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第十六章 闇射す光
2-1 アサギの誠意
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ローウェンに案内されて辿り着いたのは、王の執務室。
ローウェンとアルティスが飛び込んでくるまで、アサギは謁見の間で訪れた貴族達の対応をしていたが、内密の話である事を悟り、すぐに場所を移してくれたらしい。
「レオンハルト王子、リュセル王子、ジュリナ姫、ティアラ姫、ようこそサンジェイラへ。ご無沙汰しております」
リュセル達が入室すると、そこにはアサギとアルティスの姿しかない状態だった。向き合って話をしていたらしい二人は入室して来た四人に目を向ける。
同胞達が入室したのを知ったアルティスは安堵したような表情を見せるが、その顔の中には先程のローウェンと同じような複雑そうな感情が見え隠れしていた。
「こちらこそ、突然の訪問になってしまって申し訳ない」
四人を代表してレオンハルトがそう挨拶をすると、アサギは穏やかに笑い、すぐに表情を引き締めた。
「アルティスからユリエの手紙を受け取りました。大変な事態になっていて、とても驚いております。出来る限りの協力をサンジェイラ王としてお約束致しますのでご安心下さい」
「お気遣い痛み入る」
ユリエの手紙の内容から、彼らが急いでいる事を察したアサギは、王族の直轄地である目的地まで向かう手段として、王弟の一人を視察という名目で送り出す事を即座に決めた。
「王族の護衛、侍女、従者としての衣装。それに、馬車や魔導馬の用意は、少しお時間を頂く形になりますが、こちらで整えます。恥ずかしながら、今、このサンジェイラ宮廷内は騒がしくなっておりますので、早々にお発ちになった方がいいでしょう」
「じゃあ、その準備時間の間に、サンジェイラ神殿から案内役の神官を連れてくるか」
アサギの言葉に頷いたジュリナが、そう言ってレオンハルトに目を向ける。
「全員で行っても仕方ないから、半分に別れよう。三人はここで待機。三人は神官を迎えに行く。サンジェイラ神殿に行くんだから、ローウェンとアルティスはいた方がいいだろうし、私が二人を引きつれて一走りしてくるよ」
「ああ、頼む」
ジュリナの提案にレオンハルトが頷いた時、アサギが異を唱えた。
「いえ、ジュリナ姫とティアラ姫。お二人には話があるので残って頂きたいのです」
「は?」
「わたくし達……だけ、にですか?」
朱金の姉妹の不思議そうな顔が同時にアサギに向けられる。
「ええ。出来ればレオンハルト王子かリュセル王子のどちらかにも……」
その言葉に、今度はリュセルとレオンハルトが互いの顔を見合わせ、アサギに目を向ける。
その様子をじっと見ていたローウェンはアルティスと視線を合わせ、兄が無言のまま頷いたのを見て取ると、リュセルの腕を二人同時に左右両側から掴んだ。
「よし、リュセル兄さんは僕らのチームね。一緒にサンジェイラ神殿に行こう」
「はい?」
いきなりの事に、リュセルはまぬけな返事をローウェンに返してしまう。
「事情は道すがら我らが説明しようぞ。さ、時間がない。さっさと行こう」
「ちょ、待て、二人共、一体、なんなんだ!? ……ちょ、レオン、とりあえず行ってくるぞ!」
「ああ。気をつけて行きなさい」
ずるずるずると少年達に引っ張られて弟が執務室を出て行くのを、無表情のまま見送ったレオンハルトは、戸惑いの表情を浮かべるジュリナとティアラ、それに真剣な表情で話をしようとしているアサギに目を向けた。
「王妃問題?」
とりあえず、街で目立たない為に、ローウェンの部屋でトラキアの学塔の制服に着替えたリュセルは、同じように白い詰襟の学生服に着替え終えたアルティスが言った言葉を復唱した。
「サンジェイラ宮廷内で勃発したという、例の問題か?」
「ああ、アサギ兄上はこの僅かな時間を利用して、その事を話すつもりなのだろう」
