360 / 424
第十五章 試練
6-3 心の闇①
しおりを挟む突如訪れたのは、闇だった。
(ここはどこ?)
急に一人っきりにされてしまったローウェンは、慌てて周囲を見回すが、そこに広がるのは静かな闇の世界でその目に何も映らない。
「リュセル兄さん、レオンハルト兄さん?」
先程まで傍にいた同胞達の名を呼ぶ。
「ジュリナ姉さん、ティアラ姉さん?」
一体、皆どこに行ったのだろう。
「アル!?」
兄の名を呼んだその時、ふっといきなり目の前に明かりが灯った。宙に浮かぶ炎の明かり。ユラユラと揺れるそれの前にいた人物を見て、ローウェンは絶句した。
十代後半程の年齢の女性。その可愛らしい顔立ちから年齢よりも幼く見えるだけで、実年齢が二十代前半である事をローウェンは知っている。
そう。彼女が亡くなったのが、確かその位の年齢だった。
にっこりと愛らしく笑う女性。こんな笑顔を、ローウェンはその生前、終ぞ見る事は叶わなかった。
「お母……、さん」
呆然とそう呼びかけた瞬間、女性の雰囲気が変化する。
ふっくらとしていた頬は窪み、健康的な体形をしていた体はやせこけ、薄紅色の顔色は真っ白に変わる。可愛らしい女性の姿から、まるで幽鬼のような姿に変貌してしまった彼女にローウェンは絶望を味わう。
この女性は、自分の所為でこうなってしまった。自分を産んだばかりに不幸な人生を歩み、絶望の中死んでしまった。目を大きく見開いて自分を凝視する息子に向かい、彼女は再び呪いの言葉を投げつける。
「お前など、産まれてこなければよかった!」
呪われた左目の色。忌まわしい忌色。幼い頃より何度この目を抉り出そうとしたか……。
ーそう、その色は僕の色。君は僕の子も同じ。邪神の子。誰からも愛されず、そして、誰も愛せないー
いつの間に現れたのか、ローウェンの隣に紫電の色を宿す少年神が現れる。
ーそうだろう? ローウェン。君もすべてが憎いんだろう?ー
頭の中に響く闇の誘惑の声にローウェンの顔は泣きそうに歪んだ。
突如訪れたのは、闇だった。
(ここはどこだ?)
急に一人っきりにされてしまったアルティスは慌てて周囲を見回すが、そこに広がるのは静かな闇の世界でその目に何も映らない。
「リュセル殿、レオンハルト殿?」
先程まで傍にいた同胞達の名を呼ぶ。
「ジュリナ殿、ティアラ姫?」
一体、皆どこに行ったのだろう。
「ロー?」
弟の名を呼んだその時、ふっといきなり目の前に明かりが灯った。宙に浮かぶ炎の明かり。ユラユラと揺れるそれの前にいた人物を見て、アルティスは絶句した。
暗い色の着物を着た、厳格そうな顔立ちの老紳士。
「お、お祖父様」
「何故だ、アルティス……」
呆然と立ち尽くすアルティスに、祖父、メルティスは悲しげに呟いた。
「何故、裏切った!?」
その言葉と共に、メルティスの体は崩れ落ち、巨大な木の幹に変貌する。ルルドの木だ。かつて見た祖父の最期の姿そのものに、アルティスの心臓は痛い位に鼓動を早める。
ーかつて君を可愛がり、面倒を見てくれていた後見人。大事なお祖父様を裏切ってしまったねー
いつのまにか背後に現れた紫電の瞳の少年は、アルティスの耳元で楽しそうに話を続ける。
ーメルティスは、きっと君を恨みながら死んでいったよ。なんてひどい孫なんだ、君はー
心の傷を抉るようなその言葉に、気づけばアルティスは血が滲む程強く唇を噛みしめていた。
突如訪れたのは、闇だった。
(ここはどこだい?)
急に一人っきりにされてしまったジュリナは、慌てて周囲を見回すが、そこに広がるのは静かな闇の世界でその目に何も映らない。
「リュセル? お~い、レオンハルト?」
先程まで傍にいた同胞達の名を呼ぶ。
「ローウェン、アルティス~~?」
一体、皆どこに行ったのだろう。
「ティア?」
妹の名を呼んだその時、ふっといきなり目の前に明かりが灯った。宙に浮かぶ炎の明かり。ユラユラと揺れるそれの前にいた人物を見てジュリナはほっと息を吐いた。
赤茶色の髪の美女と黒髪の儚げな青年。
「お母様、お父様」
二人共、男装も女装もしていない。本来の性別に合った服装をしている。それに、心なしか少し若いようである。
「じゃあ、ジュリナ。己達はもう行くよ」
「お祖母様と妹達を頼んだよ」
旅装束姿の二人は、目の前にいる少女にそう告げて、別れの抱擁をする。
朱金の髪を背後に垂らした、赤いドレス姿の少女。少女……、若い頃のジュリナは、両親の言葉に深く頼もしく頷く。
「はい、任せて下さい」
逃げるようにして自国を旅経つ両親には、とても本当の事は言えなかった。
本当は、不安だった。とてもとても不安だったのだ……。
自分の少女時代の姿を遠くから見ていたジュリナの耳元に、紫電色の瞳の少年神がささやきかける。
ー君が男装しかしなくなったのは、この時からだよね? それまでは、侍女達やお祖母様に請われては、渋々ドレスを着る事もあったのに……なんでかな?ー
侮られたくなかった。自分は男よりも強くなくてはならなかった。
ーでも、怖かったんだよね? お母様とお父様がどこか自分の知らないところで死んでしまうんじゃないかって、どこかでずっと怯えていた。ふふ、弱い女の子だ。……とても弱いね、君はー
強い存在で在ろうとし続けたジュリナは、その言葉を聞くと同時に固く目を閉じた。
突如訪れたのは、闇だった。
(ここはどこですの?)
急に一人っきりにされてしまったティアラは、慌てて周囲を見回すが、そこに広がるのは静かな闇の世界でその目に何も映らない。
「リュセル様、レオンハルト様?」
先程まで傍にいた同胞達の名を呼ぶ。
「ローウェン、アルティス?」
一体、皆どこに行ったのだろう。
「お姉様?」
姉の名を呼んだその時、ふっといきなり目の前に明かりが灯った。宙に浮かぶ炎の明かり。ユラユラと揺れるそれの前にいた人物を見て、ティアラはほっと息を吐いた。
朱金の髪の少女。
「お姉様」
赤いドレス姿の少女の年の頃は、十四~十五歳位。
ジュリナは今年二十五歳になったのだ。こんな少女の姿をしているはずがない。
「よく聞いて、ティア」
「なあに? お姉様」
両手でうさぎのぬいぐるみを抱えた五歳位の年齢のティアラが、まっすぐな瞳で少女のジュリナの顔を見上げていた。
「お母様とお父様が亡くなったの。これからは私達で、お祖母様と妹達を支えなくてはいけないんだ。分かる?」
「なくなる……?」
幼いティアラには、姉の言っている事がよく分からなかった。
「どこにもいなくなるという事。もう、私達はお母様とお父様に会えないんだよ。」
「そんなのいやッ!」
泣き叫ぶ妹の体をまだ少女に過ぎない華奢な身でジュリナが抱き締める。
「おねえさま、おねえさま」
行かないで、お姉様だけはどこにも行かないで!
泣き続けるティアラの願いも空しく、赤いドレスのみを残してジュリナの姿は忽然と消えた。
「お姉様?」
ーいつか、お母様やお父様のようにお姉様も自分の傍からいなくなるかもしれないよ。君はそれに耐えられるかな?ー
ガタガタと震えるティアラの顔を覗き込みながらささやく、紫電の色の瞳の少年神。
ーみんな、君を残していなくなってしまうかもしれないねー
その言葉を聞いた途端、ティアラは顔を両手で覆ってその場に膝をついた。
0
あなたにおすすめの小説
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。
天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】
さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。
英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。
この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。
「さあ気に入ったsubを娶れ」
「パートナーはいいぞ」
とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。
待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。
平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる