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第十五章 試練
6-1 一角獣(ユニコーン)との死闘
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ドーーーーーーンッ
ドンッ
ドガーーーーーーーーーーーーンッッ
まるで、神の怒りを表すが如き雷の洗礼。休む間もない程幾重にも落とされる雷に、ローウェンは悲鳴を上げる。
「ひいいいいいいいッ! 雷怖いよ~~~~!」
ドーーーーーーンッ
腹の底に響くような轟音に両耳を塞ぎながら右往左往していたローウェンは、泣きながら年上の同胞達に助けを求めた。
「レオンハルト兄さん、ジュリナ姉さん、早く出口を見つけてここから出よう!」
しかし……
「王族って王族って王族って王族って」
「お姉様の馬鹿お姉様の馬鹿お姉様の馬鹿」
表に出ているのは、現在鬱になりかけている剣と鏡の宝鍵であった。
「ぎゃああああッ! どうすればいいのさ、アル~~ッ! 僕、雷って嫌いじゃないけど、こんなにはいらない~~~~!」
二人共、役に立ちゃしねぇ!
ローウェンは自分の中に同化する兄に助けを求めるしかない。
「リュセル殿、確か、お主の修業相手だった三千年前の剣の神子達は雷の遣い手だったのであろう? これ(雷)への対処の仕方は何かないのか!?」
弟の懇願に応じ表に出たアルティスは、離れた場所で自分と同じように雷を避けているリュセルに向かい、大声で尋ねる。
ぶつぶつぶつぶつ
雷を避けている間に遠ざかってしまった事もあり、ローウェンが聞いた時のように独り言の内容までは聞こえないが、何やら暗い顔でぶつぶつと呟いているだけで、こちらの言葉に反応しない。レオンハルトの容姿でやられると、かなりシュールな図である。
アルティスは顔を引きつらせながら、今度はもう一人の同胞の方に目を向ける。
ぶつぶつぶつぶつ
こっちもかい!?
ぶつぶつと何やら呟いている美女の姿を見たアルティスは、心の涙を流す。
衝撃の事実。正気なのは自分達だけのようだ…………。
確かに、先程のジュリナの発言は、衝撃の暴露であった。(それもなんでもない事のように話していた)二人の半身が受けた衝撃は計り知れない。
「でもさ、でもさでもさ~」
(言いたい事は分かる。分かるが、今はともかく、避ける事に専念しろ、ロー)
「も~~~~、ちゃんと戦ってよ、二人共~~~~ッ!」
繰り返し落とされる雷の影響で、夜の天空を再現した部屋は、昼間のように明るくなっている。
(目がちかちかしてきた)
あまりの眩さに目が眩んだ瞬間。
(ロー!)
危険を知らせる兄の声が内側で響く。
「ッ!?」
一気に目の前が明るくなった。
避けきれぬ雷が直撃したのだと気づいた時、ローウェンの脳裏を、短い自分の人生、今までの出来事が駆け巡った。
(あ~、これが走馬灯ってやつか)
そう思っていると、低い声が響いた。
「大丈夫か、ローウェン」
「遅くなってすまないねぇ」
腰の抜けたローウェンを庇うようにして立つ、頼もしい同胞の姿。
「レオンハルト兄さん、ジュリナ姉さん!」
ようやく兄弟(姉妹)喧嘩の決着が着いたのか!? しかし、次の瞬間。
(約束だぞ。スノーデュークとの戦いに決着がつき次第、今の話をもっと詳しく聞かせてもらうからな)
「…………」
内心に響くリュセルの声に、レオンハルトは無言で答える。
(四人でお茶をしながら話をしましょうね。お姉様。……うふふ)
「ティ、ティア……、そんな怖いティータイム、私はいらない…………かな?」
内心に響くティアラの言葉を聞き、ジュリナは泣きそうな声で答える。
あ……、多分、これ、決着ついてない。
リュセルとティアラの声は聞こえていないローウェンとアルティスだったが、なんとなく分かってしまった。
「でも、まあ、いいや、今を乗り越えられれば! いくよ、アル!」
超ポジティブ思考のローウェンはそう言うと、感知能力発動のリュセルを庇う位置についたジュリナを横目に見ながら、一角獣(ユニコーン)に突進して行く。
(お、おお、おう、そ、そうよな)
弟のように素早く意識をを切り替えられないアルティスは、どもりながら頷く。
