157 / 261
第2部
捧げる愛⑤
しおりを挟む
彼の身体は彼のものであるのに、それを彼自身が全くコントロールできてないように思える。
何か大きな黒い影が彼を覆っていて、それが彼を呑み込んでしまうような気さえした。
どうやって止めればいいのだろうか。
動揺を彼に悟られないように注意しながらひとまず彼を家の中に入れ、ドアを閉めて抱きしめた。
幹斗君は呼吸とともに激しく肩を上下させ、自分でも何が起こったのか理解できずパニックになっている様子だ。バッドトリップしたSubの状態によく似ている。
「幹斗、大丈夫だよ。もう外には出ないからね。ゆっくり吐いて。…そう、上手。リビングに行こうか。」
言葉をかけ、背中をさすりながら弱いglareを放つ。
収縮し切った瞳孔が緩み、少しずつ上下する肩の動きが落ち着いてきた。
玄関までは大丈夫だった…ということは問題はこの家の外に出たことだろうか。
外に出るのすら躊躇うほどの恐怖…。
彼に刻まれた傷は、身体にだけではなかったのだろう。
きっと身体よりずっと心の方がずたずたに引き裂かれた。
精神的な苦痛が身体的なものより苦しいことを僕はもうずっと前から知っている。
いっそ死んでしまいたいと、そんな気力すら起こらないほどの絶望を。
手を繋いでリビングへ戻り、結局食事はてきとうに済ませた。
お風呂も一緒で、トイレもドアの前までは一緒で。
collarを取る行為を激しく嫌がったから、お風呂はcollarをつけたままで入らせた。
髪を乾かして水を飲ませて歯を磨いて、その行為全てを彼は僕に委ねてくれた。
普段僕に気を遣ってばかりの彼が一日中僕の横にいて、僕の与える行為だけを受け取り、僕だけを必要としてくれる。そのことで皮肉にも自分の中のDom性がどんどん満たされていくのを感じる。
それに、この家だけで世界が完結する1日は、彼と離れて過ごしていた1ヶ月間ずっと彼に会いたいと願っていた僕にとって本望なはずだった。
けれど彼を蝕む傷の深さを考えればやっぱり苦しくて。
ゆっくりと時間をかけて愛で包み込んで、その傷を塗り替えてあげたいと願った。
また彼が笑ってくれるように。
何か大きな黒い影が彼を覆っていて、それが彼を呑み込んでしまうような気さえした。
どうやって止めればいいのだろうか。
動揺を彼に悟られないように注意しながらひとまず彼を家の中に入れ、ドアを閉めて抱きしめた。
幹斗君は呼吸とともに激しく肩を上下させ、自分でも何が起こったのか理解できずパニックになっている様子だ。バッドトリップしたSubの状態によく似ている。
「幹斗、大丈夫だよ。もう外には出ないからね。ゆっくり吐いて。…そう、上手。リビングに行こうか。」
言葉をかけ、背中をさすりながら弱いglareを放つ。
収縮し切った瞳孔が緩み、少しずつ上下する肩の動きが落ち着いてきた。
玄関までは大丈夫だった…ということは問題はこの家の外に出たことだろうか。
外に出るのすら躊躇うほどの恐怖…。
彼に刻まれた傷は、身体にだけではなかったのだろう。
きっと身体よりずっと心の方がずたずたに引き裂かれた。
精神的な苦痛が身体的なものより苦しいことを僕はもうずっと前から知っている。
いっそ死んでしまいたいと、そんな気力すら起こらないほどの絶望を。
手を繋いでリビングへ戻り、結局食事はてきとうに済ませた。
お風呂も一緒で、トイレもドアの前までは一緒で。
collarを取る行為を激しく嫌がったから、お風呂はcollarをつけたままで入らせた。
髪を乾かして水を飲ませて歯を磨いて、その行為全てを彼は僕に委ねてくれた。
普段僕に気を遣ってばかりの彼が一日中僕の横にいて、僕の与える行為だけを受け取り、僕だけを必要としてくれる。そのことで皮肉にも自分の中のDom性がどんどん満たされていくのを感じる。
それに、この家だけで世界が完結する1日は、彼と離れて過ごしていた1ヶ月間ずっと彼に会いたいと願っていた僕にとって本望なはずだった。
けれど彼を蝕む傷の深さを考えればやっぱり苦しくて。
ゆっくりと時間をかけて愛で包み込んで、その傷を塗り替えてあげたいと願った。
また彼が笑ってくれるように。
11
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
待てって言われたから…
ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる