388 / 424
第十六章 闇射す光
1-4 ヨナ大巫女の秘密
しおりを挟む「卵の孵化……」
話を聞き終えた後、呆然と呟いたリュセルに頷き、他の神子達の顔を見渡しながらアシェイラは言った。
「石の卵は、神殿奥にて厳重に保管している。この契約についてはルークに害の及ぶようなものではない。それは俺が保証する。だから何も心配しなくてもいい」
(第一、危険なものだったら、こいつ(ライサン)が許可しなかっただろうしな。この前のように殴られるだけで済まない事になっただろう)
アシェイラは神子達に一応の説明を済ませると、内心ため息をつく。
隣りで穏やかな微笑みを浮かべる盟友(とも)の性格の悪さは、よ~~~~く知っている。
「今のところ、アシェイラ、ディエラ、サンジェイラ、共に邪神復活の影響は出ていないようだわ。でも、事態は一刻も争う。皆、準備が整い次第、サンジェイラ王都へと移動し、コールド砂漠へ向かう事を考えて」
ユリエのその言葉を最後に、その場は一度解散となり、一刻後に転移装置のある絵画の間へ集合となった。
*****
発つ準備といっても、大した荷物も持って来ていない為、準備に一刻もかかりはしなかった。
「俺の所為で体調不良になっているというウインター神官長補佐の見舞いをしたかったが、部屋で寝込んでしまっているらしいな」
支度を済ませ、神殿に到着した時と同じ旅装束姿になったリュセルは、同じように支度を済ませた兄に声をかける。
「陰の日の香りの後遺症は辛いものだという。セリクス神官長に詫びの言葉を言づけて会わない方がいいかもしれないね」
弟の言葉に頷いたレオンハルトはそう言うと、自分達に与えられていた客室を出る。
「そうだよな」
そう言いながらレオンハルトの後に続いて部屋を出たリュセルだったが、急に目の前のたくましい背中が立ち止った為、思い切りそこに体をぶつけてしまう。
「ッおわっ! な、何、急に立ち止まってるんだ」
ぶつけた鼻と額を押さえながら、レオンハルトの背後から抜け出したリュセルは、兄が無言のまま視線で指し示した方向に目を向ける。
リュセルとレオンハルトに与えられた客室の隣。ジュリナとティアラに与えられた部屋の前で、一人の老巫女が立ち尽くしていた。
(あの人は……)
白髪の交った赤茶の髪、柔らかな慈愛に満ちた瞳。髪型など僅かな違いはあるが、その顔はディエラの女王、シルヴィアとまったく同じものだった。
この神殿に到着し、三人の大神官大巫女に挨拶した折、リュカ老師の隣に在った彼女の存在が気になってはいたのだが、何分それに気を割いている余裕がなかった為、そのままになっていたのである。
リュセルとレオンハルト、剣の兄弟が見守る先で、彼女……大巫女であるエルディナは、鏡の姉妹がいるであろう部屋の扉前でぶつぶつと何やら呟いていた。
「こ……ここ、こんにちは…………ッ! 私は、エルディナ・ヨナ。この顔を見て……おおお、驚いたかも、しれ、しれないけれど…………私はあなた達のお祖母様……シルヴィアの…………双子の、いも、妹に……なり、なりなります」
ぶつぶつぶつぶつ。
しどろもどろに小声で呟いていたエルディナの独り言を聞いていたレオンハルトだったが、そのまま彼女の隣に移動すると、扉を軽くノックした。
「……ッ、け、剣主様」
驚きに目を見張るエルディナの顔を見下ろしたレオンハルトは、彼にしては幾分か柔らかな声で告げた。
「失礼、ヨナ大巫女。その先は本人達を前にして続けた方がよろしいかと……」
その言葉に戸惑うような表情を浮かべたエルディナは、シルヴィアに比べると少し幼い、少女のような稚さがあるように感じた。
その時。
「へ~い」
気のないそんな返事と共に、扉が内側に開く。
「ぁあん、何だよ、お前。ノックなんてしやがって。いっつも無遠慮に入って来る不作法男が」
瞬時に目に入った幼なじみに向かってメンチ切りをしたジュリナは、すぐにその隣に立つ小柄な老巫女に気づく。
「…………」
そして、自分の祖母と同じ顔をした巫女をわずかに目を見開いて凝視した後、嬉しそうに笑った。
「ようやく直接お会い出来ましたね、エルディナ大叔母様。お会い出来てとても嬉しいです」
ジィリナの言葉を聞き、安心したようにふわりと少女のように笑ったエルディナは、血を分けた姉の孫娘の体を背伸びをしながら抱きしめる。
「私も……。会えて嬉しいわ、ジュリナ」
鏡主様ではなく、普通に名を呼んだエルディナの意識が、巫女としてのものではなく、大叔母としてのものである事を悟ったジュリナは、小柄なその体を優しく両腕で包み込んだ。
「ヨナ大巫女は、本人が先程呟いていた通り、シルヴィア女王の双子の妹なのだ」
ジュリナとティアラが大叔母との対面をしている間、レオンハルトとリュセルは、支度を終えて部屋を出て来たローウェンとアルティスを伴って、先に絵画の間へと向かう事にした。
ディエラの慈王、シルヴィア女王の双子の妹。
「シルヴィア女王に妹がいたなんて話、聞いた事ないよ!?」
レオンハルトの話を聞いたローウェンは、驚きの声を上げる。
「我もだ。第一、ディエラ王家の特性を考えると、王位継承者が双子だった場合は両方が王となっているはずではないか? 何故、シルヴィア女王は双子の女王ではないのだ?」
