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第二章 邂逅
3-2 邪気の痕跡
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その言葉にわがままを言ってはいけないと思ったのか、女の子達は何も言わなくなった。
「……どこに、行くの?」
「王都ですよ」
子供とはげんきんなもので、王都と聞いた次の瞬間には、ころっと態度を変えた。
「おうとって、王様のいる大きな街でしょう!?」
「「「すっご~~~~~い!」」」
いいなあ~を連発する女の子達に、クロードは優しく微笑みながら言った。
「おみやげを買ってきますね」
女の子達が喜びの声を上げるのを聞きながら、クロードは小さくため息をついた。
(神父もめんどくさくなってきたな。王都に行く前に、この村、燃やしちまいたいけど、余計な事するとサイレンがうるせーしな。でも、まあ、こいつらだけなら、いいかな)
邪悪な笑みを聖者の微笑みの裏に隠しながら、クロードは舌なめずりをしながら少女達を見つめる。
そして、その日、三人の子供が村から姿を消し、村はしばらく騒然となり、深い悲しみに支配される事となったのだった。
王都は、国の中心部に存在する、国を治める王が城を構える都だ。
そして、アシェイラ、ディエラ、サンジェイラの三国の王都には、隅から隅まで邪気を防ぐ結界が張られており、特に城は結界が濃く、中の気配は分かるが、邪気の塊の邪鬼にさえ中に侵入する事は敵わない。
優しげな表情をしたその神父は、アシェイラ国王都の数箇所ある内の一つの教会に入ると、ある男が現れるのを待った。
しばらく待ち、ようやく目当ての男が現れる。
護衛をたくさん引き連れた大貴族風のその男を認め、神父はにやりと酷薄な笑みを浮かべた。
辺境の村で子供が三人行方不明になってから、僅か三日後の事である。
*****
「怖いですねえ、リュセル様」
午後のティータイムに、のん気にレッドベリーのタルトを食べていた綾香は、ティルのいきなりの言葉に目線を上げた。
「何がだ?」
紅茶のおかわりをカップに注いでくれたティルにお礼を言うと、彼は頬を赤く染めて少し照れながら答えた。
「この王都から遠く離れた、まあ、片道十日以上はかかるんですが、なにせ、山奥なんで。そんな辺境の村で、子供が三人行方不明になったらしいんです!」
子供の行方不明なんて、向こうの世界ではよくニュースになっていたが、こちらは珍しいのだろうか?
綾香が首を傾げていると、ティルが説明してくれた。
「子供の行方不明とか、誘拐は、そう珍しくないんですが。盗賊とかが子供をさらって売り飛ばしたりするのがあるらしいですから。もちろん、王様が取り締まってくれていますし、レオンハルト殿下が警備の方にも力添えをしてくれているおかげで、最近は減ってきたんですが。でも、今回は、違うらしいんです」
「何が?」
再びの綾香の問いに、ティルは部屋に他に誰もいないというのに、ひそひそ声で応じる。
「邪気の痕跡が認められたようです。その村の神父様も行方不明になってしまっているらしいですし、怖いですね」
ぶるっと身震いをしたティルに、綾香は小さく頷いた。
「そうだな」
邪気。
確か、それをどうにかするのが、自分達の使命だったんじゃないだろうか?
