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第十五章 試練
13-2 新たなる犠牲者
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王宮に在る祭礼の間にて、王族の席についていた少年は疲れたような顔でため息をつく。
「ユリエ姉上がいないと、なんか、やっぱりグダグダ感がいなめないよね~。この側室受け入れの儀自体、急な事ってのもあるケドさ」
祭事の場である為いつもの赤い振袖姿ではない、空色の布地が爽やかな束帯姿。きっちりとした王族としての正装に身を包んでいたスカイは、隣に座る兄に小声で言った。
「まあな。俺達では、まだまだユリエ姉上の足元にも及ばないのだろう。もっともっと精進しなくては……」
紺色の束帯を身にまとったシオンは、眼鏡の縁をわずかに上ながら同じように小声でそう答える。
「……お前ら、過ぎ去った儀式の準備期間の事を反省するのは、これが終わってからにしろよ」
二人の会話を聞いていたレインは、そう言って弟達に注意をする。
その深緋の束帯姿の美丈夫(一見)の姿は、儀式の場でもなかなか目立っており、集まった王族貴族達の中でも一際派手だった。
「そうだったな。今は、兄王様の儀式に集中しなくては」
そう言って、真面目なシオンは、部屋の中央で二人の側室を迎えた王の横顔に意識を集中する。
「違うって、男なら側室の方に意識を集中させろよ。……って、おお、顔が見えた。貴族派が差し出してきた娘は、ま~、美人だが気位が高そうな娘だな。年は二十歳だっけ? スタイルはいい。胸がデカい」
「…………」
「……まあ、レイン兄上が真面目な事言う訳ないよね。分かってたよ、僕は」
好色な視線を兄王の妻(側室)にまで向けるレインを見てシオンは黙り込み、スカイは自嘲する。
「学者派の方の娘は、二十一歳だっけか? こっちはこっちで、一見清楚系美女だが、なかなか強かそうな……。うん、胸はデカい」
この男、胸しか見てない。
スカイとシオンは胡乱な目を兄に向けながら、同じ事を考えていた。
「しっかし、怖いね。ありゃ」
弟達の視線を意に介さずにそう言ったレインの言葉通り、貴族派の側室と学者派の側室は、この儀式の時点で既に互いを敵視しており、火花をぶつけあっていて、それを目の当たりにしたスカイとシオンは段々と恐れ戦いていく。
「怖いよ~。女の人、怖いよ~~(泣)」
「落ち着け、スカイ! あんなのは女の一部に過ぎない。…………多分」
バチバチバチバチ
火花を散らせ合う女達に挟まれている当の本人はというと、垂れ気味の目を笑みの形にして、終始にこにこと目の前の女の争いを眺めていた。
「さすがは、兄上。う~ん、偉大だ。しかし今夜、兄上は一体どっちの娘(こ)の寝所に先に行くつもりなんだろう? どっちを選んでも一波乱ありそうだよなぁ。まあ、どっちも胸がデカいし、スタイルいいし、どっちを選んでもいい思いは出来そうだけど」
「レイン兄上、そんな事ばっかり言ってると、マーリンに言いつけるからね!」
本日も王の護衛の一人として、陰ながら周辺の警備についている少女の事をスカイが口にした途端、レインは口を閉ざした。
「…………」
本命の少女に変な事を言われては困ると言わんばかりの態度に、スカイとシオンは顔を見合わせて小さく笑ったのだった。
一方、祭礼の間の外にて、侍女の一人に扮しながらさりげなく儀式と王の警備に当たっていたマーリンは、王宮に出入りする様々な人々を監視していた。
前王妃レティシアは、まだ体調が万全でない為、儀式には参加していないが、この側室迎えの儀には、すべての直系王族と国の中枢を束ねる重臣達が参加しており、警備も厳しいものにせざるを得なかった。
(これで、師匠に言われた場所のチェックは済んだナ。後は……)
レインに指定された、襲撃者が潜みそうな場所のチェックを終えると、マーリンはほっとため息をつく。
「師匠」
レインの事を思い出すと、顔が熱くなるのが分かる。
約二月程前、レティシアが邪鬼に襲われ、サイレンと再会した後、マーリンはかなりの恐慌状態が続いた。それを宥め、マーリンが正気に戻るまで抱きしめてくれていたレインの優しさに救われ、ずっと感謝していたのだ。
