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第二部
東弥誕生日用ss: 君が好きなものならば
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(東弥side)
「えー、東弥それ捨てんの?可愛いのに。」
サークル内の女子から貰ったもの捨てようとしていると、通りがかった谷津が不服そうに声かけてきた。
全く、間の悪い男である。
「だって趣味じゃないし。そもそも一回プレイしただけなのになんで俺にお土産なんて渡してくるのか、気が知れない。もったいないと思うなら谷津が持ってく?」
「んー、彼女が喜びそうだけど、女の人の願掛けつきはちょっと……。」
「願掛け?そんなものはついてないでしょう。」
「全く、冷たいやつー!!」
追い討ちをかけるように言われ、多少の罪悪感が生まれた。
色ならばピンク、服ならばフリル。女の子らしいと呼ばれるものが、総じて苦手だ。
ひどい言い方になるかもしれないが、下心しか見えなくて不快でたまらない。
そういうわけで、ぬいぐるみ付きのキーホルダーなんかは俺がもらってもすぐにゴミ箱行きになる。
「好きでもないのに持ち歩くことが優しいとは言えないでしょう。俺はプレイ前にちゃんと一夜きりって約束するし。」
「女泣かせ!罪男!!」
「…… 」
だんだん言い返すのも面倒になってきて、キーホルダーをゴミ箱に放り投げてその場を後にした。
たぶん、もし仮に俺に恋人ができたとして、その人が好みの男性だとしても、こんな形あるものをお揃いでつけることなどしないだろう。……だって、趣味でもないし、永遠を約束できるわけもないのだから。
あるだけ邪魔で全く意味がない。
谷津のせいで少しだけ芽生えた罪悪感も、外に出れば、冬の白いため息とともに溶けて消えた。
~3年後~
さらさらとした感触が、頬を優しくくすぐっている。
少しむず痒く感じて瞼を開くと、大きく開かれたオニキスの瞳が視界いっぱいに映し出された。
静留が俺を押し倒すような格好をしており、絹のような滑らかな黒髪が、揺れるたび俺の頬をかすめている。
状況から察するに、ずっと俺の顔を覗き込んで起きるのを待っていたらしい。
幼い子がいたずらを思いついた時のようにきらきらと瞳を輝かせているものだから、その愛らしさに思わず口付ければ、乳白色の頬が淡い桃色に染まった。
薄紅の唇が驚いたようにぱくぱくと開閉を繰り返すのを見ていると、いつもは傷つけないように真綿でくるんでおきたいほど大切に思っているのに、Domの性分のせいか嗜虐心を煽られるから困る。
「……静留?どうしたの?」
芽生えた汚い感情には蓋をして、優しく頭を撫でながら問う。
静留はしばらく考え込むように”なんだっけ?”、と首を傾げていたが、やがてもう一度瞳を輝かせ、俺の方に両手を差し出した。
長くしなやかな、まるで神様の傑作のような指が、何かを隠すように握っている。
「何を持っているの?」
いたずらか何かだろうか。
どんな仕草でもともかく愛しくて、抱きしめそうになるのを、話の腰を折らないために我慢する。
静留の表情は楽しそうな一方で緊張しているようにも見えるから、何か重要な話があるのかもしれない。
白い指が、一本一本ゆっくり開いていく。
中から姿を表したのは、手のひらサイズの猫のぬいぐるみだった。
「あの、ね。東弥さん、おたんじょうび、おめでとう。」
言葉とともに、静留がぬいぐるみのお腹を押す。
すると今までに聞いたことのない、綺麗なピアノ曲が再生された。
一音一音大切に紡がれたしなやかなメロディーは、静留の奏でたものだとすぐわかる。
それに、よく聞くとハッピーバースデーのアレンジになっていた。
「え?これ、俺に??」
「うん。あのね、…実は、猫さんは、おそろいなの。僕のは音はしないけど、キーホルダーで、コンサート用のバッグにつけようとっ……んぅっ……!!」
恥ずかしそうに模様違いの猫のぬいぐるみを見せる姿を見ていて、我慢ができずにまた口付けてしまった。
「ありがとう。すごく嬉しい。大切にする。リュックにつけていつも大切に……ああ、でも、無くすと怖いからもう一つ買って、それをリュックにつけようかな。静留のピアノが入っている子は玄関にいてもらおう。」
「!?もう一匹、なかまの子、買う??」
静留がぱちぱちと大きく瞬きをして喜びを表している。
「うん。今日買いに行こうか。お出かけしよう。」
「!!」
正直自分の誕生日など忘れていたが、静留がその日を覚えてくれていて、世界に一つだけの、それもお揃いのプレゼントをくれたのだ。嬉しくてたまらない。
その後、玄関に一匹では寂しいだろうということで、結局猫のぬいぐるみは新たに2匹家に迎えた。
朝から幸せな誕生日は、神様の贈り物の1日のようだった。
~後日~
「あれ?東弥、そのぬいぐるみどうしたの?」
休み明け、谷津がキーホルダーについて尋ねてきた。
何故か彼はこういうところに鋭い。
「ああ、静留が誕生日にくれたんだ。しかもお揃いで。静留がくれた子は音が鳴るように細工されてて汚れたら困るから、もう一匹買った子をリュックにつけてるんだけどね。」
「えっ、おそろいとか、ぬいぐるみのキーホルダーとか、嫌いじゃなかったの?」
疑問に対して正直に答えたのに、今度は怪訝そうな表情でよくわからないことを尋ねられた。
「なんのこと……??可愛いでしょ?静留が好きなものは俺も好きだし、可愛くてお気に入りだよ。」
「……うげー……。」
素直な言葉を返せば、何やら気持ち悪いものを見るような目をされる。
全く、理解できないやつだ。
でも、もし静留からでないのなら、たしかにキーホルダーなんてつけなかったかもしれない。
「えー、東弥それ捨てんの?可愛いのに。」
サークル内の女子から貰ったもの捨てようとしていると、通りがかった谷津が不服そうに声かけてきた。
全く、間の悪い男である。
「だって趣味じゃないし。そもそも一回プレイしただけなのになんで俺にお土産なんて渡してくるのか、気が知れない。もったいないと思うなら谷津が持ってく?」
「んー、彼女が喜びそうだけど、女の人の願掛けつきはちょっと……。」
「願掛け?そんなものはついてないでしょう。」
「全く、冷たいやつー!!」
追い討ちをかけるように言われ、多少の罪悪感が生まれた。
色ならばピンク、服ならばフリル。女の子らしいと呼ばれるものが、総じて苦手だ。
ひどい言い方になるかもしれないが、下心しか見えなくて不快でたまらない。
そういうわけで、ぬいぐるみ付きのキーホルダーなんかは俺がもらってもすぐにゴミ箱行きになる。
「好きでもないのに持ち歩くことが優しいとは言えないでしょう。俺はプレイ前にちゃんと一夜きりって約束するし。」
「女泣かせ!罪男!!」
「…… 」
だんだん言い返すのも面倒になってきて、キーホルダーをゴミ箱に放り投げてその場を後にした。
たぶん、もし仮に俺に恋人ができたとして、その人が好みの男性だとしても、こんな形あるものをお揃いでつけることなどしないだろう。……だって、趣味でもないし、永遠を約束できるわけもないのだから。
あるだけ邪魔で全く意味がない。
谷津のせいで少しだけ芽生えた罪悪感も、外に出れば、冬の白いため息とともに溶けて消えた。
~3年後~
さらさらとした感触が、頬を優しくくすぐっている。
少しむず痒く感じて瞼を開くと、大きく開かれたオニキスの瞳が視界いっぱいに映し出された。
