【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第四章 朱金の姫君

1-3 怪談話②

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「怪談話の中にも、真実が含まれている事がある……ね。まさにその通りだ。ユージンも、たまには的を射た事を言うじゃないか」

「それって、ユージンの話した話が本当の話だって事なのか?」

 リュセルがそう聞くと、レオンハルトは少し考え込んでから頷いた。

「まあ、大体合っている。本当にあった出来事だ」

「マジで!?」

 レオンハルトの言葉に大声で答えたのは、馬車の外のユージンだった。

「どどどどど、ど~しましょう、殿下。俺達、今日の宿はそこなんですが……」

「問題ないだろう」

 いつもの調子に戻ったレオンハルトの言葉に、ユージンとカーテンを開けたリュセルは目線を合わした。今まで冷静だったのは、その怪談話が作り物だと思っていたからでありまして……。隠し事はするが、レオンハルトは基本的に嘘をつくという事はしない訳でありまして……。ついでに、彼は冗談を言う性格でもなくて……。

(本気で、今日の宿屋は幽霊屋敷なのか!?)

 リュセルが心の中でそう考えている間、馬車の隣を行くアイリーンの肩はカタカタと震えていたのだった。





 怪談話などしなければ良かった。

 リュセルとユージンが内心そう思いながら、それを表に出す事なく、何気なさを装っている内に、馬車はテイルの街へと到着した。カーテンの隙間から覗いた街の中は、普通の街並みである。関所近くの街の為、店が多く、広場には露天なども並んでいて結構賑わっていた。

 リュセルは、明るいその街の様子にホッとする。怪談話は、別にいいのだ。だいたいが嘘だったし、目の前に霊がいる訳でもない。だが、この時、リュセルは、綾香だった頃、かなりの怖がりだった事を思い出していた。

 遊園地のお化け屋敷系は、まるでダメだった。

 あの頃は、女性だったから、「怖い!」って叫んでも、可愛いと思われるだけだったが、今はそうもいかない。

 今は男なのだ。

 それも、超絶美形

 リュセルは、現在の自分の顔が、あまり表情の変わらないものである事に感謝した。

「着きました」

 御者として馬車の馬の手綱を握っていたアントニオの言葉にレオンハルトは頷くと、脇に立てかけておいた剣を手にとった。

 リュセルは、その剣をじっと見つめる。

 見事な細工の彫刻と十字に交差した柄の不思議な紋様を抜かせば、普通の剣とさして変わらないその剣は、邪気を浄化する事の出来る女神の剣である。

 旅に出る前に、レオンハルトが、城のどこかに封印された(リュセルが封印を解いた時に見つけた階段は、同じ場所にはもうなかった)この女神の剣を持ち出してきたのだ。
 まあ、この剣はいわば彼の物のようなものだし、邪気の浄化に不可欠なのでしょうがないのだが、国の象徴たるものをこんな簡単に持ち出して、王都内に張られた結界は大丈夫なのだろうか。

 その疑問を口にしたら

「お前も見ただろう? 剣を抱えていた女神像を。剣と長く共にあったあの像が、代わりに結界を維持してくれているから大丈夫だ」

「しかし、あれは割れてしまったぞ」

「私が元の状態に戻しておいた」

 ここでどうやって? と聞くのは愚問だろう。

 過去の記憶を振り切り、現実に戻ったリュセルは、無理矢理剣から意識を逸らすと、先に馬車を降りる。

「良かった。普通の宿屋ですね、リュセル王子」

 馬から降りたユージンが、リュセルの隣に立ってそう言って胸を撫で下ろしていた。

 大きくも小さくもない、ランクでいったら中の上といった程度のその宿屋は、高級ではないが、清潔感のある、なかなかいい宿屋のようだった。……見た目は。

 この1週間というもの、宿をとる時は必然的に三部屋をとっていた。当然の如く、レオンハルトとリュセルは同室で、後は、ユージンとアントニオが一緒の部屋。このメンバーの中で唯一の女性、アイリーンが一人部屋になっている。

 割り振られた部屋に落ち着いたリュセルは、レオンハルトが今後の予定をアントニオと話し合っている間、持ってきた手持ちサイズの単行本を読もうかと開きかけた時、ノックの音を聞いて止めた。

