壊れた空に白鳥は哭く

沈丁花

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番外編ss

誓いのピアス⑤

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食事の後片付けを終えた後、アランに手を引かれ、連れていかれたのは処置室で、革製の寝台に座らされた。

何に使うのかよくわからない、様々な医療器具が置いてあるこの場所には、予防接種や傷を縫うときなどに時々連れていかれる。

「…耳を見せて。」

なぜか油性ペンを持ったアランに髪を搔きあげられ、耳にかからないようにピンで止められる。

アランが俺の耳を様々な角度から真剣に観察していく。

いくら耳とはいえ、こんなに見られると恥ずかしい。かさついてないかとか、そんな要らない心配までしてしまいそう。

そのうえ彼との距離が息がかかるほどまでに近くなり、胸がドキドキして止まらない。

小指の長さほどの距離もないすぐ近くにある、彼の煌びやかな髪から覗く、海の底を映したような深い青。

それがこちらを真剣に見つめる姿が視界に入ってきて、美しすぎて反射的に目をそらす。

「じっとして。」

そう諭されて、どこを見たらいいのかわからず目を泳がせてしまう。

近くできゅぽんっと音がした。

「ひゃっ!」

何か異様な感覚が耳たぶを走り、思わず変な声が漏れる。生ぬるくて濡れた、細い何か。

「な、なに?」

「説明なしに悪かった。ホールの位置がずれないように油性ペンで印をつけたんだ。」

あの湿った感触は油性ペンか。なるほど。

…くすぐったくて少し苦手だ。

「…もう片耳もやる?」

恐る恐る聞いてみる。

「…?ああ、同じように。」

もう片方も同じようにピンで止められて、きゅっ、と耳たぶをペン先が這った。

くすぐったくて漏れそうな声を今度はぐっと歯を食いしばって堪える。

それからアルコールで消毒をされて、彼がピアッサーを持ってきて。

その仕草ひとつひとつに目が釘付けになってしまう。なんとなく医者っぽくて。

どんな職業であれ、自分と違うことをしている人の姿は格好いい。

「…?どうした?」

不思議そうに聞く彼に、なんと答えていいのかわからなかった。

ピアッサーを持つ姿がやけにかっこよくて思わず見とれてしまったのだ、なんて言えない。

「…なんでもない。」

気まずさに目をそらす。

「体調が悪いなら言って欲しい。本当に大丈夫か?」

心配そうにじっと目を覗かれる。やめて欲しい。そんな心配そうに見られたら、本当のことを言うしかないじゃないか。

「…かっこいいなって、思って…。今更だけど…。」

恥ずかしくて言葉がどんどん尻すぼみになる。

突然、アランが口を押さえて目を逸らした。頬が真っ赤だ。

「え、なに?どうしたの?」

心配になって問いかける。

「…アル、あんまりそう言うこと言わないから。」

ぶっきらぼうな声音とともに、なかなか可愛らしい答えが返ってきた。

「え、照れたの?」

「…はっきり言われると恥ずかしい。」

「ごめん、なんか珍しくて…。」

聞き間違いかと思って思わず聞き返してしまったのだ。しばらく沈黙が続いて、見つめあって…

「はははっ 」
「ははっ、おかしー!!」

盛大に笑い合った。お互い静かな方なので、声をあげて笑うことは珍しい。

ひとしきり笑って落ち着いた後、両方の耳たぶに保冷剤が当てられた。

しばらくして冷たさのせいで大体の感覚がなくなった後、

「じゃあ、開けるから、耐えられないほど痛かったら言って欲しい。」

その言葉とともに一瞬、一点に鋭い刺激が走る。

正直、職業上痛みに慣れているのでそこまで痛いとは感じなくて、

逆に、アランに与えられている痛みだと思うと嬉しかった。

「痛くないか?」

「大丈夫。」

むしろ、微かな痛みが気持ちいい、不思議な感覚がある。

近くにあった鏡で確認すると、自分の耳にアランの目の色の小さなピアスがつけられていて。

「ねえ… 」

彼の耳についているピアスと見比べると、お互いがお互いのものである印みたいに思えてくる。

そしてそう考えるとどうしようもなく彼が欲しくなって、座ったまま、立っている彼のお腹のあたりを手で掴む。

「…俺もだ。久しぶりだから、ゆっくりしないとな。」

がちゃ、と音がして、アランがドアに鍵をかけたのがわかった。気を利かせてか、照明も暗くしてくれる。

「…ここでするの?」

「待てない。」

一週間前に求められた時より、彼の目はずっと優しくて。

それでも身体はとても熱いのが、抱き合う中で伝わる体温からわかった。

秘所が疼いて、とぷんと中から蜜が溢れ出るのを感じる。

「…あ、まだ、シャワー浴びてない… 」

「構わない。」

きっぱりと言い放たれて、硬い寝台に背中を押し付けられる。

彼が時計を外し、一旦息をつく。

そしていとも簡単に上半身を裸に剥かれ、

「ゃっ…///」

ぴちゃ、と濡れた舌が胸の突起を這った。

「…も、はやく、挿れて……」

ぐちゅぐちゅと掻き回される中は、無意識のに彼の指を締め付ける。

3本指を飲み込んでも、彼の愛欲には敵わない。もどかしさに彼の肩にすがりつき、ねだった。

…ほしい。

それを求めて、後孔がたっぷりと蜜を零していくのを感じる。

「待て、ゴムを… 」

彼は俺と交わる時、必ずゴムをつける。それがどうしてかわかっているからいつもなら止めないけれど、本当は、直接感じたい。

「つけないでっ…!!」

アランの手を掴み動かないように力を込める。驚いた表情を浮かべる彼の瞳を、ねだるようにじっとまっすぐ見つめれば、彼の聡明な青い瞳は儚げに揺れて。

ひたり。

瞼に生温かい液体が溢れた。

何かと思って彼を見ると、その頬を涙の筋が伝っている。

「…この、行為に、…意味はない… 」

途切れ途切れに、彼の唇から苦しげな声が漏れた。
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