【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十五章 試練

6-2 最後の部屋

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「痛たたたた……。オイ、いきなりぶつかってくるんじゃないよ!」

 無事、一角獣(ユニコーン)の攻撃をかいくぐり、光の第五眷属神バシェデュークの部屋を脱出したジュリナは、自分に覆いかぶさって倒れる幼馴染みに文句をつける。

「ぼ~と立っていたお前が悪い」

 そう言いながら、ジュリナの体から身を起こしたレオンハルトは、腕に抱えていたローウェンの体を気遣った。

「大丈夫か、ローウェン」

 自分達の持つ技や能力の特性から

 出口探しをリュセル(レオンハルト)
 守りをジュリナ(ティアラ)
 敵の意識をひきつけるのをローウェン(アルティス)

 という役割で来た為、最も体力的に厳しかったのは、ローウェンだったはずだ。

「うん、どうにか大丈夫」

 少しは体力が回復したのか、自分の体のあちこちに出来た火傷を玉の光(”癒光”)で直していたローウェンは、疲れたように頷く。

「ねえ、どうしてリュセル兄さんじゃなくて、ティアラ姉さんが出口を探していたの?」

 その場にへたり込んで、体を休めながらそう尋ねてきたローウェンにリュセルが答える。

「あの部屋を守る神獣の特性から、もしかすると、女性しか出口を見つける事が出来ないのではないかと思ったからだ。案の定、俺では見つけられなかった出口をあっさりとティアラ姫が見つけてしまったからなぁ」

「なるほど」

 仕える神が女神である事といい、どこまで女好きな神獣なのだ。とローウェンは呆れたような気持ちになってしまう。……と、そんな事を言い合っている二人にジュリナが横から口を挟んで話題を変える。

「それにしても、お前。あんな技があるならさっさと出せよな。あの技でルドガーとグレアムを負かしたんだろ?」

 雷を操る”雷鳴剣”の使い手だった、三千年前の剣主と剣鍵。彼らに対抗するには、一瞬でもいいから時を止めるしかなかった。それ程に強敵だったのだ。彼らは……。

「”雷鳴剣”は、どんなに頑張っても、俺では操る事は出来なかったからな。あの技はグレアムだからこそ出来る技だ。”月光剣”を習得するのが俺は手一杯だったさ。ティアラ姫やアルティスのように相手の技を盗む事は出来なかったよ」

 そう言いながら、リュセルが煤けたローウェンの服の裾を払っていると、ジュリナは呆れたように呟いた。

「なあに、拗ねてるんだい。確かに私もローウェンも修業相手の技を盗む事には成功したが、それは、たまたま自分の半身の特性が盗んだ技に合っていたからさ。お前に相手に落雷をもたらす”雷鳴剣”は似合わない。馬鹿みたいにお人好しなお前に、相手を傷つける技は似合わないよ」

「ジュリナ殿……」

 感動に目を潤ませるリュセル(レオンハルトの姿)に向かって、ニヤリと男らしく……、いや、漢らしく笑って見せたジュリナは、前方に目を向けた。

「さて、ようやく最後の部屋だねぇ」

 光の第二眷属神レイデューク。

「ね、ねえ。まさか、月狼(フェンリル)と戦う事になるんじゃないよね?」

 母神の部屋に通じる扉の前で、ローウェンは両脇にいる同胞達に話しかけた。

「う~ん、この先どうなるんだか、まったく分からないね」

 ポリポリと頭を掻くジュリナと無言のまま扉を見つめるレオンハルト。

「行くしかあるまい」

 そう言って、扉に手を添えたレオンハルトがそのまま内側に開けるのを見守っていた二人は、頼もしい当代の剣主の背を追って、中に足を踏み入れる。



「……さっきと同じ、夜の部屋だね」

 ローウェンのその言葉通り、そこには、先程の部屋と同じ光景が広がっていた。そうして、三人が周囲を油断なく見回していると、目の前に銀の光が溢れる。

「ッ……」

「な、なに!?」

「…………」

 三者三様の反応をしていると、女性の声が響いた。

「再びわらわの力が必要になったのか? 吾子」

 印象的な声。強く優しく、柔らかい。それは、純真な少女のようであり、優しい母のようでもある。誰もが焦がれて止まぬ創世神。女神、レイデューク。

 神獣フェンリルではなく、神そのものが姿を現した事実。それに呆気にとられていた彼らは、同化が解かれていた事にも最初気づけずにいた。

 本人の意思に関係なく同化を解いた神子達は、本来の六人に戻っており、リュセルもティアラもアルティスも、半身の目を通してでなく、本来の自分の目で、ティアラによく似た容姿の母神を見つめる。

「レイデュークなのか?」

 流れる銀糸の髪、褐色の肌、目元の証(泣き黒子)。その姿は、リュセルが夢の中で何度か会った事のある女神に他ならない。

 優しく微笑む彼女の足元には、月狼(フェンリル)が静かに控えており、とりあえず、攻撃の意志がない事だけは分かった。

「そうであって、そうではない。わらわは、この試練の迷宮に留まるレイデュークの残留思念に過ぎん。ここにおる他の神も同じだ。力を欲するお前達のような神子の為に、ここに存在し続けておる」

 残留思念。それを聞いて納得する。レイデュークの魂は転生を果たしている。ここに在るはずがないのだ。

「さて、試練に挑戦させる前に聞きたい。お前達は何の為に力を欲する?」

 柔らかく厳しく届く声に、既に試練が始まっている事を、皆悟っていた。

 長い沈黙の後、皆を代表してリュセルが答える。

「助けたい人がいる。運命に抗って生きて、それでも抗いきれずに闇に捕らわれたあの人を、連れ戻したい」

 世界を邪気の脅威から救いたいのも事実。邪神との諍いに決着をつけたいのも事実。しかし、最も想うのは彼の事だ。邪混鬼として産まれ、この世の幸せを何も知らずに散ろうとしているあの青年。

 リュセルやレオンハルトと違い、他の神子はあまりセフィランと関わりを持っては来なかった。ジュリナやティアラはアシェイラ城で行き合った時に少し話した事のある程度だし、ローウェンやアルティスに至っては会った事すらない。

 それでも、救おうと思った。救いたかった。

 彼らにとって、同胞であるリュセルとレオンハルトが命がけで助けようとしている。その事実だけで充分だったのである。

「……………………。前に訪れた神子達も同じ事を言っておった。救いたい者がいる、……と。あの子らは、その者を助けられたのだろうか」

 前に訪れた神子。それは、三千年前の神子達の事だろう。

 彼らはリンスロットを助けられなかった。

 世界の安寧と引き換えに、自分達の命と同胞たるリンスロットを失った。その結果、唯一残された神子、イプロスは狂ったのだ。

 とても口に出せる結果ではない。

 そんなリュセル達の心を読んだのか、女神は悲しそうに笑った。

「そうか……。あの子らは、大切な者を取り戻せなかったか」

 そうして一瞬目を伏せると、厳しい声で告げる。

「それでも行くか? 試練に成功したとしても、彼らのようにお前達の望みは叶わぬかもしれぬ。それでも挑戦するか?」

 リュセル、レオンハルト、ジュリナ、ティアラ、アルティス、ローウェン。六人の目を順番にじっと見つめた女神は、彼らの中にある意志を感じ取り、頷いた。

「分かった、行くがよい。吾子」

 優しい母神の微笑みを最後に、リュセル達の意識は途切れた。

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