【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
410 / 424
第十六章 闇射す光

8-2 決戦の地へ(2)

しおりを挟む
「くそ、ここまで広がっているのか。ベル、もっと高く飛んでくれ。このままだと、鳥型の邪鬼に見つかって面倒くさい事になる」

 ー分かったー

 リュセルの要請を受けたベルは高度を上げ、後ろを飛ぶジルもそれに従った。

 高度を上げる前に見えた地上は街らしき場所で、街で暮らすたくさんの人々が石化している様子が見て取れた。

「位置的に、バアルの街だね。王都からかなりの距離があるはずだが……。ここまで石化の波が広がっているという事だろう」

「石化現象は王都の人達だけじゃないっていうの!? レオンハルト兄さん!」

 ローウェンの悲鳴じみた問いにレオンハルトは静かに頷く。

「おそらく、ディエラもサンジェイラも同様と思われるね。三王都を中心に石化の波が広がっている」

「そんな……」

「じゃあ、何か? 最終的にはセイントクロスの地にまで石化の波は広がって、生きとし生ける者すべてこの世界からいなくなっちまうってのかい!?」

 同じようにショックを受けて目の前の女神の魂を宿す青年に詰め寄ったジュリナに対し、青年ことリュセルは頷き答える。

「それこそが、スノウの望みだからな。奴の愛は歪み切ってしまった。レイデュークのすべてを手に入れる為にレイデュークの愛したすべてを壊したがっている。闇の神の性。闇の眷属神は邪気を生み出しやすい。スノウは邪気に病んだんだ」

「邪気は神族の中では重い病のようなものなのですね。私達も私達の先祖達も、その神の病とずっとずっと戦い続けてきたんだわ」

 リュセルの言葉を引き継いだティアラは、そう言いながら風に舞う髪を抑えた。元の長さならともかく、肩先まで短くなってしまったティアラの朱金の髪は、抑えても抑えても風に遊ばれてしまうようだった。

 そう……

 レイデュークの、女神の記憶に存在した邪気の正体は、神族が患う病。

 闇の力に酷似したそれは、闇の眷属神が患う事が多かった。

 治癒するには、双子神の片割れである光の眷属神より神気を注がれ続けなければならない。それも、早期の内に。

 スノーデュークはこの世界の創世記に邪気を患い、双子の姉神、レイデュークの意識が彼から一時的にとはいえ離れてしまった為、治癒出来る時期を逸してしまったのだ。

 邪気を産み出す神の病の源は、強い執着と嫉妬。

 あの頃、邪気に病む前の彼からそれを感じた事はなかったように思う。

 少し子供っぽいところのある、穏やかな優しい青年神。自分の知らぬ彼の心の奥底に、それは存在していたのだろうか。

 ー銀の神子。このまま行くと海に出てしまうが、いいのか?ー

 深い考えに捕らわれていたリュセルは、響いたベルの声を聞き、意識を現実に戻す。

「ああ。このまま進んでくれ」

 リュセルの言葉に従い進んだ二頭の金竜|(ゴールドドラゴン)は、宣言通り、アシェイラ国の南東、大陸の端に辿り着くと、そのまま海岸を越え、世界唯一の大陸、スノウ大陸を後にする。

 そうすると、雲の下に見えるのは、真っ青な海だ。

「うわぁ、海……。これが、海!? 僕、初めて見た! 綺麗だねぇ、アル」

「おお、そうよな」

 我を忘れて歓声を上げる弟に、今度は咎める余裕もなく、アルティスもその美しさに目を奪われる。

「…………」

 レオンハルトは北の兄弟のように初めて目にする海の美しさに目を奪われる事なく、遠く離れていく大陸を見つめる。

(この先には小さな島がいくつか存在するだけだ。一体、どこに向かっているというのだ?)


「始まりと終焉の地|(エリュシオン)に辿り着くのに必要なものは、神族の魂、ただ一つ。つまり、レイデュークの魂を持つ俺とレオンの存在無くしてエリュシオンの入り口は現れないんだ。そして、それはこの海の上をゆっくりと規則的に移動し続けている。……ああ、この辺りのはずだ。止まってくれ、ベル」

 ベルとジルがある一定の場所で止まると、リュセルはじっと眼下に在る海を凝視し続けた。

「……? 何もないじゃないか」

 ジュリナの目には、太陽の光を反射させる穏やかな海がどこまでも広がっている景色しか映っていない。

「…………ッ!? いえ、お姉様。何か、違和感を感じます」

 ティアラはリュセルの視線の先に、言葉に表しがたい違和感を感じ、眉をひそめる。

「さすがティアラ姫。宝鍵の中でも感知能力の高い者にしか、これはきっと感知出来ないはず」

 そして、リュセルは器用にドラゴンの背の上で立ち上がると、後ろのジルの背にて同じように立ち上がった兄に目を向け、そのまま体を反転させ、向かい合った。

「う~ん、俺の声で高音をどこまで出せるか分からんな。本当は女声(レイデューク)と男声(スノーデューク)で詩う詩なんだが。レオンに高音を詩ってもらうのも酷だし……、俺がやるしかないか。まあ、なんとかなるだろ」