「アシェイラ国内ですが、比較的その村に近い、ディエラの鏡主様と鏡鍵様が、調査に向かわれたそうです」
「……」
レオンハルトの言葉を信じるなら、自分がまだ剣鍵として使えないから、隣国の二人が向かったのだろう。
タルトを食べ終えると、綾香は、ティルと人生ゲームで遊ぶ事にした。
(なんで、異世界に人生ゲームがあるんだろう)
ゲームの正式名称は違うらしいが、内容が、まさに、向こうの世界の人生ゲームだった為、綾香はそう呼んでいた。
「あ、まただ。リュセル殿下って、なんで毎回、子だくさん貧乏になっちゃうんでしょうね」
「ほっとけ」
頬杖をつきながら綾香が不機嫌そうにそう言った時、部屋の扉がおもむろに開いた。
「レオン?」
執務に就いているはずのレオンハルトだった。
「緊急事態だ。私は、これから城を離れて、街の外れにある教会に調査に行く事になった」
部屋を横切り、寝室に入ると、クローゼットから外出着を出し、慌てて着替えの手伝いに入ったティルが手伝う間もない程、レオンハルトは着ていた略式の宮廷服を素早く脱いで着替えた。
そうして、颯爽とコートを翻して寝室を出たレオンハルトは、綾香を一瞥すると念を押した。
「この部屋から、絶対に出るんじゃないよ」
「……分かっている」
その言葉に綾香は頷くと言った。
「それより、調査って、まさか」
「……。邪気の痕跡が見受けられたらしい。ひどく微弱なものなので、剣のない私でも、浄化は可能だろう。すぐ戻る」
綾香の疑問に口早に説明すると、レオンハルトは忙しく部屋を出て行った。
「結界の張られたこの王都内で邪気の痕跡が確認されるなんて!」
レオンハルトが出て行った後、ティルはそう言って震え上がる。
「そうだな」
無感動な瞳でレオンハルトの去った扉を見つめていた綾香は、そうティルに答えると、視線を床に落とした。
(宿命とか、そんなのはどうでもいいんだが。私は、ただここで守られているだけでいいのだろうか)
黙ってしまった綾香に、ティルは勘違いしたのか、己が主を励ますように言った。
「大丈夫ですよ! 城内の結界は街のものよりも強力ですし、それに、この部屋にはレオンハルト殿下が自ら結界を張ってくださったのですから。リュセル殿下は、何も心配なさらなくても大丈夫です」
(でも、見た目にもひ弱とはいいがたい体躯の男が、お姫様のように守られているだけってのも情けないよな)
綾香は遠い目をしながら、ティルのなぐさめの言葉に小さく頷いていた。
「はいは~い! 殿下がいない間、俺がリュセル殿下の護衛として部屋の前で待機してますから、何かあったら呼んで下さいね」
レオンハルトの退出と入れ替わりに入ってきた伊達男。ユージンが満面の笑みでそう言って来たので、それに綾香は冷たい視線で答えた。
「この前、笑い粉で死に掛けていた男がよく言うな」
「うう、痛い所を」
綾香の言葉に傷ついたように胸を押さえるユージンは、少ししょぼくれながら部屋を退出して、扉の外で待機態勢に入った。
「はあ」
綾香がテーブルに戻ると、ティルが人生ゲームを片付けている所だった。
「本でも読むか」
他にする事もない。
幸い、このレオンハルトの部屋の書斎には、膨大の数の本が本棚にびっしりと並んでいる。
その中から、創世神話と書かれた本を取り出してテーブルにつくと、分厚い表紙を開いた。内容は、この前レオンハルトに聞いた創世の女神の話から、宝主と宝鍵の話を除いたような内容だった。
宝主と宝鍵
これを見る限り、その存在の本当の意味を知るのは、本当に一部の人間のみのようだ。一般の市民が知っているのは、宝主と宝鍵は邪気を浄化する事の出来る、尊い存在だという事のみ。
(ティルも、そうだったしな)
きっと、代々口頭のみで伝えられてきたのだろう。文章にはどこにも残っていない。本を読みながら、ティルが用意してくれたクッキーに手が伸び、綾香は不意にその手を止めた。
(そういえば、最近の私の行動は)
まさしく食っちゃ寝、食っちゃ寝の、上げ膳下げ膳状態。
(このままでは……、ふ、太る!!)
現状、まったく肉のついた気配はないが。いや、それどころか綺麗に筋肉のついたバネのような体なのだ。今の自分の体は、鍛えてもいないのに、均整のとれた筋肉のつき方をしている。
だが……
(やめておこう)
綾香は欲望と戦い、つまんだクッキーを戻してため息をついた。
(早く儀式とやらを終わらせて、外に出たい)
ゴージャスな城内も見て回りたいし、街も見てみたい。
(もしかして儀式が終われば、私にも部屋がもらえるのか!?)
