいてきて、ぺろっと口元に付いていた生クリームを舐めとってしまった。思わず変な声を出してしまった私は、色んな意味で顔を赤くして胸がドキドキしてしまう。
「それに、今日の分のキスがまだでしたよね」
「えっ、そうだけど……こんなところで……」
「大丈夫です。セヴァンが結納品で視線を集めていますから」
「なら……」
誰も見てないよね?と辺りを見回すと、ソファーの背後からケイ兄様を見つめているお姉様達に気づく。しかも、今まで見たことがない完全無表情の真顔でだ。
「うちのラナに破廉恥なことをするなんて許すまじ。毒菓子を口に詰め込んでやろうかしら……」
「不誠実な人間の王子の次は根暗海神に拉致監禁されるなんて……。ラナちゃんに海神を呪うお人形を今すぐに作らないと‼」
「海神に接近禁止令の書類と拉致監禁による精神的苦痛に対するブツブツ……」
「ラナ……私が守ってあげないと……ぐすん」
お姉様達が急に私の腕を引っ張り、物凄い速さで舞踏会の会場から廊下へ連れ出されてしまった。そして、舞踏会ホールを出て珊瑚礁が美しい庭園にくると、四番目のモアニ姉様が敏腕弁護士のような表情で私にこう言い放ったのである。
「ラナ。落ち着いて聞くのよ。あの番契約書にあるキスは、海神の不当な契約なの」
「……へ?」
「海神の精気を受け入れるのにキスは必要ないってこと。手を繋ぐだけでも、小指一本握っているだけでもできちゃうってことよ」
「それって……ケイ兄様が、私を……」
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