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第2部
バースデイ④
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「着いたよ。」
駐車を終えた由良さんは、そう言って俺の頭を撫で額に唇を落とした。
…不意打ち、ずるい。
俺が顔を赤くして固まっている間に、彼は先に車を降り、助手席のドアを開けてくれる。
何から何まで完璧な振る舞いに動揺を隠せない。
さっきから何なんだ。
格好よさの供給過多で俺を殺す気ですかと問い詰めたくなる。
「少し高いから降りるときは気をつけて。…そう、上手。」
差し伸べられた手を恐る恐る取れば、宝物を扱うように優しくエスコートされた。
ただ車を降りただけなのに紫紺の瞳からはご褒美のglareが放たれ、脳をふわふわと甘く蕩かしおかしくさせていく。
…ああ、どうしよう。もう何も考えられない…。
地に足がついていないような状態で、由良さんに手を引かれるまま歩みを進めた。
「秋月様、お待ちしておりました。こちらのお席へどうぞ。」
我に返ってはっとしたのは、エレベーターを降りたところで目の前のレストランのウェイターと思われる若い男性から丁寧にお辞儀をされたときだった。
まさかと思って後ろを確認すると、エレベーターの降りるボタンしかない。
つまりここが最上階だ。
…えっ、待って、ここ高いとこ。絶対夜に来るようなところじゃない。
「あの、由良さ「誕生日なんだから少しはいいでしょう?行こう。」
帰りましょうと言おうとしたのを呆気なく遮られ、手を繋いだままそのまま中へと誘導される。
中は薄暗く、所々置かれているキャンドルの淡い光を頼りに進んでいった。
周りがあまりよく見えないからか繋いだ手の感触を必要以上に意識してしまう。
いつも宝物を扱うように優しく俺に触れる大きな手。
思えばこの手がプレイもセックスも全てを教えてくれた。もし失ってしまったら、自分はきっとこれから生きていけない。
そこまで考えたところで、ふと怖くなった。
こんなところに連れてきたのは誕生祝い以外に大切な話があるからではないか。
だって、毎年誕生日の夜は由良さんの家かホテルの室内で過ごしてきたし。
もしかして別れ話とか…。
「幹斗君、どうかした?」
…いけない。
雑念を振り払うために何度か強く瞬きをする。
信じることを決めたじゃないか。こうやって幸せに臆病なのは、俺の悪いところだ。由良さんは俺に、いつまでもそばにいると何度も言ってくれたのだから。
「いえ、なんでもありません。」
答えれば、由良さんは“よかった”、とひどく優しい声で紡いだ。
暗くてよく見えないけれど、今きっと彼は端正な顔立ちに泣きそうなくらい愛しげな笑みを浮かべているのだろう。
そんな気がした。
駐車を終えた由良さんは、そう言って俺の頭を撫で額に唇を落とした。
…不意打ち、ずるい。
俺が顔を赤くして固まっている間に、彼は先に車を降り、助手席のドアを開けてくれる。
何から何まで完璧な振る舞いに動揺を隠せない。
さっきから何なんだ。
格好よさの供給過多で俺を殺す気ですかと問い詰めたくなる。
「少し高いから降りるときは気をつけて。…そう、上手。」
差し伸べられた手を恐る恐る取れば、宝物を扱うように優しくエスコートされた。
ただ車を降りただけなのに紫紺の瞳からはご褒美のglareが放たれ、脳をふわふわと甘く蕩かしおかしくさせていく。
…ああ、どうしよう。もう何も考えられない…。
地に足がついていないような状態で、由良さんに手を引かれるまま歩みを進めた。
「秋月様、お待ちしておりました。こちらのお席へどうぞ。」
我に返ってはっとしたのは、エレベーターを降りたところで目の前のレストランのウェイターと思われる若い男性から丁寧にお辞儀をされたときだった。
まさかと思って後ろを確認すると、エレベーターの降りるボタンしかない。
つまりここが最上階だ。
…えっ、待って、ここ高いとこ。絶対夜に来るようなところじゃない。
「あの、由良さ「誕生日なんだから少しはいいでしょう?行こう。」
帰りましょうと言おうとしたのを呆気なく遮られ、手を繋いだままそのまま中へと誘導される。
中は薄暗く、所々置かれているキャンドルの淡い光を頼りに進んでいった。
周りがあまりよく見えないからか繋いだ手の感触を必要以上に意識してしまう。
いつも宝物を扱うように優しく俺に触れる大きな手。
思えばこの手がプレイもセックスも全てを教えてくれた。もし失ってしまったら、自分はきっとこれから生きていけない。
そこまで考えたところで、ふと怖くなった。
こんなところに連れてきたのは誕生祝い以外に大切な話があるからではないか。
だって、毎年誕生日の夜は由良さんの家かホテルの室内で過ごしてきたし。
もしかして別れ話とか…。
「幹斗君、どうかした?」
…いけない。
雑念を振り払うために何度か強く瞬きをする。
信じることを決めたじゃないか。こうやって幸せに臆病なのは、俺の悪いところだ。由良さんは俺に、いつまでもそばにいると何度も言ってくれたのだから。
「いえ、なんでもありません。」
答えれば、由良さんは“よかった”、とひどく優しい声で紡いだ。
暗くてよく見えないけれど、今きっと彼は端正な顔立ちに泣きそうなくらい愛しげな笑みを浮かべているのだろう。
そんな気がした。
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