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第2部
エピローグ
「じゃあ次は幹斗君の書く番だね。」
渡されたA3の用紙には、書写のお手本のような美しい筆跡で由良さんの名前が書かれていた。
舞い上がるように嬉しいのだが、この字の隣に自分の名前を書くのは何だか汚染のような気がして気が進まない。
「あっ!!幹斗達の証人欄は絶対俺が書くからね!!予約済み!!」
背中から谷津の明るい声が響く。
相変わらず元気な奴だ。その元気を俺にも分けてほしい。
「じゃあ私は静留君達の方の証人になるね。」
「それなら僕は谷津君と真希さんのところにサインするよ。」
真希さんと由良さんはそれぞれ違う紙を手に取りさらさらと名前を書き始めた。
今日俺たちは、6人で市役所に来ている。
由良さんに家族になろうと言われたことを谷津と東弥に連絡をしたら、成り行きで谷津と真希さんは婚姻届を、東弥と静留は養子縁組届書を一緒に出して証人欄をお互いに書き合おうということになった。
俺と由良さんの関係を知っているのに、養子縁組を結ぶことについてただおめでとうとだけ言ってくれた2人にはとても感謝している。
それに、もしあの時2人が由良さんと話すように言ってくれなかったら、俺と由良さんはここまで来られなかった。
「東弥さん、この漢字、どうやってかくのかわからない…。」
「ちょっと待ってね。これは…。」
目の前では、住所の漢字が書けないと泣きそうになりながら訴える静留君に、東弥が自らの手帳を開き大きく字を書いて教えてあげている。
何度か練習してその字が描けるようになると、静留君は目を輝かせ東弥を見て、東弥はそれに応えるように甘いglareを放ちながら静留君の頭をやさしく撫でた。
微笑ましい光景に思わず頬が綻ぶ。
「書き終わった?」
ぼうっとしていると凛とした声に鼓膜を震わされ、振り返れば隣で由良さんが微笑んでいた。
優しい笑顔にどきりとする。
ただそこにいるだけで格好いいのだから、自分を見て微笑まれたら心臓がもたない。
これからこの人と苗字まで同じだなんてどうしよう。幸せすぎる。
「…あの、もう少しです。」
「あっ、幹斗君名前間違ってるよ。」
ドキドキしながら答えた俺に、ふと由良さんがくすぐったそうに笑いながら指摘した。
名前なんてどうやったら間違えるのかと不思議に思い視線を移せば、“秋月幹斗”、という文字が書かれている。
筆跡も確実に俺だ。
いくら浮かれていると言ったって限度がある。何やってるんだ、俺…。
「一本線を引いて余白に直せば大丈夫だよ。」
由良さんに教えてもらった通りに苗字を訂正する。
訂正している間に耳元で小さく“可愛い間違い。訂正するのがもったいないね。”、なんて囁かれたから、穴があったら入りたい。
「えっ、なにその可愛い間違い。静留もやって。静留はね、真鍋静留だよ。鍋って漢字、書けるかな?」
「えっと、…んー、こうかな…?」
「そう。上手。」
「ほんとう!?」
東弥が静留君に敢えて間違わせようとしているのは見ないことにする。
それから東弥と静留君の証人欄にサインをして。
少しごたごたしながらも何とか窓口まで届けを出すことができ、手続きは無事終了した。
時計を見ると、案外長い時間が経っている。
「そろそろ行こうか。」
「はい。」
由良さんに差し出された手を取れば、しっかりと繋がれて自動ドアの外へと誘導された。
桜の花びらで染められた地面がとても美しい。
普段から歩いている道なのに、由良さんと手を繋ぎその中を踏み出せば初めて訪れた場所のように感じた。
繋いだ手から彼の体温が伝わってくるのがくすぐったくて嬉しくて。
“幸せだな”、と小さく呟いたら、由良さんが“僕も”、と同じように小さく返してくれた。
どちらからともなく顔を見合わせてくすりと微笑み合う。
突然、遅めの春一番が強く吹いた。
強いけれど、温かく優しい。
俺たちのこれからを祝福して背中を押してくれているみたいだなと、心の中で思った。
出会ってから本当に色々なことがあったし、これからもきっと様々なことが起こるだろう。
幸せで溢れる温かな朝も、泣きながら過ごす眠れない夜も、今まで一度もなかったけれど、喧嘩することだってあるかもしれない。
それでも、幸せも苦しみも喜びも悲しみも、全て分け合って生きていきたい。
今日改めて家族になった大切な貴方と、