ヒヒーーーーーーーーンッ
甲高い鳴き声を響かせながら威嚇する一角獣(ユニコーン)の雷を避け、その懐に入り込んだローウェンは、その真っ白な横腹を思い切り蹴り飛ばした。
「ん?」
ギロリ
ビクともしない一角獣(ユニコーン)に一睨みされたローウェンは、咄嗟にその場を飛び退く。
ドドーーーーーーンッという鈍い音を響かせて、自分の周囲に雷を発生させた一角獣(ユニコーン)を凝視しながら、ローウェンは額から汗を流す。
「早くリュセル兄さんには出口を見つけてもらわないと、もたないかも」
今までの神獣も強かったが、これは桁が違う。さすがは、光の眷属神に遣える神獣。たかが神子に過ぎない自分達では到底敵わない。怒れる神獣の足元を、こっそりと過ぎ去る事しか出来ぬのだ。
「”紫蝶乱舞”」
そう思いながら一角獣(ユニコーン)の目を眩ます為に、二人は紫の蝶を呼び出した。
「あれは長くもたないぞ」
”朱の刺繍”にて、自分とレオンハルトの周囲に結界を張ったジュリナは、ユニコーンと対峙するローウェンを見て固い声で呟く。
「おい、大丈夫か?」
視線をレオンハルトに移したジュリナは、地面に片手をつき、固く目を閉じる彼の白い額に汗がにじんでいるのを見て目を見張る。
「……ッ」
余程苦戦しているのだろう、答える事も出来ずに眉根を寄せるレオンハルトの内にいるリュセルの感知能力にかけるしか、現状を打破する方法はない。
そして、そのリュセル自身はと言うと……。
(見つからないッ!)
前の部屋の出口も見つけにくかったが、更に難易度が増した状況に焦っていた。
(どこだ……、どこに在る?)
手に届きそうな気がするのに、まったく見えないのだ。
(まさか、俺では駄目なのか?)
他の部屋と何かが根本的に違う。リュセルの感知能力が高いから故にそれに気づいたのだが、肝心の何が違うのかが全く分からない。自分の何かが足らないから見つけられないという事は分かるのだが。
「くそッ」
早くしなければ全滅してしまう。
焦るリュセルを宥めるような声が内心で響いた。
(落ち着きなさい、リュセル)
「分かっている。……分かっているんだが」
焦りは己の思考を乱す。この戦いの場でそれを行う事は自滅するに等しい
(…………)
その様子をじっと見守っていたレオンハルトは、何かを考えているようだった。焦りの真っ只中にあるリュセルは、流れ込んでくるレオンハルトの考えに目を向けている余裕がない。その為、レオンハルトは自分の考えを言葉で伝えた。
(眷属神の部屋が他の神の部屋と違うというのなら、この部屋は、部屋を守る神獣の特性が強く現れているのかもしれないよ。どうしてお前では駄目だと思うのか、よく考えてみなさい。自分では駄目だと思う理由があるはずだ)
諭すような兄の声が響くと同時に、リュセルは目を見開いた。
「一角獣(ユニコーン)の……特性?」
そう呟いたリュセルは、周囲に結界を張り、雷の攻撃から自分の身を守ってくれている女性に目を向ける。
「ティアラ姫」
「……はい?」
呼びかけると、瞬時に表に出ていた姉と交代したのか、柔らかな声でティアラが返事を返した。
「”光礫”」
女神の玉を振りかざし、作り出した無数の光の礫を一角獣(ユニコーン)に叩きつけるが、相手はそれを吸収しながらローウェンに襲い掛かる。
「くっ」
強烈な前脚での蹴りを間一髪で避けたローウェンの体は、あちこちが雷の攻撃を受けた影響で焼け爛れていた。
(ローッ)
もう、技を出す余力も残っていない。
荒い息を吐き出しながら、ふらふらとその場に膝をついたローウェンに止めを刺そうと、一角獣(ユニコーン)が華奢な少年の頭上に、雷をまとわせた逞しい前脚を振り上げた。
やられるッ!
咄嗟に頭を庇うように両手を上げたローウェンの体は、次の瞬間、青年の体に抱き込まれていた。
長い胡桃色の髪をなびかせた麗人が、ローウェンに攻撃集中していた一角獣|(ユニコーン)の一瞬の隙をついて、その首に剣を突き刺したのだ。
「”月光剣”」
ローウェンの体を抱きかかえたままそう呟いた声は、リュセルのもの。レオンハルトの体にしがみついていたが故に、ローウェンはそれを見る事が出来た。
(えっ!?)
