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第二部
お掃除のある日(静留side)
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ピアノを弾いている最中に突然聞こえた大きな何かが落ちる音に、静留はぴくりと肩を震わせ、同時に大きな不安を覚えた。
音は東弥のいる二階からだ。
昨日から“静留はピアノを弾いていて”、と静留に言ったきり彼は家の中でいろいろ忙しそうにしているが、彼が何をしているのか静留にはわからない。
もしかしたらとても危ないことをしているのではないだろうか。
「また、あとでね。」
ピアノに別れを告げ、急いで階段を上がる。
慌てて東弥の部屋のドアを開けると、ドアの音に振り返った彼が驚いた表情を浮かべ静留の方へと歩いてきた。
「どうしたの?静留。何かあった?」
「あのっ…、ねっ…、にかいからっ…、おっきな音っ、したっ、からっ…。」
「それで心配してきてくれたの?」
こくりと静留が頷けば、彼は愛しいと言わんばかりに優しく目を細め、静留の身体を前からぎゅっと抱きしめる。
「??」
「驚かせてごめんね。でも心配してきてくれるなんて、本当に嬉しい。ありがとう。」
「!!」
たくましい温もりと耳元で囁かれた低く優しい声音に、静留の心臓はとくんと跳ねた。
そのままミルクチョコレートのように甘い口づけを落とされた瞬間、優しくglareを放っているダークブラウンの瞳が睫毛が触れそうなほど近く映し出され、静留はぴたりと固まる。
__格好いいの、ずるい…。
今静留の顔はきっと真っ赤で、それに混乱しているから言葉が思い浮かばない。
どうしていいのかわからず腕の中で視線をふわふわと泳がせていると、向こう側の床に楽譜や本などがたくさん落ちていることに気がついた。
「…た、たくさんゆかに落ちてるの、どうして…?」
東弥の腕の中は大好きだが、この不意打ちはどきどきしすぎて静留の身体がおかしくなってしまうから、話を逸らそうと床を指差しなんとか紡ぐ。
東弥は物足りないとでも言うようにもう一度静留の額に唇を重ねてから、やっと静留の身体を解放し、静留の指差す方に目を向けた。
「…ああ、これ。年末だからこの棚を掃除しようと思って埃を払ってたんだけど、物が散らばっちゃって。」
__そうか。だからおおきな音…。
状況を理解した静留はこんなにたくさんのものが上から落ちてきただなんて彼は大丈夫だろうかと不安になる。
「えっと、…東弥さん、けがしてない…?」
「うん、俺は大丈夫。でも危ないから静留はこっちにいて。」
「!?」
言いながら、東弥が静留の脇の下に手を入れ身体をひょいと持ち上げた。
せっかく少しおさまりかけていた心臓がまた煩く鳴り出す。
今はアレグレットのその速さも、いつかはアレグロになってしまうのではないだろうか。
そうしたら自分はどうなってしまうのだろうか。
そもそもどうして突然抱き上げられたのだろうか。
いろいろな疑問で頭がぐちゃぐちゃになっている静留に対して東弥は至って冷静で、そのまま静留のことを優しくベッドに下ろすと静留の頭を軽く撫でてまた片付けに戻ってしまった。
静留はヘッドボードから東弥の片付ける姿をじっと覗く。
東弥と比べると背の低い静留はあそこまで手が届かないし、真剣に楽譜や本、ファイルなどを整理している横顔は格好いい。
つい見惚れていると、開いた窓から吹き込んだ風に揺られ、ふぁさ、と静留の方へ一枚の紙が降ってきた。
「ごめん、そっちに何か飛んでっちゃった。」
「えっとね、これ。」
ベッドの上に落ちたその紙を拾い東弥に手渡す。
「ありがと…静留、これ静留の写真?」
彼に尋ねられもう一度その紙を見れば、確かにランドセルを背負った静留の写真が映されていた。
「うん。」
確か授業参観の時に西弥が撮ってくれた写真だった気がする。
小学校最後の授業参観は合唱の授業で、静留がそこで伴奏を任されていたので西弥が見に来てくれたのだ。
「…静留、こっち向いて。」
「…?」
「怖い人に連れ去られたこととか、ない?」
「うん。ないよ…?」
東弥が何か深刻な表情でこちらをのぞいている。
そのまま解けてもいないリボンを丁寧に結び直され、その理由がわからない静留は大きく首を傾げた。
さらに今度は東弥の膝の上に乗せられ背中から強く抱きしめられる。
「???」
「…小学校の頃の静留も見たかった…。こんなに可愛いだなんて…。」
かわいい、と掠れた低い声で囁くのは反則だと思った。また身体が熱い。
しかしそれと同時にそれは小学生の静留に向けられた言葉で、決して今の静留に向けられたものではないのだということもちゃんとわかっている。
「…おおきくて、ごめんなさい…。」
言いながら、静留の視界は少しぼやけた。
くるりと反転され、今度は前から抱きしめられる。
「ごめん、さっきの言い方はずるかったね。俺の知っている今の静留が一番大好きで、大切で、愛しているよ。」
彼の言葉は甘く、静留の身体を翻弄するのに充分で。
