【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第五章 陰の日

2-2 絶世の美少女な兄の昔話②

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「ふふふ、王子殿下は、あなた達うるさい女よりも、僕のような、年の近い少年がお好きなんですよ」

 女達に混じって、少年の姿がちらほらと見られる。

 少年の一人が発した言葉を聞いた女達は、汚らわしいものを見るような視線を彼らに向けた。

「汚らわしい男娼如きが、何を言う!」

 その後は、罵詈雑言の嵐だ。

(こ、これが、修羅場というものか)

 ジュリナがそんな事を考えていると、レオンハルトは気だるげな様子で起き上がった。

 甘い香りが更に強く香る。

 騒がしかった室内が一瞬で静まり返り、期待に満ちた、たくさんの目が、レオンハルトに向けられた。室内を満たす、甘い芳香の所為でおかしくなっているのか、彼らの目は完全に焦点が合っておらず、酩酊状態にあるようだった。

 そんな、気がおかしくなってしまうような空気の中。

「お前でいい」

 そう言ったレオンハルトは、一番近くにいた褐色の肌の少年の腕を無造作に掴んだ。

 少年は頬を赤く染めると、小さく頷く。

「他の者は出て行け」

 その場にいた者達は、少年の腕を引いて寝室へと消えたレオンハルトをせつない視線で見送り、レオンハルトに選ばれた幸運な少年に、どす黒い嫉妬に満ちた視線を送った。

 いくら、まだ少女であったジュリナでも、その後、二人が消えた寝室で何が行われたか、その予想はつく。

 レオンハルトは、あの少年を抱いたのだ。

 そして、次の日も、そのまた次の日も、レオンハルトが、女や少年を寝室に連れ込むのをジュリナは目にする事になる。

 まるで覗きをしているような現状に(まさしくその通りだが)ジュリナは我に返り、思い切って祖母である女王、シルヴィアにこの事を尋ねた。

 ジュリナの問いかけを聞いた孫娘に対し、言いつけを破った事にため息をついたが、彼女は真実を話してくれた。

「レオンハルト王子は、初めての陰の日を迎えたのですよ。それは女神の子供であるなら、必ず起こる生理現象のようなものです。娘よりも息子の方が症状は重く、その周期も、5年ごとと短いのが大変らしいとの事ですよ。娘であるあなたは、その周期が20年に一度と長いのですが、いずれは、あなたにも訪れます。陰の日が去ったら、レオンハルト王子とは、普通に接して差し上げなさい」

 そうして、ジュリナは、”陰の日”が一体どんなものなのか説明を受けた。

 ものすごくオブラートに、真綿に包んだような説明をされたが、簡単に言えばそれはまさしく……

「発情期のようなものですか?」

 ジュリナのストレート過ぎる台詞を聞いたシルヴィアは、軽く頭を振った。

「ジュリナ……」

 眉根を八の字に寄せて、ため息をつく祖母に、ジュリナは平然として更に尋ねる。

「それは、どれ位続くのですか?」

「まあ、個人差はあるでしょうが、大体1週間位でしょうね」

 あきらめの混じった視線を向けられて、ジュリナは頷いた。

「わかりました」

 原因がわかって、すっきりとした気分だ。何故あんなに、とっかえひっかえに、後宮侍女や男娼を寝室に連れ込むのか。

 ……とか。

 あんなにたくさんの人数相手にして、よく体が持つなぁ。

 ……とか。

 あのお姉さん、すごく色っぽいぞ(これはあまり関係ない)

 ……とか。

 シルヴィアの説明のおかげで、もろもろの疑問が解決したのだった。しかし、すっきりしっかり、疑問が解決したジュリナとは逆に、シルヴィアは心配になったようだ。

「……今のレオンハルトに、決して近づいてはいけませんよ」

 自分の孫と同様に可愛がってきたレオンハルトを信じているが、万一という事がある。大事な孫娘を傷物にされては困るのだ。

「ふふ、おばあさま。万一、そんな事になったら、私があいつを押し倒してやりますよ」

 ニヤリと笑って、男らしくそう言ってのけたジュリナに、シルヴィア女王は再び大きなため息をついた。

 もう、この時点で、既にジュリナは、なまじの男が敵わぬ程、強く、凛々しかったのだ。



 そして一週間が過ぎた後、レオンハルトはすぐにアシェイラに帰ってしまったので、普通に接するも何もなかった。

 その後変わった事といえば、後宮の侍女達が大幅に入れ替わった事位か……。

 それから、しばらくして知った事だが、陰の日は女神の子供である自分達が力のバランスを保つ為にある日らしい。感覚が鋭敏になり、力の抑制が効かなくなる。それを制御する為に誰かと交わるのだ。

 通常、交わる相手は、己が半身である。

 陰の日を迎えた女神の子供の相手は、同じ女神の子供……、それも、半身である事が一番良いとされた。体の相性もあるが、精神的に一番安定するのが半身同士であるからだ。

 半身のいないレオンハルトは、だから、不特定多数の男女と関係をもったのだろう。誰でも同じだと。

 あの時香っていた甘い匂いは、陰の日を迎えた女神の子供の体から発せられるものだったようだが、ジュリナからすると、それは獲物を誘い出す罠のようなものだった。

 それ程、すさまじい香りだったのだ。

 頭の芯がしびれてしまう程の。


 ー私が、私がお相手致しますっ!ー

 ーいえ、私が……王子殿下、お願いっ! 私をお選び下さい!ー

 ー違う、僕こそが、王子殿下のお相手に相応しい!ー


 そう自己主張しながら、レオンハルトの周りに群れ、物欲しそうに彼の姿を凝視していた者達は、その香りに侵され、レオンハルト以外の何も考えられなくなってしまったのだろう

 他国の、美貌の王子の与える悦楽に夢中になり、醜態を晒す事すらどうでもよくなっていたようだった。

 おそらく、あの者達はレオンハルトが床を舐めろと命じれば命令通りにしたはずだ。

 その指に、弄られ

 その肌に、触れられ

 その身に、抱かれたいが為に……

 それだけの威力が、陰の日にはある。



 ジュリナがその後、陰の日を迎えたのは、彼女が二十二歳の時だ。女神の娘は、周期が長いから、次に訪れるのは、四十を過ぎてからだろう。

「つくづく、お前達男は大変だねぇ」

 黙りこくって遠い目をしていたかと思ったら、いきなりそんな事を言い出したジュリナに、リュセルは眉をしかめた。

(それにしても、レオンハルトに初めて”陰の日”が訪れたのが十四歳の時だろう?こいつ、確か十七歳だったよな)

 じっくりと、幼なじみの弟を眺めたジュリナは、首を傾げた。

(長い間、異世界にいたのが影響してるのかね)

 そう結論づけると、今も城の後宮の一室に閉じこもったままのレオンハルトを思い、なんだかもやもやしてきた。

(あいつ、せっかく半身が戻ってきたっていうのに、何格好つけてんだか!)

 嫌いなはずの相手を心配しているあたり、ジュリナはどちらかというとかなりのお人良しである。

「ジュリナ殿、この三色だんごも注文していいだろうか?」

 ジュリナの想いや、兄の状態などまったく知らないリュセルは、のん気にそんな事を聞いていた。

「ああ、好きにしな。それを食べたら、いい所に連れて行ってやるよ」
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