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第十六章 闇射す光
8-2 決戦の地へ(2)
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「くそ、ここまで広がっているのか。ベル、もっと高く飛んでくれ。このままだと、鳥型の邪鬼に見つかって面倒くさい事になる」
ー分かったー
リュセルの要請を受けたベルは高度を上げ、後ろを飛ぶジルもそれに従った。
高度を上げる前に見えた地上は街らしき場所で、街で暮らすたくさんの人々が石化している様子が見て取れた。
「位置的に、バアルの街だね。王都からかなりの距離があるはずだが……。ここまで石化の波が広がっているという事だろう」
「石化現象は王都の人達だけじゃないっていうの!? レオンハルト兄さん!」
ローウェンの悲鳴じみた問いにレオンハルトは静かに頷く。
「おそらく、ディエラもサンジェイラも同様と思われるね。三王都を中心に石化の波が広がっている」
「そんな……」
「じゃあ、何か? 最終的にはセイントクロスの地にまで石化の波は広がって、生きとし生ける者すべてこの世界からいなくなっちまうってのかい!?」
同じようにショックを受けて目の前の女神の魂を宿す青年に詰め寄ったジュリナに対し、青年ことリュセルは頷き答える。
「それこそが、スノウの望みだからな。奴の愛は歪み切ってしまった。レイデュークのすべてを手に入れる為にレイデュークの愛したすべてを壊したがっている。闇の神の性。闇の眷属神は邪気を生み出しやすい。スノウは邪気に病んだんだ」
「邪気は神族の中では重い病のようなものなのですね。私達も私達の先祖達も、その神の病とずっとずっと戦い続けてきたんだわ」
リュセルの言葉を引き継いだティアラは、そう言いながら風に舞う髪を抑えた。元の長さならともかく、肩先まで短くなってしまったティアラの朱金の髪は、抑えても抑えても風に遊ばれてしまうようだった。
そう……
レイデュークの、女神の記憶に存在した邪気の正体は、神族が患う病。
闇の力に酷似したそれは、闇の眷属神が患う事が多かった。
治癒するには、双子神の片割れである光の眷属神より神気を注がれ続けなければならない。それも、早期の内に。
スノーデュークはこの世界の創世記に邪気を患い、双子の姉神、レイデュークの意識が彼から一時的にとはいえ離れてしまった為、治癒出来る時期を逸してしまったのだ。
邪気を産み出す神の病の源は、強い執着と嫉妬。
あの頃、邪気に病む前の彼からそれを感じた事はなかったように思う。
少し子供っぽいところのある、穏やかな優しい青年神。自分の知らぬ彼の心の奥底に、それは存在していたのだろうか。
ー銀の神子。このまま行くと海に出てしまうが、いいのか?ー
深い考えに捕らわれていたリュセルは、響いたベルの声を聞き、意識を現実に戻す。
「ああ。このまま進んでくれ」
リュセルの言葉に従い進んだ二頭の金竜|(ゴールドドラゴン)は、宣言通り、アシェイラ国の南東、大陸の端に辿り着くと、そのまま海岸を越え、世界唯一の大陸、スノウ大陸を後にする。
そうすると、雲の下に見えるのは、真っ青な海だ。
「うわぁ、海……。これが、海!? 僕、初めて見た! 綺麗だねぇ、アル」
「おお、そうよな」
我を忘れて歓声を上げる弟に、今度は咎める余裕もなく、アルティスもその美しさに目を奪われる。
「…………」
レオンハルトは北の兄弟のように初めて目にする海の美しさに目を奪われる事なく、遠く離れていく大陸を見つめる。
(この先には小さな島がいくつか存在するだけだ。一体、どこに向かっているというのだ?)