時が……
時が止まったのだ。
周囲の時間を止め、身動き一つしなくなった一角獣|(ユニコーン)に、レオンハルトはローウェンを片腕に抱えたまま容赦のない攻撃を繰り出す。その動きは速過ぎて、玉主であるローウェンの目ですら追えない程だ。
パキンッ
という硝子が割れるような音と共に再び時が動き出す頃には、一角獣|(ユニコーン)は原型を止めぬ程に細切れにされていた。
「ひいいいいいいッ、神獣が細切れにいいいいいッ!」
しかし、悲鳴を上げるローウェンの視線の先で、一角獣(ユニコーン)は徐々に再生を始める。
「埒があかんな。ティアラ姫、出口は見つかりましたか?」
ウゴウゴとうごめく一角獣(ユニコーン)の肉片を、眉をひそめて見下ろしていたレオンハルトは、離れた場所にいる鏡鍵に問いかける。
(え? ティアラ姉さんが出口を見つけているの?)
当初の予定と違くなっている事実にローウェンが目を丸くしていると、レオンハルトはその体を抱えたまま走り出す。
「え? なになになに……って、復活するの早過ぎるよ~~~~~~~ッ!」
レオンハルトの肩越しに見える一角獣(ユニコーン)の復活した姿。それを見たローウェンは悲鳴を上げる。
目を血走らせ、雷を呼ぶその様は、神々しくも恐ろしい。
(レオンハルト兄さんに細切れにされて怒ってるんだ。きっと)
そうローウェンが思った瞬間、目の前が真っ白に染まった。
(直撃するッ!)
敵の放つ雷が迫りくる感覚。駄目だ、避けられない!
ローウェンは咄嗟に技を出そうとするが、度重なる連戦で体力の限界なのか、指一本動かせなかった。
「”月光剣”」
そんなローウェンの耳に、再びリュセルの声が届く。その声と共に、レオンハルトは迫りくる雷に相向かい、剣で薙ぎ払う。瞬間、再び周囲の時が止まった。自分に届く寸前で止まった雷に目もくれず、レオンハルトは全力で駆け、ジュリナの元に辿り着く。
そして、時を止めて動かない一角獣(ユニコーン)を呆気にとられたような表情で見上げていたジュリナに体当たりをするようにして、彼女の妹が見つけ出した出口に飛び込んだのだった。
ドンッ
ドガーーーーーーーーーーーーンッッ
まるで、神の怒りを表すが如き雷の洗礼。休む間もない程幾重にも落とされる雷に、ローウェンは悲鳴を上げる。
「ひいいいいいいいッ! 雷怖いよ~~~~!」
ドーーーーーーンッ
腹の底に響くような轟音に両耳を塞ぎながら右往左往していたローウェンは、泣きながら年上の同胞達に助けを求めた。
「レオンハルト兄さん、ジュリナ姉さん、早く出口を見つけてここから出よう!」
しかし……
「王族って王族って王族って王族って」
「お姉様の馬鹿お姉様の馬鹿お姉様の馬鹿」
表に出ているのは、現在鬱になりかけている剣と鏡の宝鍵であった。
「ぎゃああああッ! どうすればいいのさ、アル~~ッ! 僕、雷って嫌いじゃないけど、こんなにはいらない~~~~!」
二人共、役に立ちゃしねぇ!
ローウェンは自分の中に同化する兄に助けを求めるしかない。
「リュセル殿、確か、お主の修業相手だった三千年前の剣の神子達は雷の遣い手だったのであろう? これ(雷)への対処の仕方は何かないのか!?」
弟の懇願に応じ表に出たアルティスは、離れた場所で自分と同じように雷を避けているリュセルに向かい、大声で尋ねる。
ぶつぶつぶつぶつ
雷を避けている間に遠ざかってしまった事もあり、ローウェンが聞いた時のように独り言の内容までは聞こえないが、何やら暗い顔でぶつぶつと呟いているだけで、こちらの言葉に反応しない。レオンハルトの容姿でやられると、かなりシュールな図である。
アルティスは顔を引きつらせながら、今度はもう一人の同胞の方に目を向ける。
ぶつぶつぶつぶつ
こっちもかい!?