この先もずっと、2人で。
~Fine~
渡されたA3の用紙には、書写のお手本のような美しい筆跡で由良さんの名前が書かれていた。
舞い上がるように嬉しいのだが、この字の隣に自分の名前を書くのは何だか汚染のような気がして気が進まない。
「あっ!!幹斗達の証人欄は絶対俺が書くからね!!予約済み!!」
背中から谷津の明るい声が響く。
相変わらず元気な奴だ。その元気を俺にも分けてほしい。
「じゃあ私は静留君達の方の証人になるね。」
「それなら僕は谷津君と真希さんのところにサインするよ。」
真希さんと由良さんはそれぞれ違う紙を手に取りさらさらと名前を書き始めた。
今日俺たちは、6人で市役所に来ている。
由良さんに家族になろうと言われたことを谷津と東弥に連絡をしたら、成り行きで谷津と真希さんは婚姻届を、東弥と静留は養子縁組届書を一緒に出して証人欄をお互いに書き合おうということになった。
俺と由良さんの関係を知っているのに、養子縁組を結ぶことについてただおめでとうとだけ言ってくれた2人にはとても感謝している。
それに、もしあの時2人が由良さんと話すように言ってくれなかったら、俺と由良さんはここまで来られなかった。
「東弥さん、この漢字、どうやってかくのかわからない…。」
「ちょっと待ってね。これは…。」
目の前では、住所の漢字が書けないと泣きそうになりながら訴える静留君に、東弥が自らの手帳を開き大きく字を書いて教えてあげている。
何度か練習してその字が描けるようになると、静留君は目を輝かせ東弥を見て、東弥はそれに応えるように甘いglareを放ちながら静留君の頭をやさしく撫でた。
微笑ましい光景に思わず頬が綻ぶ。
「書き終わった?」
ぼうっとしていると凛とした声に鼓膜を震わされ、振り返れば隣で由良さんが微笑んでいた。
優しい笑顔にどきりとする。
ただそこにいるだけで格好いいのだから、自分を見て微笑まれたら心臓がもたない。
これからこの人と苗字まで同じだなんてどうしよう。幸せすぎる。
「…あの、もう少しです。」
「あっ、幹斗君名前間違ってるよ。」
ドキドキしながら答えた俺に、ふと由良さんがくすぐったそうに笑いながら指摘した。
名前なんてどうやったら間違えるのかと不思議に思い視線を移せば、“秋月幹斗”、という文字が書かれている。
筆跡も確実に俺だ。
いくら浮かれていると言ったって限度がある。何やってるんだ、俺…。
「一本線を引いて余白に直せば大丈夫だよ。」
由良さんに教えてもらった通りに苗字を訂正する。
訂正している間に耳元で小さく“可愛い間違い。訂正するのがもったいないね。”、なんて囁かれたから、穴があったら入りたい。
「えっ、なにその可愛い間違い。静留もやって。静留はね、真鍋静留だよ。鍋って漢字、書けるかな?」
「えっと、…んー、こうかな…?」
「そう。上手。」
「ほんとう!?」
東弥が静留君に敢えて間違わせようとしているのは見ないことにする。
それから東弥と静留君の証人欄にサインをして。
少しごたごたしながらも何とか窓口まで届けを出すことができ、手続きは無事終了した。
時計を見ると、案外長い時間が経っている。
「そろそろ行こうか。」
「はい。」
由良さんに差し出された手を取れば、しっかりと繋がれて自動ドアの外へと誘導された。
桜の花びらで染められた地面がとても美しい。
普段から歩いている道なのに、由良さんと手を繋ぎその中を踏み出せば初めて訪れた場所のように感じた。
繋いだ手から彼の体温が伝わってくるのがくすぐったくて嬉しくて。
“幸せだな”、と小さく呟いたら、由良さんが“僕も”、と同じように小さく返してくれた。
どちらからともなく顔を見合わせてくすりと微笑み合う。
突然、遅めの春一番が強く吹いた。
強いけれど、温かく優しい。
俺たちのこれからを祝福して背中を押してくれているみたいだなと、心の中で思った。
出会ってから本当に色々なことがあったし、これからもきっと様々なことが起こるだろう。
幸せで溢れる温かな朝も、泣きながら過ごす眠れない夜も、今まで一度もなかったけれど、喧嘩することだってあるかもしれない。
それでも、幸せも苦しみも喜びも悲しみも、全て分け合って生きていきたい。
今日改めて家族になった大切な貴方と、
この先もずっと、2人で。
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