日英同盟不滅なり

竹本田重朗

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第4話 ブレイクスルー

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革新とは意外なところからやってくる。



「残念ながら、イギリスはロールスロイス社の液冷V型12気筒の新型エンジンの供給を渋ったが、ネイピア社と技術連携により、新たに液冷H型の新型エンジンに活路を見出した。今度の重戦闘機はこれでいく!」



「今度の競合に間に合わないことはよろしいので?」



「軽戦闘機も重戦闘機も中島が持っていくことで決まっている。出来レースだ」



「なるほど。不服ですが一か八かで決めてやる」



「そうだ。川崎は液冷の重戦闘機で勝負するぞ」



 日英同盟は産業面でも相互の発展に寄与した。日本はイギリスから色々と輸入して基礎的な工業力の向上に努める。産業革命の国だけはあった。効率化をよく考えて見習うべき点は数多も存在する。基礎的な工業力を身に着けると同時に技術を吸収して独自の改良に精を出した。ただ真似るだけでは何も生まれないが真似から始まることもあろう。アメリカの妨害を避けるべく、イギリスの商社を経由して誤魔化しながら、最新鋭の導入を急いでいた。



 彼らがここまで急ぐ理由は国際情勢の加速が一番である。ナチス・ドイツは拡張を続けて領土的野心を滾らせた。チェコ・スロヴァキアとオーストリアはいつ飲み込まれてもおかしくない。さらに、ポーランドもだと言わんばかりだ。イギリスはフランスと連名で独立保障をちらつかせる。アドルフ・ヒトラーは強かな政治家で意に介していなかった。



 日本は蚊帳の外で対岸の火事でもない。ソビエト連邦の存在が厄介だった。ソビエト連邦はナチス・ドイツと衝突すると思いきやで急接近を始める。イギリス諜報員の報告ではドイツ製戦車がソ連領で試験を実施と聞いた。ソ連はヨーロッパをナチス・ドイツに譲る代わりに極東に攻め込んでくる。



 つまり、イギリスはドイツ、日本はソ連、日英同盟は独ソ連携と敵対した。これで関係を深めないわけにいかない。アメリカの反発を無視して軍事的にして多方面の交換を強化した。その一環が爆発的な成長を見せる航空機分野である。日本は大きく後れを取っていた。彼らは「欧米諸国に追いつき追い越せ」をスローガンに努力を重ねる。



「イギリス政府から厄介払いの扱いで来日する。海軍担当の愛知に負けてはならん。彼らはアツタを開発したが馬力が足りん。まだ勝機は残っているぞ」



「やりましょうか。液冷は川崎を確立せねば寝れません」



「よし、いっちょ、やったるか」



「神奈川が愛知に負けてはなぁ」



「ネイピア社が来日する前には土台を整える。すまないが、よろしく頼んだ」



 イギリスからの臨時便が到着する。表向きはドイツを中心にヨーロッパから逃れるユダヤ人の疎開だ。かのアインシュタイン教授もベルギーを脱出している。イギリス経由で日本に物理学の学術講演を建前に疎開してきた。その中に技術者と工作機械、試作品が紛れても気づけない。



 ネイピア社の技術陣が来日を果たした。川崎重工業と共同研究を予定する。嘗ては航空機用エンジンで席巻して前大戦の勝利に多大な貢献を見せた。自動車や船舶用エンジンと幅広く活動する。最近は競合他社の躍進に押されて起死回生と軍用機向けに小型で大馬力の液冷エンジンを開発した。あまりにも時期が悪い。同時期にはロールスロイス社からマーリンが登場して直ぐに次期主力戦闘機に採用を得た。もはや、ネイピア社に勝ち目はないのである。イギリス政府が負い目を感じているのかわからないが、日本で再起を目指せと言うことなのか、川崎重工業と共同の研究と開発を実施した。