静留が俺を押し倒すような格好をしており、絹のような滑らかな黒髪が、揺れるたび俺の頬をかすめている。
状況から察するに、ずっと俺の顔を覗き込んで起きるのを待っていたらしい。
幼い子がいたずらを思いついた時のようにきらきらと瞳を輝かせているものだから、その愛らしさに思わず口付ければ、乳白色の頬が淡い桃色に染まった。
薄紅の唇が驚いたようにぱくぱくと開閉を繰り返すのを見ていると、いつもは傷つけないように真綿でくるんでおきたいほど大切に思っているのに、Domの性分のせいか嗜虐心を煽られるから困る。
「……静留?どうしたの?」
芽生えた汚い感情には蓋をして、優しく頭を撫でながら問う。
静留はしばらく考え込むように”なんだっけ?”、と首を傾げていたが、やがてもう一度瞳を輝かせ、俺の方に両手を差し出した。
長くしなやかな、まるで神様の傑作のような指が、何かを隠すように握っている。
「何を持っているの?」
いたずらか何かだろうか。
どんな仕草でもともかく愛しくて、抱きしめそうになるのを、話の腰を折らないために我慢する。
静留の表情は楽しそうな一方で緊張しているようにも見えるから、何か重要な話があるのかもしれない。
白い指が、一本一本ゆっくり開いていく。
中から姿を表したのは、手のひらサイズの猫のぬいぐるみだった。
「あの、ね。東弥さん、おたんじょうび、おめでとう。」
言葉とともに、静留がぬいぐるみのお腹を押す。
すると今までに聞いたことのない、綺麗なピアノ曲が再生された。
一音一音大切に紡がれたしなやかなメロディーは、静留の奏でたものだとすぐわかる。
それに、よく聞くとハッピーバースデーのアレンジになっていた。
「え?これ、俺に??」
「うん。あのね、…実は、猫さんは、おそろいなの。僕のは音はしないけど、キーホルダーで、コンサート用のバッグにつけようとっ……んぅっ……!!」
恥ずかしそうに模様違いの猫のぬいぐるみを見せる姿を見ていて、我慢ができずにまた口付けてしまった。
「ありがとう。すごく嬉しい。大切にする。リュックにつけていつも大切に……ああ、でも、無くすと怖いからもう一つ買って、それをリュックにつけようかな。静留のピアノが入っている子は玄関にいてもらおう。」
「!?もう一匹、なかまの子、買う??」
静留がぱちぱちと大きく瞬きをして喜びを表している。
「うん。今日買いに行こうか。お出かけしよう。」
「!!」
正直自分の誕生日など忘れていたが、静留がその日を覚えてくれていて、世界に一つだけの、それもお揃いのプレゼントをくれたのだ。嬉しくてたまらない。
その後、玄関に一匹では寂しいだろうということで、結局猫のぬいぐるみは新たに2匹家に迎えた。
朝から幸せな誕生日は、神様の贈り物の1日のようだった。
~後日~
「あれ?東弥、そのぬいぐるみどうしたの?」
休み明け、谷津がキーホルダーについて尋ねてきた。
何故か彼はこういうところに鋭い。
「ああ、静留が誕生日にくれたんだ。しかもお揃いで。静留がくれた子は音が鳴るように細工されてて汚れたら困るから、もう一匹買った子をリュックにつけてるんだけどね。」
「えっ、おそろいとか、ぬいぐるみのキーホルダーとか、嫌いじゃなかったの?」
疑問に対して正直に答えたのに、今度は怪訝そうな表情でよくわからないことを尋ねられた。
「なんのこと……??可愛いでしょ?静留が好きなものは俺も好きだし、可愛くてお気に入りだよ。」
「……うげー……。」
素直な言葉を返せば、何やら気持ち悪いものを見るような目をされる。
全く、理解できないやつだ。
でも、もし静留からでないのなら、たしかにキーホルダーなんてつけなかったかもしれない。
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