上 下
53 / 241
第1章過去と前世と贖罪と

48・失った居場所

しおりを挟む
「どういうことですか…?
元の世界に帰れないって…っ」

つい責める口調になっていたのも、無理はないのかもしれない。
私は今までお母さんに会えると信じて、頑張ってきた。
それが今更、帰れない? そんなこと聞いていない――。

「勘違いしないように言っておくけど、
ボクは君がカルマを全て消せば元の世界に返すと言った。
でも確実に帰してあげれるとは言っていない。
君が勝手に期待し、勝手に絶望しているだけだ」
「ふざけないでください!
誤解されるように言ったのはあなたでしょう!!」

そう怒鳴ると、地獄神はため息をついた。

「今、帰ったとしても君の居場所は無い」
「どうして、そんなことが分かるんですか?」

私は少しイライラしながら、そう言った。

「君には説明していなかったかな。
世界って無限にあるんだよ」
「え?」
「俗に言うパラレルワールドだね。
例えば君の世界の第二次世界大戦で、
日本が勝った世界と負けた世界。
君は負けた世界の方の世界の住民だけど、
勝った方の世界もちゃんとあるんだよ」
「…つまりどういう事ですか?」
「それ以外にも些細なことだと、
君が買い物に行った世界と、買い物に行かなかった世界もある。
例えば可能性は極端に低いけど、
君がエドナというあの女性と出会わなかった世界もある。
世界というのは、
常に自分がどのような選択肢を取ったかによって別れていくものなんだよ。
でも選ばなかった世界が偽物というわけじゃない。
全て本物であり、そこに住む住人の魂も全て自分と同じ。
この世界だって、君の世界から見れば異世界だけれども、
ひょっとしたら大昔に何かあって、
魔法のある世界と無い世界に別れたのかもしれない」

そういえばこの世界は1年の数え方も、
時間も私の世界と同じだった。
という事はこの世界は、
私の世界とは違う風に進化してしまった地球ということか?

「そうかもしれないね。
だから君が元の世界に帰るのは不可能なんだよ」
「でも、カルマを全て返せば元の世界に帰すって…」
「帰すことは出来るよ。
でもその帰った世界がどういう風になっているのかボクにはわからない」
「わからない?」
「別の世界に干渉することは、
例え神であっても不可能なんだよ。
人を送り込むことぐらいはできるけど、
その先がどうなっているのかは分からないし、
そこが本当に君の世界なのかも分からない。
だからそれは止めた方がいい」
「でも私はこの世界に来ました。
来たという事は帰ることだって――」
「不可能だよ。
そもそもどうして、
異世界人や異世界の物がこの世界に流れ込んでしまうのか。
神として最高の力を持っているボクにもその原理はよく分からないし、
別の世界に干渉することは出来ないんだ。
ちなみにこれはボク以外の他の神や、その他種族でも不可能だ」

世界を滅ぼせる程の絶大な魔力を持つ地獄神。
彼にも不可能という事は、私にも不可能。
この世界のありとあらゆる力を持つ存在――。
そういった人達でも無理なんだ。

その事実は私を絶望の底に叩き落とすには充分だった。
じゃあ一体何のために私は今まで頑張ってきたんだろう。
ふいに虚しくなって私は地面に座り込んだ。

「じゃあ私は一生母さんに会えないんですね…」

それどころか日本に帰ることも二度とできない。
本当にもう何もかも失ってしまったのと同然のようなものだ。

「そんなに母親が恋しい?」
「当たり前です…。お母さんは私を1人で育ててくれました。
きっと今頃心配しているはずです。だから帰りたいんです」
「………哀れなものだね」