リュセルの言葉に頷いたアルティスは、現在アサギが、ジュリナ、ティアラ、レオンハルトの三人に話しているであろう内容を簡潔に伝える事にする。
「本来、我ら女神の子供は国政に関わる資格を持たぬ。それに、このような時(最終決戦前)であるしな。アサギ兄上も、通常ならこのようなサンジェイラ王族の内々の話などしなかったのだろうが……」
「王妃となる娘(こ)の身内が、何も知らずにやって来ちゃったんだもんね。話さざるを得なくなっちゃったんだよ。あ、あったあった。はい、リュセル兄さん」
ノンちゃんお道具箱の中を漁っていたローウェンは、予備の変装眼鏡を探し出し、それをリュセルに渡す。セイントクロス神殿本部での騒動で、リュセルはローウェンにもらったそれを失くしてしまっていたのだ。
「すまないな、ローウェン。……ん? 身内って、どういう事だ? その、例の王妃問題って、サンジェイラ宮廷内にある派閥争いが元になっていて、その対立している二つの派閥の内のどっちの娘を王妃にするんだ? アサギ王、大ピンチ……的な話じゃなかったか?」
リュセルの砕けすぎた理解の仕方にアルティスは頬を引きつかせ、ローウェンはケラケラと笑った。
「そうそう、間違ってないよ~。でもね、貴族派と学者派の娘達は、妃として迎えたのは迎えたらしいんだケド、両派閥のバランスを考えて、両方から側室として一人ずつ迎えたんだってさ。僕らが到着した時、兄上がその両派閥の代表のおじさん達に詰め寄られていたんだ~。なんで迎えた側室達に手を出さないんだ!? って」
「兄上は側室との間に最初の子をもうけるつもりがないのだろう。ディエラ国のように長子が絶対的な王位継承者と決まっている訳ではないが、それでも最初に産まれる王の子は、それが王子であっても王女であっても民や王室にとって特別なものになってしまう故な」
「でもさ、でもさ~~。王妃に決まった娘(こ)って、確かまだ十歳位の姫でしょう? じゃあ、しばらくの間サンジェイラには、王女も王子も誕生しないって事じゃない?」
「ううむ。おそらく、貴族連中はそこを突っついておるのであろうなぁ」
ローウェンとアルティスが勝手に話を進めるおかげで、リュセルの頭は軽く混乱していた。
「ちょ、ちょっと待て、二人共。つまり、どういう事だ? 王妃は誰に決まったんだ?」
その問いかけを聞き、ようやくリュセルに目を向けた二人は、同時にそれを口にした。
「「ディエラ王女、ルナ姫」」
少年達が見事に声をハモらせて告げた名は、リュセルもよく知るディエラ国の次期王位継承者の一人。愛くるしい赤茶色の髪をした三つ子の姫君。ジュリナとティアラ、朱金の姉妹の三人いる妹の内の一人だ。
ルイ、ルカ、ルナ。リュセルの記憶にある、同じ顔をした幼い姫達。その中でも一番大人しい女の子。引っ込み思案で、確か他の二人の影に隠れているような娘だったように記憶している。
「はあああああああああッ!?」
予想外の事実に、気づけば大声でそう叫んでしまっていた。
リュセルが叫び声を上げているのと同じ頃、一方の執務室では、ジュリナの重々しい声が響いていた。
「それが、サンジェイラ国、ディエラ国の為になるとして、お祖母様……いや、シルヴィア女王とアサギ王、貴方が決めた事なのなら、私達が言う事は何もないよ」
予想もしなかった事態に動揺がないとはいえない。まさか、他国の問題として聞いていたサンジェイラ王家の王妃問題に自分達の妹が絡む事になろうとは……。
両親不在の長い間、妹達の父代わり、母代わりの役目を果たしてきていたジュリナやティアラからしてみれば、とてもショックな話だった。
妹が政治の駒として利用される。
王族の娘として産まれた以上、それは仕方のない事。自分達は女神の娘。例え自国の事であっても、政治に口出しする資格はない。頭では分かっているが、気持ちがついてはこなかった。
「…………」
じっと三人を見つめていたレオンハルトは、そのやりとりをそのまま見守る事にする。アシェイラ国側の証人として、自分はここに残されたのだと察していた彼は、この事実がアシェイラ国王にすら知らされていないであろう事を予測していた。
(王として民への慈愛を惜しみなく注ぎ、十歳の姫君を王妃として迎えるという決断をする。春のように優しく暖かであり、冬のように冷たく非情。アサギ王は、サンジェイラ王として更に良き王となるだろう)
優し過ぎても厳し過ぎても、国の王は務まらない。
第三者という立ち位置でそれを感じていたレオンハルトは、当事者である姫君の姉であるジュリナが次の瞬間、拳をきつく握り締めたのを目にして小さくため息をついた。
(やはりやるか。馬鹿女)
不本意ながらも長い付き合いである彼女が、次に何をするのか予測がついてしまったのである。
「……って、それだけで済むと思ったか、どっかの馬の骨~~~~ッ! 歯を食いしばれ、馬鹿野郎ッ!」
バキッ
という音と共にアサギの左頬に見事な右ストレートが決まり、彼はその場に尻餅をついた。
「ッ……!」
「きゃああああああッ、お、お、お姉様っ!?」
ティアラは慌ててアサギに駆け寄り、殴り飛ばされた彼を介抱しようと手を伸ばす。
「いえ、大丈夫です、ティアラ姫」
口の中を切ったのか、アサギは懐から出したハンカチの中に口内の血を吐き出す。
「加減してやったんだから、感謝しな。一発位殴らせろ」
娘(妹)を嫁に出す父(代わり)として、アサギを殴ったジュリナに向かい、アサギは垂れ気味の目元を更に垂れさせ、情けない表情を作る。
「はあ、すみません」
「ほら、立ちな」
アサギに手を差し出したジュリナは、頬が赤く腫れた彼に真剣な表情で頼み込んだ。
「ルナをよろしく頼む」
頭を下げたジュリナに習い、ティアラも涙ぐみながらアサギに向かって頭を下げる。
「…………」
それを驚いたように目を見張って受け入れたアサギは、しっかりと頷き答えた。
「ルナ姫は、必ず私が守ります」
その言葉を聞いたジュリナは、泣きそうな表情を浮かべ、言った。
「ありがとう」
もし邪神との戦いの決着がついたとしても、この国はしばらく落ち着く事がないのだろうと、レオンハルトはその様子を見守りながら思っていたのだった。
ローウェンとアルティスが飛び込んでくるまで、アサギは謁見の間で訪れた貴族達の対応をしていたが、内密の話である事を悟り、すぐに場所を移してくれたらしい。
「レオンハルト王子、リュセル王子、ジュリナ姫、ティアラ姫、ようこそサンジェイラへ。ご無沙汰しております」
リュセル達が入室すると、そこにはアサギとアルティスの姿しかない状態だった。向き合って話をしていたらしい二人は入室して来た四人に目を向ける。
同胞達が入室したのを知ったアルティスは安堵したような表情を見せるが、その顔の中には先程のローウェンと同じような複雑そうな感情が見え隠れしていた。
「こちらこそ、突然の訪問になってしまって申し訳ない」
四人を代表してレオンハルトがそう挨拶をすると、アサギは穏やかに笑い、すぐに表情を引き締めた。
「アルティスからユリエの手紙を受け取りました。大変な事態になっていて、とても驚いております。出来る限りの協力をサンジェイラ王としてお約束致しますのでご安心下さい」
「お気遣い痛み入る」
ユリエの手紙の内容から、彼らが急いでいる事を察したアサギは、王族の直轄地である目的地まで向かう手段として、王弟の一人を視察という名目で送り出す事を即座に決めた。
「王族の護衛、侍女、従者としての衣装。それに、馬車や魔導馬の用意は、少しお時間を頂く形になりますが、こちらで整えます。恥ずかしながら、今、このサンジェイラ宮廷内は騒がしくなっておりますので、早々にお発ちになった方がいいでしょう」
「じゃあ、その準備時間の間に、サンジェイラ神殿から案内役の神官を連れてくるか」
アサギの言葉に頷いたジュリナが、そう言ってレオンハルトに目を向ける。
「全員で行っても仕方ないから、半分に別れよう。三人はここで待機。三人は神官を迎えに行く。サンジェイラ神殿に行くんだから、ローウェンとアルティスはいた方がいいだろうし、私が二人を引きつれて一走りしてくるよ」
「ああ、頼む」
ジュリナの提案にレオンハルトが頷いた時、アサギが異を唱えた。
「いえ、ジュリナ姫とティアラ姫。お二人には話があるので残って頂きたいのです」
「は?」
「わたくし達……だけ、にですか?」
朱金の姉妹の不思議そうな顔が同時にアサギに向けられる。
「ええ。出来ればレオンハルト王子かリュセル王子のどちらかにも……」
その言葉に、今度はリュセルとレオンハルトが互いの顔を見合わせ、アサギに目を向ける。
その様子をじっと見ていたローウェンはアルティスと視線を合わせ、兄が無言のまま頷いたのを見て取ると、リュセルの腕を二人同時に左右両側から掴んだ。
「よし、リュセル兄さんは僕らのチームね。一緒にサンジェイラ神殿に行こう」
「はい?」
いきなりの事に、リュセルはまぬけな返事をローウェンに返してしまう。
「事情は道すがら我らが説明しようぞ。さ、時間がない。さっさと行こう」
「ちょ、待て、二人共、一体、なんなんだ!? ……ちょ、レオン、とりあえず行ってくるぞ!」
「ああ。気をつけて行きなさい」
ずるずるずると少年達に引っ張られて弟が執務室を出て行くのを、無表情のまま見送ったレオンハルトは、戸惑いの表情を浮かべるジュリナとティアラ、それに真剣な表情で話をしようとしているアサギに目を向けた。
「王妃問題?」
とりあえず、街で目立たない為に、ローウェンの部屋でトラキアの学塔の制服に着替えたリュセルは、同じように白い詰襟の学生服に着替え終えたアルティスが言った言葉を復唱した。
「サンジェイラ宮廷内で勃発したという、例の問題か?」
「ああ、アサギ兄上はこの僅かな時間を利用して、その事を話すつもりなのだろう」
リュセルの言葉に頷いたアルティスは、現在アサギが、ジュリナ、ティアラ、レオンハルトの三人に話しているであろう内容を簡潔に伝える事にする。
「本来、我ら女神の子供は国政に関わる資格を持たぬ。それに、このような時(最終決戦前)であるしな。アサギ兄上も、通常ならこのようなサンジェイラ王族の内々の話などしなかったのだろうが……」
「王妃となる娘(こ)の身内が、何も知らずにやって来ちゃったんだもんね。話さざるを得なくなっちゃったんだよ。あ、あったあった。はい、リュセル兄さん」
ノンちゃんお道具箱の中を漁っていたローウェンは、予備の変装眼鏡を探し出し、それをリュセルに渡す。セイントクロス神殿本部での騒動で、リュセルはローウェンにもらったそれを失くしてしまっていたのだ。
「すまないな、ローウェン。……ん? 身内って、どういう事だ? その、例の王妃問題って、サンジェイラ宮廷内にある派閥争いが元になっていて、その対立している二つの派閥の内のどっちの娘を王妃にするんだ? アサギ王、大ピンチ……的な話じゃなかったか?」
リュセルの砕けすぎた理解の仕方にアルティスは頬を引きつかせ、ローウェンはケラケラと笑った。
「そうそう、間違ってないよ~。でもね、貴族派と学者派の娘達は、妃として迎えたのは迎えたらしいんだケド、両派閥のバランスを考えて、両方から側室として一人ずつ迎えたんだってさ。僕らが到着した時、兄上がその両派閥の代表のおじさん達に詰め寄られていたんだ~。なんで迎えた側室達に手を出さないんだ!? って」
「兄上は側室との間に最初の子をもうけるつもりがないのだろう。ディエラ国のように長子が絶対的な王位継承者と決まっている訳ではないが、それでも最初に産まれる王の子は、それが王子であっても王女であっても民や王室にとって特別なものになってしまう故な」
「でもさ、でもさ~~。王妃に決まった娘(こ)って、確かまだ十歳位の姫でしょう? じゃあ、しばらくの間サンジェイラには、王女も王子も誕生しないって事じゃない?」
「ううむ。おそらく、貴族連中はそこを突っついておるのであろうなぁ」
ローウェンとアルティスが勝手に話を進めるおかげで、リュセルの頭は軽く混乱していた。
「ちょ、ちょっと待て、二人共。つまり、どういう事だ? 王妃は誰に決まったんだ?」
その問いかけを聞き、ようやくリュセルに目を向けた二人は、同時にそれを口にした。
「「ディエラ王女、ルナ姫」」
少年達が見事に声をハモらせて告げた名は、リュセルもよく知るディエラ国の次期王位継承者の一人。愛くるしい赤茶色の髪をした三つ子の姫君。ジュリナとティアラ、朱金の姉妹の三人いる妹の内の一人だ。
ルイ、ルカ、ルナ。リュセルの記憶にある、同じ顔をした幼い姫達。その中でも一番大人しい女の子。引っ込み思案で、確か他の二人の影に隠れているような娘だったように記憶している。
「はあああああああああッ!?」
予想外の事実に、気づけば大声でそう叫んでしまっていた。
リュセルが叫び声を上げているのと同じ頃、一方の執務室では、ジュリナの重々しい声が響いていた。
「それが、サンジェイラ国、ディエラ国の為になるとして、お祖母様……いや、シルヴィア女王とアサギ王、貴方が決めた事なのなら、私達が言う事は何もないよ」
予想もしなかった事態に動揺がないとはいえない。まさか、他国の問題として聞いていたサンジェイラ王家の王妃問題に自分達の妹が絡む事になろうとは……。
両親不在の長い間、妹達の父代わり、母代わりの役目を果たしてきていたジュリナやティアラからしてみれば、とてもショックな話だった。
妹が政治の駒として利用される。
王族の娘として産まれた以上、それは仕方のない事。自分達は女神の娘。例え自国の事であっても、政治に口出しする資格はない。頭では分かっているが、気持ちがついてはこなかった。
「…………」
じっと三人を見つめていたレオンハルトは、そのやりとりをそのまま見守る事にする。アシェイラ国側の証人として、自分はここに残されたのだと察していた彼は、この事実がアシェイラ国王にすら知らされていないであろう事を予測していた。
(王として民への慈愛を惜しみなく注ぎ、十歳の姫君を王妃として迎えるという決断をする。春のように優しく暖かであり、冬のように冷たく非情。アサギ王は、サンジェイラ王として更に良き王となるだろう)
優し過ぎても厳し過ぎても、国の王は務まらない。
第三者という立ち位置でそれを感じていたレオンハルトは、当事者である姫君の姉であるジュリナが次の瞬間、拳をきつく握り締めたのを目にして小さくため息をついた。
(やはりやるか。馬鹿女)
不本意ながらも長い付き合いである彼女が、次に何をするのか予測がついてしまったのである。
「……って、それだけで済むと思ったか、どっかの馬の骨~~~~ッ! 歯を食いしばれ、馬鹿野郎ッ!」
バキッ
という音と共にアサギの左頬に見事な右ストレートが決まり、彼はその場に尻餅をついた。
「ッ……!」
「きゃああああああッ、お、お、お姉様っ!?」
ティアラは慌ててアサギに駆け寄り、殴り飛ばされた彼を介抱しようと手を伸ばす。
「いえ、大丈夫です、ティアラ姫」
口の中を切ったのか、アサギは懐から出したハンカチの中に口内の血を吐き出す。
「加減してやったんだから、感謝しな。一発位殴らせろ」
娘(妹)を嫁に出す父(代わり)として、アサギを殴ったジュリナに向かい、アサギは垂れ気味の目元を更に垂れさせ、情けない表情を作る。
「はあ、すみません」
「ほら、立ちな」
アサギに手を差し出したジュリナは、頬が赤く腫れた彼に真剣な表情で頼み込んだ。
「ルナをよろしく頼む」
頭を下げたジュリナに習い、ティアラも涙ぐみながらアサギに向かって頭を下げる。
「…………」
それを驚いたように目を見張って受け入れたアサギは、しっかりと頷き答えた。
「ルナ姫は、必ず私が守ります」
その言葉を聞いたジュリナは、泣きそうな表情を浮かべ、言った。
「ありがとう」
もし邪神との戦いの決着がついたとしても、この国はしばらく落ち着く事がないのだろうと、レオンハルトはその様子を見守りながら思っていたのだった。
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