【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第六章 北の神童 

5-1 ローウェンとアシェイラ王族①

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「あんまり、抱え込むんじゃないよ」

 レオンハルトの、わずかに温もりをはらんだ低い声。ローウェンは自分の中の闇を垣間見られたような気がして、乾いた声で答えた。

「な……、何の事?」

 分かりやすいシラをきる少年に、レオンハルトはいつもの無表情のまま、何も言わずに身を翻すと、厨房に飛び込んできた自分の三騎士とカイエを認め、縛り付けられたマイクをアントニオに任せる。

「言いたくなったら、言いなさい。私もリュセルも、いつまでも待っているよ」

 視線を合わせる事なく、静かにそう言ったレオンハルトに、ローウェンは泣きたくなった。でも、泣いてはいけない。自分は、ここで崩れる訳にはいかないのだ。だから、ただ、その言葉に頷いた。

「うん」

 女神の子供の中でも、一番年若く、その分、一番傷つきやすい少年の、素直な返事に、レオンハルトが小さく頷いた時、カイエの叫び声が響き渡った。

「お二人共~~! 自分のお立場を自覚なさって、これからは自重して下さい! って、リュセル王子、何やってんですか!」

 叫びの途中、カイエは、カイルーズに背後から羽交い絞めにされているジェイドの顔にらくがきをするリュセルに気づき、ぎょっとした。

「え? おしおきだけど……」

 そう言って、にやりと笑うリュセルのその表情は、いたずらを企てている時のカイルーズの表情によく似ていた。

「次、次は僕の番ね」

 そうそう、この顔……、じゃなくて!

「ジェイド国王陛下……」

 げんなりとしながら主君に目を向けると、ジェイドはアンニュイなため息をついた。

「何も言うな、カイエ。僕はあえてこの仕打ちを受けるよ」

 両頬にぐるぐるのうずまきをらくがきされたジェイドは、心なしか嬉しそうだ。いつもないがしろにされている為、二人の息子に構われているのが嬉しいのだろう。

(馬鹿親)

 カイエはそう思いながらも、変人だが、敬愛するに値する国王と、これから一生仕えて行く事になる王位継承者の無事な姿を見つめ、安堵のため息をついたのだった。



*****



「おかえりなさいませ、リュセル殿下!」

 ”アシェイラ城厨房立てこもり事件”が無事解決すると、リュセルは、一旦、父王やカイルーズ、レオンハルト達と別れて、自室(レオンハルトの部屋)へと、約1ヶ月ぶりに戻ったのだった。

 扉を開けると同時に、満面の笑みで出迎えてくれた自分付きの小姓に、リュセルは微笑みかける。

「ただいま、ティル」

 一ヶ月振りに目にする月の美貌。その美しさにティルはうっとりと見惚れた。

「ふうん。ここが、リュセル兄さんの部屋なんだ?」

 そんな中、後ろから覗いた少年の姿を認め、ティルは驚きに目を見張る。目の前のリュセルが月なら、少年は太陽。左目を隠している眼帯が天使のような美貌にそぐわないが、見た事もないような美少年である。