地獄神は哀れむようにそう言った。

「運悪くこの世界に来てしまった。
たったそれだけのことで、
故郷を失い、母を失い、友人を失い、
自分にまつわる全てのものを失い、
これほどまでに苦しまないといけないのだから…。
君にとっては生きていること自体が地獄、なのかもしれないね…」
「私はどうしたらいいのでしょうか…?」
「それはボクには何も言うことは出来ない。
ただ君はこれからも善行を積まないといけない。
そしてカルマを消すことが君の1番の目標であり目的だ。
それだけは確かだ」
「どうして地獄に落ちるのがダメなんですか…?」
「それは君を命がけで助けようとした存在がそう望んだからだよ」
「私を助けようとしてくれた存在?」
「今は教えることができない。
でも時が来れば自然と思い出せるだろう。
だから君は諦めてはダメだ。
諦めたら君を助けるために、
ありとあらゆるものを犠牲にしたあの者が浮かばれない」
「言っている意味がよく理解出来ません…」

これだけ苦しいのに、どうして諦めたら駄目なんだろうか。
帰ったとしても居場所がないのなら、どうして。

「はぁ…君にはこの話をするのは少し早かったかもしれない」

大きくため息を吐くと地獄神はそう言った。

「今はこれ以上話すことができない。
ただこれだけは覚えておいてくれないか。
君が不幸だった原因はカルマのせいであり、君のせいでは無い。
君自身が不幸を呼んでいるわけじゃないんだ。
これだけは理解しておいてほしい」

地獄神の言葉に私は何も反応することができなかった。
当たり前のようにお母さんに会うことを目標にしていた。
それが砕かれて、絶望に落ちない理由がなかった。

その後も地獄神が何か言っていたが、
何を話していたのか覚えていない。
気がついたらいつものようにベットの上に居た。

かなり早朝に目が覚めてしまったのか、
空が明るくなりかけていた。
その見慣れた宿の自分の部屋は、
落ち着く場所ではあるが、自分の部屋では無い。

私はこの世界でたくさんの人と出会った。

みんな良い人達ばかりで、私に優しくしてくれた。
でも故郷にいるお母さんの姿を思い出すだけで、
その人達に対する親しみは薄らいでしまう。

だってお母さんは私が居なくなったら、本当に天涯孤独なんだ。
お父さんは亡くなってしまった。
おばあちゃんはいるけど認知症で、老人ホームに居る。
お母さんはきっと私の事を探している。
ビラ配りとかネットで情報を求めたりしているかもしれない。
でも私は、私は異世界に来ているんだ――。
だからお母さんの努力が実ることはない。

たった2人だけの家族だった。ずっと2人で生きてきた。

その娘を失ってしまった喪失がどれだけのものなのか。

今もこうしてお母さんの顔が思いだ――――。

「え?」

その事実に、私は驚愕し、
さらなる絶望のどん底に追いやられた。



「あれ?」

その日、いつものようにエドナが食堂に入ると、
そこにセツナの姿は無かった。

「まだ寝てるのかしら」

そうエドナが呟いた時だった。

「エドナー!」

食堂に突然ガイが現れた。

「どうしたのいきなり?」
「セツナが居なくなった!」

ガイは焦ったようにそう言った。

「何だか嫌な予感がする…!
すぐに探した方がいい気がする!」
「でも、居なくなることぐらいあることなんじゃ…」

そうエドナが言った時、怪しむような目で周囲の人に見られた。
ああ、そうだ。この妖精の姿は他の人間には見えないんだ。
端から見たら独り言を言っているようにも見られるだろう。

「わかった。探しましょう」

そうして食堂出て、外に出た時、空に雲が覆っていた。

「これは…」

そういえばセツナがエドナのために本気で怒った時、
晴れなのにも関わらず、いきなり黒い雲が町を覆ったと聞いた。
ひょっとしてセツナの身に何かあったんだろうか。
そう思ったら体が勝手に動いていた。

「ちょっと、セツナの姿を見なかった!?」

今にも胸ぐらを掴みそうな勢いで、
エドナは宿の従業員にそう尋ねた。
ぎょっとされたが、そんな事は関係なかった。

「いいえ、見てませんけどっ…」
「わかった。ありがとうッ」

そう言うと、エドナは急いで宿を出た。

「とりあえずセツナが行きそうな場所ってどこかわかる?」
「そうだな、ギルドか神殿の孤児院とか、あと図書館かな」
「わかった。そこに行ってみる。
私は方向音痴だから、道案内は頼むわ」

そうして急いでエドナは走り出した。
そうしてセツナが行きそうな場所を、片っ端から訪ねた。

「セツナを見なかった?!」
「いいや、見てないけど」
「セツナはここに来なかった?!」
「いいえ、今日はここに来ていません」
「短い黒髪の女の子がここに来た!?」
「いえ、見てませんでしたけど…」

だがギルドにも、孤児院にも、図書館にも、セツナの姿は無く、
そうこうしているうちに、しまいには雨まで降ってきた。

「まさかこの雨もセツナの仕業なんじゃ…」

エドナは近くの屋根で雨宿りしながらそう言った。

「そうと決まったわけじゃないと思うけど、
もしも天気がセツナの気持ちに影響しているなら、
この雨は…」

雨はやがて、土砂降りとなり、
エドナは近くの屋根で雨宿りせざる得なかった。

「一体どこにいるのかしら…」
「お前はどこに行きそうだと思う?」
「といっても私は…。
セツナの事をそんなに良く知っているわけじゃないし…」

そもそも出会ってから1ヶ月も経っていない。
だがそんな短い期間であるにも関わらず、
エドナはセツナに自分の過去を打ち明けた。
そして彼女のために何かしてやりたいと思っている。
短い付き合いなのに、さらに言えばエドナは人間不信でもあったのに、
どうしてここまでセツナのことが気になるんだろうか。

「でもお前はセツナのことが好きなんだろう」
「は?」
「いや、友人としてって意味だよ」
「…なるほどね。でも私はこの感情の原因がよくわからない」
「原因?」
「もしもセツナが地獄の支配者から魔力を与えられているのなら、
ひょっとしたらそれ以外にも何らかの力が働いているのかもしれない」
「力?」
「例えば魅了のようなものとか、
実際あの子は気づいてもいないでしょうけど、
意外にあの子のことを好きって人は多いのよ」

例えばギルドの職員のジャンとか、あのハンクという冒険者とか、
意外にセツナのことが好きという人間は多い。

「でもそういう力が働いていたとして…お前はどうするんだ」
「別にどうもしないけど、だとしたら説明がつくじゃない…」
「俺はお前があいつを心配になる理由は、そんな力が原因じゃなくて、
ただ単にそれがお前の使命なんだと思う」
「使命?」
「多分お前は前世でセツナに助けられたんだよ。
すごくお世話になったから、
現世では助けたげようって思うんじゃないのか?」
「はぁ?」

エドナはあまり突飛な類いのものは一切信じていない。
だから突然使命だのなんだの言われても、
受け入れられるはずがなかった。

「でもあいつと出会ってお前は変われたたんだろう。
それは多分お前らが、最初から出逢う運命だったんだ」

そう言われてみると思い当たる節はいくらでもある。
エドナはずっと生きている意味がわからなかった。
どこに行ってもエドナは嫌われ者だったし、軽蔑もされていた。
だがそんなエドナをセツナは受け入れた。
その時にひょっとしたら自分が生きているのは、
全てはセツナを助けるためだったのではないのかと思えてきた。
実際にエドナが助けなければ、セツナは困ったことになっていた。

「そうかもしれないわね…」
「しかしあいつどこに行ったんだろう…」

雨はなお降り続けていた。
エドナは今までずっと考えていた事をガイに打ち明けることにした。

「あの子は多分ものすごく寂しいんだと思う」
「セツナが?」
「だって、あの子は、
なんだか私――いやこの国の人間とは考え方が根本から違う気がするの。
と言うよりそれまで全く別の所で暮らしていて、
ある日いきなりここにやって来たような…。
それぐらいに価値観が違う気がするの。
でも多分それは私にも言えない重大な秘密なんだと思う」
「…確かにあいつは変わっているよな」
「それにあの子はあれだけの力を持っているにも関わらず、
あんまり幸せそうじゃない…。
むしろ何かをとても焦っている。
たぶんあの子は人に幸せになって欲しいから、
人を助けるんじゃなくて、
むしろそれをせざる得ない、
いや、それを強要されているような、そんな気がするの」