 リュセルはぶつぶつと意味不明な事を呟くと、無表情のまま自分を見つめる兄に頷いて合図を示す。レオンハルトは弟の合図を受け取ると、一つ、息を吐く。

 そして、兄弟は次の瞬間、同時に口を開いた。


 ”詩え 約束の詩を

 熱き想い 言の葉に乗せて

 始まりと終焉を ここに告げる”


 創世の女神の力、天上の詩がその場に響き渡った。


 ”月輝き 星彩る 安寧の夜より始まりし

 空と大地が出会い 海と大気は願う”


 リュセルの高音とレオンハルトの低音が重なり合う、それは美しい詩だった。

 まるで女声のような高い音域を苦も無く詩い上げるリュセルと聞く者を酔わせるような落ち着いた力強い声で詩うレオンハルトの額には神紋が浮かび上がり、二人の立つ場所に白銀の光が柱となって空を貫く。



 ”産まれし命は愛し子の 光の奇跡に祈りを捧げん

 我らの創りし世界に導きを
           
 我らの創りし世界に祝福を”


 詩声が空と海を裂き、閉じられた空間への扉を開ける



 ”右手に光 左手に闇 誇りと安寧を胸に抱き

 聞こゆる木々の鼓動に耳をすませよう”



 空に浮かぶ二頭の金竜(ゴールドドラゴン)のすぐ真下。海だった場所に奇跡のように美しい大地が出現する。


 ”光あれ 光あれ”


 リュセルの声が昼(光)を呼び


 ”闇待つ 闇待つ”


 レオンハルトの声が夜(闇)を呼ぶ



 ”この清らかなる世界に 光あれ

 この安らかなる世界に 闇を待つ

 すべてを司り守りし 創世の詩

 終焉の刻まで この詩を捧げ続けん”


 劇場や教会で歌われる、人間の作った創世歌とは違う。それは、エリュシオン出現の鍵となるレイデュークとスノーデューク、創世の二柱神の詩、本物の創世詩だった。

 この創世詩と共に、レイデュークはこの地を封印したのである。



「無事、繋がったようだ」

 眼下に広がる美しい草原を見つめ、懐かしむように目を細めたリュセルはベルに言った。

「俺達が下に降りた後、すぐにここを離れろ。お前達を巻き込みたくはない」

 ー分かったー

「ジュリナ殿、ティアラ姫、下に降りる準備を……」

 リュセルがベルから目線をジュリナに移すと、豪胆な未来のお義姉様は唖然としながら叫び声を上げた。

「お前、どこから声出してたんだい? まるで女の子の声だったじゃないか!? 音域広過ぎだろう!」

 え? 頑張って裏声ってただけなんですけど……。って、いやいや、それどころではなくてですね。

「すごいですわ、リュセル様。とっても綺麗な声でした」

 ティ……、ティアラ姫まで(汗)

 自分達が手にした詩の力の中に存在しない、女神の魂を持つ二人にしか詩う事は出来ないであろう創世詩に夢中になっている様子の、芸術大好きなディエラの姫君達を見つめ、リュセルは顔を引きつらせる。

 その時。

 ヒュン

 ガツンッ

「痛ってええええぇぇッ!」

 はしゃいでいて全く動こうとしないジュリナの後頭部に、レオンハルトが懐に入れていた黒猫ノンちゃん型手鏡を投げつけたのだ。

 手鏡の角がものすごい勢いでぶつかったジュリナは涙目で後ろを向き、ジルの背上で優雅に立つレオンハルトに目を向ける。

「おっまえ、この、痛ってえなッ! なんだ、これ!? 何、こんなもん持ってきてるんだよ! どこに隠し持ってたんだ?」

(多分、リュセル兄さんの私物だよね)

(ああ。入れ替わっている間、リュセル殿が愛用していたのであろう)

 憮然としているレオンハルトの後ろで、アルティスとローウェンは目線で会話をする。

「あああああッ~、俺のノンちゃんが!」

 壊れたレアものの黒猫鏡を前に項垂れるリュセルと、後頭部にたんこぶを作ってレオンハルトに文句を言うジュリナ。

 今までの神聖的な雰囲気はどこかへ行ってしまったいつもの六人のやりとりに、背中を貸しているベルとジルは、この神子達が大物なのか馬鹿なのかいまいち分からなくなってきていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...