【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十六章 闇射す光

5-4 石化③

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「アシェイラも……ですか」

 リュセルとレオンハルトの報告を聞いたライサンは、そう呟き絶句する。

 会議室中央に設置された大きな円卓の席に着いた神殿の代表者及びライサンとユリエは、皆一様に顔色を悪くしていた。それもそのはず、最終決戦に送りだした神子達が無事戻り喜んだのもつかの間、事態は急速に変化し、もたらされた情報は最悪なものだったのだ。

「人々の石化の原因は分からないのかの?」

 リュカ老師の質問にリュセルが答える。

「何人か石化した人間を感知してみましたが、嘆きの詩の威力が強く、何も見えないし、聞こえないのです」

「わたくしもですわ」

「我もだ」

 リュセルにティアラとアルティスが同意すると、リュカ老師は「ふむ」と呟いて長い白鬚を片手で撫でつけた。

「嘆きの詩とは、邪神の詩う唯一詩ですね。スノーデュークはレイデューク様のように複数詩を扱えはしなかった。同じ神族、姉弟神でも能力に得て不得手があったようです。石化は嘆きの詩が原因でしょう。昔、創世の戦いの折、一度だけ、彼が詩うのを見ました」

 はるか古の昔、勇者として邪神と戦った時の事を思い出しながらそう告げたライサンに、同意するようにユリエも頷く。

「その時、多くの仲間を失ったの。レイデューク様の加護を受けていた私達は無事だったけれど、私達と共に戦っていた仲間。そのほとんどが石化してしまったわ。スノーデュークを封印し、戦いが終結すると、石化は解かれたのだけれど、時間が経ち過ぎてしまっていた所為で誰も助けられなかった」

 当時の事を思い出し、悲しげに眉根を寄せるユリエの言葉を聞いたレオンハルトは、淡々とした口調でそれらから推測される事柄を口にした。

「おそらく、三王都共に、人々が石化してから数日経ってしまっている。セリクス神官長、ユリエ姫。創世の戦いの時、仲間達の石化が解かれるのにどれ位の刻を有したのだ?」

「スノーデュークの嘆きの詩は、長い戦いの終盤で起こった事です。私達は仲間達の石化を解くのに、十日以上の刻をかけてしまいました。彼らの体はまだ温かく、ほんの僅差で間に合わなかった。……タイムリミットは、おそらく十日程でしょうね」

 ライサンの言葉に、皆、一様に言葉を失う。

「それも、王都の人々は石化して数日経っている。実質、残された刻は多くて五日前後って事かい? くそっ」

 ジュリナはそう言うと、長い朱金の髪をかき混ぜる。

「時間がない……ッ」

 一刻も早くスノーデュークを倒さなければ、王都の人々は皆死んでしまう。しかし、そのスノーデュークのいる場所がまったく分からないのである。


「…………スノーデュークは舞を媒体とした力を得意とし、その腕の一振り、旋回一つだけで雷を落とし、国一つ滅ぼす事も可能だった」


 考えに煮詰まった彼らの耳に、不意にその声は届いた。

「アシェイラ」

 眩い白銀の光と共に、円卓の中央に姿を現した白銀の狼。

 神獣フェンリル。

 ライサンの呼びかけに頷いたアシェイラは、不意に生じた不測事態の収拾の為、こちら側を離れ、急に止まった魂の流れを把握していたのである。

「そちらの状態はどうなの?」

「異常事態だ。王都の人々の魂の流れは、輪廻を司る神獣である俺の手を離れてしまっている。本来ならありえない事さ」

 ユリエの問いに答えながら、一足飛びで円卓を飛び下りたアシェイラの姿は揺らぎ、一瞬で人型に変化する。

「早くどうにかしないと、彼らの魂までも邪神に呑み込まれるぞ。スノーデュークの奴の居場所が分かればなぁ」

 小さくため息をついてそう言ったアシェイラにローウェンが尋ねた。

「ねえ、さっきの話。リュセル兄さんもちょろっと前に何度か言っていたけれど、スノーデュークは詩が下手っぴだったの!? 詩が下手で舞が上手って、どういう事!?」

「これ、ロー!」

 言うに事欠いて、下手っぴはないだろうが! 空気の読めぬ弟の小さな口をアルティスは片手で塞ぐ。

「……ん? ああ、下手というか、スノーデュークはその巨大な神の力を、レイのように詩に乗せるよりも舞に乗せるのに長けてたんだ。これはもう、個性だな。人間にもあるように、彼ら神族にも個性があって、力の発現の仕方はまちまちだったって事だろ」

