【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十六章 闇射す光

1-5 サンジェイラへ

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 アルティスの言葉に同意しながら、ローウェンはリュセルとレオンハルトに言った。

「そんな訳だから、ゴタゴタに巻き込まれる前に僕らはサンジェイラ城を出た方がいいと思うんだよ。案内役のサンジェイラ支部の神官と隠れ蓑となる王族一人と合流した後、さっさと王都を出ようね」

 国政に関わる資格を持たない神子である自分達には、兄王の王妃問題をどうこうする事は出来ない。自分達には自分達の成すべき事があるように、彼らには彼らで乗り越えなくてはならない事がある。この問題もその一つだ。

「サンジェイラ城内の権力争い、派閥争いについては察してはいたが、そうとう面倒くさい事になっているようだね。中でも貴族派の傲慢が一番厄介なのだろう」

 サンジェイラ宮廷内で何度か遭遇した事のある貴族派の貴族達を思い出したレオンハルトは、小さくため息をつく。前王の時代、サンジェイラ宮廷内を腐敗させた原因は彼らにもあった。

「ローウェンの言う通り、厄介事に巻き込まれる前にサンジェイラ城は発った方がいいね」

「王妃問題がどうなっているのかは、少し気にはなるがな」

 兄の言葉に繋げるようにして呟いたリュセルの言葉を受け、ローウェンとアルティスは同時に頷いた。

 確かに、気にはなる。気にしている余裕がないだけで……。



*****



「では、これをサンジェイラ支部の神官査にお渡し下され」

 大叔母であるエルディナとの対面を終えたジュリナとティアラが絵画の間に入り、ライサン、ユリエ、アシェイラ、大神官大巫女の三人も同じように集結すると、リュカ老師は大神官としての命令書をレオンハルトに渡す。

「サンジェイラ支部より案内役の神官をつけるように指示が書かれております命令書と、ライサンより今までの経緯を軽く説明した手紙が入っております」

 リュカ老師からそれを受け取りながら、レオンハルトは小さく頷いた。

「それで、私からもこれを。ローウェンとアルティスがいるから必要はないとは思うのだけれど、兄上……いえ、アサギ陛下への手紙を書いたわ」

 ユリエから渡された封筒を今度はリュセルが受け取る。

「お二人共、気遣い痛み入ります」

 レオンハルトの陳謝の言葉を聞いた後、リュカ老師もユリエも心配そうに六人を見つめる。

「大丈夫、必ず邪神を倒して邪気を浄化してくるから! 皆、待っててね!」

 そう言ったローウェンの闊達さに、その場に集った者達は少しだけ表情を和らげた。

「行って来るよ、姉上」

 挨拶をしたアルティスにユリエは姉としての表情を見せ、弟達の体を二人いっぺんに抱き締める。弟達の体も心も、このたった数日間の間でたくましく成長していて、ユリエはたくさんの不安の中に少しの安堵を覚える。

 手を離すのに不安がない訳じゃないけれど……。

「行ってらっしゃい、二人共。必ず無事に帰って来るのよ」

 それに笑顔で答え、姉の暖かな手を離した北の少年達が、まず最初に転移装置の中央に移動すると、装置を発動させてその場から姿を消した。

「大叔母様、絶対無事に帰ってきますので、その時はもっとお話しましょうね」

 ようやく会えた大叔母に向けて伝えたティアラの言葉に、エルディナは涙ぐみながら小さく笑う。

 きっと、きっと大丈夫。

 姉は……シルヴィアは、そんな柔に孫娘達を育ててはいない。エルディナはそう信じて、愛しい娘達を見送った。

「じゃ、行ってくるよ」

 不安など微塵も感じさせない豪快な笑顔でそう言ったジュリナと共にティアラも転移装置内に移動する。そうして鏡の姉妹達が一瞬で姿を消した後は、リュセル達二人の番だ。

「セリクス神官長、ウインター神官長補佐に、陰の日の香りの件では申し訳なかったと伝言お願い出来ますか?」

 ずっと気になっていた事を口にしたリュセルに対し、ライサンは一瞬目を丸くした後、優しく微笑む。

「ルークは大丈夫です。でも、そのように気にして頂いてありがとうございます。本人に必ず伝えしましょう。お二人共、この先私達は同行する事は出来ませんが、十分にお気をつけ下さい。代わりにあなた方の供をするであろうサンジェイラ支部の神官は私の知り合いを指名しています。どうぞ、煮るなり焼くなり、盾にするなり好きにお使い下さいね」