「始まりと終焉の地|(エリュシオン)に辿り着くのに必要なものは、神族の魂、ただ一つ。つまり、レイデュークの魂を持つ俺とレオンの存在無くしてエリュシオンの入り口は現れないんだ。そして、それはこの海の上をゆっくりと規則的に移動し続けている。……ああ、この辺りのはずだ。止まってくれ、ベル」
ベルとジルがある一定の場所で止まると、リュセルはじっと眼下に在る海を凝視し続けた。
「……? 何もないじゃないか」
ジュリナの目には、太陽の光を反射させる穏やかな海がどこまでも広がっている景色しか映っていない。
「…………ッ!? いえ、お姉様。何か、違和感を感じます」
ティアラはリュセルの視線の先に、言葉に表しがたい違和感を感じ、眉をひそめる。
「さすがティアラ姫。宝鍵の中でも感知能力の高い者にしか、これはきっと感知出来ないはず」
そして、リュセルは器用にドラゴンの背の上で立ち上がると、後ろのジルの背にて同じように立ち上がった兄に目を向け、そのまま体を反転させ、向かい合った。
「う~ん、俺の声で高音をどこまで出せるか分からんな。本当は女声(レイデューク)と男声(スノーデューク)で詩う詩なんだが。レオンに高音を詩ってもらうのも酷だし……、俺がやるしかないか。まあ、なんとかなるだろ」
リュセルはぶつぶつと意味不明な事を呟くと、無表情のまま自分を見つめる兄に頷いて合図を示す。レオンハルトは弟の合図を受け取ると、一つ、息を吐く。
そして、兄弟は次の瞬間、同時に口を開いた。
”詩え 約束の詩を
熱き想い 言の葉に乗せて
始まりと終焉を ここに告げる”
創世の女神の力、天上の詩がその場に響き渡った。
”月輝き 星彩る 安寧の夜より始まりし
空と大地が出会い 海と大気は願う”
リュセルの高音とレオンハルトの低音が重なり合う、それは美しい詩だった。
まるで女声のような高い音域を苦も無く詩い上げるリュセルと聞く者を酔わせるような落ち着いた力強い声で詩うレオンハルトの額には神紋が浮かび上がり、二人の立つ場所に白銀の光が柱となって空を貫く。
”産まれし命は愛し子の 光の奇跡に祈りを捧げん
我らの創りし世界に導きを
我らの創りし世界に祝福を”
詩声が空と海を裂き、閉じられた空間への扉を開ける
”右手に光 左手に闇 誇りと安寧を胸に抱き
聞こゆる木々の鼓動に耳をすませよう”
空に浮かぶ二頭の金竜(ゴールドドラゴン)のすぐ真下。海だった場所に奇跡のように美しい大地が出現する。
”光あれ 光あれ”
リュセルの声が昼(光)を呼び
”闇待つ 闇待つ”
レオンハルトの声が夜(闇)を呼ぶ
”この清らかなる世界に 光あれ
この安らかなる世界に 闇を待つ
すべてを司り守りし 創世の詩
終焉の刻まで この詩を捧げ続けん”
劇場や教会で歌われる、人間の作った創世歌とは違う。それは、エリュシオン出現の鍵となるレイデュークとスノーデューク、創世の二柱神の詩、本物の創世詩だった。
この創世詩と共に、レイデュークはこの地を封印したのである。
「無事、繋がったようだ」
眼下に広がる美しい草原を見つめ、懐かしむように目を細めたリュセルはベルに言った。
「俺達が下に降りた後、すぐにここを離れろ。お前達を巻き込みたくはない」
ー分かったー
「ジュリナ殿、ティアラ姫、下に降りる準備を……」
リュセルがベルから目線をジュリナに移すと、豪胆な未来のお義姉様は唖然としながら叫び声を上げた。
「お前、どこから声出してたんだい? まるで女の子の声だったじゃないか!? 音域広過ぎだろう!」
え? 頑張って裏声ってただけなんですけど……。って、いやいや、それどころではなくてですね。
「すごいですわ、リュセル様。とっても綺麗な声でした」
ティ……、ティアラ姫まで(汗)
自分達が手にした詩の力の中に存在しない、女神の魂を持つ二人にしか詩う事は出来ないであろう創世詩に夢中になっている様子の、芸術大好きなディエラの姫君達を見つめ、リュセルは顔を引きつらせる。
その時。
ヒュン
ガツンッ
「痛ってええええぇぇッ!」