節ばった大きな手が静留の髪を宝物を扱うように優しく梳いて片耳にかける、その行為にすらどきどきして、静留は煩悩を払うようにぎゅっと両方の目を瞑ったのだった。
音は東弥のいる二階からだ。
昨日から“静留はピアノを弾いていて”、と静留に言ったきり彼は家の中でいろいろ忙しそうにしているが、彼が何をしているのか静留にはわからない。
もしかしたらとても危ないことをしているのではないだろうか。
「また、あとでね。」
ピアノに別れを告げ、急いで階段を上がる。
慌てて東弥の部屋のドアを開けると、ドアの音に振り返った彼が驚いた表情を浮かべ静留の方へと歩いてきた。
「どうしたの?静留。何かあった?」
「あのっ…、ねっ…、にかいからっ…、おっきな音っ、したっ、からっ…。」
「それで心配してきてくれたの?」
こくりと静留が頷けば、彼は愛しいと言わんばかりに優しく目を細め、静留の身体を前からぎゅっと抱きしめる。
「??」
「驚かせてごめんね。でも心配してきてくれるなんて、本当に嬉しい。ありがとう。」
「!!」
たくましい温もりと耳元で囁かれた低く優しい声音に、静留の心臓はとくんと跳ねた。
そのままミルクチョコレートのように甘い口づけを落とされた瞬間、優しくglareを放っているダークブラウンの瞳が睫毛が触れそうなほど近く映し出され、静留はぴたりと固まる。
__格好いいの、ずるい…。
今静留の顔はきっと真っ赤で、それに混乱しているから言葉が思い浮かばない。
どうしていいのかわからず腕の中で視線をふわふわと泳がせていると、向こう側の床に楽譜や本などがたくさん落ちていることに気がついた。
「…た、たくさんゆかに落ちてるの、どうして…?」
東弥の腕の中は大好きだが、この不意打ちはどきどきしすぎて静留の身体がおかしくなってしまうから、話を逸らそうと床を指差しなんとか紡ぐ。
東弥は物足りないとでも言うようにもう一度静留の額に唇を重ねてから、やっと静留の身体を解放し、静留の指差す方に目を向けた。
「…ああ、これ。年末だからこの棚を掃除しようと思って埃を払ってたんだけど、物が散らばっちゃって。」
__そうか。だからおおきな音…。
状況を理解した静留はこんなにたくさんのものが上から落ちてきただなんて彼は大丈夫だろうかと不安になる。
「えっと、…東弥さん、けがしてない…?」
「うん、俺は大丈夫。でも危ないから静留はこっちにいて。」
「!?」
言いながら、東弥が静留の脇の下に手を入れ身体をひょいと持ち上げた。
せっかく少しおさまりかけていた心臓がまた煩く鳴り出す。
今はアレグレットのその速さも、いつかはアレグロになってしまうのではないだろうか。
そうしたら自分はどうなってしまうのだろうか。
そもそもどうして突然抱き上げられたのだろうか。
いろいろな疑問で頭がぐちゃぐちゃになっている静留に対して東弥は至って冷静で、そのまま静留のことを優しくベッドに下ろすと静留の頭を軽く撫でてまた片付けに戻ってしまった。
静留はヘッドボードから東弥の片付ける姿をじっと覗く。
東弥と比べると背の低い静留はあそこまで手が届かないし、真剣に楽譜や本、ファイルなどを整理している横顔は格好いい。
つい見惚れていると、開いた窓から吹き込んだ風に揺られ、ふぁさ、と静留の方へ一枚の紙が降ってきた。
「ごめん、そっちに何か飛んでっちゃった。」
「えっとね、これ。」
ベッドの上に落ちたその紙を拾い東弥に手渡す。
「ありがと…静留、これ静留の写真?」
彼に尋ねられもう一度その紙を見れば、確かにランドセルを背負った静留の写真が映されていた。
「うん。」
確か授業参観の時に西弥が撮ってくれた写真だった気がする。
小学校最後の授業参観は合唱の授業で、静留がそこで伴奏を任されていたので西弥が見に来てくれたのだ。
「…静留、こっち向いて。」
「…?」
「怖い人に連れ去られたこととか、ない?」
「うん。ないよ…?」
東弥が何か深刻な表情でこちらをのぞいている。
そのまま解けてもいないリボンを丁寧に結び直され、その理由がわからない静留は大きく首を傾げた。
さらに今度は東弥の膝の上に乗せられ背中から強く抱きしめられる。
「???」
「…小学校の頃の静留も見たかった…。こんなに可愛いだなんて…。」
かわいい、と掠れた低い声で囁くのは反則だと思った。また身体が熱い。
しかしそれと同時にそれは小学生の静留に向けられた言葉で、決して今の静留に向けられたものではないのだということもちゃんとわかっている。
「…おおきくて、ごめんなさい…。」
言いながら、静留の視界は少しぼやけた。
くるりと反転され、今度は前から抱きしめられる。
「ごめん、さっきの言い方はずるかったね。俺の知っている今の静留が一番大好きで、大切で、愛しているよ。」
彼の言葉は甘く、静留の身体を翻弄するのに充分で。
節ばった大きな手が静留の髪を宝物を扱うように優しく梳いて片耳にかける、その行為にすらどきどきして、静留は煩悩を払うようにぎゅっと両方の目を瞑ったのだった。
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