「ようこそ、川崎へ」



「よろしくお願いいたします」



「我々と最高のエンジンを作りましょう」



「ネイピアでは実現できなかった。しかし、カワサキならできる」



 イギリスから遠路はるばるとフランク・ハルフォード技師がやってくる。いくつか航空機用エンジンを開発しては採用された確固たる実績を有した。先鋭的な思想の持ち主である。1928年からネイピア社と協力してきた。同社の体制では不可能と川崎重工業へ派遣されることを快諾してくれる。ネイピア社の低迷は紳士らしからぬ非合理的な体制によることを指摘できた。しかし、川崎重工業は国策の一環でマンモスの如きメーカーと君臨する。大企業の中では柔軟性の持ち主だった。液冷エンジンやジェットエンジンも歓迎と手広く構えている。



「ハルフォード技師」



「ハルフォードで構いませんよ」



「ありがとう。ハルフォードさん。せっかく来てもらってで申し訳ないが、我々は打倒ロールスロイス、打倒ダイムラーベンツ、打倒ヨーロッパを掲げている」



「理解しています。私はヨーロッパの人間ではありません。私はエンジンの人間です」



「素晴らしい。あなたとは気が合いそうだ」



 日本のエンジン開発はイギリスを経由して各国製品を入手した。まずは模倣の研究から始まる。現在は空冷を中心に供給元は中島と三菱が大半を占めた。日立や瓦斯電など他社も努力を重ねる。1000馬力級の壁を突破して1500馬力と2000馬力を目指しているところだ。液冷に関しては川崎重工業と愛知航空機が陸軍担当と海軍担当で分かれる。ダイムラーベンツやロールスロイス、イスパノなど各社を研究した。空冷に比べると規模は小さい。ロールスロイス社マーリンの導入を英国政府に打診していた。



 そのような中でネイピア社の新型に活路を見出す。液冷はV型12気筒が多い中で異端児たるH型の24気筒や36気筒を提案してきた。なかなかの冒険である。ハルフォード技師も独自の設計を持ち出した。軍用機に採用は相当の難易度と見積もられる。しかし、これが実現できれば他国製品を突き飛ばすことができ、理論値ではあるが2000馬力は確実で3000馬力も夢でなかった。川崎重工業は大馬力の液冷エンジンに独自の機体設計を組み合わせる。彼らは高速で重武装の重戦闘機を志向して陸軍の説得に成功していた。次期主力戦闘機には間に合わないと言うべきか、中島の軽戦闘機と重戦闘機の二種で決定的だが、対地攻撃機や高高度迎撃機などニッチなところを狙う。



「ご存知の通りとは思います。我々ひいては大日本帝国の敵はソビエト連邦とナチス・ドイツに定まりました。そして、ライバルはアメリカ合衆国です」



「はい」



「ソ連を敵と見た場合で動いておりますが」



「アメリカも射程に収めたい」



「おっしゃる通りです。ただソ連、ただドイツ、勝つだけはいけない。アメリカにも勝たなければならない。もっといえば世界を出し抜かなければならない。川崎重工業が生き残るためにも」



「レイピア社の連中に聞かせたいことです。私も紅茶を投げ捨てる野蛮人に勝ちたい」



「ここだけの話ですが、大陸を横断し、太平洋を横断し、地球上の全てと往復することができる。そんな超大型爆撃機の計画もありました。どうか、ハルフォードさんのお知恵を借りたい」



 日英連合はドイツとソ連を仮想敵国と定めたがライバルにアメリカを置いた。前大戦が終結した後の交渉では日英同盟解消の工作を仕掛けられる。それ以来は快く思えなかった。世界恐慌の際も自由な経済から締め出してくるなど反りが合わない。イギリスとは仲良しと思いきや案外そうでもないようだ。主たる標的はユーラシア大陸のドイツとソ連だが、ゆくゆくは太平洋を挟んだ先のアメリカも射程に収め、大義のある今のうちに進めていきたい。今ならば先端技術を掠め取ることができた。



「最も早く飛べるから最も遠く飛べるですか。面白い。やりましょう」



 日本の航空機の歴史に新たな道が生まれる。



続く
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