【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第四章 朱金の姫君

1-2 怪談話

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 そして次の日の早朝、まだ日も空けぬうちにリュセル達はアシェイラの王都を発った。邪気浄化の旅は、大事(おおごと)にしては国民に不安を与える為、少人数での旅になるらしく、メンバーは、リュセルとレオンハルトを抜かせば、アントニオ、アイリーン、ユージンの三騎士のみである。

 見送りに、ジェイドとカイルーズと、城で留守番する事になったティルが出て、旅の無事を祈ってくれた。
 約一名、土産にディエラの毒草を買ってくるようにリュセルに頼む人物もいたが……。(もちろんカイルーズである)

 女神の眠る地、セイントクロスの南東に位置するディエラ国は、アシェイラの真東にある為、王都を出て、ずっと東に向かえばいいだけなのだが、まずアシェイラ国内を通過し、関所を抜けて、ディエラ国内に入り、それからディエラの王都に向かわなくてはならない。その為、馬車で約二週間程の旅になるのだ。

 紋章の何も入っていない、中流程の貴族が乗る程度の馬車に乗り込んでいたリュセルは、退屈のあまり死にそうだった。

 旅に出てから一週間後の事である。

 毎日、毎日、ゴトゴトゴトと馬車に揺られているだけ……。

 リュセルもレオンハルトも、顔が目立ちすぎる為、馬車の中が見えないように、暗い色のカーテンが引かれていた。

 その為、外の景色を楽しむ事も出来ない。

(暇だな)

 目の前に座るレオンハルトは、この一週間というもの、ずっと単行本を読みふけっている。

 馬車の御者はアントニオが務め、アイリーンとユージンは馬に乗って、馬車の周りの警護をしていた。せめてユージンがいれば、何か面白い話でもしてくれるのだろうが。しかし、今、馬車の中にいるのは、足を組む姿もおそろしく様になっている、無愛想な麗しのお兄様のみである。

 旅の最初は、珍しいレオンハルトの旅装束(黒の外套が格好良い)姿を見て過ごしていたが、それも飽きた。次に、自分も持ってきた本を読んでいたが、それも読み終わってしまったのである。

 リュセルは窓ガラスを軽く叩くと、カーテンを開けないまま窓を開けた。

「ユージン」

 馬で隣を行く兄の騎士の一人を呼ぶと、お調子者の騎士が「はいはいは~い」と答えて、馬を近づけて来た。

「何か面白い話をしろ」

「……リュセル殿下、かなりお暇なようですね」

 すっかりレオンハルト直属の騎士でありながら、リュセル担当になってしまったユージンは、そう頷いて、カーテン越しに言った。

「では、とっておきの話をしましょう」

「とっておきの話?」

 リュセルがユージンのもったいぶった言い方に眉をひそめると、目の前に座るレオンハルトが、一瞬、単行本から目を上げた。しかし、すぐ興味を失ったのか、目線を単行本に戻してしまったが。

「ふっふっふっ、これを聞いたら、夜眠れなくなりますよお」

 ユージンの言葉を聞いたリュセルは、つまらなそうに呟いた。

「なんだ。怪談話か」

 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの口調で言ったリュセルに、ユージンはムッとしたように答える。

「怪談話を馬鹿にしちゃいけません。その中にも真実が含まれている時だってあるんですよ」

「ほう」

 馬鹿にしたように鼻をならしたリュセルを気にすることなく、ユージンは話を始めた。

「これは、今日、泊まる予定になっているアシェイラ関所近くの街、テイルの宿屋に伝わる話なんですけどね」

 わざとらしい、暗いどんよりとした声を作って話し出したユージンに、リュセルはとりあえず耳を傾けてみる事にした。

「テイルの街ってのは、ディエラとの関所近くにあって、ディエラ国産のものが手に入りやすいって事を除けばあまり目立った所もない街ですよ。そのテイルで、たった一つの宿屋に、一人の少女が奉公していたんです。容姿も平凡で性格も普通のその少女は、ある日、宿屋に泊まった一人の若者に恋をしたのです」

「よくある話だな」

 リュセルは適当にあいづちを打つと、小さく頷いた。

「その若者は、それはそれは、美しい容姿をしていたようです。まあ、リュセル殿下やレオンハルト殿下のような、一種の神がかり的な美貌とはまた違ったと思いますが……。そして、少女は一瞬で恋に落ち、その若者に夢中になりました。けれど、その、美しい朱金の髪、苛烈で情熱的な炎を宿した深紅の瞳をした若者には、もう既に愛する者がいたのです」

「へー」

「嫉妬に狂った少女は、若者の愛する娘をどうにかしてしまおうとするのですが、それが若者にばれてひどく詰られてしまうのです」

「まあ、そうだろうな」

「少女は悲しみのあまり、宿屋の井戸に身を投げて死んでしまいました」

「宿屋の人はいい迷惑だな」

「責任を感じた若者と娘は、少女の葬儀にも参列し、しばらくその宿屋に泊まったのですが。ある月の明かりもないような、新月の晩の事でした……」

「ん、そろそろ確信に迫ってきたか?」

「ピチャン……ピチャン……という水滴の落ちる音が、若者と娘の泊まる部屋へと近づいてきたのです。不審に思った若者がドアを開けますが、そこには誰もいません。そして、部屋の中に戻りますと、そこには死んだはずの少女がびしょぬれで立っているではありませんか!」

「……? その、若者の愛する娘は、一体どこに行ったんだ」

「さあ? そこは知りませんが。ちょっと、細かい部分は気にしないで下さいよ。……ともかく、少女は濡れた手を若者に伸ばすと、か細い声で言いました。「死んでもあなたから離れない」!」

 そうユージンが言った瞬間、ユージンのいる場所、その反対側の馬車隣から悲鳴が響いた。

「きゃあああああ!」

「アイリーン!?」

 びっくりして反対側の窓を開け、咄嗟にカーテンも開けると、真っ青な顔をしたアイリーンがいた。

「な、何でもありません。お気になさらずに、リュセル殿下」

「すごい汗だぞ」

「大丈夫です」

 アイリーンの即答を聞いて、心配しながらもリュセルが元の位置に戻ると、にやにや顔のユージンがいた。

 あきれる……

「お前、わざと聞こえるように話してたな」

 そういえば、暗い声だったが、声は大きかった。

「まさか」

 信用できない答え。それを聞いたリュセルは胡乱な視線を彼に送ると、先を促した。

「で? その、若者と娘はどうなったんだ?」

「さあ?」

 首を傾げたユージンに、リュセルは軽くこけた。

「さあ? って知らないのか!?」

「でも、話の流れ的に、その少女の霊にとり殺されちゃったんじゃないんですか?」

「ずいぶんいい加減だな」

 リュセルはそう言うと、まあ怪談話なんてそんなものかと思い直し、視線を前に向け、その直後、目を見開いた。

 本を読んでいたと思われていたレオンハルトが、肩を揺らして笑っていたのである。くくくくっと、口元を押さえて上品に笑っているのだが、レオンハルトじゃなかったら腹を抱えて笑い出してもおかしくない程のウケぶりだった。

「レオン……?」

 驚きに目を見張って、恐る恐る、リュセルは、普段笑う事など滅多にない兄を呼んでみた。

「いや、何でもない」

「何でもないって、さっきの怪談話って、そんなに笑える内容だったか?」

 リュセルの問いかけを聞いたレオンハルトは、笑みを引っ込めると、読んでいた単行本を閉じて言った。
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