そんな彼に、つい先日、想いを告げられた。好きだと、恋人になって欲しいと、言われたのである。
女性としての自分を愛しいと想ってくれているレインにいつしか惹かれていたマーリンは、それでも迷っていた。
何故なら、自分はアシェイラ国の王族とディエラ国の王族を害した大罪人だ。そして、相手はサンジェイラ国の王弟。罪人が王族とつき合う事など、許されるはずがない。
そう思いながらも、マーリンはレインの事を想う事をせずにはいられなかった。
極度の女好き、男好き、綺麗なもの大好きで、あのリュセル王子にも言い寄った事があると彼の弟達から聞いた事があるが、マーリンがレインに拾われてその世話になってからは、彼がそんな素振りを見せた事は一度もない。
彼はマーリンの為に変わったのだと言っていた。マーリンの事が大切だから、変われたのだと……。
「戻ろう」
考えるのを止めたマーリンはそう呟いて、再び祭事の護衛の為、祭礼の間の扉前に戻ろうと歩き始める。今いる場所は、城の中庭だ。件の部屋とはずいぶんと離れてしまっている。
その時、クイッとマーリンの着る小袖を引っ張る小さな手があった。
「ナニ? どうしたの?」
五~六歳の子供だ。貴族達の内の誰かが連れてきた子供の一人だろうか? 今日は、たくさんの貴族の妻子が儀式の後に行われる祝いの席に参加する為、城を訪れていた。
「迷子?」
しゃがみ込み、子供の目線に合わせて尋ねると、子供は無表情のまま抑揚のない声で言った。
「我らが父神ガ、お呼びダ……同胞ヨ」
瞬間
子供の両の瞳が紫電に輝く。
「ッ!!??」
驚愕に目を見開くマーリンの周囲の光景が、一瞬で変わった。
何もない暗闇。
闇の亜空間。
「迎えに来ましたよ、マーリン。あなたの胎を我らが父はご所望です」
聞き覚えのある男声。
それは、蜜のように甘く優しげな……
昔、盲目に慕っていた邪鬼。
相手の正体に気付いた時には既に遅く、マーリンは力強い闇の腕(かいな)に背後から抱かれてしまう。悲鳴を上げる暇もなく、サイレンの腕に絡めたられたマーリンの意識は闇に沈み、浮き上がる事は二度となかった。
そして、この日を境に、マーリンの姿はサンジェイラ国から消え、その消息は要として知れなくなったのだった。
「ユリエ姉上がいないと、なんか、やっぱりグダグダ感がいなめないよね~。この側室受け入れの儀自体、急な事ってのもあるケドさ」
祭事の場である為いつもの赤い振袖姿ではない、空色の布地が爽やかな束帯姿。きっちりとした王族としての正装に身を包んでいたスカイは、隣に座る兄に小声で言った。
「まあな。俺達では、まだまだユリエ姉上の足元にも及ばないのだろう。もっともっと精進しなくては……」
紺色の束帯を身にまとったシオンは、眼鏡の縁をわずかに上ながら同じように小声でそう答える。
「……お前ら、過ぎ去った儀式の準備期間の事を反省するのは、これが終わってからにしろよ」
二人の会話を聞いていたレインは、そう言って弟達に注意をする。
その深緋の束帯姿の美丈夫(一見)の姿は、儀式の場でもなかなか目立っており、集まった王族貴族達の中でも一際派手だった。
「そうだったな。今は、兄王様の儀式に集中しなくては」
そう言って、真面目なシオンは、部屋の中央で二人の側室を迎えた王の横顔に意識を集中する。
「違うって、男なら側室の方に意識を集中させろよ。……って、おお、顔が見えた。貴族派が差し出してきた娘は、ま~、美人だが気位が高そうな娘だな。年は二十歳だっけ? スタイルはいい。胸がデカい」
「…………」
「……まあ、レイン兄上が真面目な事言う訳ないよね。分かってたよ、僕は」
好色な視線を兄王の妻(側室)にまで向けるレインを見てシオンは黙り込み、スカイは自嘲する。
「学者派の方の娘は、二十一歳だっけか? こっちはこっちで、一見清楚系美女だが、なかなか強かそうな……。うん、胸はデカい」
この男、胸しか見てない。
スカイとシオンは胡乱な目を兄に向けながら、同じ事を考えていた。
「しっかし、怖いね。ありゃ」
弟達の視線を意に介さずにそう言ったレインの言葉通り、貴族派の側室と学者派の側室は、この儀式の時点で既に互いを敵視しており、火花をぶつけあっていて、それを目の当たりにしたスカイとシオンは段々と恐れ戦いていく。
「怖いよ~。女の人、怖いよ~~(泣)」
「落ち着け、スカイ! あんなのは女の一部に過ぎない。…………多分」
バチバチバチバチ
火花を散らせ合う女達に挟まれている当の本人はというと、垂れ気味の目を笑みの形にして、終始にこにこと目の前の女の争いを眺めていた。
「さすがは、兄上。う~ん、偉大だ。しかし今夜、兄上は一体どっちの娘(こ)の寝所に先に行くつもりなんだろう? どっちを選んでも一波乱ありそうだよなぁ。まあ、どっちも胸がデカいし、スタイルいいし、どっちを選んでもいい思いは出来そうだけど」
「レイン兄上、そんな事ばっかり言ってると、マーリンに言いつけるからね!」
本日も王の護衛の一人として、陰ながら周辺の警備についている少女の事をスカイが口にした途端、レインは口を閉ざした。
「…………」
本命の少女に変な事を言われては困ると言わんばかりの態度に、スカイとシオンは顔を見合わせて小さく笑ったのだった。
一方、祭礼の間の外にて、侍女の一人に扮しながらさりげなく儀式と王の警備に当たっていたマーリンは、王宮に出入りする様々な人々を監視していた。
前王妃レティシアは、まだ体調が万全でない為、儀式には参加していないが、この側室迎えの儀には、すべての直系王族と国の中枢を束ねる重臣達が参加しており、警備も厳しいものにせざるを得なかった。
(これで、師匠に言われた場所のチェックは済んだナ。後は……)
レインに指定された、襲撃者が潜みそうな場所のチェックを終えると、マーリンはほっとため息をつく。
「師匠」
レインの事を思い出すと、顔が熱くなるのが分かる。
約二月程前、レティシアが邪鬼に襲われ、サイレンと再会した後、マーリンはかなりの恐慌状態が続いた。それを宥め、マーリンが正気に戻るまで抱きしめてくれていたレインの優しさに救われ、ずっと感謝していたのだ。
そんな彼に、つい先日、想いを告げられた。好きだと、恋人になって欲しいと、言われたのである。
女性としての自分を愛しいと想ってくれているレインにいつしか惹かれていたマーリンは、それでも迷っていた。
何故なら、自分はアシェイラ国の王族とディエラ国の王族を害した大罪人だ。そして、相手はサンジェイラ国の王弟。罪人が王族とつき合う事など、許されるはずがない。
そう思いながらも、マーリンはレインの事を想う事をせずにはいられなかった。
極度の女好き、男好き、綺麗なもの大好きで、あのリュセル王子にも言い寄った事があると彼の弟達から聞いた事があるが、マーリンがレインに拾われてその世話になってからは、彼がそんな素振りを見せた事は一度もない。
彼はマーリンの為に変わったのだと言っていた。マーリンの事が大切だから、変われたのだと……。
「戻ろう」
考えるのを止めたマーリンはそう呟いて、再び祭事の護衛の為、祭礼の間の扉前に戻ろうと歩き始める。今いる場所は、城の中庭だ。件の部屋とはずいぶんと離れてしまっている。
その時、クイッとマーリンの着る小袖を引っ張る小さな手があった。
「ナニ? どうしたの?」
五~六歳の子供だ。貴族達の内の誰かが連れてきた子供の一人だろうか? 今日は、たくさんの貴族の妻子が儀式の後に行われる祝いの席に参加する為、城を訪れていた。
「迷子?」
しゃがみ込み、子供の目線に合わせて尋ねると、子供は無表情のまま抑揚のない声で言った。
「我らが父神ガ、お呼びダ……同胞ヨ」
瞬間
子供の両の瞳が紫電に輝く。
「ッ!!??」
驚愕に目を見開くマーリンの周囲の光景が、一瞬で変わった。
何もない暗闇。
闇の亜空間。
「迎えに来ましたよ、マーリン。あなたの胎を我らが父はご所望です」
聞き覚えのある男声。
それは、蜜のように甘く優しげな……
昔、盲目に慕っていた邪鬼。
相手の正体に気付いた時には既に遅く、マーリンは力強い闇の腕(かいな)に背後から抱かれてしまう。悲鳴を上げる暇もなく、サイレンの腕に絡めたられたマーリンの意識は闇に沈み、浮き上がる事は二度となかった。
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