実際に最初に孤児院に寄付をした時、
セツナはあまり嬉しそうな顔していなかった。
人を助けるのが生きがい…そんな奇特な人間は何度か見たことがあるが、
セツナはそういったタイプの人間には見えない。

「それは考えすぎじゃないか?
だいたい強要って、誰にされているんだよ」
「…でも時折思うのよ。
この子はものすごく寂しいんだろうなって…。
多分その寂しさは、私じゃ埋められない。
どんなにあの子の母親と似ていたって、
私はあの子の母親じゃない。
母親を失った寂しさを癒せるのは、
あの子の本当の母親じゃないと無理なのよ」

エドナは両親に愛されなかった。
むしろ実の母親を恨んでいるフシもある。
けれども、想像することぐらいは出来る。
母子家庭で育ったとセツナは言った。
母子家庭で育った子供は、母親をとても大事にする。
それは居なくなった父親の代わりに、
自分が母親を守らないといけないと思うからだ。
エドナも実際に思うことあるのだ。
両親に愛されて、両親がちゃんと生きている子供と、
片親、あるいは孤児の子供では、考え方が根幹から違うと――。

それにセツナが優しい性格なのは、
母親がちゃんと愛情を注いでくれたからだろう。
そうでなければセツナが帰りたいと思う理由がない。
母に大切にされたから、母を大切に思っていた。
だが何かの理由があって母親と離れてしまった。
おそらくセツナが自分から離れたという事はないと思う。
本当にどうしようもできないことがあったんだと、
そしてそれが原因で、セツナは――記憶の大部分を失ってしまった。

「あの子に何があったのか、あの子の苦しみが何なのか…。
私はそれを察することができても、取り除くことができない…」

伯爵夫人の前で、権力者に監禁されていたとセツナは言った。
あの後、そのことを直接ではないが、ぼかして聞いてみたら、
セツナは心当たりがないと言った。

おそらく、セツナが自由を願っているのは、
実際に自由じゃない環境に居たせいだろう。
そして、そこでものすごく酷い目に遭った。

だからこそ、彼女の精神は不安定で、不安に満ちている。
たまに妙にポジティブになるのも、
その不安による反動なのかもしれない。

そしてその不安定さに拍車をかけてしまった原因は、
確実にエドナのせいだろう。
エドナと出会ったせいで、記憶を思い出しかけているのかもしれない。
完全に記憶を思い出すしまったらどうなるのかエドナには分からない。

「どうしたら…あの子の役に立てるのか私には分からない」

実際、エドナは無力だ。
セツナの不安定な心を落ち着かせることができても、
その不安定の原因を取り除くことはできない。
どうすればそれが不安定でなくなるのか、
どうすればセツナの寂しさがなくなるのか、エドナには分からない。
自分が本当にセツナの母親だったら良かったのに――。
そう思ってしまうことすらある。

「馬鹿言うなよ。お前は充分役に立っているだろう」
「そうかしら…」
「だってお前が居なかったら、
本当にあいつはダメになると思うぞ。
お前は存在しているだけで、セツナのためになっているんだ」
「…まさかあなたにそんなこと言われるなんて…」
「あれ、言ってなかったか? 俺は76だぞ」

これにはエドナは驚愕した。そうだ、ガイは妖精だった。
人間とは寿命が違っていても当然かもしれない。

「でもあなたって子供に見えるんだけど?」
「妖精は年取っても、人間みたいにヨボヨボにはならないからな。
むしろヨボヨボになる意味が分かんねーし」
「そう…」

その時だった。土砂降りで、誰もが傘を持って歩いているのに、
1人だけ、傘を持たずに歩いている人間がいた。

「え?」

それはセツナに見えたが、うつむいていて表情が見えない。
本当にそれこそ、亡霊でも乗り移ったように、
ふらふらとした頼りない足取りで彼女は歩いていた。
しかも、靴を履いていない。
服も普段のローブとは違い、白い長袖の服とズボンだった。
それはセツナが寝間着として着ている物だとエドナは知っていた。
パジャマと彼女は呼んでいたが、
まさか宿からこの格好でずっと歩いていたのだろうか。

