27 / 41
決戦の日
理不尽な世界に抗う術を。
しおりを挟む
検閲では金属探知機などを用いさまざまな場所を念入りに確認されたが、偽のデータ以外のものは見つかるわけはない。
アランたちはそのまま検閲を抜け、会場へと向かうことができた。
「検閲を突破した。渋滞しているが余裕で間に合いそうだ。そっちは?」
ヨルがトランシーバーに向かって落ち着いた声でそう告げた。
あとは会場前でアルと落ち合うだけ。
そう思ったが、少し間をおいて返ってきた声は、息が切れ、明らかに切迫していた。
‘そこから1km先の赤い旗のところにデータを投げますっ…はぁっ…
あとはっ…頼みましたっ…!!’
「おい、何があった!?どうした 」
ただならぬ雰囲気に、至って冷静だったヨルの声がかたくなる。
‘…っはぁっ…、俺はいいからっ…頼みますっ!!’
そこでぶつり、と通信は途絶えた。
「おい、ちょっと待て!ちゃんと状況を説明しろ!!」
ヨルがどんなに怒鳴っても、彼からの返答はない。
ゆっくりと進む車はやがて、おそらく彼が言っていた赤い旗のところにたどり着き、アランが車のドアを開けたときちょうど、どこからかUSBが飛んできた。
車から降り、それを即座に回収する。渋滞していたとはいえ、いきなり止まった車にクラクションが鳴らされた。
「回収しましたか?」
「…はい。」
ヨルの声は落ち着きを取り戻していたが、アランの心はそれどころではない。
人生を注いできた自分の研究発表などもうどうでもよく、今すぐにでもアルを探しに行きたかった。
静かな車内は張り詰めた空気が流れていて。
「ジャックさん、どうしても外せない用事ができました。これをよろしくお願いします。」
会場の駐車場に着いて車から降りた瞬間、アランは迷いなくジャックにデータの入ったUSBを渡した。
「しかしこれは君の…
いや、行って来なさい。何か理由があるのだろう?」
「ありがとうございます。」
彼に何があったのかはわからない。ただ、自分にできることはなんでもしたかった。
アランはアルを探すためにアルが入った道に向かおうとした。
そのとき、
「すみませーん、最終チェックをしたいので、止まってもらえますかー?」
嘲笑うような声とともに、3人のガタイのいい男性がアランたちの前に立ちはだかった。方向的に彼らを突破しなければ会場には行けない。
3人の襟元には狩人のバッジ。アルクトゥールスのマークだ。
ヨルの軽い舌打ちは、そばにいるアランにだけ聞こえた。
「いいですが、随分と念入りですね。先ほど検閲で洗いざらい持ち物をチェックされたのですが。」
「ああ、お前達には国がうるさくてな。」
ゆっくりとヨルが会話をする間、ヴィクターが何やらスマホを操作するのが見えた。
胸ポケットの画面にそれとなく目をやると、メッセージが表示される。
‘ヨルさんがチェックを受けている間に散りましょう。アランさんから先にそれてください。’
「だから、何にもないですって!ちょっとあんまりポケットとか触らないでくださいよ。その上着、高かったんですよ!?下に置くのはよして。」
3人の男性が念入りにだるそうに話しかけるヨルの身体をチェックしていく。
こくり、ヴィクターが小さくうなずいた。それを合図にアランは思い切り会場とは逆の方向に駆け出した。
「ちょ、お前、待てっ!!」
1人がアランに気づき、少し手が緩んだ瞬間にヨルが彼の肩から腕にかけてを思い切り逆方向に曲げた。
鈍い音を立て、彼の腕があらぬ方向に曲がる。残りの2人はアランを止めようとアランの方へと駆け出した。
刹那ヴィクターがジャックの手を取り会場の方へと駆け出す。
会場までの距離はほとんどなく、さらにヨルに押さえ付けられている以外の2人の足はアランの方を向いていた。
それでもヴィクターはともかく、ジャックの方は追いつかれてしまいそうで。
「止まるな、後ろは俺が守る!」
わずかに後ろを振り向きかけたヴィクターに、ヨルの怒声が響く。気づけばもう2人の行く道も、ヨルがあの手この手で邪魔していた。
会場に2人が入っていくのを見届けて。
「それで、すみません、びっくりして慌ててしまったのですが、チェックを済ませていただけますか?」
もちろんヨルも無傷では済まなかった。左腕はだらりと下がり、右の足首が変な方向に曲がっている。
途中から呆然とその光景を見ていたアランは、ヨルのけがを確認しようと駆け寄るが…
「俺を治療することは罪だ。それにこの程度は慣れてる。
アルのところへ行ってください。」
きつい声に、止められた。確かに、アルクトゥールスの前でΩを治療するなど、あってはならないことだろう。でも…
「早くっ!」
さらにヨルにまくしたてられ、アランはアルの方へと向かった。
走りながら考える。自分たちを必死で守ろうとしたひとが傷ついて、どうして助けてはいけない?