 煮るなり焼くなり……って、おいおい。

「は、はあ」

 リュセルが若干顔を引きつらせながら返事をした横では、人型のままのアシェイラが厳しい表情で言った。

「いいか、大丈夫だとは思うが、スノーデュークに対する情は捨てろ。やらなければこっちがやられるからな。それと、セフィランの事だが……」

 一旦言葉を切ったアシェイラは、最も言いにくい事をこの場にいる全員を代表して告げる。

「駄目だと判断したら、迷うな。スノーデューク共々浄化するんだ」

「なっ!」

「…………」

 セフィランを救うつもりでいるリュセルが声を上げようとするのを制し、レオンハルトはアシェイラのその後の言葉を待つ。

「この世界とたかが邪混鬼一鬼、どちらを取るべきか、お前達なら分かるはずだ。いいか、迷えばお前達の守りたい世界と愛しい人々は消える。それを忘れるな」

 厳しいが、真実の言葉だった。

「…………」

「分かった。セフィランを救う事が出来ないと判断したら、邪神共々浄化すると、ここに誓おう」

 何も答える事が出来ない弟に代わり、レオンハルトが静かな声ではっきりと告げる。それにアシェイラは頷き、ライサンは痛みを堪えるように目を閉じた。

 かの者を救いたい……。

 それは真実の心。

 しかし、その為に犠牲にしなければならないものがあるとすれば、いずれ、彼らは辛い選択を強いられる事になるであろう。

 その時、優先しなければならないもの。彼らにそれが分からぬはずがない。

 ライサンが一人憂いている間にも、リュセルとレオンハルトは転移装置中央に移動を済ませる。

「では、皆、行ってくる」

 セフィランの事での動揺を隠し、リュセルはその場に集った者達の顔を見渡した。エルディナ、アルスター、リュカ老師、ユリエ、ライサン、アシェイラ。

 必ず生きて、また会える。

 そう信じて……。

 そして、転移装置は発動し、周囲に白銀の光が溢れた。







 眩い白銀の光と風。

 それがようやく止み、目を開けていられるような状態になったのを感じたリュセルは目を開き、久しぶりに感じた転移装置での移動の余波に目を瞬いた。
 周囲の光景は一変し、白の大理石が眩い程だったセイントクロス神殿本部の絵画の間から女神像が安置されたサンジェイラ国の薄暗い地下室になっている。

 リュセルとレオンハルトからしてみると、久しぶりのサンジェイラ国だ。まあ、ゆっくりもしていられないのが現状なのだが……。

 先に来て待っていたティアラとジュリナが、転移装置を降りた二人に駆け寄った。

「遅かったな。どうした?」

 ジュリナの問いかけに対し、レオンハルトは暗い陰を落とす弟の顔を一度見た後、静かな声で答える。

「後で教えるよ」

 幼なじみのその答えに、ジュリナは一瞬顔をしかめたが、リュセルの表情を見て何かを察したのか、その事に関しては触れずに、現在姿の見えない少年達について説明した。

「今、ローウェンとアルティスが様子を見に先に上がって行ってくれているんだけど……。帰って来ないねぇ。どうしたんだい、あの子達は」

「何かあったのでしょうか?」

 ジュリナが怪訝そうに上へと繋がる階段に目を向け、ティアラも心配そうに朱金色をした細い眉根を寄せる。

 その時。

 タンタンタンタンッ

 という階段を下りるリズミカルな足音が聞こえたと思ったら、ローウェンが姿を見せた。

「あっ! リュセル兄さん、レオンハルト兄さん、無事に到着したんだね! 遅いから心配したよ~!急ピッチで作ちゃったから、転移装置に不備があったんじゃないかと思って、ハラハラしちゃった」

 そんな風に駆け寄ってきたローウェンの頭を撫でながら、リュセルは遅れた事を謝る。

「心配かけてすまなかった、ローウェン。あれ? アルティスはどうした?」

 いつもローウェンの傍に在る褐色の肌の少年の姿がないのに気づき、リュセルは首を傾げた。

「先にアサギ兄上と話してるよ。別の人達とお話中だったんだけど、緊急事態って事で下がってもらったんだ」

 そう言いながら、四人を促して地上への階段を上がっていたローウェンは微妙な顔をする。

「お話中っていうか……、一方的に兄上が貴族達に責められていた現場に、僕ら、従者達の制止も聞かずに突撃して行ったんだけどさ」

「責められてたって何故だ?」

「馬鹿だね、お前は。例の”王妃問題”の件に決まってるだろうが」

 リュセルのとぼけた問いかけに、即座にジュリナがつっこみを入れるのをローウェンはじっと見つめる。

「ん? なんだい、ローウェン」

 ローウェンの視線を感じたジュリナは怪訝そうに尋ねる。

「うん。王妃問題は一応解決していたよ。……うん、一応は」

 そう言いながら、今度は後ろから来るティアラに目を向ける。

「?」

 ローウェンに見つめられたティアラは愛らしく小首を傾げた。

「我が国の事ながら、何だかとんでもない事になっているよ」

 小さくため息をついてそう言ったローウェンの言葉の意味が四人共分からず、とりあえず彼の案内を受けてサンジェイラ国王の元へ急ぐしかなかった。
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