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すれちがい(東弥side)
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朝、通知音に起こされてスマホを確認すると、ラインのメッセージが5件も入っていた。
同じサークルの友人、谷津からだ。
内容を要約すると、“今日の練習試合でペアの子が来れなくなったから代わりに来て欲しい”、というもの。
春休みに入ってからは全ての予定を断っていたが、谷津には多少恩があり、さらに頼られる機会も少ないので断りにくい。
__でも、静留が心配だし…。
とりあえず、考えてみる、と返信し、梨花に相談しようと階段を降りる。
彼女はいつも朝早くに来て東弥が起きる前には帰っていくが、今日はまだ7時半。梨花の予定を狂わせる可能性があるからできれば直接相談したい。
リビングへ行くと、ちょうど梨花が帰る支度をしているところだった。
静留はいつもと同じようにピアノを弾いている。
「あの、梨花さん。」
「なんですか?」
声をかけると、少し驚いたような顔をして梨花が振り返った。
「午後から約束ができてしまって、夜遅くまで出ることになってしまって…。 」
「大丈夫ですよ。真鍋先生がいたときは、いつも朝晩来てましたから。」
「すみません…。」
「いいんですよ。あっ、そういえば、新学期が始まったら東弥さんはどうするんですか。」
謝ると、彼女は屈託なく笑み、そしてふと思い出したように東弥に問いかけた。
__そっか、あと2週間くらいで大学が始まるのか…。
そのことを唐突に思い出し、東弥は考えを巡らせる。
現在東弥は大学近くのアパートを借りているが、この生活を続けるならばいっそここに引っ越すのもありだろうか。
そうすれば今と同じように朝と夜は静留と過ごすことができる。バイトのシフトはあまり遅くならないようにしてもらって。
しかしそこまで考えて、本当にそれは静留のためなのだろうかと考え直す。
静留は未だに“西くん”、と呼ぶときに言葉に詰まることがあるのだ。本当は東弥と西弥が違うという事実に苦しんでいるのかもしれない。
それに、西弥の代わりにそばにいると言いながら東弥は、恋愛感情や第2性的な庇護欲など、個人的な感情を彼に対して抱いている。
今は堪えているが、もしも彼に手を出してしまったら…。そう考えると、一緒に住むなどありえない。
「土日や授業が早く終わる日に、夜はここに来ます。平日は自宅から通おうかと…。」
そう言った瞬間、綺麗系の曲を奏でていた静留がいきなりフォルテッシモの音を出し、そのまま弾く手を止めた。
「和泉くん、どうした?」
「…あっ…、ゆび、すべらせて…。つめ、伸びてるのかも…。切ってくる。」
心配して梨花が問うと、静留は明らかに動揺した様子でピアノの椅子を降りた。そしてどこかへ駆けて行ってしまう。
少し様子がおかしく思えるのは、気のせいだろうか。
「すみません、話を逸らしてしまって。そうですか。学生ですしね…。」
「はい。」
梨花が話を戻し、東弥はただそれに頷いた。
「じゃあ私、そろそろ…。」
「ああ、引き止めてすみません。行ってらっしゃい、梨花さん。」
「いっ、行ってきますっ…!!」
よっぽど急いでいたのか、梨花は東弥が行ってらっしゃいと言うと逃げるように行ってしまった。
その後、東弥は静留と朝食をとっている間に谷津に承諾の返信をした。
そして、
「西くん、きをつけていってきてね!」
行く前に静留がそう言いながら玄関先で抱きついてきたのを、軽く抱きしめて。
「行ってきます。」
このまま離したくない衝動を抑えながら、家を後にしたのだった。
同じサークルの友人、谷津からだ。
内容を要約すると、“今日の練習試合でペアの子が来れなくなったから代わりに来て欲しい”、というもの。
春休みに入ってからは全ての予定を断っていたが、谷津には多少恩があり、さらに頼られる機会も少ないので断りにくい。
__でも、静留が心配だし…。
とりあえず、考えてみる、と返信し、梨花に相談しようと階段を降りる。
彼女はいつも朝早くに来て東弥が起きる前には帰っていくが、今日はまだ7時半。梨花の予定を狂わせる可能性があるからできれば直接相談したい。
リビングへ行くと、ちょうど梨花が帰る支度をしているところだった。
静留はいつもと同じようにピアノを弾いている。
「あの、梨花さん。」
「なんですか?」
声をかけると、少し驚いたような顔をして梨花が振り返った。
「午後から約束ができてしまって、夜遅くまで出ることになってしまって…。 」
「大丈夫ですよ。真鍋先生がいたときは、いつも朝晩来てましたから。」
「すみません…。」
「いいんですよ。あっ、そういえば、新学期が始まったら東弥さんはどうするんですか。」
謝ると、彼女は屈託なく笑み、そしてふと思い出したように東弥に問いかけた。
__そっか、あと2週間くらいで大学が始まるのか…。
そのことを唐突に思い出し、東弥は考えを巡らせる。
現在東弥は大学近くのアパートを借りているが、この生活を続けるならばいっそここに引っ越すのもありだろうか。
そうすれば今と同じように朝と夜は静留と過ごすことができる。バイトのシフトはあまり遅くならないようにしてもらって。
しかしそこまで考えて、本当にそれは静留のためなのだろうかと考え直す。
静留は未だに“西くん”、と呼ぶときに言葉に詰まることがあるのだ。本当は東弥と西弥が違うという事実に苦しんでいるのかもしれない。
それに、西弥の代わりにそばにいると言いながら東弥は、恋愛感情や第2性的な庇護欲など、個人的な感情を彼に対して抱いている。
今は堪えているが、もしも彼に手を出してしまったら…。そう考えると、一緒に住むなどありえない。
「土日や授業が早く終わる日に、夜はここに来ます。平日は自宅から通おうかと…。」
そう言った瞬間、綺麗系の曲を奏でていた静留がいきなりフォルテッシモの音を出し、そのまま弾く手を止めた。
「和泉くん、どうした?」
「…あっ…、ゆび、すべらせて…。つめ、伸びてるのかも…。切ってくる。」
心配して梨花が問うと、静留は明らかに動揺した様子でピアノの椅子を降りた。そしてどこかへ駆けて行ってしまう。
少し様子がおかしく思えるのは、気のせいだろうか。
「すみません、話を逸らしてしまって。そうですか。学生ですしね…。」
「はい。」
梨花が話を戻し、東弥はただそれに頷いた。
「じゃあ私、そろそろ…。」
「ああ、引き止めてすみません。行ってらっしゃい、梨花さん。」
「いっ、行ってきますっ…!!」
よっぽど急いでいたのか、梨花は東弥が行ってらっしゃいと言うと逃げるように行ってしまった。
その後、東弥は静留と朝食をとっている間に谷津に承諾の返信をした。
そして、
「西くん、きをつけていってきてね!」
行く前に静留がそう言いながら玄関先で抱きついてきたのを、軽く抱きしめて。
「行ってきます。」
このまま離したくない衝動を抑えながら、家を後にしたのだった。
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