Ωは人じゃない?ヒートがあるだけで?そんな理不尽な規則を、どうして社会は認めたのだろう。
同じ人間なのに、助けてはいけないなんて、誰が決めたのだろう。
変わって欲しい。自分が考えた抑制剤で、弱い立場の人が意見を唱えられたらいい。
建物を縫うように必死で走った。
アルがそばにいればきっとにおいが教えてくれる。がむしゃらにUSBが飛んできた方向を探す。そして。
…ふわり。花のような香が鼻をくすぐった。右手にある廃墟から来ているようだ。
階段を上っていくと、その香りは一層強くなり…
「何をしてる?!」
目の前の光景に、アランは目を疑った。
アランたちはそのまま検閲を抜け、会場へと向かうことができた。
「検閲を突破した。渋滞しているが余裕で間に合いそうだ。そっちは?」
ヨルがトランシーバーに向かって落ち着いた声でそう告げた。
あとは会場前でアルと落ち合うだけ。
そう思ったが、少し間をおいて返ってきた声は、息が切れ、明らかに切迫していた。
‘そこから1km先の赤い旗のところにデータを投げますっ…はぁっ…
あとはっ…頼みましたっ…!!’
「おい、何があった!?どうした 」
ただならぬ雰囲気に、至って冷静だったヨルの声がかたくなる。
‘…っはぁっ…、俺はいいからっ…頼みますっ!!’
そこでぶつり、と通信は途絶えた。
「おい、ちょっと待て!ちゃんと状況を説明しろ!!」
ヨルがどんなに怒鳴っても、彼からの返答はない。
ゆっくりと進む車はやがて、おそらく彼が言っていた赤い旗のところにたどり着き、アランが車のドアを開けたときちょうど、どこからかUSBが飛んできた。
車から降り、それを即座に回収する。渋滞していたとはいえ、いきなり止まった車にクラクションが鳴らされた。
「回収しましたか?」
「…はい。」
ヨルの声は落ち着きを取り戻していたが、アランの心はそれどころではない。
人生を注いできた自分の研究発表などもうどうでもよく、今すぐにでもアルを探しに行きたかった。
静かな車内は張り詰めた空気が流れていて。
「ジャックさん、どうしても外せない用事ができました。これをよろしくお願いします。」
会場の駐車場に着いて車から降りた瞬間、アランは迷いなくジャックにデータの入ったUSBを渡した。
「しかしこれは君の…
いや、行って来なさい。何か理由があるのだろう?」
「ありがとうございます。」
彼に何があったのかはわからない。ただ、自分にできることはなんでもしたかった。
アランはアルを探すためにアルが入った道に向かおうとした。
そのとき、
「すみませーん、最終チェックをしたいので、止まってもらえますかー?」
嘲笑うような声とともに、3人のガタイのいい男性がアランたちの前に立ちはだかった。方向的に彼らを突破しなければ会場には行けない。
3人の襟元には狩人のバッジ。アルクトゥールスのマークだ。
ヨルの軽い舌打ちは、そばにいるアランにだけ聞こえた。
「いいですが、随分と念入りですね。先ほど検閲で洗いざらい持ち物をチェックされたのですが。」
「ああ、お前達には国がうるさくてな。」
ゆっくりとヨルが会話をする間、ヴィクターが何やらスマホを操作するのが見えた。
胸ポケットの画面にそれとなく目をやると、メッセージが表示される。
‘ヨルさんがチェックを受けている間に散りましょう。アランさんから先にそれてください。’
「だから、何にもないですって!ちょっとあんまりポケットとか触らないでくださいよ。その上着、高かったんですよ!?下に置くのはよして。」
3人の男性が念入りにだるそうに話しかけるヨルの身体をチェックしていく。
こくり、ヴィクターが小さくうなずいた。それを合図にアランは思い切り会場とは逆の方向に駆け出した。
「ちょ、お前、待てっ!!」
1人がアランに気づき、少し手が緩んだ瞬間にヨルが彼の肩から腕にかけてを思い切り逆方向に曲げた。
鈍い音を立て、彼の腕があらぬ方向に曲がる。残りの2人はアランを止めようとアランの方へと駆け出した。
刹那ヴィクターがジャックの手を取り会場の方へと駆け出す。
会場までの距離はほとんどなく、さらにヨルに押さえ付けられている以外の2人の足はアランの方を向いていた。
それでもヴィクターはともかく、ジャックの方は追いつかれてしまいそうで。
「止まるな、後ろは俺が守る!」
わずかに後ろを振り向きかけたヴィクターに、ヨルの怒声が響く。気づけばもう2人の行く道も、ヨルがあの手この手で邪魔していた。
会場に2人が入っていくのを見届けて。
「それで、すみません、びっくりして慌ててしまったのですが、チェックを済ませていただけますか?」
もちろんヨルも無傷では済まなかった。左腕はだらりと下がり、右の足首が変な方向に曲がっている。
途中から呆然とその光景を見ていたアランは、ヨルのけがを確認しようと駆け寄るが…
「俺を治療することは罪だ。それにこの程度は慣れてる。
アルのところへ行ってください。」
きつい声に、止められた。確かに、アルクトゥールスの前でΩを治療するなど、あってはならないことだろう。でも…
「早くっ!」
さらにヨルにまくしたてられ、アランはアルの方へと向かった。
走りながら考える。自分たちを必死で守ろうとしたひとが傷ついて、どうして助けてはいけない?
Ωは人じゃない?ヒートがあるだけで?そんな理不尽な規則を、どうして社会は認めたのだろう。
同じ人間なのに、助けてはいけないなんて、誰が決めたのだろう。
変わって欲しい。自分が考えた抑制剤で、弱い立場の人が意見を唱えられたらいい。
建物を縫うように必死で走った。
アルがそばにいればきっとにおいが教えてくれる。がむしゃらにUSBが飛んできた方向を探す。そして。
…ふわり。花のような香が鼻をくすぐった。右手にある廃墟から来ているようだ。
階段を上っていくと、その香りは一層強くなり…
「何をしてる?!」
目の前の光景に、アランは目を疑った。
0
あなたにおすすめの小説
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる