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深淵の闇に溶けていく儚き泡(海神視点)
太陽の光が届かない深淵の奥深き闇の底は、冷ややかな暗黒に包まれていた。
視界に映るものはどこまでも闇が広がっていて、なんの音も聞こえない。重い闇が体に纏わりつき、より深い底へ落とされていく感覚に私は身を任せるしかない。
「ラナ……」
私の精気を与えなければ、彼女は泡になって消えてしまう。私は唯一無二の愛する番である彼女を守れず、こんな闇の中にいることに絶望を感じていた。
「泡になんてさせたくない……」
その望みが叶うことがないことを示すように、抗う私の体を無数の闇の鎖が強く締め付ける。そして、どこまでもどこまでも続く闇の底へ引きずり込まれていく。
徐々に視界が暗くなり、意識が保てないほどの眠気が波のように押し寄せ……
「……さま……!……ケイ兄様………‼」
そこへ、微かに私の求めていた声が頭上から聞こえてきた。
最初は私の願望が聞かせた声かと己の耳を疑っていたが。その愛らしい声がすぐそこまで聞こえて、私は勢いよく顔を上げる。
「見つけた!ケイ兄様」
私の顔すれすれに顔を寄せて人懐っこい微笑みを向けるラナの姿に、瞳から涙が溢れていく。その溢れた涙をすくうようにキスを落としてきたラナは、どこか寂しそうな瞳で見つめている。
「ケイ兄様……私ね。やっと気づいたの……」
「ラナ……?……っ!」
暗闇の中でほんのりと虹色の光を放つ水晶玉を抱えるラナの体が小さな泡に変わり、深淵の闇に溶けようとしていた。私はすぐさま彼女を抱き寄せて精気を分け与えようとするが、何故か彼女を抱き寄せることができない。
「ラナ……そんな……」
彼女の色鮮やかな青い鱗に覆われた人魚の尾びれも、片腕さえ闇に浸食されていた。その瞬間、今までにない絶望と深い悲しみが押し寄せてうまく息ができなくなる。
「私、ケイ兄様が好き……気づくのが遅れちゃったけど。ケイ兄様のこと……ケイアノスのことを愛してるって気づいたの」
そう儚いほど小さな声で私に囁くと、今度は持っていた水晶球を私の胸に押し付けた。
「ケイ兄様。今まで私にいっぱいキスしてくれて、ずっとそばにいてくれてありがとう」
「ラナ……そんな、お別れするようなことを……言わないでください……」
私のおでことおでこを重ねて泣き笑いすると、ラナはそっと私の唇に唇を重ねた。
「私を愛してくれて……ありがとう」
その言葉と共に、ラナの体は泡となって深淵の闇に溶けていった。
一瞬にして私の愛する番を失ってしまった絶望に、身も心も混沌の闇へ落ちていく。
「ラナの居ない世界で、私が生きられると思うなんて……あんまりじゃないですか……」
自分の胸元で虹色に輝く水晶玉が、私を深淵の闇から救いあげるように光で包み込もうとしている。それを拒むように、私は水晶球を掴み粉々に砕け散らせた。
「私は貴方の唯一無二の番なのです。貴方を一人で逝かせはしません」
そうして三叉槍で己の心臓を突き刺そうと……
泡になって深淵の闇に溶けたはずの小さな泡が浮かび上がり、強い虹の光を放ちながら目の前に集まりはじめた。その光の泡が一つの大きな光の玉になったかと思うと、徐々に形が変化していき……
「……ラナ?」
黄金に輝く光の粒子を放ち、ハニーピンクの艶やかな髪を靡かせ現れたラナはこの世の者とは思えない美しい姿に変っていた。
白い肌は暗闇を照らす銀色の光を放ち、彼女の二本の足を包み込む銀色の鱗に覆われている。私と対へと生まれ変わったラナにそっと手を伸ばす。
穏やかに瞳を閉じていた彼女に頬に触れると、スッと瞳を開ける。私を映す碧眼はそのままに、小さな星屑のような光を放つ瞳に心を奪われる。だが、急に瞳を大きく開けたラナが素っ頓狂な声を上げた。
「ふぁい⁉あ、あれ?……なんで、私……生きてるの⁉」
「私の知っているラナのようでホッとしました」
「え?どういうこと⁉」
戸惑う彼女のおでこにキスを落として、状況が掴めていない彼女に優しく囁く。
「私達は真実の愛で結ばれたのです」
その言葉で理解した彼女の瞳から大粒の涙が溢れだし、私をぎゅうぎゅうに抱き寄せてきた。
「ケイ兄様……いいや、ケイアノス!貴方は私の唯一無二の番よ!だから、一生幸せにしてあげるわ‼」
「ははっ……では、私もラナを一生幸せにしてさしあげますね」
そうして私達は互いを見つめて幸せそうに微笑み、互いの唇に唇を重ねるのだった。
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