ぶつぶつと何やら呟いている美女の姿を見たアルティスは、心の涙を流す。
衝撃の事実。正気なのは自分達だけのようだ…………。
確かに、先程のジュリナの発言は、衝撃の暴露であった。(それもなんでもない事のように話していた)二人の半身が受けた衝撃は計り知れない。
「でもさ、でもさでもさ~」
(言いたい事は分かる。分かるが、今はともかく、避ける事に専念しろ、ロー)
「も~~~~、ちゃんと戦ってよ、二人共~~~~ッ!」
繰り返し落とされる雷の影響で、夜の天空を再現した部屋は、昼間のように明るくなっている。
(目がちかちかしてきた)
あまりの眩さに目が眩んだ瞬間。
(ロー!)
危険を知らせる兄の声が内側で響く。
「ッ!?」
一気に目の前が明るくなった。
避けきれぬ雷が直撃したのだと気づいた時、ローウェンの脳裏を、短い自分の人生、今までの出来事が駆け巡った。
(あ~、これが走馬灯ってやつか)
そう思っていると、低い声が響いた。
「大丈夫か、ローウェン」
「遅くなってすまないねぇ」
腰の抜けたローウェンを庇うようにして立つ、頼もしい同胞の姿。
「レオンハルト兄さん、ジュリナ姉さん!」
ようやく兄弟(姉妹)喧嘩の決着が着いたのか!? しかし、次の瞬間。
(約束だぞ。スノーデュークとの戦いに決着がつき次第、今の話をもっと詳しく聞かせてもらうからな)
「…………」
内心に響くリュセルの声に、レオンハルトは無言で答える。
(四人でお茶をしながら話をしましょうね。お姉様。……うふふ)
「ティ、ティア……、そんな怖いティータイム、私はいらない…………かな?」
内心に響くティアラの言葉を聞き、ジュリナは泣きそうな声で答える。
あ……、多分、これ、決着ついてない。
リュセルとティアラの声は聞こえていないローウェンとアルティスだったが、なんとなく分かってしまった。
「でも、まあ、いいや、今を乗り越えられれば! いくよ、アル!」
超ポジティブ思考のローウェンはそう言うと、感知能力発動のリュセルを庇う位置についたジュリナを横目に見ながら、一角獣(ユニコーン)に突進して行く。
(お、おお、おう、そ、そうよな)
弟のように素早く意識をを切り替えられないアルティスは、どもりながら頷く。
ヒヒーーーーーーーーンッ
甲高い鳴き声を響かせながら威嚇する一角獣(ユニコーン)の雷を避け、その懐に入り込んだローウェンは、その真っ白な横腹を思い切り蹴り飛ばした。
「ん?」
ギロリ
ビクともしない一角獣(ユニコーン)に一睨みされたローウェンは、咄嗟にその場を飛び退く。
ドドーーーーーーンッという鈍い音を響かせて、自分の周囲に雷を発生させた一角獣(ユニコーン)を凝視しながら、ローウェンは額から汗を流す。
「早くリュセル兄さんには出口を見つけてもらわないと、もたないかも」
今までの神獣も強かったが、これは桁が違う。さすがは、光の眷属神に遣える神獣。たかが神子に過ぎない自分達では到底敵わない。怒れる神獣の足元を、こっそりと過ぎ去る事しか出来ぬのだ。
「”紫蝶乱舞”」
そう思いながら一角獣(ユニコーン)の目を眩ます為に、二人は紫の蝶を呼び出した。
「あれは長くもたないぞ」
”朱の刺繍”にて、自分とレオンハルトの周囲に結界を張ったジュリナは、ユニコーンと対峙するローウェンを見て固い声で呟く。
「おい、大丈夫か?」
視線をレオンハルトに移したジュリナは、地面に片手をつき、固く目を閉じる彼の白い額に汗がにじんでいるのを見て目を見張る。
「……ッ」
余程苦戦しているのだろう、答える事も出来ずに眉根を寄せるレオンハルトの内にいるリュセルの感知能力にかけるしか、現状を打破する方法はない。
そして、そのリュセル自身はと言うと……。
(見つからないッ!)
前の部屋の出口も見つけにくかったが、更に難易度が増した状況に焦っていた。
(どこだ……、どこに在る?)
手に届きそうな気がするのに、まったく見えないのだ。
(まさか、俺では駄目なのか?)
