【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第四章 朱金の姫君

2-1 怪談話の真相①

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 通算シリーズ十六作を誇る、超ベストセラー(女性と子供に大人気)の黒猫ノンちゃんシリーズ。その、三巻目を失くしてしまいました。
 アシェイラの歴史書や、世界史の本を読みふけると同時に、気に入って読んでいた本。

(一体、どこで)

 確か、宿屋についた時は持っていた。そう、読もうとしていたのだ。そこにユージンが現れて……何か、嫌な予感がする。

「井戸か!?」

 急に叫んだ弟の声を聞いた、自分も休もうと夜着に着替えていたレオンハルトが、不審そうな視線を向けてきた。

「井戸?」

「い、いや、なんでもない」

 青い顔で視線を逸らしたリュセルを不思議に思いながらも、レオンハルトはリュセルのベットに近づくと軽く身をかがめて、何か思い悩んでいる様子の弟の唇に軽く口づけた。

「おやすみ」

「おやすみ……」

 そして、あっさりと体を離したレオンハルトを少し寂しく思いながら、リュセルはそう答えると寝る体勢に入ろうとした。

 ……が

(気になって眠れないっ!)

 明日、出発前に探しに行けばいいのだが。

(俺のノンちゃんが……!)

 気になる、気になる、気になる、気になる。

 しばらく経った後、リュセルは音を立てずに、ムクリと起き上がった。隣では、身じろぎ一つせずに、レオンハルトがぐっすりと眠っている。

(くそ……、すべての元凶たるあいつに、責任をとってもらおうじゃないか)

 そう考えたリュセルは、ベットを抜け出し、音を立てないようにして部屋を出たのだった。



 リュセルとレオンハルトの右隣の部屋がユージンとアントニオの泊まる部屋で、向かいがアイリーンの泊まる部屋になっている。

 リュセルは部屋を出ると、迷う事なく右隣の部屋に忍び込み、暗闇に目が慣れるのを待った。しばらくの後、ようやく目が慣れ、その部屋が自分達の泊まる部屋と同じ作りになっており、家具の配置も大体同じになっているのに気づく。

 そして、そんな部屋の中の二つある内、右側のベットの傍へと忍び足で近づく。左のベットは膨らみが大きい為、体格の大きいアントニオが眠っている事が予測ついたからだ。案の定、右のベットではユージンが枕を抱えて眠っていた。

「ユージン」

 幸せそうな寝顔が、今、この時ばかりは憎い。

「ううん……」

 寝返りを打ったが、起きる様子の見られないユージンの肩を、リュセルは音を立てぬようにしながら激しく揺すった。

「……うううううう、なんなんだよ。ってリュセル殿下!?」

 目をこすりながら身を起こしたユージンは、近くに立つリュセルを見上げ、驚いたようにビクッと身を震わせた。

「しい、静かにしろ。アントニオが起きるだろうが」

 仰向けに上を向いたまま、寝ている間さえ礼儀正しい格好で眠っている、隣のアントニオを気にして小声でそう言ったリュセルに、ユージンは欠伸をかみ殺して聞いた。

「何してんすか。あっ! まさか、夜這いですか?」

 きゃあと言って胸元を隠す、冗談好きのこの騎士を、しらけた目で見ながらリュセルは答える。

「昼間行った、あの井戸の近くに本を落としてきてしまったようなんだ。取りに行くから付き合え。」

 リュセルの言葉を聞いたユージンは、途端に面倒くさそうな顔になった。

「ええ~、明日でいいじゃないっすか」

「お前、俺が王子だって事忘れてるだろう……。まあ、それはいいとして、大事な本なんだ」

「え!? いけない本っすか?」

 ユージンのにやにやとした顔を見て、リュセルは不機嫌そうに言った。

「お前はそればっかりだな」

「だって、リュセル殿下位の年だったら、普通でしょう?」

(……そうなのか?)

 ユージンの言葉に、リュセルは一瞬、動揺した。

 何せ、元々リュセルは、向こうの世界では女だったのだ。

(そういえば、祐樹の部屋でそういう本を見つけて、からかって遊んだ事があったっけ)

 向こうの世界に残してきた弟の事を思い出して、リュセルは頷いた。しかし、男になった、今現在も、別にそういう本を見たいと思った事もない。健全な十代の青少年にあるまじき事なのだが、そんな気分になる前に、兄の手によって毎回処理されてしまっている事に、リュセルは気づいていなかった。