その予測に、綾香は心の中で喜んだ。
「……どこに、行くの?」
「王都ですよ」
子供とはげんきんなもので、王都と聞いた次の瞬間には、ころっと態度を変えた。
「おうとって、王様のいる大きな街でしょう!?」
「「「すっご~~~~~い!」」」
いいなあ~を連発する女の子達に、クロードは優しく微笑みながら言った。
「おみやげを買ってきますね」
女の子達が喜びの声を上げるのを聞きながら、クロードは小さくため息をついた。
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邪悪な笑みを聖者の微笑みの裏に隠しながら、クロードは舌なめずりをしながら少女達を見つめる。
そして、その日、三人の子供が村から姿を消し、村はしばらく騒然となり、深い悲しみに支配される事となったのだった。
王都は、国の中心部に存在する、国を治める王が城を構える都だ。
そして、アシェイラ、ディエラ、サンジェイラの三国の王都には、隅から隅まで邪気を防ぐ結界が張られており、特に城は結界が濃く、中の気配は分かるが、邪気の塊の邪鬼にさえ中に侵入する事は敵わない。
優しげな表情をしたその神父は、アシェイラ国王都の数箇所ある内の一つの教会に入ると、ある男が現れるのを待った。
しばらく待ち、ようやく目当ての男が現れる。
護衛をたくさん引き連れた大貴族風のその男を認め、神父はにやりと酷薄な笑みを浮かべた。
辺境の村で子供が三人行方不明になってから、僅か三日後の事である。
*****
「怖いですねえ、リュセル様」
午後のティータイムに、のん気にレッドベリーのタルトを食べていた綾香は、ティルのいきなりの言葉に目線を上げた。
「何がだ?」
紅茶のおかわりをカップに注いでくれたティルにお礼を言うと、彼は頬を赤く染めて少し照れながら答えた。
「この王都から遠く離れた、まあ、片道十日以上はかかるんですが、なにせ、山奥なんで。そんな辺境の村で、子供が三人行方不明になったらしいんです!」
子供の行方不明なんて、向こうの世界ではよくニュースになっていたが、こちらは珍しいのだろうか?
綾香が首を傾げていると、ティルが説明してくれた。
「子供の行方不明とか、誘拐は、そう珍しくないんですが。盗賊とかが子供をさらって売り飛ばしたりするのがあるらしいですから。もちろん、王様が取り締まってくれていますし、レオンハルト殿下が警備の方にも力添えをしてくれているおかげで、最近は減ってきたんですが。でも、今回は、違うらしいんです」
「何が?」
再びの綾香の問いに、ティルは部屋に他に誰もいないというのに、ひそひそ声で応じる。
「邪気の痕跡が認められたようです。その村の神父様も行方不明になってしまっているらしいですし、怖いですね」
ぶるっと身震いをしたティルに、綾香は小さく頷いた。
「そうだな」
邪気。
確か、それをどうにかするのが、自分達の使命だったんじゃないだろうか?