「セツナ…!」

急いでエドナはガイと一緒に、セツナの後を追いかけた。
歩くセツナはそれこそ幽鬼のようだった。
よろよろとした足取りなのに、
どれだけ走ってもエドナはセツナに追いつけなかった。
不思議なことにエドナ以外の人間はセツナの姿に気がついていないようだった。
道の前ですれ違っても、明らかに奇妙ではあるのに振り返りもしない。
朝になってから誰もセツナの姿を見ていない理由がエドナにはわかった。
ただその後ろ姿を見失わないようにエドナは走った。

やがて道の先を歩いていたセツナが立ち止まる。
それは大きな塔のような建物だった。確かここは時計塔と町の人に呼ばれていた。
といっても、落雷が原因で、機械が故障してしまい、
人が見て混乱しないように針はもう外されている。
確かそのうち取り壊す予定だとエドナは聞いている。
セツナはその建物のドアを開き、入っていった。
エドナも急いで中に入る。
立ち入り禁止のため、
鍵がかかっていたはずのドアはあっさりと開くことができた。

「セツナ…!」

時計塔の中はもう人の出入りすらされていないのか、
ひどく寂れていた。
壁には螺旋状の階段があり、セツナはそこを上り始めていた。

「ああ、もうっ」

つくづく体を鍛えていて良かったとエドナは思った。
普通の人間では多分途中で見失ってたかもしれない。

螺旋階段をエドナは急いで登っていく。
ずっと走っていたため、息をするのもしんどいぐらいだった。
だがずっと上っていると、やがて時計塔の上まで来た。
階段の上は屋上につながっていたのか、
ドアを開くと広々とした場所に出た。
これだけ高く、広い場所だというのに、落下防止用の柵もない。
それを見て、どうしてここが封鎖されてしまったのかエドナにはわかった。
これだけの高さがあれば、落下すれば命は無い。
まるで自殺するのにはうってつけの場所――。

「セツナ!」

その地面と、地面でない境界の部分にセツナは立って居た。
後ろ姿なのでどんな表情しているのか、エドナにはわからない。
だがセツナは両手を大きく広げて、雨を全身に受けていた。
そしてその体が前に倒れ――。

「待って!」

エドナは滑り込むようにそこに手を伸ばした。
奇跡的に左手が、落ちかけたセツナの手を掴んだ。

「こんな馬鹿な事は止めなさいッ!!」

そんな言葉が口から出たが、何よりも驚いたのはセツナの表情だった。
まるで感情を失ったように無表情。
目は開いているが、そこに何も映していない。
これは明らかに精神が不安定になっている時のセツナの表情だった。

「私は…」

セツナが何か言いかけて、それを止めた。

「セツナ…早くもう一つの手を伸ばしなさいっ…。
今の私ではあなたをここに持ってこれない…」

昔ならともかく、今のエドナは右手がほとんど動かない。
華奢で小柄とは言え、
人1人を持ち上げる事は片手ではできそうになかった。
ガイが引っ張るのを手伝ってくれているが、
妖精の力ではほとんどアテにならない。
セツナ自身が手伝ってくれないと無理なのだ。

「――…」
「セツナッ!! お願い早くッ!」
「私……ね」

その声はかすれてしまいそうな程、小さく弱いものだったが、
エドナの耳にはそれがはっきりと聞こえた。

「お母さんの顔が…思い出せない」

雨が降る。激しく叩き付ける雨が、2人の体を打ち付けた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

BL / 完結 24h.ポイント:1,398pt お気に入り:32

もふつよ魔獣さん達といっぱい遊んで事件解決!! 〜ぼくのお家は魔獣園!!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,371pt お気に入り:1,911

祝!婚約破棄 自由になったので推しを満喫しに行ってきます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:159

私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,396pt お気に入り:103

蓮華

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:7

旦那様は妻の私より幼馴染の方が大切なようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:23,501pt お気に入り:5,512

処理中です...