強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

文字の大きさ
212 / 261
第2部

バースデイ⑤

しおりを挟む
案内された席は個室で、テーブルの中央に中世ヨーロッパを思わせる燭台が置かれていた。

すぐ横の大窓からは夜景が驚くほど美しく、そして椅子に座ると蝋燭の光がぼんやりと互いの顔を照らしてくれる。

由良さんの表情は俺の想像と変わらずひどく優しくて、その瞳が自分だけを映していると考えたら胸が締め付けられるように切なく疼いた。

「好きなものを頼んで。」

言いながら、彼が開いたメニューを俺に見えるように差し出してくれる。

「ありがとうございま……由良さん、このメニューおかしいです。」

メニューに目を通し首を傾げた俺に、由良さんが“どうして?”、と微笑みかけた。

どうしたもこうしたもない。由良さんは平然と見ているけれど、このメニューには明らかな欠陥がある。

「値段がありません。印刷ミスかな?…もしかして時価ですか!?」

くすり、と目の前で由良さんが吹き出した。

至って真面目なことを言っているのにどうして笑うのだろうか。

わからないで困っていると、彼はおかしそうに口を開く。

「書いていないだけで値段は決まってるよ。時価でも印刷ミスでもないから安心して注文して。」

安心して、と言われても値段のわからないものを頼めるほどの度胸はない。

そのうえメニューに並ぶ文字の羅列はどれも高級そうなもので、どれがどれほどの値段に当たるのか俺には理解が難しくて。

「…1番高いのは、どれですか…?」

せめて1番高いのだけは頼むのをやめよう。

そう思い聞いてみたけれど、由良さんはただ悪戯っぽく笑い唇を開いた。

「幹斗君。」

「えっ…?」

由良さんの手がこちらへと伸びてきて俺の頬にそっと触れる。

「値段なんて到底つけられないけれど、この場にある何よりも君の価値が高い。」

「な!?」

想定外の答えに驚いて思わず席を立ち上がってしまった。

ガタン、と大きな音が響く。

静かなクラシックで満たされた店内にその音はあまりにも不釣り合いで。

もう何も考えずに好きなものを頼もうと、俺は諦めてメニューに視線を戻した。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

不器用な僕とご主人様の約束

いち
BL
敬語のクラブオーナー×年下のやんちゃっ子。遊んでばかりいるSubの雪はある日ナイトクラブでDomの華藍を知ります。ちょっと暑くなってくる前に出会った二人の短編です。 🍸カンパリオレンジのカクテル言葉は初恋だそうです。素敵ですね。 ※pixivにも同様の作品を掲載しています

処理中です...