「アシェイラ国内ですが、比較的その村に近い、ディエラの鏡主様と鏡鍵様が、調査に向かわれたそうです」
「……」
レオンハルトの言葉を信じるなら、自分がまだ剣鍵として使えないから、隣国の二人が向かったのだろう。
タルトを食べ終えると、綾香は、ティルと人生ゲームで遊ぶ事にした。
(なんで、異世界に人生ゲームがあるんだろう)
ゲームの正式名称は違うらしいが、内容が、まさに、向こうの世界の人生ゲームだった為、綾香はそう呼んでいた。
「あ、まただ。リュセル殿下って、なんで毎回、子だくさん貧乏になっちゃうんでしょうね」
「ほっとけ」
頬杖をつきながら綾香が不機嫌そうにそう言った時、部屋の扉がおもむろに開いた。
「レオン?」
執務に就いているはずのレオンハルトだった。
「緊急事態だ。私は、これから城を離れて、街の外れにある教会に調査に行く事になった」
部屋を横切り、寝室に入ると、クローゼットから外出着を出し、慌てて着替えの手伝いに入ったティルが手伝う間もない程、レオンハルトは着ていた略式の宮廷服を素早く脱いで着替えた。
そうして、颯爽とコートを翻して寝室を出たレオンハルトは、綾香を一瞥すると念を押した。
「この部屋から、絶対に出るんじゃないよ」
「……分かっている」
その言葉に綾香は頷くと言った。
「それより、調査って、まさか」
「……。邪気の痕跡が見受けられたらしい。ひどく微弱なものなので、剣のない私でも、浄化は可能だろう。すぐ戻る」
綾香の疑問に口早に説明すると、レオンハルトは忙しく部屋を出て行った。
「結界の張られたこの王都内で邪気の痕跡が確認されるなんて!」
レオンハルトが出て行った後、ティルはそう言って震え上がる。
「そうだな」
無感動な瞳でレオンハルトの去った扉を見つめていた綾香は、そうティルに答えると、視線を床に落とした。
(宿命とか、そんなのはどうでもいいんだが。私は、ただここで守られているだけでいいのだろうか)
黙ってしまった綾香に、ティルは勘違いしたのか、己が主を励ますように言った。
「大丈夫ですよ! 城内の結界は街のものよりも強力ですし、それに、この部屋にはレオンハルト殿下が自ら結界を張ってくださったのですから。リュセル殿下は、何も心配なさらなくても大丈夫です」
(でも、見た目にもひ弱とはいいがたい体躯の男が、お姫様のように守られているだけってのも情けないよな)
綾香は遠い目をしながら、ティルのなぐさめの言葉に小さく頷いていた。
「はいは~い! 殿下がいない間、俺がリュセル殿下の護衛として部屋の前で待機してますから、何かあったら呼んで下さいね」
レオンハルトの退出と入れ替わりに入ってきた伊達男。ユージンが満面の笑みでそう言って来たので、それに綾香は冷たい視線で答えた。
「この前、笑い粉で死に掛けていた男がよく言うな」
「うう、痛い所を」
綾香の言葉に傷ついたように胸を押さえるユージンは、少ししょぼくれながら部屋を退出して、扉の外で待機態勢に入った。
「はあ」
綾香がテーブルに戻ると、ティルが人生ゲームを片付けている所だった。
「本でも読むか」
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幸い、このレオンハルトの部屋の書斎には、膨大の数の本が本棚にびっしりと並んでいる。
その中から、創世神話と書かれた本を取り出してテーブルにつくと、分厚い表紙を開いた。内容は、この前レオンハルトに聞いた創世の女神の話から、宝主と宝鍵の話を除いたような内容だった。
宝主と宝鍵
これを見る限り、その存在の本当の意味を知るのは、本当に一部の人間のみのようだ。一般の市民が知っているのは、宝主と宝鍵は邪気を浄化する事の出来る、尊い存在だという事のみ。
(ティルも、そうだったしな)
きっと、代々口頭のみで伝えられてきたのだろう。文章にはどこにも残っていない。本を読みながら、ティルが用意してくれたクッキーに手が伸び、綾香は不意にその手を止めた。
(そういえば、最近の私の行動は)
まさしく食っちゃ寝、食っちゃ寝の、上げ膳下げ膳状態。
(このままでは……、ふ、太る!!)
現状、まったく肉のついた気配はないが。いや、それどころか綺麗に筋肉のついたバネのような体なのだ。今の自分の体は、鍛えてもいないのに、均整のとれた筋肉のつき方をしている。
だが……
(やめておこう)
綾香は欲望と戦い、つまんだクッキーを戻してため息をついた。
(早く儀式とやらを終わらせて、外に出たい)
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