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過去といま③

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手を繋ぎスーパーで一緒に買い物をした後、2人は流れ星を見るために公園へ向かった。

礼人はベンチに座り、北瀬が買ってくれた菓子パンの袋を開け一口含む。

菓子パンなんて、家ではほとんど食べさせてもらえないからとても珍しい。

「これ、おいしい…!」

舌で触った途端にデニッシュの表面にコーティングされた砂糖が甘く蕩け、嚥下すれば口内にバターの香りが広がる。

思わず感動を声に出せば、北瀬は“それは良かった”、と言いながらどうしてか少し寂しげに微笑み、礼人と同じものを特に表情を変えることなく食べ始めた。

「ごちそうさまでした。」

「お粗末様でした。じゃあ、もっと良く見えるように明かりがないところに行こう。」

「うん。」

ベンチから立ち上がり、今いる道路沿いとは反対側に歩みを進める。

灯りがないせいで足下の段差すらかなり注意深く見ていないと気づくことができない。

暗い場所は少し怖い気もしたが、北瀬がずっと繋いでくれる手のおかげで安心できた。

「段差があるから気をつけて。」

「うん。…流れ星、どのくらい見えるかな?」

「今日は晴れていて雲がないから、きっとたくさん見られるよ。」

「本当?」

「うん。本当。この辺がいいかな。ほら、空を見て。」

「…すごい、きれい… 」

北瀬に言われ空を見上げた礼人は、思わずため息を漏らした。

そもそも夜に空を見上げたことなんてきっと今まで一度もない。

「あの明るい星がシリウス。そして、あそこにあるリボンの形をしているのがオリオン座。」

いつものように北瀬が知らないことを教えてくれる。

彼は本当に物知りで、礼人は彼にいろいろなことを教えてもらうことが大好きだ。

実はときどきわからない宿題を教えてもらったりもする。

「オリオン座?本で見たことがあるよ!どこどこ??」

きょろきょろとあたりを見回していると、少し屈んだ北瀬が礼人の両肩にそっと手を乗せ、空の一点を指さした。

「こっちを向いて…そう。真ん中に三つの星が並んでいるリボンが見える?」

「本当だ!すごい!!星座って本物を見たのは初めてだよ!」

「…あやは、俺の話を本当に楽しそうに聞いてくれるね。」

「うん。リトさんはたくさん教えてくれるから、お話ししてるとすごく楽しい!」

“そう”、と、北瀬は独り言のように静かな声で呟きながら、シトリンの瞳を泣きそうなくらい愛しげに細める。

微かな月明かりに照らされた横顔の美しさに、礼人はなぜか胸が疼くのを感じていた。
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