「まあ、いいですけどね。行けというならお供しますよ、一人で行かせるのは心配ですし」

 ユージンは、無言で悩みだしたリュセルにそう言うと、近くにあった上着を取ろうとして気づいた。

「リュセル王子、あなた、上着も着ないで来たんですか」

「ああ。まあ、いいだろう?」

 ユージンは、ため息をつくと、持っていた上着を差し出した。

「サイズは、ほとんど一緒ですから、大丈夫でしょう」

「……すまない」

 そして、当のユージンは、荷物の中から予備の上着を取り出して着込んだ。

「さあ、さっさと行って、戻ってきましょうか。」

 片手に剣を持ち、部屋を出る。

「……なあ」

 部屋を出ると同時に、リュセルはユージンを呼んだ。

「何ですか?」

「なんで、井戸に行くだけなのに剣を持ってきたんだ?」

 リュセルの問いに、ユージンは黙り込んだ。

「いらなくないか? 邪魔だし」

「騎士たるもの、一時も剣は手放せません」

 生真面目に返されるユージンの返事。それを聞いたリュセルは、少し彼を見直した。

(結構格好いい事言うじゃないか。なるほど、騎士の心得ね)

 実は、幽霊を警戒しての事なのだとは、少し天然ボケ気味のリュセルにはわからなかった。そうして、そんな風に見当違いの事を考えながら、今後の進路について思いを巡らせる。

 井戸の近くの勝手口がある厨房は、真夜中の為閉められてしまっている事だろう。

(一度出入り口から外に出ないとダメだな)

 リュセルはそう考え、エントランスのある方向へと足を向けた。そのまま、ふと、リュセルは、しんっと静まり返った真っ暗な廊下の先を見て、唾を飲み込んだ。

 電気などという、便利なもののない、この世界の夜は、暖かな火の光と、不可思議な光を放つ、光石の明かりが頼りである。

 この宿屋も、夜になったら、ランプに明かりが灯されるようになっていた。だが、廊下の所々に灯されていたランプは、真夜中の為、消されている。

 ユージンは、部屋から持ち出した手持ちのランプに火を灯した。二人の周りだけ、暖かなわずかな光が照らす。
 夜中(よるじゅう)ランプに明かりが灯されて明るい、城の廊下と違いかなり薄暗い。しかも、この宿屋は確か……でるのである。

「どうしました?」

 一向に進もうとしないリュセルを不審に思いながら、ユージンがのほほんと聞いてきた。

「ランプを持ってるんだから、お前が先に行け。俺は後ろを守る」

「……」

 一体何からですか?とは、さすがにユージンはつっこまなかった。

「わかりました」

 ユージンが先を歩き、挙動不審ぎみなリュセルが後に続く。廊下をしばらく進み、階段を降りて一階に降りる。

(うわ~)

 ユージンは、つい、心の中で声を上げた。

 昼間は明るく、光に溢れていたエントランスも、真夜中の今は暗く、どこかどんよりとしている。いかにも、何か出そうである。

 しかも

「あの……リュセル王子、非常に歩きにくいんですが」

 おもいっきり、後ろからしがみつかれた状態のユージンは、自分の肩の上に散った銀髪の持ち主にそう言った。

「うるさい、さっさと行くぞ!」

「はいはい」

 声だけは勇ましいリュセルに苦笑すると、ユージンは彼を引きずって歩き出した。そのままエントランスを横切り、内鍵を開けると外に出る。雲に隠れて月が出ていない為、外は更に暗かった。

「そういえば、あの話で少女の霊が出てきたのも、月のない新月の晩の事でしたね。」

 密着した、リュセルの心臓の心拍数が上がったのが、よくわかる。


 月のない真夜中の暗闇の中、がたいのいい男が二人、身を寄せ合って歩く姿は、それだけで、もう、怪談めいた風情がある。

「着きましたよ」

 外から裏口に回り、件の井戸近くに来ると、ユージンは無意識に唾を飲み込んだ。昼間きた時と違い、その井戸は周りの暗さもあり、かなりおどろおどろしい。

「リュセル王子、着きましたってば」

 思いっきりユージンの肩上に顔を伏せていたリュセルは、恐る恐るといった感じに顔を上げると、自分の本来の目的を思い出した。

「どの辺りに落としたかわかります?」

 自分の背中からやっと離れたリュセルに尋ねながら、ユージンは井戸周辺を見回した。

「おそらく、この辺りに……」

 昼間、自分が座り込んだ場所に目をやると、黒い背表紙の単行本があっさりと見つかった。

「あった!」

 井戸の近くに放置された本を慌てて拾ったリュセルは、ホッと息を吐く。

「よかったですねぇ」

 それに優しく微笑むユージンに、礼を言おうとして、リュセルは固まった。

「……リュセル王子?」

 真っ青になって、顔を強張らせるリュセルを怪訝に思った時。

 ピチャン

 水滴が落ちる音が、響いた。


 月のない夜 井戸に身投げした少女の霊が 水滴を響かせて よみがえった……


「ッ!!」

 リュセルは脱兎のごとくユージンの元に駆け戻ると、目を血走らせ、その体に体当たりしてしがみついた。

「ユ、ユユユユ、ユージン!」

 声を震わせたリュセルに対して、ユージンも動揺を隠し切れずに言った。

「だだだ大丈夫です。空耳です!」
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