「リュセル王子」

 ユージンの声だった。アントニオとの話に集中しているレオンハルトを横目に扉を開けると、リュセルは言った。

「どうした?」

「井戸を見に行きましょうよ」

 いししししと笑って、いきなり脈絡のない事を言い出したユージンに、リュセルはその秀麗な眉をしかめた。

 そんな、わずかな変化さえ美しい、この王子の顔を最近見慣れたはずなのに、うっかり見惚れてしまったユージンは、慌てて首を振る。

「と、とにかく行きません?」

「だから、井戸って何の事だ」

「もちろん、少女が飛び込んで自殺したという井戸ですよ」

 ユージンがそう言うと、リュセルは一瞬黙り込んだ。

「本気か?」

 その声音に嫌そうな雰囲気を感じ取って、ユージンは意地悪な笑みをもらした。

「リュセル様、怖いんですか?」

「……行けばいいんだろう」

 小さくため息をついて、あきらめたように返事をしたリュセルの反応を見たユージンは、おや?と思った。この、一見怖いものなど何もないような、女性達を魅了する美貌の王子は、なんとなくだがアイリーンと同種のような気がしていたのだが。

 つまり、そういうものに対する、極度の怖がり。

 怪談話で大丈夫だったから、自分の気のせいかと思ったが、実はそうではないらしい。

 その怪談話が、実際のもので、これからそこに泊まると知った時のリュセルの顔色の悪さから、実際に体験するのが嫌らしい事がわかった。ユージンも人並みには臆病だが、(騎士のくせに)きっと、この二人(リュセルとアイリーン)には負けるだろう。




 それからしばらくして


 宿屋の裏手に、ユージンの拍子抜けしたような声が響いた。

「なんだ~、何の変哲もない井戸でしたね」

 件の井戸は、宿屋の母屋の裏側、勝手口近くにあった。今も使用されているらしく、その水は結構おいしい。

「第一、誰かがこの中に飛び込んで死んでいたら、そんな井戸、もう使ったりしないだろう」

 内心、ホッとしながら、冷静にそう分析したリュセルに、ユージンは子供のように頬を膨らませた。

「つまんないですねぇ」

「きっと、レオンに俺達はからかわれたのさ」

 リュセルはそう言って頷くが、リュセルよりもレオンハルトと付き合いが長いユージンは、首を傾げた。

「殿下の性格を考えると、そんな事ないと思いますがね」

 十年近く仕えているが、冗談を言ったのを聞いた事がない。

「じゃあ、あれは、本当の話だとでも言うつもりか!?」

 くわっと目を見開いて、ユージンの胸倉を掴み、リュセルは目の前の騎士に詰め寄る。ユージンは、そんな目の前の美貌の主から目を背けながら言った。

「どうどうどう、落ち着いて下さい。まあ、事実この井戸には何もないのだから、いいじゃありませんか」

 最もなユージンの意見だ。単純なリュセルはそれにあっさり頷いた。

「それもそうだな」

「ともかく部屋に戻りましょう。もうすぐ日も暮れますし、夕食の準備を宿の者に頼んでおきますよ」

「ああ」

 こうして、リュセルはユージンに宥められながら、その場を後にしたのである。



 その後は、これといって何の変化もなかった。特記するべき事と言えば、部屋に戻る際、宿屋の使用人の女性や宿泊客の女性をリュセルが金縛りにしてしまった事くらいだろうか。そうして、五人一緒に夕食をとると、旅の疲れからか、皆、早めに床につく為に、自分に与えられた部屋へと引っ込んだ。

 旅の間ずっとそうなのだが、城のような広いベットではない為、レオンハルトとリュセルは隣り合わせになった、別々の寝台で休んでいた。別の寝台でも、距離が近いから、精神は安定し、寝不足になる事はない。

 だが、そんな中、事件は起こった。

「ない……」

 宿屋で用意された夜着を着て(テイル街名物、クマリスのワッペンのついた、向こうの世界のパジャマのような夜着だ)眠りにつこうとした時、リュセルはあるものがない事に気づいた。

(俺のバイブル、黒猫ノンちゃんシリーズの第三巻、ノンちゃん危機一髪の本がない!)

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