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第十五章 試練
13-1 妃問題の解決
しおりを挟む光だった。
先の見えぬ絶望の中
お前という存在は
俺の中の暗闇を照らす
…………たった一筋の、光だった。
セフィランは昔の自分に似ていた。
見ていて嫌になる程、昔の自分に似ていたのだ……。
サイレンは自分の胸に右手の平を添えると、そこに隠し続けてきたそれの存在を感じる。
誰にも知られずに今まで守ってきた、それ。
唯一無二の主である父神にさえ、今だにそれを持っている事に気づかせなかった。
何故そうしたのか分からない。
千々に引き裂かれたそれは、とても儚く弱い、ただの欠片に過ぎない。
それでも…………。どうしても、自分を照らした唯一の光を失う事が出来なかったのだ。
「姉上を創る事にしたよ」
リュセルを追い、遠く離れた異世界に意識をやっていたスノーデュークは、失意の中目覚めると同時にその場に跪いた忠実なる僕(しもべ)にそう言った。
「……は?」
その言葉を聞いたサイレンは、つい、まぬけな声を上げてしまう。
「ぷっ、あはははは、まぬけな顔!」
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セフィランの魂は、前の器、リンスロットと同じように邪鬼達の餌にするつもりでいるらしい。
側近だった邪鬼のほとんどが三千年前の神子に封印され、残った数少ない側近も現代の神子と転生した古の勇者に浄化されてしまった為、再び力の強い邪鬼を創り出すには時間も邪気もかかる。
「サイレン一鬼じゃ寂しいからね。今回の戦いに決着をつけたら、また仲間を創ってあげる。そしたら、その子達にセフィランの魂を分け与えるつもりだよ。もちろん、またサイレンにもあげる。美味しく食べて力をつけてね」
無邪気に笑って残酷な事を口にするスノーデュークに向かい、サイレンは深く頭を下げて答える。
「ありがとうございます。唯一無二の我が父よ」
スノーデュークはサイレンの答えに満足そうに頷き、後ろを振り返った。
「さてと……」
紫電の瞳に映り込むのは、自分自身が長い刻、眠りの寝台にしていた水晶の棺。
その中に封印されているのは、かつて器とした青年の肉体。
三千年前の鏡主。
太陽王と謳われた、眩き神子。
安らかに眠っているようにしか見えないその青年に、魂はない。それは、遙か昔に永遠に失われていた。
「今までありがとう、リンスロット。君の魂は邪鬼達の力の糧となった。肉体も、最後まで僕の役に立たせてあげる」
「マスター?」
リンスロットの血の気のない真っ白な頬に手を伸ばしたスノーデュークは、ペロリと舐め上げた。
「姉上を創り出すには、もっと力が必要なんだよ。サイレン」
自分に向かってにこりと笑ったスノーデュークの笑みを見て、サイレンは邪神が何をしようとしているのかすべてを悟る。
(ああ……)
ああ
ああ、リンスロット。
お前の光を
俺はもう
思い出す事は出来ない。
「サイレン、お前も準備を進めてよ。母胎となる娘を用意しておくれね」
耳に届くは、優しい闇の声。
「はい、マスター」
最後まで、お供致します。
…………我が主。
サイレンはそう答えながらも、無意識の内に自分の胸に潜ませたそれの存在を感じたくて、胸元にそっと右手を添えていた。
*****
リュセル達女神の子供達が、それぞれの試練を終えたと同時刻。
スノウ大陸の中央、女神の眠る神地、セイントクロス神殿より北に位置する国では、一つの大きな出来事が起きていた。
サンジェイラ国王、アサギの正妃と側室が同時に決まったのである。
邪神が復活し、世界が危機に瀕しているという事は、各国の一部の王族にしか知らされておらず、事の重大さを知るアサギは、なんとか正妃問題の解決を先延ばしにしようとしていたのだが、事情を知らぬ一部の重臣達の懇願に屈し、決めざるを得なかったのだ。
現在、サンジェイラ国の宮廷は三つの派閥に分かれている。
古くからいる古参の貴族達が中心となり、自分達だけの利益の為にのみ国を動かしていこうという、貴族派。位とプライドばかりが高い大貴族達。
己の実力のみで宮廷権力の中枢にまで上り詰めた、成り上がりの新鋭貴族で構成された、学者派。トラキアの学塔出身者が多い、頭脳明晰な学者達。
そして、最後の一つが、アサギ派。王族を中心に構成された、王の味方である。
三つの派閥の中でも最も力があり、やっかいなのが貴族派だった。
彼らは、前王ミゼールの時代に権力と味方を大幅に増やし、国王でさえ滅多に手出し出来ないような存在になっていたのだ。
そんな貴族派より、国王となったアサギは試され続け、新しく国王となった青年が自分達の傀儡と出来るような大人しい器ではないと知った彼らは、今度は刺客を送り、自国の王を暗殺しようと企て始めた。
その企みも、優秀な王の護衛達のおかげですべて未然に防いでいた。だが、彼らは陰で王に刺客を送るのと同時に、表では貴族派の娘の中から正妃を娶るようにと何度も催促していたのである。
貴族派、学者派、アサギ派。その三つの派閥の権力のバランスを保ち、貴族派の力を削ぐ為に、正妃問題をどうするか……。
熟考した結果、アサギが出した答えは、正妃は他国から姫を受け入れる事とし、貴族派と学者派から一人ずつ側室を迎える。というものだった。
さて、ここで問題が起こった。
異母妹(ユリエ)の嫁ぎ先予定であるアシェイラ国の王家直系には姫がいない。異母弟(イズミ)が婿入り予定であるディエラ国には直系姫が五人もいるのに、二人は女神の娘で三人は三つ子で王位継承者なのだ。つまり、サンジェイラ国正妃となれる直系の姫が現在、アシェイラ国にもディエラ国にも存在していないのである。
貴族派の強硬な態度を見ている限り、他国の姫を迎えるのなら、直系の者でないと認めはしないだろう。悩みぬいたアサギは、ディエラ女王であるシルヴィアに相談し、それを受けたシルヴィアは、ある提案をした。
それはディエラ国という国と王家の事を知るアサギからしてみれば、信じられないような内容だった。
”王位継承者である三つ子の姫の内の一人を、正妃として嫁がせてもよい”
シルヴィアは、三人いる王位継承者の孫娘の内の一人をくれてやってもよい。と言ってきたのである。
ディエラ国王家は、完全に長子に王位継承権が発生する。産まれた子が女神の子供であった場合や病弱であった場合など、長子が王になれない例外もあるが、基本はそのように決まっている。そして、王位継承者が双子であった場合は、その双子両方が国王となる資格を持つ。それは、三つ子であっても、四つ子であっても同じ事。過去には”花冠の四女王”と呼ばれ、歴史に名を残した程の名君と謳われた四つ子の女王がいた程だ。
そして、現在のディエラ国の直系王族で次期王位継承者となれるのは、まだほんの十歳程の年齢の少女に過ぎない三つ子の姫しかいない。
三つ子であるが故に、三人が王位継承者なのである。
その大事な孫娘の一人を、慈王と謳われるシルヴィアはアサギの正妃として差し出すと申し出てくれたのだった。
過去にも、双子の王となるはずだった片割れの姫が王位継承権を放棄した事がほんの数件だが、例があった。他国の王の正妃として迎え入れられたのが二件、巫女となり、神殿に上がったのが一件。いずれも、”ディエラ”というディエラ王族としての名を失くすのが条件であった。
しかし、それはつまり、長いディエラの歴史の中でも、三例しかないような出来事だ。ディエラの重臣の中から反発も出る事だろう。
それを覚悟の上での提案だった。
すべては、隣国、サンジェイラ国の復興と安寧の為に……。
アサギはありがたいその提案を受け入れ、ディエラ国の姫を正妃として迎える事にし、それを発表したのだ。
シルヴィアがアサギの妃として差し出した姫の名は
”ルナ・ディエラ”
一年の婚約期間を経た後、十一歳の花嫁がサンジェイラ国に訪れる事になる。
そして、正妃の前に異例ではあるが、先に後宮入りしたのが二人の側室だった。
北方の大地の冬。比較的暖かな天気のよい日に側室受け入れの祭礼が行われ、サンジェイラ国王都は大いに賑わっていた。
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