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第二部
ハロウィンss2021
しおりを挟む※東弥が博士課程に進んだ後の話となります
仕事仲間とのやり取りの中で今日がハロウィンだと認識した途端、東弥は家に帰ることがいつもの2倍楽しみになった。
大学2年生までの自分はクリスマスにすら興味を示さないタイプの人間だったのに、人生わからないものだと思う。
可愛い恋人が、“トリック オア トリート”、と言われて白い首をことんと傾げる様を思うだけで、帰りたくてたまらない。
「真鍋君、これが終わったら今日はおしまいにしよう。」
教授の言葉で、思わず笑顔になる。
「ありがとうございます。30分以内に終わらせますね!」
「それは、いくら君でも…。」
教授が苦笑を浮かべる一方で、今年研究室に入ってきた女子学生2人は何やら歓声を上げはじめた。
しかし、そのどちらも今の東弥にはまるで気にならない。
頼まれていたプログラムを20分で書き終え、驚く教授に頭を下げて研究室を出る。
そのプログラムがあまりに無駄なく美しかったことから後に研究室の伝説として語り継がれる事になるのは、また別の話だ。
「ただいま、静留。」
「東弥さん!!おかえりなさい!」
ドアを開ければ、静留がてとてとと玄関まで走って迎えにきてくれた。
勢い余って東弥の方にぼふっと倒れ込んでしまうのも、よくある事だ。本当に可愛らしくて、こんな日々を続けていたらほっぺたが緩んだまま戻らなくなってしまうのではないかと思う。
「静留、今日は何の日かわかる?」
ひとしきり頭を撫でた後で問いかけると、静留が東弥の胸のあたりに埋めていた顔を上げた。
「きょう…?えっと、なに、かな…?」
「ハロウィンだよ。静留、“trick or treat?”」
「とりっく おあ とりーと…??」
舌足らずな発音で繰り返しながら、静留がことんと首を傾げる。
予想通りの反応が、愛おしくてたまらない。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞって意味だよ。ハロウィンの日にこれを言われたら、お菓子をあげるか、悪戯をされなきゃいけないんだよ。」
「おかし、持ってない…。いたずら、どんないたずら…?」
「そうだな。静留のこと、こちょこちょしようかな?」
少し魔がさして、意地悪なことを言ってしまった。
静留の肩がピクリと跳ね、濡羽色色の瞳にうっすら涙が浮かぶ。
「…あの、ね、こちょこちょじゃなきゃ、だめ…?」
不安そうにこちらを見上げてくるその姿が酷くDom性を煽ることを、きっと静留は知らない。
知っていたならば、こんなに無防備な反応は見せないだろう。
心の中で大きく深呼吸をして、東弥はその欲をそっと鎮めた。
「そうだな、じゃあ、お菓子の代わりに静留を頂戴?」
「ぼく…?ぼくは、甘くないよ…?」
「おかしいな。こんなに甘いのに。」
不思議そうにぱちぱちと瞬く彼の白い首筋に、味を確かめるように舌を這わせれば、ほんのりとボディクリームのミルクの香りがする。
「んっ…ひぁっ…!東弥さん、それ、へんなかんじっ…!」
くすぐったそうに身を捩りながら、静留は東弥にしがみついて色っぽい息を漏らし始めた。
「ああもう、可愛い。天使みたいだ。羽根はどこにしまったの?」
「はね!?ぼく、人間だよ…?」
「うん。でも可愛すぎたら生えてくるんだよ。知ってた?」
「!?」
「ごめん、嘘ついた。でも、そのくらい静留は可愛い。」
「ぅー…。東弥さん、ずるい…。 」
真っ赤になった顔を覆う美しい両手をそっと剥がして、淡い唇に口付ける。
さらに顔を真っ赤にした静留は、とうとう東弥の胸に顔を埋めたまま動かなくなってしまった。
少しいじめすぎたかもしれない。
叶うならこのままお姫様抱っこでベッドに直行させたいが、そんなことをしたら流石に拗ねてしまうだろうか。
葛藤の末、東弥はもう一度、今度は全ての欲を深く鎮めた。
それからやさしく静留を身体から剥がし、上を向かせる。
「静留、ハロウィンだから、静留にお菓子を買ってきたんだ。静留の大好きなキャンディーだよ。俺に、“trick or treat”って言ってごらん。」
「とりっく、おあ、とりーと…?」
「よくできました。はい、これ。」
弱くglareを放ちながら、静留のために買ってきたハート型のペロペロキャンディーを差し出した。
「かわいい…っ!!」
受け取った静留がキラキラと目を輝かせ、ありがとうと述べる。
そのまま彼はキャンディーの包装を丁寧に剥がすと、小さな赤い舌を表面にそっと這わせて。
「あまい!!」
キャンディーを持っていない方の手を頬に添えながら、満面の笑みを浮かべる。
先ほどまで羞恥で真っ赤に染まっていたのに、すぐにこんなあどけない笑みを浮かべられるのだから、やはり天使なのだろうと東弥は思った。
ハッピーハロウィン。
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