朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花

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第二部

※温泉旅行※②(東弥side)

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「東弥さん、あれ、海!?」

車の中、隣の席で興奮した声を上げる静留が可愛くて思わず抱きしめたくなったが、今は運転中だ。

遠出はしたことがなかったようで、静留は家を出てからずっと、キョロキョロとせわしなく辺りを見回している。

ちらりと横に目をやると、確かに向こう側に海が広がっていた。

「海だね。」

「…すごい、きれい…。」

静留がうっとりとした様子で答える。

黒い瞳が光を乱反射してオニキスのような輝きを見せていて、うっかりすると見惚れて事故を起こしてしまいそうなほど美しい。

もちろん静留に怪我をさせるなどあり得ないからそんなヘマは踏まないけれど。

「…もしかして初めて見た?」

あまりに静留の反応が新鮮だったので気になって聞いてみる。

「うん。ほんとうのは、はじめて!」

すると静留はもともと高い声のトーンをさらに上げて楽しげに足をばたつかせた。

__かわいい…。

そういえばこの辺に料金所があったなと、東弥はそんなことを考える。

以前サークルの旅行で同じ道を運転した時は通り過ぎたが、確か誰かが、そこで降りて海に行きたいと騒いでいた。

「静留、すこしだけ寄って行こうか。」

尋ねると、華奢な肩がぴくりと跳ねた。

「えっ、いいの!?」

「うん。時期的に泳げはしないけど、多分人も少ないし、浅瀬で足を浸すくらいならできると思うよ。」

「いきたい!」

向日葵のようにぱっと笑んで、静留がこちらを覗く。

ミラー越しにそれを見つめ撫でてやれば、彼はくすぐったそうに目を細めて。

「東弥さん、だいすき。」

と、無邪気に囀った。

__不意打ち、やばい…。

「俺も大好きだよ、静留。」

声が上擦らないように気をつけながら囁くと、静留は白い頬を薄紅に染めて俯く。

__静留がこちらをむきませんように。

心の中で願った。

今こちらを静留が向けば、自分も頬が赤くなっているのに、もしかしたら気づかれてしまうかもしれないから。






手を繋いで波打ち際まで行くと、静留は眩しそうにどこまでも続く水面を眺めた。

「きれい…。」

ため息混じりの澄んだ声が彼の感動を表している。

静留の初めてをもらえたことが嬉しくて、東弥は目を細め静留の横顔を仰いだ。

長い髪を一つにまとめたので普段隠れている美しい輪郭が露わになり、その横顔はひどく色っぽい。

「東弥さん…?」

見惚れていると静留がこちらを向き、大きな瞳をぱちぱちと瞬かせながらあどけなく首を傾げた。

「ごめん、静留がとても綺麗だったからつい。」

「!?」

いつのまにか静留の頬が林檎色に染まっている。日差しがすこし熱かっただろうか。

「それよりもう少し中に行こうか。」

「う、うん!」

互いに靴を脱ぎゆっくりと歩みを進めると、冷えた水が心地いい。

静留は“つめたい”、と言いながらも、楽しそうにぱしゃぱしゃと水面を蹴っていて、あまりの微笑ましさに口元が綻んでしまう。

「あっ、おさかな。」

彼がぱっと表情を輝かせて、指差す方を見ると確かに小さな魚が泳いでいた。

東弥たちが立っているよりももう少し深いところだ。

「本当だ。あっちにもいるね。」

「いち、に、さん…たくさんいるね!水槽以外でおよいでるの、はじめてみ…わっ!!」

静留が驚いた声を上げるとともに“ばちゃん”、と大きな音がして、静留と、繋いでいた方の手に大きな負荷がかかる。

魚を目で追うのに夢中で波に足を取られてしまったらしい。

「うぅ…つめたい…。」

泣きそうな声で呟きながら起き上がった静留を見て、東弥はうっと言葉に詰まった。

びしょ濡れの状態で、シャツが身体に張りついていて肌色や薄ピンクの突起が透けている。

そのうえ涙目で見つめられては変な気を起こさないほうがおかしい。

「東弥さん…?」

小首を傾げながらあどけなく問いかけてくるこの殺傷力も、今だけは本当に洒落にならなかった。

“流石にもう泳げねーよなー。”
“そもそも水着じゃねーだろ!お前!!”
“あはは、◯◯くん落ち着いてー!思い出作りに貝殻拾うだけだからー!”

向こう側から声が聞こえてきて、はっとする。

今ここには東弥と静留しかいないが、誰かが来て今の静留の状態を見られるのはとてもまずい。

「静留、車で着替えよう。あと、これ着て。」

静留に自分の着ていたジャケットを着せ、靴を履かせ、急いで手を引き駐車場へと戻った。
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