はしゃいでいて全く動こうとしないジュリナの後頭部に、レオンハルトが懐に入れていた黒猫ノンちゃん型手鏡を投げつけたのだ。
手鏡の角がものすごい勢いでぶつかったジュリナは涙目で後ろを向き、ジルの背上で優雅に立つレオンハルトに目を向ける。
「おっまえ、この、痛ってえなッ! なんだ、これ!? 何、こんなもん持ってきてるんだよ! どこに隠し持ってたんだ?」
(多分、リュセル兄さんの私物だよね)
(ああ。入れ替わっている間、リュセル殿が愛用していたのであろう)
憮然としているレオンハルトの後ろで、アルティスとローウェンは目線で会話をする。
「あああああッ~、俺のノンちゃんが!」
壊れたレアものの黒猫鏡を前に項垂れるリュセルと、後頭部にたんこぶを作ってレオンハルトに文句を言うジュリナ。
今までの神聖的な雰囲気はどこかへ行ってしまったいつもの六人のやりとりに、背中を貸しているベルとジルは、この神子達が大物なのか馬鹿なのかいまいち分からなくなってきていた。
ー分かったー
リュセルの要請を受けたベルは高度を上げ、後ろを飛ぶジルもそれに従った。
高度を上げる前に見えた地上は街らしき場所で、街で暮らすたくさんの人々が石化している様子が見て取れた。
「位置的に、バアルの街だね。王都からかなりの距離があるはずだが……。ここまで石化の波が広がっているという事だろう」
「石化現象は王都の人達だけじゃないっていうの!? レオンハルト兄さん!」
ローウェンの悲鳴じみた問いにレオンハルトは静かに頷く。
「おそらく、ディエラもサンジェイラも同様と思われるね。三王都を中心に石化の波が広がっている」
「そんな……」
「じゃあ、何か? 最終的にはセイントクロスの地にまで石化の波は広がって、生きとし生ける者すべてこの世界からいなくなっちまうってのかい!?」
同じようにショックを受けて目の前の女神の魂を宿す青年に詰め寄ったジュリナに対し、青年ことリュセルは頷き答える。
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「邪気は神族の中では重い病のようなものなのですね。私達も私達の先祖達も、その神の病とずっとずっと戦い続けてきたんだわ」
リュセルの言葉を引き継いだティアラは、そう言いながら風に舞う髪を抑えた。元の長さならともかく、肩先まで短くなってしまったティアラの朱金の髪は、抑えても抑えても風に遊ばれてしまうようだった。
そう……
レイデュークの、女神の記憶に存在した邪気の正体は、神族が患う病。
闇の力に酷似したそれは、闇の眷属神が患う事が多かった。
治癒するには、双子神の片割れである光の眷属神より神気を注がれ続けなければならない。それも、早期の内に。
スノーデュークはこの世界の創世記に邪気を患い、双子の姉神、レイデュークの意識が彼から一時的にとはいえ離れてしまった為、治癒出来る時期を逸してしまったのだ。
邪気を産み出す神の病の源は、強い執着と嫉妬。
あの頃、邪気に病む前の彼からそれを感じた事はなかったように思う。
少し子供っぽいところのある、穏やかな優しい青年神。自分の知らぬ彼の心の奥底に、それは存在していたのだろうか。
ー銀の神子。このまま行くと海に出てしまうが、いいのか?ー
深い考えに捕らわれていたリュセルは、響いたベルの声を聞き、意識を現実に戻す。
「ああ。このまま進んでくれ」
リュセルの言葉に従い進んだ二頭の金竜|(ゴールドドラゴン)は、宣言通り、アシェイラ国の南東、大陸の端に辿り着くと、そのまま海岸を越え、世界唯一の大陸、スノウ大陸を後にする。
そうすると、雲の下に見えるのは、真っ青な海だ。
「うわぁ、海……。これが、海!? 僕、初めて見た! 綺麗だねぇ、アル」
「おお、そうよな」
我を忘れて歓声を上げる弟に、今度は咎める余裕もなく、アルティスもその美しさに目を奪われる。
「…………」
レオンハルトは北の兄弟のように初めて目にする海の美しさに目を奪われる事なく、遠く離れていく大陸を見つめる。
(この先には小さな島がいくつか存在するだけだ。一体、どこに向かっているというのだ?)