「ティル。彼は、ローウェン・レイデューク・サンジェイラ殿。サンジェイラの第七王子であり、玉主だ」

 主の紹介を聞いたティルは、更に驚くと、慌てて王族に対する最高礼をした。

「は、初めて、お目にかかります。玉主様」

「うん、苦しゅうない」

 そんなローウェンの答えに、リュセルは呆れたように言った。

「どこの殿様だ。お前は」

 とりあえず、部屋の中にローウェンを招き入れながら、リュセルは他国の王族を目の前に、緊張している様子のティルに頷いた。

 ティルは慌てて、客人をもてなす為に、お茶の準備を始める。

 そして、ドーンっと、この部屋の主人のように不遜な態度で、ソファに腰掛けるローウェンを目にし、苦笑した。

「何?」

 不審そうな声を出すローウェンに、リュセルはどんな女性をも虜にするであろう甘い微笑みを浮かべた。

「いや、可愛いと思ってね」

「なっ!」

 バリゲードなしで、思いっきり、超王子甘々スマイルを浴びたローウェンは、頬を、熟れたリンゴのように赤く染めると、ため息をついた。

「ジュリナ姉さんと違って、リュセル兄さんのそれって、無自覚なんだもんなぁ。ある意味罪だよ」

「?」

 首を傾げるリュセルを見たローウェンは、再び大きなため息をつくと、気を取り直して言った。

「少し休んだら、転移装置の設置の為に、僕、封印の間に籠るね」

 ローウェンの言葉を聞き、リュセルは驚きに目を見張った。

「いきなりか!?」

「うん」

 ティルの淹れてくれた紅茶を飲みながら、ローウェンは小さく頷く。

「今日はゆっくり休んで、明日からにすればいいじゃないか。今夜の晩餐に、父上は、お前も招待する気でいるぞ」

「う~ん。早く設置して、サンジェイラに帰りたいんだけど……。さっきの騒ぎの件もあるし」

 二人の会話の中の、騒ぎの意味がティルにはわからないらしく、目を瞬いているのを横目で見て、リュセルは、立てこもり事件が外部には漏れていないというカイエの言葉を思い出した。あの場にいた使用人達にも、他言無用を厳しく言い渡したのだろう。

 しかし、ローウェンが言っているのは、おそらく、立てこもり事件の事ではない。

「ルルドの葉か?」

 リュセルの言葉に、ローウェンは小さく頷く。

「帰ったら、出所を探り出してみるよ」

「しかし、一人でなんて、危険だろう?」

 リュセルの心配をローウェンは笑い飛ばす。

「大丈夫だよ。僕、強かったでしょ?」

 その細い腕で、自分の背丈以上もある大鎌を操っていたのをリュセルは思い出したが、緩く首を振った。

「そういう事を言っているんじゃない」

「ふふっ。レオンハルト兄さんもリュセル兄さんも優しいんだね」

 ローウェンは嬉しそうに笑うと、愛らしく小首を傾げた。

「でも、そうだね。今日の晩餐には出席しようかな。かの有名な、ジェイド王の事をもっと知りたいし」

「あまり、知らなくてもいいと思うが……」

 リュセルはげんなりとしながら、ローウェンから目線を逸らした。

「あはははは、ところでリュセル兄さん、話変わるケド、この部屋って、レオンハルト兄さんの部屋じゃないの?」

「……何故?」

「だって家具とか、調度品とか、おもいっきりレオンハルト兄さんの趣味だし。まさか、同じ部屋だとか?」

 まさかね~、と笑うローウェンに、リュセルは口元をひくつかせる。

「え!? マジで同じ部屋なの!?」

 ローウェンの無神経な言葉をリュセルは忍耐で凌いだのだった。







 子供であるという事は、怖い者なしという事なのか。それとも、ローウェンの性格がそうなのか……。

 その夜、アシェイラの王族三人と一緒に夕食を共にしたローウェンは、相変わらず重い、その空気を笑い飛ばすと、無邪気に言ったのだ。

「あははははっ、なんか、葬儀の席みたいだね」

 カチャンッ

 瞬間、リュセルは皿の上に、ナイフとフォークを落とした。

 シーーーーーーン

 怖くて顔を上げられない。

 隣のレオンハルトの方に視線のみ向けると、ローウェン慣れしている為、マイペースに静かに食事を続けている。しかし、カイルーズは、さすがに驚いているようだ。食事が止まっていた。

「ローウェン殿は、面白い子だなぁ!」

 ただ一人、ジェイドだけは、ローウェンの遠慮のない物言いというか、空気の読めなさというか……、その辺を気に入ったらしく、大声で笑っていた。

 さすがである。

「ジェイド国王陛下も、噂通りの素晴らしい方ですね。……特に、その衣装! とってもよくお似合いです」

(なんだと!?)

 ローウェンの予想外の言葉を聞いたリュセルは、顔を上げて、信じられないものを見るような目で、向かいの席に座る少年を見た。

「そうかそうか。君は、若いのに見る目があるね」

 本日のTシャツの柄は、”命大事”。本日のジェイドにピッタリの言葉である。

「その衣装、どこで買われているんですか?」

「ふっふっふっ、これは実は手作りなんだ」

(そんなの作ってる暇があったら仕事しろよ)

 リュセルは、Tシャツを自慢している父王を見つめて、心の中でそう突っ込んだ。

「うわ~、すごいな。器用なんですね」

「なんのなんの。北の神童殿に比べれば、私なんぞ」

 ジェイドはそう言うと、首を傾げた。
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