他の部屋と何かが根本的に違う。リュセルの感知能力が高いから故にそれに気づいたのだが、肝心の何が違うのかが全く分からない。自分の何かが足らないから見つけられないという事は分かるのだが。
「くそッ」
早くしなければ全滅してしまう。
焦るリュセルを宥めるような声が内心で響いた。
(落ち着きなさい、リュセル)
「分かっている。……分かっているんだが」
焦りは己の思考を乱す。この戦いの場でそれを行う事は自滅するに等しい
(…………)
その様子をじっと見守っていたレオンハルトは、何かを考えているようだった。焦りの真っ只中にあるリュセルは、流れ込んでくるレオンハルトの考えに目を向けている余裕がない。その為、レオンハルトは自分の考えを言葉で伝えた。
(眷属神の部屋が他の神の部屋と違うというのなら、この部屋は、部屋を守る神獣の特性が強く現れているのかもしれないよ。どうしてお前では駄目だと思うのか、よく考えてみなさい。自分では駄目だと思う理由があるはずだ)
諭すような兄の声が響くと同時に、リュセルは目を見開いた。
「一角獣(ユニコーン)の……特性?」
そう呟いたリュセルは、周囲に結界を張り、雷の攻撃から自分の身を守ってくれている女性に目を向ける。
「ティアラ姫」
「……はい?」
呼びかけると、瞬時に表に出ていた姉と交代したのか、柔らかな声でティアラが返事を返した。
「”光礫”」
女神の玉を振りかざし、作り出した無数の光の礫を一角獣(ユニコーン)に叩きつけるが、相手はそれを吸収しながらローウェンに襲い掛かる。
「くっ」
強烈な前脚での蹴りを間一髪で避けたローウェンの体は、あちこちが雷の攻撃を受けた影響で焼け爛れていた。
(ローッ)
もう、技を出す余力も残っていない。
荒い息を吐き出しながら、ふらふらとその場に膝をついたローウェンに止めを刺そうと、一角獣(ユニコーン)が華奢な少年の頭上に、雷をまとわせた逞しい前脚を振り上げた。
やられるッ!
咄嗟に頭を庇うように両手を上げたローウェンの体は、次の瞬間、青年の体に抱き込まれていた。
長い胡桃色の髪をなびかせた麗人が、ローウェンに攻撃集中していた一角獣|(ユニコーン)の一瞬の隙をついて、その首に剣を突き刺したのだ。
「”月光剣”」
ローウェンの体を抱きかかえたままそう呟いた声は、リュセルのもの。レオンハルトの体にしがみついていたが故に、ローウェンはそれを見る事が出来た。
(えっ!?)
時が……
時が止まったのだ。
周囲の時間を止め、身動き一つしなくなった一角獣|(ユニコーン)に、レオンハルトはローウェンを片腕に抱えたまま容赦のない攻撃を繰り出す。その動きは速過ぎて、玉主であるローウェンの目ですら追えない程だ。
パキンッ
という硝子が割れるような音と共に再び時が動き出す頃には、一角獣|(ユニコーン)は原型を止めぬ程に細切れにされていた。
「ひいいいいいいッ、神獣が細切れにいいいいいッ!」
しかし、悲鳴を上げるローウェンの視線の先で、一角獣(ユニコーン)は徐々に再生を始める。
「埒があかんな。ティアラ姫、出口は見つかりましたか?」
ウゴウゴとうごめく一角獣(ユニコーン)の肉片を、眉をひそめて見下ろしていたレオンハルトは、離れた場所にいる鏡鍵に問いかける。
(え? ティアラ姉さんが出口を見つけているの?)
当初の予定と違くなっている事実にローウェンが目を丸くしていると、レオンハルトはその体を抱えたまま走り出す。
「え? なになになに……って、復活するの早過ぎるよ~~~~~~~ッ!」
レオンハルトの肩越しに見える一角獣(ユニコーン)の復活した姿。それを見たローウェンは悲鳴を上げる。
目を血走らせ、雷を呼ぶその様は、神々しくも恐ろしい。
(レオンハルト兄さんに細切れにされて怒ってるんだ。きっと)
そうローウェンが思った瞬間、目の前が真っ白に染まった。
(直撃するッ!)
敵の放つ雷が迫りくる感覚。駄目だ、避けられない!
ローウェンは咄嗟に技を出そうとするが、度重なる連戦で体力の限界なのか、指一本動かせなかった。
「”月光剣”」
そんなローウェンの耳に、再びリュセルの声が届く。その声と共に、レオンハルトは迫りくる雷に相向かい、剣で薙ぎ払う。瞬間、再び周囲の時が止まった。自分に届く寸前で止まった雷に目もくれず、レオンハルトは全力で駆け、ジュリナの元に辿り着く。
そして、時を止めて動かない一角獣(ユニコーン)を呆気にとられたような表情で見上げていたジュリナに体当たりをするようにして、彼女の妹が見つけ出した出口に飛び込んだのだった。
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