「始まりと終焉の地|(エリュシオン)に辿り着くのに必要なものは、神族の魂、ただ一つ。つまり、レイデュークの魂を持つ俺とレオンの存在無くしてエリュシオンの入り口は現れないんだ。そして、それはこの海の上をゆっくりと規則的に移動し続けている。……ああ、この辺りのはずだ。止まってくれ、ベル」
ベルとジルがある一定の場所で止まると、リュセルはじっと眼下に在る海を凝視し続けた。
「……? 何もないじゃないか」
ジュリナの目には、太陽の光を反射させる穏やかな海がどこまでも広がっている景色しか映っていない。
「…………ッ!? いえ、お姉様。何か、違和感を感じます」
ティアラはリュセルの視線の先に、言葉に表しがたい違和感を感じ、眉をひそめる。
「さすがティアラ姫。宝鍵の中でも感知能力の高い者にしか、これはきっと感知出来ないはず」
そして、リュセルは器用にドラゴンの背の上で立ち上がると、後ろのジルの背にて同じように立ち上がった兄に目を向け、そのまま体を反転させ、向かい合った。
「う~ん、俺の声で高音をどこまで出せるか分からんな。本当は女声(レイデューク)と男声(スノーデューク)で詩う詩なんだが。レオンに高音を詩ってもらうのも酷だし……、俺がやるしかないか。まあ、なんとかなるだろ」
リュセルはぶつぶつと意味不明な事を呟くと、無表情のまま自分を見つめる兄に頷いて合図を示す。レオンハルトは弟の合図を受け取ると、一つ、息を吐く。
そして、兄弟は次の瞬間、同時に口を開いた。
”詩え 約束の詩を
熱き想い 言の葉に乗せて
始まりと終焉を ここに告げる”
創世の女神の力、天上の詩がその場に響き渡った。
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”産まれし命は愛し子の 光の奇跡に祈りを捧げん
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詩声が空と海を裂き、閉じられた空間への扉を開ける
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聞こゆる木々の鼓動に耳をすませよう”
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”光あれ 光あれ”
リュセルの声が昼(光)を呼び
”闇待つ 闇待つ”
レオンハルトの声が夜(闇)を呼ぶ
”この清らかなる世界に 光あれ
この安らかなる世界に 闇を待つ
すべてを司り守りし 創世の詩
終焉の刻まで この詩を捧げ続けん”
劇場や教会で歌われる、人間の作った創世歌とは違う。それは、エリュシオン出現の鍵となるレイデュークとスノーデューク、創世の二柱神の詩、本物の創世詩だった。
この創世詩と共に、レイデュークはこの地を封印したのである。
「無事、繋がったようだ」
眼下に広がる美しい草原を見つめ、懐かしむように目を細めたリュセルはベルに言った。
「俺達が下に降りた後、すぐにここを離れろ。お前達を巻き込みたくはない」
ー分かったー
「ジュリナ殿、ティアラ姫、下に降りる準備を……」
リュセルがベルから目線をジュリナに移すと、豪胆な未来のお義姉様は唖然としながら叫び声を上げた。
「お前、どこから声出してたんだい? まるで女の子の声だったじゃないか!? 音域広過ぎだろう!」
え? 頑張って裏声ってただけなんですけど……。って、いやいや、それどころではなくてですね。
「すごいですわ、リュセル様。とっても綺麗な声でした」
ティ……、ティアラ姫まで(汗)
自分達が手にした詩の力の中に存在しない、女神の魂を持つ二人にしか詩う事は出来ないであろう創世詩に夢中になっている様子の、芸術大好きなディエラの姫君達を見つめ、リュセルは顔を引きつらせる。
その時。
ヒュン
ガツンッ
「痛ってええええぇぇッ!」
はしゃいでいて全く動こうとしないジュリナの後頭部に、レオンハルトが懐に入れていた黒猫ノンちゃん型手鏡を投げつけたのだ。
手鏡の角がものすごい勢いでぶつかったジュリナは涙目で後ろを向き、ジルの背上で優雅に立つレオンハルトに目を向ける。
「おっまえ、この、痛ってえなッ! なんだ、これ!? 何、こんなもん持ってきてるんだよ! どこに隠し持ってたんだ?」
(多分、リュセル兄さんの私物だよね)
(ああ。入れ替わっている間、リュセル殿が愛用していたのであろう)
憮然としているレオンハルトの後ろで、アルティスとローウェンは目線で会話をする。
「あああああッ~、俺のノンちゃんが!」
壊れたレアものの黒猫鏡を前に項垂れるリュセルと、後頭部にたんこぶを作ってレオンハルトに文句を言うジュリナ。
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