【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第四章 朱金の姫君

2-2 怪談話の真相②

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 二人そろって空耳も何もないだろうに。その証拠に、すぐにまた……


 ピチャン


「き、聞こえるぞ!」

 リュセルはそう叫ぶと、ユージンの首を締め付けた。

 ぎゅうぎゅうにしがみつかれたユージンは、身動きを制限されながらも、持ってきた剣を抜き放った。

「リュセル王子、危ないので離れて下さい」

 片手に剣を抜き放ち、まあ、当然の事を言ったユージンに対して、リュセルは、即、拒否した。

「嫌だね! お前、俺を置いて逃げる気だろう!」

「何言ってるんすか! ちょっ、あまり体をくっつけないで下さい。剣持ってるんだから、危ないでしょう!」

 2人で揉み合っている内に、井戸の方で不思議な声がした。

「キュ」

 …………キュ?

 二人ほぼ同時にゆっくりと井戸を見ると、手の平サイズの、小さなリスに似た小動物が、井戸の淵で小さな小石を井戸の中に落としていた。


 ピチャン


 落とすと同時に水音が響く

「クマリス……」

 テイルの街周辺に住み着いている小動物だ。見た目も愛らしく、害もない為、街の名物になっている。

「はははははは」

 ユージンは乾いた笑いを浮かべると、剣を鞘に納めた。なんとも、まぬけな話である。ユージンにしがみつくリュセルも、気が抜けたようで放心状態にあるようだった。

 身長がほぼ同じである為、こうして密着するとリュセルの顔は、ユージンの顔のすぐ横にある事にある。吐息がかかる程近くにある月の美貌に、ユージンは恐怖が去った事もあり、少しドキドキしてきてしまった。

 レオンハルトもそうだが、女神の子供達は、本当に美しい容姿をしている。

「ユージン?」

 自分をじっと見つめる兄の騎士を不思議に思い、放心状態からようやく脱却したリュセルが、まばたきをしてユージンの名を呼んだ。

 まばたきによって、揺れた睫毛の色は、白に近い銀色。その下に覗く瞳も、薄い銀の色だ。決して、女性的ではない。男性的で、一見冷たい、鋭利な印象を人に抱かせる、類希なる美貌。

 最近慣れたとはいえ、やはり直視に耐えられない。そう思いながら顔を赤くして背けたユージンに対し、リュセルは眉をしかめた。

(変な奴だな)

 リュセルは、急にそわそわし出したユージンに、胡乱な視線を送る。

「いい加減、離してくれませんか?」

 ユージンにしがみついたままだった事に気づいたリュセルは、「すまない。」と一言詫び、体を離そうとして、次の瞬間、ビクッと身を震わせた。


 カツンカツン


 宿屋の客用の出入り口から、この井戸まで石畳が敷かれ綺麗に舗装されていた為、その上を歩くと靴の音が響いた。


 カツンカツンカツン


 何かが、近づいてきている。

 無意識の内に、リュセルは、再びユージンに手を伸ばしていた。

 ユージンも、青い顔で音のする方を見つめる。

 ランプは先程の騒ぎで足元に落としてしまった。やってくるものが、人間なのか幽霊なのか、一切わからない。

 幽霊が靴の音など響かせる訳ないのだが、普段の冷静さを失っていた二人は、血走った目でそいつの訪れを待つしかなかった。

 次の瞬間

 その靴の主の長い髪が、宙に舞った。

(しょ……少女の霊!)

 とっさにリュセルはユージンに勢いつけて抱きつき、そのまま地面に押し倒してしまった。地面に倒れた衝撃がかなりあり、少し痛かったが、それ所ではない。恐怖に目を見開くユージンの顔の横で、その肩に顔を押し付けて固く目を閉じたリュセルは、何故か、お経を唱えていた。

「何をしているんだ」

 続いて聞こえた低い声。リュセルとユージンは同時に悲鳴を上げた。


「ぎゃあああああああ!」

「ひいいいいいいいい!」

 情けない、王子と騎士の叫び声が、夜空の下に響き渡ったのだった。

 悲鳴を上げた二人に対し、靴音の主は左手で耳を押さえながら、持っていたランプを向けてきた。その瞬間、目の前に現れた良く見知った雅な美貌を見て、ユージンは驚きに目を見張った。

「殿下!」

 腰まで届く長い胡桃色の髪に琥珀の瞳の、麗しの主。

 レオンハルトは不機嫌そうに眉をしかめると、ユージンにしがみついたままのリュセルをじっと見つめた。

 その、感情を映さぬ琥珀の瞳が、段々と金の色を帯びてこようとしているのに気づいたユージンは、一気に青ざめた。普段どんなものにも執着を見せない主は、この弟王子にだけには、かなりの執着を見せているのだ。

(こ……殺される!)