アルティスもローウェンの隣で疑問を口にする。
「新月の晩に産まれたからだよ。古より、闇の神スノーデュークの力が最も強くなる新月の夜に産まれる双子は不吉だと言い伝えられていた。それは、何の確証もない、迷信に過ぎない話なのだが、運の悪い事に当時の王はそういったものを信じ過ぎる王だったらしい。ディエラ王家への災いを減らす為に双子の片割れを秘密裏にサンジェイラの名門貴族、ヨナ家へ養女に出したとの事だ。彼女をディエラ国から少しでも遠ざけたかったのだろうね」
「そうして、成長して巫女になったという訳か」
兄の言葉を引き継いでリュセルがそう呟くと、レオンハルトは小さく頷いた。
「ジュリナもティアラ姫も、シルヴィア女王から話だけは聞いていたと思うが、対面したのは初めてなのだろう」
この話はディエラ国内でも一部の者しか知らないのだ。アシェイラ、サンジェイラの王となった者は、必要上、その話を知る事になるが、通常、他国の王族が知る事はない。
ただ、かつてジュリナと婚約を交わし、未来の夫となるはずだったレオンハルトにのみ、特別に伝えられたのである。アシェイラ王であるジェイドより聞かされたその話は、当時のレオンハルトからしてみても衝撃的だった。
「他所の国の王家も色々大変なんだね、アル」
「そうよな。現在ゴタゴタしておるのは、我がサンジェイラ王家だけではあるが……」
自分達の姿を見るなり回廊の端に寄って頭を下げている周囲の神官巫女に目を向けて、自分達の話を聞いている者がいないのを察したアルティスは、レオンハルトとリュセルに言った。
「サンジェイラに行く前に言っておかねばならぬ事があるのだが、リュセル殿、レオンハルト殿」
「……?」
「ん?」
先を歩く剣の兄弟が同時に振り返ったのを見てとると、アルティスはローウェンと目線で頷き合った。
「サンジェイラ城は、おそらく現在、アサギ兄上の嫁取りの事で、貴族派と学者派の間で冷戦が起きておると思うのだ」
「はぁッ!?」
「…………」
アルティスの突然の告白を聞いたリュセルは驚きの声を上げると、同時に先程ローウェンとアルティスがしたように目線でレオンハルトと意思を確認し合い、玉の少年コンビの腕を掴んで速足で長い回廊を抜け、神殿奥の絵画の間の扉を開ける。
「ちょっと、待て、今の話はどういう事だ?」
転移装置が設置された絵画の間へ入室したリュセルは、アルティスに詰め寄ってそう尋ねた。
「ここ(セイントクロス神殿本部)に向かう前、一度、我とローウェンはサンジェイラ城に帰還したのだが……」
確かに、ライサンとユリエの提案により、各国の神子は自国から旅立つ事になり、ジュリナとティアラはディエラ城へ、ローウェンとアルティスはサンジェイラ城へと一度帰還を果たしている。
「そこでいきなり、アサギ兄上の王妃問題が勃発してたんだよ~。リュセル兄さんとレオンハルト兄さんの誕生日のお祝いの為にユリエ姉上とサンジェイラ城を出立した時は、そんな事、全然、これっぽっちも起きてなかったのに、突然だよ!?」
「アサギ派の筆頭であったユリエ姉上の不在を狙ったのであろう。ユリエ姉上は頭が良い。ローウェンのような純粋な知識ではなく、彼女の強みは頭の回転の速さ、柔軟な考え、度胸の良さ。文字通りアサギ兄上の右腕的存在だ。男であったなら、このままサンジェイラ国の参謀を務めたであろう人だからな」
そんな彼女のいない間にと、今の内に王の伴侶を自らの息のかかった娘を……と考えたらしい。
「貴族派の王妃候補と学者派の王妃候補の娘、どっちを選ぶんだ!? って、アサギ兄上が詰め寄られてた場に僕ら帰還しちゃったんだよ。あはははははっ、皆すっごい顔して兄上を睨んでたよね~~」
あははははって、お前。
笑いごとじゃないだろうが。と思いながら、リュセルは目の前の天使の美貌に呆れたような目を向ける。
「しかし、そんな場に在っても己を見失わず、兄上は立派であったな」
のほほんとお茶を飲みながら目の前で繰り広げられる二つの派閥の争いと自分に向けられる鋭い言葉と視線を受け流していた。
「さすが兄上だ」
0
あなたにおすすめの小説
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。
天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】
さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。
英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。
この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。
「さあ気に入ったsubを娶れ」
「パートナーはいいぞ」
とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。
待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。
平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる