壊れた空に白鳥は哭く

沈丁花

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決戦の日

飛べない白鳥

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ユリアンの長い手がゆっくりと目元に伸びてくる。

それを拒むように、アルは自らコンタクトを外した。

彼はわずかに眉をひそめたが、露わになったアルの2色の瞳を見るとうっとりと切れ長の目を細め、舌舐めずりをする。

「…ああ、いい。

その生意気な2色の瞳、一度たりとも忘れたことがなかった。

はぁー、極刑に処されたと聞いて君の遺体を探したら無いから発狂しそうだったよ。」

なぜか先ほどと口調や声音が変わっている。

まるで愛玩動物に声をかけるように、ねっとりと優しく話しかけられ、そのおぞましい響きに、アルは思わず身震いした。

「君が死んだという事実だけで発狂しそうなのに、せめて剥製にしようとした遺体さえも消えているなんて。

ああ、生きていてよかった。大丈夫、殺したりしないよ。君は俺の番になって一生俺とともに生きるんだ。

次にヒートが来たときはとびきり甘いセックスをして番おうね。本当に夢みたいだ。」

なにを言っているんだこの人は。

…怖い。

伸びてくる手に、本能が警告を鳴らしていた。

振り払ったら殺される。この男に触れられるくらいなら死んでもいいと思いながら、身体はこわばって動かない。

「…いいこだ。ほら、腕を上げて… 」

彼は硬直したアルのジャケットを無理やり剥ぐと、タイをほどき、シャツのボタンを一つ一つ外していく。

しかしシャツとインナーを脱ぐことは、下がったまま固まる腕が邪魔してできなかった。

「動かない?仕方ないな。危ないからそのまま、じっとしているんだよ。」

吐き気を催すほどにねっとりとした、ひどく甘ったるい声が耳朶を掠める。

きらり、と彼の手の中で何かが光ったのが見えた。かちゃかちゃと音を立て、それは本来の姿をあらわす。

よく研がれたナイフだ。少しでも切っ先が肌に触れたら、すぐに傷を作るだろう。

インナーの襟元からそのナイフが入っていきて、いとも簡単にインナーを二つに割いていく。

「ああ…綺麗だ…。気持ちよくしてあげるからね。」

もう、彼の言葉が耳から入ってこなかった。視覚情報さえも、脳が理解することを拒んでいる。

ぴちゃり、と胸部の突起をざらついた舌が這う。

抵抗する気力などもう無くて、ベルトが外されていくのを感じながら、ただカタカタと震えていた。

怖い。

…きっともうこの先には何もない…

最後に一度だけ、一度だけでいい、アランに会いたいと思った。

初めて優しくしてくれた、大切な運命の人。アルに、白鳥座の星の名前をつけてくれた。

もしも。

ふと考える。

もしも自分に羽が生えていたとしたら。

…そんなことはあり得ないけれど、ここから自由に羽ばたいて、彼に会うことができたのだろうか。
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