 つい、そう思ってしまう程の殺気を感じた。

「リュ、リュ、リュ、リュセル王子。はな、はな、はな、離れて下さい! お願いですから、離れてえええええええ!」(懇願)

 しかし、蛸の吸盤のようにくっついていて、離れてくれない。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……悪霊退散。怨敵降伏……エロイムエサイム、エロイムエサイム……」

(ひいいいい、何言ってんだよ~~~~!)

 幽霊よりも怖い者が、目の前にいるんだよ! この馬鹿王子!

 ユージンが心の中で悲鳴を上げた瞬間、ものすごい力でリュセルの体は彼の体から引き離された。そのまま、いつも傍で嗅ぎ慣れた香りに包まれたかと思ったら、目の前に金の光が現れた。

(レオン!?)

 何故、兄がここに!? そう思ったと同時に唇を奪われる。そして、強引な口づけに苦しそうに喘いだリュセルの体を、レオンハルトは無理矢理抱き込む。

 その様子を、ユージンはあんぐりと口を開けて見つめていた。

 兄弟でとか、男同士で……とかは、まあ別にどうでもいい。一つ言うなれば、アイリーンがいなかったのが、まあ、不幸中の幸いではある。

 だいたい、彼らの存在自体が常識を超え過ぎている。しかし、こんな時ではあるが、少し納得してしまったユージンだ。

(これじゃあ、いけない本なんて必要ないね。リュセル王子……)

 ユージンは、遠い目をしてそう思った。

「ん、、んふっ」

 遠い目をして、いささか現実逃避していたユージンは、リュセルのそんな熱を帯びた喘ぎ声に現実に戻された。

「……ちょ、ちょちょちょっと、お二人共!!それ位にして、部屋に戻りましょうよ!!続きはお部屋でどうぞ!!」

 さすがに、やばい雰囲気になりかけた麗しい兄弟に、慌ててユージンは割って入った。

「お前がそれを言うか」

 ユージンの台詞に、閉じていた目を開けると、やっと弟の唇を解放して、レオンハルトは今だ金の色の残る瞳で自分の騎士の青い瞳を射抜いた。

「も、申し訳ありません!」

 とりあえず謝っとけ、と言わんばかりに、ユージンは平謝りだ。

「……」

 ようやく熱い口づけから解放されたリュセルは、今だ夢心地のまま、レオンハルトの肩に頭を乗せて焦点の合わない目をしていた。

(生きてますか~!? リュセル王子!?)

 おそるべし、我が主!

 幽霊よりも質が悪いものに捕らわれたままのリュセルに、憐憫に満ちた視線を送りながら、とりあえず落としたランプを拾う。落とした拍子に火が消えてしまっていたので、レオンハルトが持っていたランプを受け取って、先を歩く事にした。

「さあ、部屋に戻るよ。歩けるね」

 砕けかけている弟の腰を抱くと、ふらふらしているその体を支えて歩き始めるレオンハルトを横目で見ながらユージンは聞いた。

「殿下は何故、ここに?」

「私達、女神の子供は半身が傍で起きている限り、よく眠れないのだ。リュセルが部屋を抜け出し、お前と一緒に宿を抜け出すのを感じ取って追いかけた。」

 つまり、リュセルの行動は、このお兄様に筒抜けだったという事でありまして。レオンハルトは、ずっと、後ろで、ユージンに密着し過ぎているリュセルに対し、やきもきしていたという事だろう。

「ぷっ! あははははっ、昔の殿下からは想像もつきませんね。”氷の王子”と呼ばれたあなたが、嫉妬ですか。恋は男を変えますねぇ」

 しみじみと、口端に笑いの名残を残しながらそう言ったユージンに、レオンハルトは無表情に言った。

「悪いか」

 それにユージンは、今度こそからかいの色のない、本当の笑みを浮かべる。

「いえ、とてもいい事ですよ」

 ユージンは、そんな良い変化を見せ始めている主に心を和ませながら、二人を部屋まで送ると、もう一眠りする事にする。

 明日はきっと主のお小言が炸裂するだろうから、眠って体力を養っておかないといけないのだ。
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