 アシェイラの説明を聞いていたリュセルの脳裏に、一神の青年神の舞が浮かぶ。

 絹糸のような黒髪に瞳と同じ菫色の花々と装飾を飾り、大きく広がった金銀の刺繍が美しい黒衣の袖と裾を翻す。

 スノーデュークの為に用意された舞装束だ。

 しなやかに軽やかに

 美しく咲き乱れる花々のように美しく

 雄大な大地に立つ巨木のように力強く

 空を駆ける風のように自由で

 水の流れのように繊細な

 闇の安らぎと残酷さを併せ持つ

 どこまでも優美な、神の舞。


「とても美しかった。誰もが見惚れたよ、彼の舞に……」


 母神の記憶の中からそれを見たリュセルは、そう言って目を閉じる。邪神に堕ちる前は、こんなにも優しく舞う神だったのだ。

 うっとりとした心地で弟神の舞を眺める自分の瞳の端に、金の髪が映り込む。波打つ白金の髪、その虹色の瞳は、自分と同じように真っ直ぐに弟神を見つめていた。

 自分の力の媒体が詩、愛しい弟神の力の媒体が舞なら、彼女の力の媒体となるものは、瞳。その視線一つで神力を発露させる。

「アナスタシア……?」

 弟神を見つめる妹のように可愛がっていた少女神の瞳に、焦がれるような熱を感じ、リュセルは湧き上がる疑問と共に彼女の名を呼ぶ。

 瞬間、射るような虹色の視線を感じ、リュセルは目を見開いた。


「リュセル?」

 現実に戻ったリュセルは、レオンハルトの声を聞き、我に返った。

「悪い、少し跳んでいたようだ」

 視線を上げると、膨大な女神の記憶の中に不意に入り込んでしまっていたリュセルを、皆が心配そうに見守っていた。

「すまない、話を中断させた。先に進めてくれ」

 それにほっとしたように息を吐いたライサンが、再び話を進める。

「つまり、スノーデュークからすると、唯一詩である嘆きの詩は最終手段です。扱う神力……いえ、邪気が大きいのでしょう。その為、創世の戦いの時は終盤でそれを使い、黎明の戦いの折は最後まで使わなかった。それを今回、何故このタイミングで使ったのか。そして、どのようにして使ったのかが問題なのです」

「ジュリナ、ディエラ王都の石化の震源地はどこだったか予測はできたか?」

 ライサンの言葉を聞いた後、不意にそう尋ねてきたレオンハルトにジュリナは眉根を寄せる。

「あん? そんなん、分かるわけないだろうが」

「では、石化したであろう日の予測は?」

「ああ。それは、なんとか分かったよ」

 怪訝そうな視線を幼なじみに向けたジュリナは、王都が石化したであろう日にちと時刻を告げた。

 それは、アシェイラ王都の人々が石化したのと同じ日、ほぼ同時刻。おそらく、サンジェイラ王都とも、そう時刻に差はないはずだ。

「その日、孤児と接点を持った王族はいなかったか?」

 レオンハルトの確信を持ったような力強い声を聞いたリュセルは、弾かれたように兄の横顔に目を向ける。

「ああ? そんなの………………、あッ、……ああ、いた! いたよ。ルナが孤児院の小さなパーティに呼ばれて出向いていたようだった」

「レオンッ!」

 リュセルの悲鳴のような声に頷いたレオンハルトは、その場に集った人々に自分の予測を告げる。

「おそらく、この件には、孤児が大きく絡んでいる」
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